軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7話:変な馬達と密猟者*1

やった。やったぞ。僕は遂に、青い絵の具を手に入れた。

酷い味の木の実を食べさせられたり、そのせいで体調が悪くなったり、そのまま卵を温めさせられたり色々あったけれど、終わりよければ全てよし。鳥の絵は描けたし、鳥の雛まで描けた。

そして何より、青!

巨大な鳥の巨大な卵の、青い卵の殻!これを一欠片貰って、それを使って青い絵の具を作ることができた!

これで大体は、赤と黄色と青が揃ったことになる。緑や紫、オレンジなんかも手に入っているから、もう、大体の絵は描くことができるだろう。

さて……これを使って、何を描こう?

僕はテントまで戻ってきた。久しぶり。何と言っても、鳥の巣で2泊してきたから。……何やってるんだろう、僕は。

まあいいや。気を取り直して、最初に作るのは『色見本』だ。

何枚かの紙に、絵の具で色をつけていく。それぞれ、何からとった色で、どうやって作ったかも記録していく。

これは、絵の具のチューブを失くしてしまった時のための、いわばバックアップみたいなものだ。色の欠片さえあれば、それを使って新しい絵の具のチューブを作ることはできるわけだし。その色をどうやって作ったかもメモしてあれば、もう一度作ることもできるかもしれないし。

これからも定期的に、色見本というか、色のバックアップは取っていこうと思う。……青い卵の殻なんて、そうそう手に入らないだろうし。

さて。青が手に入ったから、色々なものが描けるようになった。

最初に、果樹を描く。なんでって、一々食べ物を描くのが面倒だから。色々なものを描きたいから、食料は絵の実体化に頼らなくても供給できるようにしたかった。特に、果物くらいは。

だから泉の近くには果樹が何本も生えることになった。

気温がそんなに低くなかったから、初夏くらいの気候かな、と思いつつ、でも季節がよく分からなかったので、梨とかブドウとか桃とか、本当に適当に、特に何も考えずに何本か描いてみた。

するとうまい具合に生えてくれて、実をもいで食べられるようになってくれた。調子に乗って、トマトときゅうりとじゃがいもも生やした。生えた。あと、単純に好きだから枝豆。これも生えた。

……これで当面の食事は大丈夫だろう。あとは時々、肉を焼いて食べればいいと思う。

畑ができたら、次は家に挑戦する。

……ただし、前回の泉みたいに気絶したくないから、少しずつやることにした。

まず、土台を作る。木でできた、高床式の……まあ、ウッドデッキみたいなものを作った。

これだけでも結構疲れてしまったけれど、とりあえず、気絶はしなかった。

その次の日は、柱や梁。要は骨組み。これも少し疲れたけれど、気絶はしなかった。

……そして次の日は壁を作って、その次の日に屋根を作った。

5日目にやっと家具を作って……こうして、僕は家を1軒、造り上げることができた。

「……快適だ」

その日の夜、僕はやっと、ベッドで眠ることになった。

今まで地面、或いは鳥の巣で寝ていたから、ベッドのふわふわとした感触は一周回って新鮮だった。懐かしい、というか。

……そういえば、僕がこの世界に来てしまってから、もう半月になる。

その間、僕が何をしていたか、といったら……ほとんどずっと絵を描いていた、なあ……。

まあ……絵が実体化するなんていう、不思議なことが起きてしまったのだから仕方ない。むしろ僕は、絵を描けたからこそこうやって生き延びているとも言えるだろう。もし、絵を描かずにいたら……もうとっくに飢え死にしていたんじゃないかな。うん。だから、しょうがない。

……生きるために絵を描かないといけない状況なのだけれど、この状況は今の僕にとって、非常に幸福な状況でもある。

何と言っても、絵を描き放題。絵の具の色を揃えたりするのは難しいけれど、描けるものなら何でも入手し放題。高い画材だって使い放題!

それから、時間も使い放題だ。学校が無いからずっと絵を描いていられる。それに何より、親の目が無いから、やっぱりずっと絵を描いていられる。

……親は、帰ってこない僕を心配しているだろうか。しているだろうな。そういう人達だ。僕の親は。

でも、今すぐに元の世界に帰る方法が見つかったとしても、僕がすぐ元の世界に帰るかは……うーん、迷いどころ、のような気がする。

だって、ここに居れば絵を描いていられる。

僕にとって絵を描けるということは何よりも重要なことであるので、そういう意味で、この世界は元の世界よりもずっと居心地がいい。何ならずっとここに居たい。

……元の世界について心残りなのは、きっと両親やその他の人達を心配させているだろうな、ということ。

学校や何やら、色々なものを放り出してきてしまっているから、それ。

それから……先生のことだ。

先生は……説明が難しい人だ。大人だけれど、他の大人とは大分違う人だ。僕は先生の他に、先生みたいな人を見たことがない。

僕にとって先生は『先生』のような立場でもあるんだけれど、それと同時に、多分、友達、でもある。

僕にとって唯一の理解者であって、先生にとって僕も、まあ多分……多少は理解者、で在れている、と、思う。あまり自信はないけれど。

残念ながら、僕は高校生で先生は大人なので、そこには明確な力(経済力とかそういうの)の差があったし、僕が先生のお世話になっていることは間違いないし、迷惑をかけていることも間違いないけれど……多分、先生はそういう世話や迷惑を、そこそこに楽しんでくれている。ありがたいことに。

まあ、とにかく、先生はそういう人だ。だから、僕は先生が心残りだ。

この世界に居れば絵を描き放題だったとしても、元の世界には先生が居るので……帰る方法を探さないとな、とは、思う。

まあ先生なら、僕が1年くらい異世界に行っていて消えていても、それを面白がってくれるだろう。だから、そんなに急がなくてもいいかな、とも、思う。

両親については……うん、まあ、ごめん。

初めてベッドで眠った翌日。僕は快眠しすぎて昼まで寝ていた。……ベッドって寝心地いいんだね。びっくりするくらい疲れが取れた。すごい。

さて。この世界に来て一番熟睡した今日は、泉をもう1つ描くことにしよう。

何故って、生活用水と飲み水は分けたかったから。

それから、生活用水の方の泉が、鳥の水浴び場にされたから。

……あの巨大な鳥は、僕を気に入ったらしい。僕が敵じゃないって分かったからなのか、それとも抱卵させた義理なのか、すっかり懐いた。

あの巨大な体で懐かれても割と怖いのだけれど、鳥は構わず『キョキョキュキュ』みたいな鳴き声を上げながら、僕の所にやってきた。

そしてこの鳥は、僕が出した泉を水浴び場にすることに決めたらしい。

「おはよう」

今日も来ていた。巨大な鳥が泉に入ってバタバタやっていた。

僕はそれを見つつ、その横で洗濯を始めた。……服を描くのもいいけれど、描くよりは洗う方が早い。だから、絵を描く時間を確保するために、洗濯くらいはすることにした。

鳥が水浴びする横で洗濯していると、自然と僕もずぶ濡れになる。それは承知の上。

だから僕はそのまま服を脱いで、着ていた奴も洗いつつ、自分自身も水浴びする。なんとなく、鳥に石鹸が付いたら良くない気がするので、僕は泉から水が流れていくところの小川で水浴びする。鳥は上流で我が物顔で水浴びしている。……なんとなく納得がいかない気もする。

鳥と一緒に綺麗になったら、用意していた服に着替えて、早速もう1つ、泉を描いていこう。

今度描く泉は、元々ある泉よりも家に近い位置に描く。元々の泉の方は鳥に明け渡してやるとして、僕の飲み水と水彩画用の水を作るための泉をもう1つ、作りたい。

こっちは鳥に使われたくないから、少し人工的な、そして小さなものにする。

大理石の柱を立てて鳥避けにして、その上にはやっぱり鳥避けと雨避けの屋根。その中に、石材でしっかり整備した泉を作る。泉というより、祭壇と噴水、みたいなかんじになってしまった。まあいいか。

今回、使う石を大理石にしたのは、いつか彫刻もやってみたいから、その時に大理石を出す練習。……今のところ、大理石風の石、っていうかんじかもしれない。彫刻には向かなさそう。肌理が粗い。……まあいいや。もっと練習して上手くなろう。

それから今回、1つ発見があった。

それは、『絵を実体化させる時の疲れ方』の発見だ。

今回、また泉を作ってみて分かった。

どうやら僕は、やっぱりというか、『大きなもの』を出そうとすると疲れてしまうらしい。家もそうだったけれど、自分よりも大きなものを出そうとすると、やはり疲れる。

……そしてそれ以上に疲れるのが、『水』。

今回も、泉に水を描き入れて、水が湧き出るところを実体化させた時が一番疲れた。最初に作った泉と比べたらずっと小さなものを作ったんだけれど、それでも相当疲れた。正直、家よりも疲れた。家の方が何倍もずっと大きいんだけどな。

……この現象の謎は、すぐに分かった。

だって僕、割と最初の方に『麦茶』も『水』も出していたから。

コップの中に入ったそれを出すのは、そんなに疲れる仕事じゃなかった。下手したら、絵の具よりも楽だったかもしれない。

それってなんでだ、って考えると、やっぱり、量が少なくて小さかった、っていうこともあるだろうけれど……何よりも、『水が湧き出る仕組み自体』を作っていたわけじゃないから、だと思う。

これ、よくよく考えてみたら当たり前かもしれない。だって、『泉』って、『水が半永久的に生成され続ける仕組み』なんだから。コップ一杯の水を出すのとは訳が違うだろう。当然、麦茶よりも……家よりも、泉の方が、とんでもないのだ。地面の下の、地下水とかそういうのにまで影響しているんだから。

考えてみたらこれ、相当に大変なことなんじゃないだろうか。特に何も考えず、ただ大量の水を実体化させようと思って泉を実体化させてしまったけれど、これ、よかったんだろうか。いや、もう遅いけど。

……まあいいや。何か問題が起きたら、その時にまた考えよう。今考えていてもしょうがないよ。うん。

そうして僕は泉をもう1つ作って、さあ、これで鳥に邪魔されること無く水彩用の水を得ることができるぞ、と思って、その日は肉を焼いて食べて果物をもいで食べて、寝た。

……その翌朝。

「増えてる」

最初に作った方の泉で、鳥が水浴びしていた。もういつものことになったから、これはいい。

けど、その横で、妙な格好の馬が水を飲んでいるのは、ちょっと分からない。

妙な馬は真っ白な毛並みで、鬣と尻尾は金色だった。絵に描いたような綺麗な馬だったのだけれど……水を飲むために背を屈めたその背中で、翼がぱたぱたと動くのが見えた。

翼が。

馬の背中に。

……これ、何?