軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11話:開かれた門に回れ右*2

「ってことで、20件。流石に仕事選んで受けるものと受けないもの決めろよ?」

……僕は今、とても困っている。

フェイが持ってきてくれた依頼は、全部で20件。

うん。20だ。1とか3とか言っていられなくなってしまった。どうしよう。一気に増えすぎだ。

「まあ。随分一気に増えたわね」

「あー、うん。サフィールさんの茶飲み友達のあの婆さん、結構顔が広かったみたいでさあ……」

そっか、あのお婆さんか……。うん、いや、ありがたいことだし、とても嬉しいんだけれど。うん。

「よかったじゃない。これだけ広くトウゴ君が認められたっていうことだわ」

「うん……全然実感が無い」

なんというか、いいんだろうか、これ。僕、絵描きとしては絶対に腕のいい方じゃないし、多分、今回の依頼についても、『水彩画が珍しかったから』とか『モチーフが珍しかったから』とかそういう理由で来てるんだと思う。あとは『偶にはこういうのもいいだろう』とか『模様替えしたい気分だから』とか……?

でも、それでも評価されるのは嬉しいし、欲しがってもらえるのも嬉しい、と思う。多分。なんだか混乱とか困惑とかこれでいいのかなとかが先に来てしまうけれど、多分、嬉しい。

「森の絵の依頼が結構多いなあ。森の精霊様が描く森だもんな。なんか気持ちは分かるぜ」

「ふふ。私はもう、森の精霊様が描いた素敵な森の絵、いくつも部屋に飾ってるわ」

「俺だって飾ってるぜ!……っていうかトウゴの依頼第一号は俺の家の肖像画だからな!」

うん。うん……うん。ええと、どうしよう。どうしよう。頭が全然動かない。真っ白になったまま考えることを放棄してしまったみたいだ。どうしてくれよう、この頭。

「……とりあえず、落ち着け。何なら一旦寝ろ。依頼の精査は明日でもいい」

「でも、待たせるわけには……」

「あーあー、いいのいいの。今回依頼してきた奴らだって、ほとんどは金持ちだし、絵を買って飾る心の余裕がある奴らだけだ。あいつら、金持ってる分気は長いし、むしろちょっと引き延ばしてやった方がワクワクが続いていいだろ」

そういうものだろうか。課題はできる限り早く終わらせて提出すべきだっていうイメージがとても強いので、なんというか、ちょっと、落ち着かないのだけれど……。

「そういえば天使の絵の依頼も来てるけどよ、リアンとアンジェはまだ居てくれんのか?」

あっ。その問題もあった!

「お願いだから、あと3ヶ月くらい居てくれないかな。君達が居てくれると、その、凄く助かるんだけれど……駄目だろうか。お給料、出すから……」

とりあえず急いで、リアンとアンジェにお願いする。

最初の話だと2か月くらいっていうことだったから、もう期限をオーバーしている!

「そ、そう言われてもよ……」

「まあ、冬を越えるまでは居ていいんじゃないか。お前達2人で生きていくにしろ、冬は厳しいだろう」

リアンはちょっと尻込みした様子だったけれど、ラオクレスにそう言われて黙る。

「大体あなた、すぐに依頼を終わらせたかったのって、アンジェちゃんを買い戻す為だったんでしょう?2人ともここに居る以上、急いで森を出て行く必要はないんじゃないかしら?」

更に、クロアさんがそう言ったら、益々何も言えなくなってしまったらしい。

そうしてリアンが言葉に詰まっていると、アンジェがそっと、リアンの服の裾を引っ張って言った。

「あの、アンジェはここ、好き。妖精さんが居るし、鳥さんもお馬さんもかわいいから好き。トウゴおにいちゃんも好き……」

……トウゴおにいちゃん。トウゴおにいちゃん。

そっか。僕、トウゴおにいちゃんなのか……。

なんだかちょっと嬉しいような恥ずかしいような気持ちだ。

「おにいちゃん、おひっこし、しなきゃダメ?」

そして、アンジェがそう言ってリアンに寂しそうな顔を向けると……。

「あ……アンジェがそう言うんならしょうがねえから居てやるよ!」

リアンもそう言ってくれた。やった!

「大体俺はあんたの奴隷なんだ!俺がいつまでここに居るかはあんたが決めるんだよ!好きなだけいさせりゃいいだろ!」

なんだかとても申し訳ないけれど、とりあえず、よかった。これで天使の絵の依頼があるのにモデルが居ないっていう事態は避けられた……。よかった……。

「あら。今回の依頼、油絵もあるのね」

天使のモデルをもうしばらく確保できることになってほっとしていたら、クロアさんがそんなことを言い出した。

「ほら。油絵で森を描いてほしいって」

ど、どうしよう。油絵はあまり上手くない!勉強不足だ!どうしよう!

「こっちは画材を問わない、だってよ。あ、妖精の絵だってさ。これならモデル居るし、丁度良いかもな」

「これは一風変わった植物の絵、ですって。面白いわね。でも森の精霊様なら変わった植物の心当たりは沢山あるでしょう?」

「あー、生き物の絵だってよ。どうする?ユニコーンでも描いとくか?」

え、ええと、ええと……どうしよう、考えることが沢山あるのに、頭が、頭が上手く動かない……。

……そうして僕が困っていたら、ラオクレスが、ぽん、と僕の肩を叩いた。

「……一旦寝ろ」

うん。はい。そうする。駄目だ。一回寝る。おやすみ。おやすみなさい……。

それから僕は一旦、昼寝した。

フェイが来たのがお昼過ぎで、それから夕方ぐらいまで、ハンモックに乗って、そこで昼寝した。

僕がハンモックに乗ると、それを合図にしたみたいに馬が沢山寄ってきてくれて、それから『なんだ、魔力切れじゃないのか』みたいな顔をして離れていったり離れていかなかったり。

鳳凰はいつものようにハンモックの傍の木の枝に止まって、長い尾羽を僕の頭の横に垂らして日除けにしてくれるし、管狐はぽこぽこ分裂して手のひらサイズの狐になって、ハンモックの隙間や僕の体の上を埋め尽くしていく。小さくなっても尻尾が9本あるから、とてもふわふわだ。

……そうして皆に囲まれて寝て、うとうとして、なんだかぼんやり夢を見たような見なかったような、そんなかんじで夕方を迎える。

その頃には少し落ち着いていたし、起きてから考え直したら『考えても大変なばっかりだから、ゆっくりやらせてもらおう』という考え方ができるようになっていた。うん。すごい。

その夜、落ち着いて発注表を見る。

……油絵で描く森の絵。水彩の森の絵。画材は問わない妖精の絵。森の中の水辺。天使。天使。勇ましい騎士。小さめの果物の絵。空の絵。裸婦画。森の絵、森の絵……。

1人で何枚か頼んでくれる人も居て、描くものをリストアップしていったら20枚以上の絵を描かないといけないことに気づいた。

「大変だ……」

「いや、だから、仕事選べ、って。ほら、これなんか条件悪いぞ?森の絵、小さくていいっていったってさ、金貨3枚じゃ割に合わねえだろ?」

「いや、割には合うんだよ。だって絵具も紙もタダだから……」

「いやいや、お前の労働力の対価としてさあ」

「それだって、金貨3枚あったらパンとチーズを買ってもお釣りが来るよ。なら十分なくらいだよ」

お金の価値は、まだよく分かっていない。やっと物価がなんとなく分かってきたくらいだけれど……僕の周りに居る人は貴族のフェイと、元騎士で現奴隷のラオクレス、元密偵で現モデルのクロアさん、そして子供の天使2人だ。うん。金銭感覚が今一つ、分からない。

けれどこれ、お金は別に関係ないんじゃないかと思う。うん。何なら、タダでもいいんだ。

「この絵を頼んでくれたの、13歳の女の子らしいよ。その子が僕が描いた絵を気に入ってくれて、お小遣いから金貨3枚出して絵を買ってくれるなら、売ろうって思う」

発注表のコメント欄には、一生懸命、僕の絵を見た感想が書いてあった。お婆さんの家で森の絵を見たこと。その絵が透明で透き通って、眩しい森そのものだと思ったこと。小さい頃に療養のため森で生活していたことがあること。その時の楽しい記憶が何となく思い出されて幸せになったこと……。

……こういうのを読んでしまったら、断れない。うん。

「あー、くそ、そうだよなあ、お前ってそういう奴だよなあ……」

うん。こういう奴です。

「じゃあ、どうするの?まさかこれ、全部描くのかしら」

「……半年待ちになってしまう」

「いや、半年で20枚描けるんなら相当速いと思うけどよぉ……」

けれど、その間にも依頼が来てしまったら、どんどん未消化の依頼が来てしまう。それはちょっと……うーん。

悩んでいたら、ふと、ラオクレスが言った。

「……もう描いてあるものを売るわけにはいかないのか」

「え?」

もう描いてある……ああ、まあ、確かに、森の絵や天使の絵は、幾らか描いたものが2階に置いてあるけれど。

……売れるもの、あっただろうか。あったとして、どうやって売るんだろう。そう考えていたら……。

「あ、そうだ。ならお前、画廊、作る?」

フェイが、そう提案してくれた。

「こことかどうだ?」

「……素敵な更地だ」

「だろ?……いや、ちょっと待て。なんだよ、素敵な更地って。素敵じゃない更地ってあるのか?というか素敵?素敵か?」

「うん。なんとなく……こう、そんなに広くなくて、周りに草が茂ってて、いいかんじの更地だよ」

僕が案内されたのは、レッドガルド家の裏手の更地だ。レッドガルド家からは少し離れているけれど、一応、レッドガルド家の敷地内らしい。周りには何もない。人気も無い。町とは反対方向だし。

……うん。まあ、『昔は人の手が入っていたけれど今は放っておかれている土地』っていうかんじだ。

「元々はここ、屋外訓練所だったらしいんだけどな?うちの騎士達はもう別の所に詰め所と訓練所、作ってあるから……まあ、利便性が悪いこっちをわざわざ使う理由もなくなって、今はここ、只の更地なんだよ」

そっか。屋外訓練所。……そういうかんじだ。石が落ちていなかったり、妙に土地が踏み固められていたりするのはそういうことだったのか。

「まあ、家を建てるのはお前の役目ってことになっちまうけどさ。ここ、お前の画廊にしていいぜ」

「……ええと、絵を飾っておく場所、っていうこと?」

「まあそうだな。ついでに、飾ってある絵を売る場所だ」

「お前の家の2階、もう画廊みたいになってるじゃん」

「うん」

「あの中で売ってもいい絵があったらこっちに持ってきて飾っとけよ。それで、気に入った人が居たらそれを買っていってもらう。どうだ?」

……それはいいかもしれない。

ほら、依頼で描くことになると、『想像していたのと違う』ってことがあるかもしれない。けれど、現物を見て買うのなら、そういうすれ違いは起きない。その方がお客さんにも満足してもらえるんじゃないだろうか。

「そうする」

「お!そうか!じゃあこの土地、好きに使っていいからな!」

「……いいの?」

「おう。使ってねえ土地だし、こっちの方に何か増やす予定もねえし、親父と兄貴の許可は取ってある!」

それは……うん。ありがたい。

「じゃあ、ありがたく使わせてもらいます」

「おう!そうしろそうしろ!ここにお前の絵が沢山飾ってあると俺だけじゃなくて兄貴も親父も覗きやすいしな!」

……フェイのお言葉に甘えて、僕はレッドガルド家の敷地の片隅に、僕の画廊を持たせてもらうことになった。うーん、すごく幸運。

「……本当にお前、魔力、増えたんだなあ」

「うん」

そうして僕は画廊を建てた。描いたらポンと出来上がってしまうんだから、やっぱり現実味がない。

描いた画廊は、平屋。小さめ。レッドガルド家の敷地の隅っこに置いておかせてもらうことを考えて、レッドガルド家の家の屋根より一段階くすんだ臙脂色の屋根と、アイボリーの壁だ。チョコレートブラウンの筋違が外壁にも見えているところがちょっとお洒落かな、と自分では思っている。

「こんな家が数時間で建っちまうんだもんなあ……うわ、すげえ、内装もある程度できてる」

「え?中はまだ何も描いてないけど……あ、本当だ。壁紙張ってあるし石の床になってる。でも空っぽだ」

とりあえず、『箱』だけできた、みたいなかんじかな。ええと、画廊にするんだから、この中にパネルとかを設置して、絵を飾る面積を増やして……あ、でもまだそんなに絵が色々ある訳じゃないからいいのか。うん。とりあえず、壁に絵を掛けられるようにだけしておけばいいや。

その日は画廊になる建物の建設と内装の簡単な設計だけで終わらせて、後は飾っておく絵を選ぶことにした。

……つまり、僕が今まで描いた中で手元に残しておきたい絵を選別する作業。描くだけ描いて満足したものも、まだ見ていたいものもあるから、ちょっと大変な作業だった。

そして翌日、大量の絵を持ってレッドガルド家にお邪魔して、画廊になる建物の中で絵を飾る作業を始める。

額縁を描いて出して、絵を入れて、壁にかける。……それだけといえばそれだけなんだけれど、結構大変だった。数がそれなりにあったし、額に入れてしまうと、大きい絵なんかは特に、重いし。

けれどその分、飾り終わった時の達成感は中々のものだった。壁一面に僕が描いた絵が飾ってある。……夢みたいだ。こんなに沢山絵を描けて、こんな風に壁に飾っておけるなんて。しかも、これを見に来る人が居るなんて。

「よお、トウゴ。できたか?……おっ、結構緑っぽいな」

「まあ、森の絵が多いから……」

僕が描いたものは半分以上が森の絵だ。森の中の生き物の絵だったり、森の中の風景だったり、モチーフは色々なのだけれど……まあ、背景が森になるのは仕方ない。僕は森の精霊なんだから。

「とりあえずこれで画廊はできたよ。あとは人にここを覗いてもらって、気に入ったのがあったら持っていってもらえればそれでいいや」

「ちょ、ちょっと待て。おいおい、トウゴ。お前、まさかこの先のことは考えてねえの!?」

……この先、とは。

「警備員と販売員が居ねえと駄目だろ!」

……あっ。

それから、悩んだ。

すごく、悩んだ。

うん。警備員も販売員も、必要だ。じゃないと、絵を盗まれ放題だ。いや、ちゃんと絵を気に入って盗んでくれるなら、僕はそれでもいいんだけれど……盗んだ人が必ずしも絵を大切にしてくれるわけじゃないんだろうな、っていうのも分かるから、だから、警備員は必要だ。

あと、絵を売るならそのあたりをやる人が居た方がいいのかもしれない。自動販売機とか無人販売所でもいい気もするけれど。

……うーん。

「えーと、うちでそこらへん、やるか?」

「いや、それは駄目だよ。警備ぐらいは、レッドガルド家に迷惑かけない形でやりたい」

レッドガルド家の敷地とはいえ、お屋敷からは結構離れた位置だから、レッドガルド家の防犯には影響しないと思う。だからこそ、警備はレッドガルド家の手を煩わせないようにしたい。

「ってことは、奴隷、買うか?」

「うーん……」

けれど、奴隷を買って何とかする、っていうのは、なんとなく……ええと、不確かな気がしてしまう。奴隷を信用していない訳ではないし、むしろ、奴隷に頼んだ方がいいのかな、という気もするのだけれど……。

……モデルにするわけでもないのに奴隷を買う、っていうのは、なんとなく、抵抗があるというか。

しばらく悩んでいたら、フェイも一緒に悩んでくれた。

「うーん……じゃあ結界でも張るとか?お前、森の結界と同じやつ、ここら辺にも張るか?」

「やり方がよく分からないよ。僕、森の結界については既製品を起動し直しただけだから……」

森の結界をここにもつけられればすごく便利なのだけれど、生憎、僕は結界のつくり方がよく分からない。分からないものに安易に手を出しちゃいけない気がする。

「いっそ、森に画廊を作るべきだったかな……」

「いや、そりゃ駄目だろ。あそこはほら、馬達の住処だし。俺もあんまり人は近づけたくねえよ」

うん、そうだよね。僕もちょっとそう思う。

森の中に画廊がある分にはいくらでも管理できるのだけれど、森に人が近づくと、それはそれでよくない気もする。馬も妖精も居る森だし……。

「ってことはやっぱ、警備員か。傭兵でも雇うか?住み込みで働いてくれるような奴」

「一日中見ていてもらうのは難しい気がする」

「だよなあ……じゃあ、何か召喚獣でも出すか?警備とかが得意そうな奴。ほら、ドラゴンとか」

「うん。そういうので考えてみる」

ということで、決まりだ。何か生き物を出そう。ドラゴンかはさておき……ここの画廊を警備してくれて、長時間の警備が苦にならなくて、気のいい奴。僕と気が合いそうなかんじの。うん。そうしよう。