軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

竜と忘れることなかれ*3

僕らが振り返ると、そこにはにやにやとした笑顔を浮かべて、3人の人が立っていた。年齢はフェイやルギュロスさんと同じくらい。まあ、同じ学年の人なんだろうな。同窓会なんだし。

「相変わらず目立つ頭してるからすぐ分かるなあ。せめて短く切っておけばもう少し見苦しくないだろうに」

「そういう訳にもいかないか。魔力が足りないあまり、髪を伸ばして魔力を貯めて、それでなんとか補ってるぐらいだもんな!」

「魔法の実技テストは大体いつも赤点だったな。髪も目も赤い奴には赤点がお似合いだ、とよく言っていたが……髪をまた伸ばしたようだが、その分赤点も増えているんじゃないだろうな?」

笑い声が会場に響く。ちょっと異質な笑い声は、会場に居る他の人達の目も引き付ける。

……それと同時、ひそひそ、と、囁く声も聞こえてきた。何を囁いているのかは分からないけれど、フェイへ向けられる目は、どことなく嫌なかんじだ。

フェイは黙っていた。愛想笑いを浮かべかけて、でもやっぱり嫌だな、と思ったような、そういう顔のまま、黙っている。

「フェイの髪はとっても綺麗だから、切っちゃうなんてとんでもないと思う」

……だから、僕が喋ることにした。

ひょい、と前に出て喋りかけたら、フェイを馬鹿にしていた奴らはきょとんとしていた。

「レッドドラゴンの鱗みたいに綺麗な赤だもんね。こんなに綺麗なものがあったらつい見ちゃうのは分かるよ。ついでに、伸ばしてくれたのは僕の為なんだ。僕が寝込んでた時に、早く起きますように、って願掛けのために伸ばしてくれた」

ついでに今は『トウゴがまた寝込むようなことにはあんまりなりませんように!』っていう願掛けにシフトチェンジして、まだ髪を切らないでくれている。そういうかんじ。

……ということで僕が割って入ってからきょとんとしていた奴らは、ようやく、頭が回り始めてきたらしい。

「そちらは一体どちら様かな?見たことの無い顔だが……」

「僕はトウゴ・ウエソラ。レッドガルド領ソレイラの町長です」

自己紹介の求めに応じて僕が名乗ると、また不思議そうな顔をして……けれど、奴らの内の1人が、ちょっと慌てたように何かを耳打ちし始めた。まあ、多分、『ソレイラは精霊のお膝元である』みたいな内容なんだろう。或いは、『急発展を遂げている都市』くらいに言われているのかも。

「……で、そちらの失礼なあなた達は誰?」

僕が彼らを見上げて(こういう時、身長が低いのがちょっと悔しいな)睨みつけてやると、ちょっと気まずげな顔をしながら彼らは名乗るでもなく、まごまごしている。

「えーと、右からモルヴィ・ベラ・ヴィオロン。グレン・シェラ・パリスリーン。キーカー・タルパ・イエラバーグ。だよな?」

すると代わりに、フェイが僕の隣に出てきつつ、そう教えてくれた。……名前を言い当てられた彼らはちょっとびっくりしていたようだった。まあ、フェイはかしこい上に努力家なので。嫌な奴らの名前だって、ちゃんと覚えてるんだよ。

「あー……久しぶり。元気そうだな。相変わらず」

そしてフェイはちょっとだけ皮肉が入っているんだろうけれど、でも全体的に人のいい挨拶をして、よっ、というように片手を挙げる。それに対して、奴らはなんだか嫌そうな顔をしているばかりだ。本当に失礼な奴ら!

「……ま、挨拶したくねえなら別にいいんだけどよ。機会があったら是非、うちの領地に遊びに来てくれよ。最近はトウゴのおかげで随分、面白いことになってきててさ。退屈はしねえと思う」

フェイはすごく穏便な対応をしているのだけれど、でも、僕としてはちょっと気が済まない。

「そうだね。是非、ソレイラに遊びに来てほしい。きっと精霊様もお喜びになる。森の精霊様はレッドガルドの子が大好きだからね。失礼な学友達が来るとなったら、それはそれは歓迎してくれると思う。……勿論、僕だって歓迎するよ」

ちょっと脅しめいたことを言ってやる。嘘なんて吐いてない。こいつらが来たらちゃんと歓迎してやるんだ。木の根っこを存分に伸ばして躓かせてやるし、枝葉で切り傷ぐらい作ってやる。龍に頼んでいきなり嵐にしてもらってもいいよ。

……という気持ちで言ってしまってから、ちょっとだけ、心配になる。僕、言い過ぎたかもしれない。

けれど、フェイを悪く言われて黙っていられなかった。損得なんて考えなかったし。でも、フェイがこれで余計に嫌な思いをすることになったら嫌だな、と、思って、フェイをちら、と見上げていると……。

「品の無いことを言うなら、気を付けることだな」

……かつかつ、と靴の踵を鳴らしながら、堂々と、ルギュロスさんがやってきた。

それはそれは、もう、堂々と。あの巨大コマツグミといい勝負ができるくらいに。すごいなルギュロスさん。

「お前、アージェントの!」

そしてルギュロスさんは学園の中でも有名な人だったらしいから、相手もルギュロスさんを知っていたらしいし、ルギュロスさんを見てちょっとたじろいだ。

「ああ。『勇者』ルギュロス・ゼイル・アージェントだ。浅学浅慮が服を着て歩いているような貴様らも私の名くらいは知っていたか」

……そしてルギュロスさんは早速、失礼なことを言っている!

すごい!この人を見てたら僕、言い過ぎたか、なんて気にならなくなってきた!すごい!僕のなんて誤差の範囲内だった!『浅学浅慮が服を着て歩いている』なんて僕、流石に言わない!

「な、何故アージェント家の者が、レッドガルドなんかと……?」

失礼な人の1人がたじろぎつつも不思議そうにしていると、ルギュロスさんはそれを鼻で笑って……見せつけるように、フェイの肩に腕を回してみせた。すごい。この人、人を馬鹿にするために普段なら絶対にやらないようなことをやっている!すごい!この人、すごい!

「今やレッドガルド家は貴族連合の頂点の1つとして数えられる家だぞ。貴族連合に加担する胆力も無ければ王家の下で目立った功績も上げられないような貴様らの家とは最早格が違う」

「な、なんだと!?」

「事実、そうだろう。ヴィオロン家がこの数年、何をしていたかまるで耳に入って来ないが?それとも何か、目立った功績を上げたとでも?ああ、勿論パリスリーン家もイエラバーグ家も同じことだ。正に『無名』といったところだな」

うわあ……うわあ……ルギュロスさんがそれはそれは楽しそうだ。あああ……。

「レッドガルド家はこの私、ルギュロス・ゼイル・アージェントが親交を持ってやってもよいと判断する程度には能力を顕示してきた。貴様らが如何に唾を吐きかけようと、その事実は覆らん。それを忘れるな、三流共め」

そしてルギュロスさんは、唖然としたままわなわなと震えている相手に向かって、言い放った。

「精々、身の程を弁えた振る舞いをすることだ。自らの首を絞めたくないのならな」

……そして、ルギュロスさんが実に偉そうな顔で相手を上から睨んでいるところ。

「……ルギュロス。ありがとな。でもな。ちょっとお前、言いすぎ」

フェイが、苦笑いしながらルギュロスさんの脇腹をつっついた。

「くだらんな。私は真実を述べたまでだ」

「ホントのことだからって言っていいことと悪いことがあるんだっつーの。んなこと言ったらお前だって言われたくねえホントのことあるだろーが」

ルギュロスさんは偉そうな顔でフェイを見ていたのだけれど、フェイがちょこちょこ、と自分のおでこのあたり……つまり、ルギュロスさんに一時期角が生えていたあたりをつつきつつそう言うと、流石に表情が引き攣った。

「……おい、レッドガルド。貴様」

「言わねーけど。俺はお前みたいに言いすぎることなんてしねーから言わねーけど!」

「何を偉そうに……!」

「へへへ。偉そうなのはどっちだっつーの!」

……そしてフェイとルギュロスさんの言い合いが始まった。

言い合い、とは言っても、フェイはなんだか調子を取り戻したみたいで、いつも森に居る時みたいなにんまりした笑顔だ。一方のルギュロスさんは嫌そうな顔をしている訳なのだけれど。

そんな2人の様子を見て、失礼な奴らはぽかんとしていた。

もしかしたら、今までフェイが学園でこういう顔をしていたことなんて、無かったのかもしれない。そして……ルギュロスさんにこんな風にずけずけ言う人も、きっと居なかったんだと思うよ。

「ルギュロス・ゼイル・アージェント。あなたにはどうやら、ふわふわした心が足りていないようですね。あなたもおひさまぽかぽか地区送りをお望みですか?」

……けれど、そんな言い合いも終わりを告げた。ラージュ姫がやってきたので。そして、とんでもなくふわふわしたことを言っているので。

「フェイ様もですよ!どうぞ仲良くなさってくださいね!」

ラージュ姫が『めっ!』とやりつつやってきたら、フェイはけらけら笑いだしたし、ルギュロスさんはものすごく苦い顔で黙った。

「……御意」

「ははは。王女殿下のお心のままに、ってことで!よーし!じゃあ早速仲よくしようぜルギュロス!」

「馴れ馴れしくするな!限度を知れ!」

フェイはさっきルギュロスさんがやっていたみたいにルギュロスさんの肩に腕を回してくっついている。ルギュロスさんは嫌がっている。さっきは自分からやってたくせにね。

……そうして、くすくす笑うラージュ姫が他の人に呼ばれてそちらへ向かうのに合わせて2人も仲良く去っていく時、フェイはにやり、と笑って振り返って、失礼な奴らにひらひら、と手を振った。

失礼な奴らは只々唖然としていたけれど……ちょっといい気味だ。僕も彼らに手を振って、フェイ達を追いかけることにした。

そうして僕らは改めて、ちょっと落ち着ける場所を確保して……フェイが深々と、ため息を吐く。

「……ま、あんなかんじだ。レッドガルドの無能君は今日もこんな具合、ってことで……ごめんな、嫌な思いさせたよな」

フェイがそう言ってなんだか申し訳なさそうな顔をしているので、僕はフェイをちょっと小突く。

「ううん。そんなことないよ。僕はちょっと言ってやったのですっきりした。あと、ルギュロスさんがものすごく言ってくれたのですっきり……うん、まあ、すっきりしたよ」

「何だ、今の間は」

すっきりを通り越してちょっとひやひやした、っていうだけのことだよ!

「あー……なんつーか、ルギュロスにも一緒に来てもらって本当によかったなあ。ありがとなあ、ルギュロス」

「……何だ、気味の悪い」

ルギュロスさんは何とも言えない顔をしているけれど、でも、この人は素直に感謝されるのに慣れていないだけっていうだけなんだよね。分かる分かる。

「……ああいった輩は、多いのか」

それからラオクレスが少し心配そうに言うと、フェイは気まずげに頭を掻きつつ、頷いた。

「まあなあ。俺、『赤髪赤目で赤点のレッドガルドの次男』っつって有名だったからなあ……」

フェイがため息交じりにそう言うと、ラオクレスは、そうか、とだけ言ってフェイの肩をぽんと軽く叩いた。お疲れ様、みたいなかんじ。

「……ま、ああいう奴らは適当にやり過ごすよ。普通に話してくれる奴らも居ると思うし、折角だ、楽しまなきゃな!」

フェイはそう元気よく言って、にや、と笑った。どうやら少し、元気が出てきたみたいだ。よかった!