軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ふわふわしていきませんか?

その日、初夏の森の中、木漏れ日の下で涼しい風に吹かれながら、僕はフェイと雑談していた。

「……ということで、僕、大学でも『精霊様』って呼ばれるようになってしまって……」

「まあ、悪意がある訳じゃないみたいだしよー、別にいいんじゃねーの?」

「うん、いいんだけど、いいんだけどね、その、恥ずかしいのは恥ずかしいんだよ……」

僕の近況報告だったり、ちょっとした悩みの相談だったり。或いは、フェイの近況報告だったり、最近作ったものの話だったり……僕らの話は大体、そんなかんじ。

「あ、そうだ。ところでさっきさあ、妖精カフェでラージュ姫がぐったりしてたぜ」

「えっ」

そんな僕らの話の中に、そんな話題が入ってくると、僕としては心配になる。

慌てて森としての目で妖精カフェの様子を見てみると、ラージュ姫が元気のない様子で、ちびちびと妖精パフェを食べているのが見えた。

「ほんとだ、元気が無い。どうしたんだろう」

「あー、それなあ、なんでも、『政敵というものはいついかなる時も厄介です……味方になったらなったで厄介……』ってところらしいぜ」

成程。つまり、僕らにはあんまり解決できない奴だ。うう、なんだか少し申し訳ない。

「最近、ルギュロスもそれ関係で疲れ気味だよなあ」

「ルギュロスさん、ずっと疲れっぱなしだよね」

ルギュロスさんはルギュロスさんで、やっぱり大変みたいだ。どうしても彼を良く思わない人ってたくさん居る訳だし、悪意をぶつけられる割合はラージュ姫より多いんじゃないかな、とも思う。

「ま、だからこそあの2人はよく妖精カフェに来るんだろうけどな」

「うん……」

お疲れ気味の2人が妖精カフェで少しでも元気を取り戻してくれるんだったら、それはそれで嬉しいことだけれど。でも、もっとできることがあったらいいのになあ、とも思う。

……そんな時だった。

まおーん。

僕の森としての耳、妖精カフェのあたりで、ぽてぽてぽて、と魔王が歩いている様子が聞こえてきた。

慌ててそっちに目を向けてみたら……。

「わあ」

「ん?どした?」

「魔王が鳥の子を連れて歩いてる」

……なんと、妖精カフェの前を、かわいい行列が行進している。

先頭が魔王。その後ろに鳥の子達が5羽ほど。キュンキュン、キョンキョン、と鳴きながら、彼らはぽてぽて、或いはてくてく、と歩いていく。

「鳥の子ぉ?なんでまた」

「どうも最近、あの鳥がやっと子供達に外出許可を出したらしいから、それじゃないかなあ」

鳥の子達は最近まであんまり、森の中から出なかった。けれどつい先週くらいからようやく巨大コマツグミの許可が出たらしくて、彼らはソレイラや妖精公園にもぱたぱたやってきて、自由に遊ぶようになったんだよ。

「へー……それで魔王と鳥の子の行列かあ」

なんでだろうなあ、とフェイが首を傾げるので、僕も一緒に首を傾げてしまう。確かに、ちょっと不思議な光景ではあるよね。なんで行列になっているんだろうか……。

そうして僕らが不思議がっていたら。

「……あっ、た、大変だ、ラージュ姫が!」

「ん!?どうした!?」

なんと、驚くべきことが起こってしまった!

「ラージュ姫が、鳥の子達に埋もれてる!」

そう!ラージュ姫が……ラージュ姫が、ふらふら、と鳥の子達に引き寄せられるように席を立って、ふらふら、と鳥の子達の行列に近づいていって……鳥の子達に、埋もれてしまったんだよ!

これは事故だろうか、と思った僕らは、慌てて妖精カフェへ急行。……すると。

「ああ……癒されます。とっても、癒されます……」

ラージュ姫は幸せそうに、鳥の子達と魔王に埋もれて、ふわふわふにふにやっていた。

……うん。ひとまず、事件性はなさそうだ。事故でもないと思う。だって、ラージュ姫、とってもとっても、幸せそうだから……。

「ラージュ姫、どうしたの?大丈夫?」

でも一応念のため、声を掛けてみる。するとラージュ姫、びっくりしたみたいに顔を上げて、それから恥ずかしそうにし始めてしまった。ああ、ごめんなさい、恥ずかしがらせてしまった……。

「あっ、トウゴさん、ごめんなさい、こんなところで」

「ううん、いいんだけれど……ええと、鳥に埋もれるの、お好きなんだろうか」

そうなんだろうなあ、と思いながら聞いてみたら、ラージュ姫、満面の笑み。幸せそうで、さっきまでの疲れが少し和らいで見える。

「はい。鳥さんや魔王さん、柔らかい方々にこうして埋もれていると、疲れが消えていくようで!」

そっか。それは何より。確かに、僕の世界にもアニマルセラピーとか動物ふれあいコーナーとかがあるわけだし、生き物とのふれあいって、こう、疲れを癒す効果があるのかも。……僕としては、鳥に埋もれるとおしくら鳥饅頭にされてしまって、大抵暑い思いをさせられてしまう、っていう印象なんだけれど。

「あー、ちょっと分かるかもしれねえ。俺もレッドドラゴンに抱き着いてたら落ち着くこと、あるし」

あっ、フェイもそういうことしてるんだ。そっか。レッドドラゴンも懐っこい子だから、フェイにくっつかれると嬉しいだろうなあ。

「私も自分の召喚獣に抱き着くことはあるのですが……ここの鳥さん達のふわふわは、やっぱりまた少し違うんです」

ふわふわふわ、と鳥の羽毛に頬擦りして、ラージュ姫は嬉しそうに笑う。そっか。確かに、他に類を見ないふわふわ玉だもんなあ、鳥の子。

「……森の動物には、ふわふわの奴が多いなあ」

そこでふと、僕はそう思った。

鳥は勿論、馬だって羽が生えてる馬は羽がとてもふわふわだし、ウサギもふわふわだ。リスも大きな尻尾がふわふわのふさふさで、他にも何種類か、ふわふわした生き物、居るよね。

そして、ラージュ姫はどうやら、ふわふわした生き物に触ると、疲れが和らぐみたいだから……ええと。

「ねえ、ラージュ姫。もし時間があったら、なんだけれど……」

差し出がましいかなあ、と思いながら、僕は、提案してみることにした。

「……森の奥で、ふわふわしていきませんか?」

「ああー!なんて素晴らしいんでしょう!ふわふわです!とってもふわふわ!あああー!」

ということで、ラージュ姫は森の奥で、ウサギの群れに埋もれることになった。

乾いた苔で柔らかくてふさふさの場所を用意して、そこにウサギ達を呼び寄せて、『ちょっとこの人と一緒に居てくれるかな』ってお願いしてみたところ……ラージュ姫は、思う存分、ウサギまみれ。

「ウサギさんってどうしてこんなに可愛いんでしょう……」

「ウサギだからじゃねえかなあ。……おー、お前、かわいいなあ。よしよし」

「あっ、魔王までウサギ型になってる」

埋もれているラージュ姫は勿論、横で見ている僕らもウサギを触ってにこにこしてしまう。そのうち魔王もウサギの形に変形して、まおん、と懐きにやってきた。他のウサギはふわふわ。魔王ウサギはふにふに。

「確かにこれは、疲れが和らぐ気がする」

「うん。なんか、いいよなあ、これ……」

こうしてウサギ達と魔王を触って、ウサギ達と魔王に触られて、ついでにリスや馬なんかも寄ってきて一緒にふわふわやっていたら、僕ら、なんだか落ち着いてきてしまった。アニマルセラピーって本当にあるんだなあ。

「……これさあ」

そんな折、フェイが唐突に、言った。

「ルギュロスも連れてきていいか?」

ということでルギュロスさんがやってきた。

……ただ、ルギュロスさんのことだから、僕らが誘ってもついてきてくれない気がして、お誘いには魔王と天馬が行きました。

天馬に跨った魔王が『まおーん!』と勇ましく飛び立ったのを森としての目で見守っていたら、その内天馬と魔王は妖精カフェでぼんやりしていたルギュロスさんの前に降り立って、まおんまおん、ひひんぶるる、と存分に主張を始めた。

「なんだ、騒々しいな」

そしてルギュロスさん、そんな魔王と天馬に対して、やっぱり幾分態度が柔らかい。僕やフェイに対するそれとは全然違うんだよなあ。身構えていないっていうか、緊張していないっていうか、恰好をつけようとしていないっていうか……。

魔王はそんなルギュロスさんの腕に、するん、と尻尾を絡ませる。そしてくいくい引っ張って、まおんまおん。

「乗れと言っているのか?」

ルギュロスさんが訝し気に聞くと、魔王は嬉しそうに、まおーん。天馬も嬉しそうに尻尾をぶんぶん。

「……あまり時間が無いが、付き合ってやろう。夕方までには元の場所に返してもらうからな。暫し待て、勘定を済ませてくる」

そしてルギュロスさんは、ふっ、と柔らかい笑みを浮かべて、レジで待っていた花にぴかぴかの銀貨を渡して、「チョットオオスギルヨー」「釣りは要らん」「ナラモラットクヨー、マタキテネー」とやりとりをして、魔王と天馬のところへ戻ってきた。

「さて、どこへ連れていく気だ?」

ルギュロスさん、ひらりと綺麗なフォームで天馬に跨ると、魔王がミッションコンプリートの喜びにまおんまおんと鳴き、天馬も嬉しそうに嘶いて、元気に空へと飛び上がった。

……うーん、やっぱり、ルギュロスさんの勧誘は、フェイよりも僕、僕よりもずっとずっと、魔王や馬達の方が、上手……。

そうしてルギュロスさんも無事、ウサギやリスや鳥や馬に埋もれることになった。

えーと、こちらも、僕らが居ると彼は落ち着かないだろうから、人間抜きの、動物だけで。

ルギュロスさんははじめこそ「これは何だ」「一体どうした」って不思議がって戸惑っていたけれど、その内すっかり落ち着いて、馬に凭れて座ったり、膝に乗せたウサギと魔王をゆったり撫でたり、リスが割ろうと頑張っていたくるみの殻を魔法で割ってあげたりと、動物とのふれあいを始めた。

そうしている内に彼の眉間の皺が無くなったので、多分、セラピー効果は十分にあったんだと思うよ。

「ルギュロスさんがすっかり落ち着いている……」

「うおおお、俺も見てえ!見てえよ、それ!」

「じゃあ絵に描いて見せますので……」

僕は森の目でゆったりのんびりのルギュロスさんを眺めて描いたり、こちらですっかり落ち着いてしまって、ウサギまみれになってのほほんとお昼寝しているラージュ姫を描いたりして過ごす。フェイは僕の手元を覗き込んで『ルギュロスのこういう顔、初めて見るぜ……』って慄いていた。

いや、実はルギュロスさん、時々こういう顔、してるよ。勿論、人前ではあんまりしないけれど、1人で居る時に花を見てちょっと笑ったり、鳥を小突いて呆れてたりするよ。

まあ、そういうわけで、ふわふわを堪能し、ふわふわを堪能する人達を堪能していた僕は……日が傾いてきた頃、ラージュ姫を起こす。

「ふわ……あ、あら、私ったら、眠ってしまって……」

「ええとね、先生が言っていたけれど、『寝ちゃった時には睡眠が必要だから寝ちゃったのであって、つまり、寝ちゃってよかったのである!』って言ってたよ」

ラージュ姫は昼寝してしまったことに少し慌てていたのだけれど、どうか、前向きに。先生並みに前向きにいくのはちょっと難しいかもしれないけれど。

「トウゴさん、今日は本当にありがとうございました。おかげ様で、なんだか明日も頑張れそう」

「それは良かったけれど、あんまり頑張りすぎないでね」

ラージュ姫は元気になってくれたみたいだからそれは良かったけれど、今日、初めて見たラージュ姫はとてもとても疲れていたみたいだから、少しだけ心配だ。

「ふふ、でもね……最近分かってきたのですけれど、私が政治に携わるのって、トウゴさんにとってのお絵描きみたいなものなのかもしれません」

……けれど、ラージュ姫がそう言うので。僕も、絵に夢中で寝食を忘れて疲れてしまうことがある人なので……これ以上は心配しないことにする。そうだね。僕らって、疲れない以上に大切なことを沢山持っている生き物でした。

それから、『ああ、もうこんな時間!?』って慌てていたラージュ姫は、妖精達が妖精ゲートに案内して、妖精の国経由で王都へ帰っていった。彼女は妖精とも仲良しだから、こういう時にもすぐ帰れてとっても便利。

そして……。

「あ、ルギュロスさんも起きた」

いつの間にか昼寝してしまっていたルギュロスさんも起きて、太陽の傾きを見て、ちょっと愕然としていた。

『私としたことが、寝すぎた……だと?』と驚いている様子だったのだけれど、魔王がまおーんと飛びつけば、『いや、私が寝すぎるということはあり得ん。ならば魔王、貴様、何かしたな?』なんて言いながら、魔王を優しくふにふに伸ばす。仲良しさんだなあ、ルギュロスさんと魔王。

ルギュロスさんは自力で帰れる人なので、自分の召喚獣でさっさと自分の別荘……つまりソレイラの邸宅へと戻っていった。今日はソレイラに泊まるみたいだ。やったあ。

「さて、俺達も戻るかぁ」

「そうだね。……ええと、皆、今日はありがとう。おかげで僕の友人が元気になれたよ。お礼に木苺、実らせておくね」

「ありがとなあ、皆!」

僕らも森の動物達に挨拶して、ソレイラへ戻る。ええと、今日はぬくぬく食堂のチキンカツの気分なので、買ってこようかと……。

……うん。

「ねえ、フェイ。ルギュロスさんをご飯に誘ったら、彼、怒るだろうか」

ちょっとそわそわしながらそう、フェイに提案してみたところ……。

「怒っても連れてきちまえばこっちのもんじゃねえかなあ。よーし、やるか!」

「うん!」

フェイは非常にやる気だったので、僕も一気にやる気になる!

僕らは早速、ルギュロスさんの別荘へ飛んでいって、ルギュロスさんをご飯に誘うことにした!

……別荘を訪ねてご飯に誘ってみたところ、ルギュロスさんはなんだか機嫌が良くて、実に珍しいことに『偶にはいいだろう』なんて言いながら、付き合ってくれることになった。

美味しい揚げたてチキンカツを3人で食べて、ちょっとお話しなんかもしたりして、いつも以上にちょっと優しくて元気なルギュロスさんを新鮮に思ったりして……僕らは楽しく過ごしました。

うーん、ラージュ姫とかルギュロスさんとか、森の外に普段は居て、時々疲れてここに帰ってきてくれる人達が居るわけだから、今後も動物達にお願いして、ふわふわのアニマルセラピーをやってもらうのもいいかもしれない……。

……と、そんなことを思ったある日のことでした。

ちなみに、今回のセラピー相手にウサギやリスや馬、そして鳥の子は誘ったけれど、あの巨大コマツグミには声を掛けなかったので……それでちょっと拗ねた鳥が後日、僕とライラをまとめて抱卵し始めてちょっと大変だったりもしたのだけれど、まあ、それは別の話……。