軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おひさまぽかぽか地区視察記*6

そうして夜の国の人達がふりゃふりゃ言いながら昼の国の夜明けを楽しむ。

空の端がどんどん白んでくる。やがて染まりゆく空の色は曙色。

……前に先生が『朝焼けの空って時々ピンクグレープフルーツに見えないかい?』って言っていたなあ、なんて思い出す。確かに今の空の端っこは、ピンクグレープフルーツの果肉の薄く透き通ったようなあの色と、皮のオレンジがかった黄色。確かにそういうグラデーション……。

一旦テントの中に入っていた人達も、夜明けの気配につられてテントから出てきた。そうして皆で東の空を見つめて日の出を待つ。

……皆に見つめられる中、太陽は今日もまた元気に昇ってくる。ふんわり、とした光が、きらり、と強くなったと思ったら、もう後は早い。

眩い光が辺りを塗りつぶしていく。ほとんど真横から差し込む光は、僕らの足元に長く長く影を生み出して、景色に強い陰影をつけていく。

「ふりゃー!」

「ふりゃー!ふりゃふりゃふりゃー!」

「へいあーいうふりゃめりゃー!ふりゃ!ふりゃ!」

そして、夜の国のそれよりずっとずっと強く眩しく暖かい陽の光を浴びて、夜の国の人達は大いに喜んだ。

光の中で彼らが飛び跳ねて踊れば、光の反対側で長く長く伸びた影もまた、跳ねて踊って忙しい。

大いに賑やかなふりゃふりゃの列は、僕らの心を和ませる。やっぱり、温かいって大事なことだよなあ。

「……奴らは何をしているのだ?」

「ん?あったかいって喜んでるんだろ?」

そしてアージェントさんはまたしても、フェイに解説されていた。ああ、アージェントさんが未知のものを見る目をしている。……どうぞ、存分に未知を味わってほしい!

「あ、あんりゃー……?こ、こりゃー一体……」

そんな中。

唖然として近づいてきたのは、ニムオンさん他数名の農夫の皆さんだ。

「あ、アージェントさん!こいつらは一体なんですかい!?魔物か!?」

「……まあ、魔物に近いようだが」

大慌てのニムオンさん達はアージェントさんに救いを求めるように縋りついている。彼らは未知のものに対して、嫌悪より先に恐怖がくるのかもしれない。

「落ち着け。あれらに害意は無い。あれを利用することで霊脈の復活を早めるよう試みているところだ」

「そ、それじゃー、これもアージェントさんのお考えってことですかね?」

……アージェントさん、ちら、とラージュ姫達を見た。けれど、ラージュ姫達はにっこり頷くばかりだったので……。

「……ああ、そうだ」

そう言って、ちょっと渋い顔で頷いた。すると、ニムオンさん達はちょっと安心したような顔になる。

それでも彼らはまだ夜の国の人達がちょっと怖いみたいだし、アージェントさんは彼らを宥めなきゃいけない。

なので。

「あれらは『夜の国』の住民だ。我々と姿形は大きく異なるが、知性が無いわけではない。言語はほぼ通じないが、身振り手振り程度なら伝わるらしい」

「ほ、ほう……じゃあ、アージェントさんは、あの連中とやり取りができるんですかい?」

「……多少はな。そして、レッドガルド領ソレイラの町長が夜の国の親善大使と個人的な親交があるらしく、ある程度言語のやりとりができる。その2人を主な通訳として使っている」

どうも、通訳です。アージェントさんに使われています。……という気持ちを込めて、僕とレネが手を繋いだままにこにこお辞儀をすると、ニムオンさんは『可愛らしいお方達だのー……』と零していた。まあ、レネはとても綺麗な生き物だから、この世界の人達にも好感を持ってもらいやすいと思ってたよ。

「で、でも、魔物みたいなもんってことは、俺達を殺そうとしたり……」

「無い。奴らは……害意は無い。少々気が抜けたところのある、平和ボケした……そういう連中だ。何も心配する必要は無いとも」

アージェントさんは悪口一歩手前、いや、もう悪口に突入しているような説明をしている。彼らしいね。

けれども、それでもちゃんと夜の国の人達に害意が無いことも、彼らの有用性も、説明してくれている。そして農夫の人達が『難しいこと言われても分かんねえよお』と言うのでしょうがなく『奴らは我らの友達である!』と極めて思い切った説明をしてくれている。

あああ、思い切った説明をせざるを得ない状況になったアージェントさんが、ものすごい顔をしている……!

それから、アージェントさんはニムオンさん達に霊脈復活についても簡単に説明していた。この土地で働く彼らには、あんまり理解してもらえないにしろ説明はちゃんとしておくべきだ、という考えらしい。

実際、ニムオンさん達はほぼ、霊脈について理解できていないらしかった。ただ、『頭の良い人はすげえなー』と話しているばかりで、『ひとまずアージェントさんがそう言うなら俺達も従うか』という結論に着地したらしい。

けれども、それだって十分だ。夜の国の人達は早速、ニムオンさん達に手を振ったり、お辞儀をしたりしてコミュニケーションを取ろうとしているし、ニムオンさん達は動じずにいる(或いは最早動じるのも馬鹿らしくなってきちゃったらしい)アージェントさんを見て安心したらしく、おずおずと手を振り返したり、笑顔を向けてみたり。

「……なー、トウゴー」

そんなアージェントさんを見て、フェイはそっと、僕の耳元で囁いた。

「アージェントってさ、ああいう、自分の力だけだとあんまり色々はできねえ、っつう人達が傍に居ると、滅茶苦茶しっかりするのな」

「うん。頼られることで頼もしくなっちゃうタイプみたいだね」

「しかもあれ、農夫達を安心させるために自分が安心を演じてるだろ?で、演じるのに引きずられてアージェントもちょっと安心してきちまってるんじゃねえかな」

「成程……アージェントさんは自然とぽかぽかになってきてしまうということだね」

僕とフェイは目配せして、頷き合う。

……ラージュ姫。

アージェントさんをこのおひさまぽかぽか地区送りにして、ニムオンさん達、ちょっと頼りない農夫の人達をつけたのは、大正解だったと思いますよ。

「そういうことだ。何も心配は要らん。さあ、今日は西地区の開墾だ。予定通りに行うように」

「へい!」

やがて、アージェントさんに落ちつけられて農夫の人達がぞろぞろと戻っていくのを見送って、僕らはちょっと、にこにこしてしまった。

……そうして、夜の国の人達が日向ぼっこを楽しんでいると。

「……あれ?ちょっとむずむずしてきた」

春の芽吹きのような、そういう感覚が足元から伝わってくる。

「結構、魔力が流れてるみたいだな!予想以上に上手くいってる!」

「トウゴさんが上流に居るのも効果を上げる要因になっていそうですね」

成程。僕から零れた魔力が、夜の国の人達の吸う力に引き寄せられて流れて……あれ?つまり、今、僕が源泉?

「季節も丁度良かったですね。春の芽吹きの季節ということで、魔力の動きが活発です!」

そっか。そういう効果もあるのか。そうだよなあ、春だもんなあ。

……春だなあ、なんて思いつつ、のんびり日向ぼっこを続けていたら。

ぽん。

そんな音がして、それから、ふわっ、と風に乗って、麦藁帽子が飛んできた。

……おや、と思って振り返ると。

「……ぐ」

アージェントさんが、ものすごく嫌そうな顔をしていた。そしてアージェントさんの頭の上では……たんぽぽが、流れ込む魔力に応えるように、盛大に花開いていた!

どうやら、たんぽぽが急成長したせいで麦藁帽子が吹き飛んでしまったらしい。紐を顎の下で結んでいたはずだけれど……ああ、紐が切れてしまっている。後で直しておいてあげよう。

それにしても、麦藁帽子を吹き飛ばすくらいに元気とは、たんぽぽも中々やるなあ。アージェントさんは只々苦虫を噛み潰したような顔をしているし、ルギュロスさんはいたたまれなさそうな顔をしているけれど……。

「……てぃふぁーれ!」

けれど、夜の国の人が1人、そう声を上げた。

「わにゃ?……にゃ!せうーと!」

続いてもう1人、たんぽぽに気づく人が現れる。すると、あれよあれよという間にアージェントさんのたんぽぽは夜の国の人々の視線に晒されることとなった。

「わにゃわにゃ?じー……ふわーわ?わにゃじーふわーわなーみぇ?」

「たんぽっぽ!じー、たんぽっぽ!」

「たんぽっぽ?」

「たんぽっぽ!」

「たんぽっぽ!たんぽっぽ!」

更に、レネがたんぽぽの名前を教えたらしく、すぐにたんぽっぽコールが沸き起こり始める。

……あああ!アージェントさんが何とも言えない顔をしている!あれは努めて自分自身を落ち着かせようとしている顔だ!

ただ、アージェントさんは頭のたんぽぽを見られることを嫌がったけれど、夜の国の人達は『珍しく美しく可愛らしいものを見られた!』ととても喜んでいた。何なら、アージェントさんを『たんぽっぽ様!』とよく分からない崇め方をし始めた人も居た。

そうしてアージェントさんは、たんぽぽのおかげで夜の国の人達には極めて好意的に接されることになり、うっとりと見つめられては居心地の悪そうな顔をし……非常に刺激的な一日を過ごすことになったのだった。まあ、何事も経験だよ、アージェントさん。

そうして翌々日。

『お世話になりました!』

レネを代表とする一団は、皆揃ってぺこん、とお辞儀した。

『こちらこそ、どうもありがとう!おかげで、まだまだ霊脈とは言えないけれど、魔力の小川ができました!』

そして僕らもお辞儀する。

……成果は上々。夜の国の人達100名以上が一列に並んで滞在していた結果、魔力の小川が生まれたんだよ。流れる魔力はまだまだ少なくて、ともすればすぐに干上がってしまいかねないような、そういう具合だったけれど……アージェントさん曰く、『屑魔石を土に混ぜ込みながら調整すれば維持できる』とのことだったので、きっと大丈夫だろう。

「いやあ、なんだか芋の葉っぱが一昨日よりツヤツヤしたような具合でさあ。俺達もびっくりですよ!」

「れーみゃくってのはすごいなあ!」

これを大いに喜んでくれたのは、農夫の皆さんだった。ニムオンさんをはじめとした皆さんは今一つ『霊脈』のことが分かっていないらしいのだけれど、アージェントさんが『これがあれば土地が豊かになる。良い農作物が多く採れるようになる』と説明した結果、なんとなくそういうものとして霊脈のことを理解したらしい。

農夫の人達はアージェントさんのお墨付きもあるなら、ということで、すっかり夜の国の人達と打ち解けた。

……彼ら、アージェントさんの言う通り、知識はあんまり無いのだろうし、自ら学ぼうという姿勢もあんまり無いようなのだけれど……その分、『分からないものを分からないからしょうがないと割り切る能力』には長けている人が結構多かったみたいで、そういう点で夜の国の人達とは相性が良かったみたいだ。

逆に、『分からないから怖い、でも知ろうとも思わないので一切接しない』っていうタイプの人達も居たのだけれど、そういう人達でも、ニムオンさんをはじめとした『夜の国大歓迎派』に押されて、多少、夜の国の人達と打ち解けた、ように見える。

「いずれ、このおひさまぽかぽか地区は夜の国との姉妹都市になるかもしれませんね」

「だな!そうなったら楽しいだろーなあ……」

「おい、レッドガルド。気が早いぞ。今はまだ都市どころか村落にすらなっていないような状態だろうが」

フェイ達もこの様子を見て嬉しそうだ。当然、僕も嬉しいよ。夜の国の人達にとっては光の魔力を摂取できるいいバカンスになるのだろうし、僕らとしては霊脈復活を助けてもらえて助かるし……この協力関係、続けばいいよね。

そうして夜の国の人達はレネ以外皆、夜の国へと帰ることになった。(レネはソレイラに泊まってから帰るってさ。)

お土産にソレイラの果物やソレイラの湧き水(要は魔力が多く含まれる水)を渡した他、彼ら自身が摘んだ野の花やアージェントさんが『こんなもの要らん。持っていきたければ持っていくがいい』って頭から毟ったたんぽぽで作った花束を持って帰って、皆嬉しそうだった。

おひさまぽかぽか地区近くの祭壇で鳥の協力を得つつ儀式を行ってゲートを開いて、帰っていく彼らを見送って……さて。

「僕らも帰ろうか」

「だなあ。いやー、いい視察だった!」

「……視察というにはあまりにも、その……酷い内容だったが?」

「そうでしょうか。私はアージェント卿のぽかぽかした様子を見ることができて、大変有意義な視察でしたよ」

ちょっと途中で色々あったから長い視察になってしまったけれども、まあ、視察という点でも、技術提供という点でも、有意義だったと思う。

「……伯父上があのようになられるとはな」

「だよなあ。結構丸くなったんじゃねえかなあ、アージェント」

「丸くなったというよりは、諸々を削り取られたようにも思うが……」

ルギュロスさんとしては色々と複雑な気持ちらしい。まあ、彼はツンツンしていたい人らしいので。

「まあ、俺達レッドガルド仲良し連合にかかればアージェントだってこんなもんだぜ!そしてお前もな!」

「……明日は我が身、か。全く……」

いや、明日というか、ルギュロスさんはもう遅いと思う。ようこそこちら側へ。

そうしてソレイラへ向かう帰り道。

「実は、おひさまぽかぽか地区を一時的にトウゴさんにお任せしてはどうか、という案も出ていたんです」

「えっ」

ラージュ姫からそんなことを言われて、ちょっと驚く。

確かに、おひさまぽかぽか地区は霊脈が枯れてしまって大変な土地だ。そこで農業をできなくなった人達がソレイラに来た、っていう経緯もあるから、多少、ソレイラと縁のある土地でもある。

だから当然、頼まれれば復興に力を尽くしたし、今だって、協力したい気持ちは十分にある。

「しかし、トウゴさんのお力に頼るのも違うだろう、ということで。……それに、その、トウゴさんが管理なさる森が2か所になってしまうと、ちょっと不都合ですよね?」

……けれど、そう言われて、想像してみる。

えーと……森が2つあったら。

「……体が2つあるようなかんじになってしまう、気がする」

「おーいトウゴー、戻ってこーい」

「あ、でも、だったら小さめな森をおひさまぽかぽか地区にこしらえて、そこで僕が卵を産んで誰かにそこの精霊をやってもらえるようにお願いして森を明け渡せばいい、のかなあ」

「おーい、おーいトウゴー」

鳥が僕に精霊業を押し付けてきたみたいに、僕も別の誰かを精霊にしてしまうっていうのは十分にありなんじゃないだろうか。森が増えればその分、精霊が増えたっていいだろうし。

……ただ。

「……それって自分の子供を産むようなもののような気がする。ちょっと恥ずかしい……」

「恥ずかしがるなよおー!そういう、人間にはよく分からねえところで恥ずかしがるなよおー!」

「お前も人間ではないだろうが」

「そうだった!俺、ドラゴンだった!んでルギュロスも人間じゃねえもんな!」

「レネさんも誇り高きドラゴンですし、人間は私だけですね!」

「どらご……えるーら?みゅ?」

本当だ。よく見たら人間よりドラゴンが多いぞ、この面子。すごいなあ。

そうこうしている内に王都に到着して、そこで僕らは一泊して、ラージュ姫と別れて、それからまたソレイラへ帰る。

ソレイラの方へ向かっていくと、空にふんわりと雨雲が掛かっている様子が見えた。優しい雨がしとしとと、春先のレッドガルド領を濡らしている。

ちなみに、この雨は昨日から降り続いている。自分の木々の葉がしっとり濡れて、爽やかで心地よかった。

そんな雨の中、レネと「きれーい!」と言いつつ、ソレイラへ飛んで戻る。雨が体を濡らさないように、僕とレネにはふわふわが纏わりついてくれている。弱い雨なら雨除けはふわふわで十分。フェイ達にはレインコートを出した。雨の中の飛行もちょっと楽しいよね。

……ということで、僕らは森へ到着、した、のだけれど。

「……あれ」

「ん?どうした?」

僕は、大変なことに気づいてしまった。

自分の中。一軒家。そこで……ライラが、発熱している!

「む……何故だ、力が入らん」

そしてライラの召喚獣であるルギュロスさんも、なんだか元気がなさそうだ!

これは……これは、大変だ!