軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

森の白百合*3

それからしばらく、まおーん、ぱりぱりぱりぱり、ずずず、ぱりぱり……みたいなBGMが響いていた。同時に、変なところにお茶が入ってしまったらしい先生の咳き込む声も聞こえていたのだけれど、先生の鼻から魔王が尻尾をつっこんで変なところに入ってしまったお茶を吸い取ってくれたらしく、すぐに収まった。……魔王、すごいな!

そうしてフェイは動けず、ヴィオロンさんは動かず、ライラは優しく僕の髪(かつらだけど!)を撫でていて、僕はただライラにくっつくしかない、という状況がしばらく続いた後……。

「……成程、わ、分かった。そういうことなら……その、仕方がないな」

やがて、ヴィオロンさんは相変わらずすごい衝撃を受けた顔のまま、そう言ってくれた。

「そう。そういうことで、サクラのことは諦めて。いい?」

「も、勿論だ。ああ。私とて、そのような無粋なことはしたくないからな。ああ……」

ヴィオロンさんはようやく金縛りが解けたように動き出す。それを見て、ライラは僕の頭を抱きよせる腕を緩めてくれて、僕もゆるゆるとライラから離れる。

と、とりあえずほっとした!よかった!これでヴィオロンさんがサクラ・ロダンを追い求めて大変なことになる可能性はなくなったし、どうやら、逆恨みしてソレイラに危害を加えるような様子でもないし!これで解決!やった!もう僕はやけっぱちだから喜んじゃうぞ!やったね!

……その後。

ライラが僕の隣に椅子を持ってきて、僕ら、一緒に芸術の話をすることになった。

ヴィオロンさん、貴族なだけあって教養として色々なことを知っていたので、話してみたら結構楽しかった。最初はぎこちなかったけれど、話していくうちにちょっとずつほどけてきた、というか。ライラとしてもそれなりに楽しかったらしいし、途中途中でフェイが話に入ってくるものだから、ヴィオロンさん、フェイともちょっと打ち解けた様子だった。よかった、よかった。

「ねえ、ライラ。ほっぺにクリームついてる。……うん。取れたよ」

「え?……や、やだ。はずかし……」

その途中、妖精カフェのお菓子とお茶を楽しんでいたのだけれど、苺のロールケーキのピンク色のクリームがライラの頬に付いていたので、ナプキンでそっとふき取った。ライラはちょっと恥ずかしがってたけれど、僕としてはちょっとやり返せていい気分。

「ありがと。お礼にロールケーキ、一口どうぞ」

「わあ、ありがとう!ちょっと気になってたから嬉しい」

更に、ライラがそっとお皿を差し出してくれたので、ありがたくフォークでケーキをつついて一口。苺のロールケーキはクリームに苺のソースが混ぜてあって、ほんのりピンク色なんだ。更に刻んだ苺もたっぷり入っていて、瑞々しくて甘酸っぱくて、春らしい味。

……ちなみに僕は、妖精達がロールケーキを作っている光景が好きだよ。わっせ、わっせ、とスポンジを巻いていくあの妖精達のかんじが、一生懸命で可愛らしいというか。

「お礼のお礼にこっちのも一口どうぞ」

「わーい。ありがと。私、こっちにしようか迷ってたのよね」

それから僕は、自分のお皿をライラの方へちょっと寄せる。僕が頼んだのは苺のフレジエ。生クリームじゃなくて、バタークリームとカスタードクリームを合わせたクリームで作ってあるショートケーキみたいな奴。魔王が向こうの世界の図書館で借りてきたお菓子のレシピの本から再現されたんだよ。

「んふふ……クリームが濃厚で美味しい!」

「苺のさっぱりしたかんじと重めのクリームがよく合うよね」

ライラもこのケーキが好きなようで、嬉しい。同じものを好きな人が居ると、やっぱりちょっと嬉しいものだ。

……ということで、僕とライラとでケーキをシェアしていたのだけれど。

ふと見てみたら、ヴィオロンさん、僕とライラをじっと見ていた。

「あ……ご、ごめんなさい、ヴィオロンさん。お客様なのに、放っておいてしまって……」

「い、いや、気にしないでほしい。どうか、私のことは気にせず……」

ヴィオロンさん、お招きしておいてちょっと申し訳ないことをしたなあ。いや、元々お断りするために呼び出したんだから、失礼なのはそうなんだけれど……こうまで置いてけぼりにしてしまうと、やっぱりちょっと申し訳ない。

「そうだ。お二人は王城の壁画をご覧になった事はおありかな?」

けれどもヴィオロンさん、僕らに気を遣わせないように、ということか、また芸術関係の話を振ってきてくれた。この人、やっぱり案外いい人なんじゃないだろうか。

「はい!とても素晴らしい壁画でした!特に、西の面の、空の色合いがとても好きで……」

「ああ、私もあれ、好き!日が沈む空の美しさをわざとらしくなく、それでいて現実よりずっと綺麗に描き上げてあるのがいいのよね!……ヴィオロンさんは?特にどの面がお好きなの?」

「そうだな、私もやはり、西の壁の絵は素晴らしいと思う。あの魔石絵の具は恐らく、ゴルダの山でかつて産出したという赤瑪瑙だな。きめが細かく、色鮮やかだ。微かに黄金の光沢を持つのが特徴で……あれ以上の赤の絵の具というと、中々他に見ない」

そっか。ゴルダの山で……。ゴルダの精霊様に今度聞いてみようかな。ちょっとその絵の具、気になる。

「それから北の面の夜空も中々良い。あの深い黒と鮮やかな藍色の表現が美しい。……そうだ、サクラ嬢とライラ嬢の瞳の色のようだな」

……ヴィオロンさんの言葉を聞いて、僕ら、互いに互いの目を見る。

「……あんたの目って、黒曜石みたいよね。ちょっと薄くなってる部分の、あの透き通った黒、っていうかんじ。ああいうかんじがする」

「そうだ。ライラの瞳によく似た石を宝石図鑑で見つけたんだ。ラズライト、っていう石で、すごく綺麗な青色で……」

僕ら、お互い石には詳しい。何故かって、石から絵の具を作っているので。

ということで僕ら、大いに盛り上がってしまったのだけれど……僕とライラが思う存分盛り上がっているのを、ヴィオロンさんは、またまじまじと見つめていた。なんだかそわそわきらきら、楽しそうに。

……いや、楽しいならいいんだけれどさ。あの、何?その目は、何……?

そうしてヴィオロンさんは、色々なことに納得して帰っていった。彼は僕のことを女の子だと思っているし、しかも妖精だと思っているし、ついでに女の子の恋人がいると思っている訳なのだけれど……いいのか?これ、いいんだろうか?

確かに、僕を恋人にしようという気はさっぱり消えたみたいだからよかったわけだし、ラオクレスの不名誉も無事に訂正できたし、そして何より、芸術に興味のある貴族の友達ができたようなものだからそれはそれでよかったんだろうけれど……うーん。

これでよかったんでしょうか、とフェイに聞いてみたら『滅茶苦茶面白かった!』と返ってきたので多分大丈夫だろう。大丈夫ってことにさせてほしい。いや、大丈夫なんだろうか。うーん……。

……ということで、僕らは妖精カフェのバックヤードで休憩中。お疲れ様でした。

「いやー、それにしてもライラは機転が利くなあ。俺なんてよー、『こいつ妖精です』っつってよー……」

「フェイ様の嘘も中々面白かったわよ。あんな嘘、唐突に思いつくなんてすごいわね」

「あー、店の隅っこの方でルスターが居てさあ。そこに妖精が群がってきゃいきゃいやってたから、それ見て、咄嗟に……」

成程。それでか。それにしてもヴィオロンさん、僕が妖精だって言われて信じちゃうあたり、あの人、ものすごくいい人なんじゃないだろうか……。

「ええと、ライラ、ありがとうね。助かった」

「うー、もっと巧くやれればよかったんだけどさ。ま、とりあえずこれで解決、ってことでいい?」

「おう!大手柄だぜ、ライラ!……ヴィオロンがあんなにしつこい奴だとは、俺も思ってなかったからよー……」

フェイもライラも僕も、揃ってちょっと遠い目になってしまう。そうだね。ヴィオロンさんのあの粘り強さは中々すごかった。あの人、あの粘り強さをもうちょっと違う方向へ活用してくれないだろうか……。

「それにしても……ああー、疲れた!ヒールがついた靴なんて履くもんじゃないわね!」

ライラはどっかり椅子に腰を下ろして、つかれたー!と声を上げている。

よく見たら、ライラの足元、ハイヒールだ。うわ、珍しい。普段は動きやすいブーツのことが多いのに。

「なんでヒール履いたの?珍しいね」

なので、どうしてかなあ、と思って聞いてみたら……。

「はあ?そりゃ、あんたより身長高くするために決まってるでしょ!王子様役がお姫様より身長低かったらなんか格好つかないじゃない!」

そう、返事がきた。

「ヒールが無かったら、私、あんたよりも身長、低いんだから!」

……あれっ。そうだっけ。

「あんた、最近ちょっと背が伸びたんじゃない?生意気!」

あれ、なんて思っていたら、ライラは、むにっ、と僕の頬をつまんできた!

「いはいいはい、ふままらいれ!」

「つまむわよ!つまんでやるわ!このっこのっ!」

それにしても……そっか。僕、背が伸びたのか。ちょっと嬉しいなあ。少なくとも、ライラよりはっきり背が高くなるくらいまでは、伸びたいなあ。生意気って言われてもいいから。

「……ねえ、ライラ。今日は助けてもらっちゃったけれどさ。もし、ライラが変なことに巻き込まれてたら、次は僕が助けに行くね」

「あー、はいはい。期待してるわ」

ついでにもうちょっとばかり生意気なことを言わせてもらったら、ライラはちょっとにやっ、て笑って、手をひらひらさせた。

……まあ、そういうことが無いことを祈るけれど。もし僕の助けが必要な時があったら、その時にはライラ、ヒールの無い靴を履いていてほしい。うん……。

それから。

ヴィオロンさんは無事にサクラ・ロダンのことを諦めてくれたらしい。フェイ宛の手紙には『美しい花を手折るようなことはしたくない。野に咲く二輪の花にどうぞよろしく。』とあったそうだ。

ついでに。

「あ、トウゴ。お前に絵の依頼が来てるぞ。ヴィオロンから」

「うん。なんだって?」

「『ライラックの花と桜の花と少女2人の絵』だってよ」

……うん。

「なんか……『少女2人が仲睦まじくしている様子は非常に美しいな……!』って内容が書いてあった。便箋3枚分、みっちりと」

そっか。うん。ええと……。

「ヴィオロンさんの開いちゃいけない扉を開いてしまっただろうか」

「いや、本人幸せそうだしいいんじゃねえかなあ。それに支障は出ねえだろ。多分」

いいんだろうか。本当にいいんだろうか。ううう……なんだか申し訳ない……。

……ということで。ヴィオロンさん大丈夫だろうか、と思いを馳せつつ、僕は依頼の絵を描いていたのだけれど。

「た、大変なの!大変なのー!」

その時、カーネリアちゃんの悲鳴が外から聞こえてきた。な、なんだなんだ!

慌てて外に出ると、そこには……。

「生えちゃったわ!私、生えちゃったわ!」

……何故か。

頭には可愛らしい耳が生え。

そしてスカートの裾からふかふかと尻尾が覗いている……リスの耳と尻尾が生えた、カーネリアちゃんが居たのだった!