軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

竜と忘れることなかれ*1

「いやー、別に隠すことでもねえんだけどさ。なんとなく今まで言えてなかったんだよなあ……」

フェイはそんなことを言いつつ、僕と一緒にハンモックに腰かけて、ゆらゆら揺られてため息を吐く。

「俺、学園ではあんまり立場がよくなかったもんだからよー、ちょっと行くのが気まずいんだよなあ」

……な、何故!?何故、フェイが!?

「ほら、兄貴は滅茶苦茶に出来がいいだろ?古代語スピーチコンテストでは優勝するし、武術大会の決勝戦は毎回毎回、サフィールさんとの一騎打ちだ。ウインクでワイバーンが落ちただの、兄貴に惚れたご令嬢が身投げしたところを空中で抱きとめて救っただの、逸話には事欠かねえ人だったもんだからさ」

……ローゼスさんって、つくづくすごい人だなあ。精霊御前試合の時にも思ったけれど、あの人、相当にすごい人だ。

「で、その一方、弟がコレだろ?」

「うん。僕の最高の親友だ」

僕が頷くと、フェイはきょとん、としてからけらけら笑いだして、僕の頭をわしわし撫で始めた。な、なんで撫でるんだ!

「ははは。そう言ってくれると嬉しいけどさあ……まあ、俺は兄貴と比べると勉強がそんなにできるわけでもねえし。魔力がほとんどねえからさ、魔法の実技は特にひでえもんで……。それに、弱小領地の貴族だからな。兄貴なら長子だっていうことで価値があるけど、俺なんかは身分にすらほとんど価値がねえからよお……」

「そんなことはないと思うけれど……」

やられたらやり返す、の精神でフェイの頭を撫でてみる。もそもそ。……フェイはすごくいいやつなので、どうか、どうか元気を出してほしい。

「えーと、まあ、そういうわけで……友人なりパートナーなりを連れてっていいことになってるからさあ、もしよかったら……」

「うん。勿論、行くよ。フェイが来てほしいっていうんだったら、いくらでも」

フェイがおずおずと言いだしてきたので、言葉を遮るように返答してしまった。だってそんなの、今更だろ。僕はちゃんとフェイの親友のつもりでいるんだ。遠慮なんて無しだよ。

「……けれど、僕でいいの?どうせ連れていくんだったら、女の人の方がいい、とか、そういうこと、ない?」

「え、いやー、まあ……そりゃそう、かもしれねーけどよ。でも友人を連れていってもいい、ってことになってる以上、別に女じゃなくてもいいと思うんだよな」

うん。まあ、そういうんならいいのかな、とも思うけれど……。

「……他の人は、男の友達を連れてくる人も多いの?」

「えーと……どーだろうなあ、ちょっと分かんねえけど……」

フェイはちょっと唸って、うーん、なんて言いつつ首を傾げている。

「ローゼスさんは?過去には行ったこと、あるんだよね?」

「おー。兄貴は……下手に女性を連れてったら戦争が起きかねねえし、特に男友達でこれは、って人が居たわけでもなかったらしいからな。サフィールさんと肩組んで仲良く入場したらしい」

……何となくその光景が目に浮かぶようだ。成程なあ。

「じゃあサフィールさんのも参考にならないか。他に同窓会に行った人とか、行く人とかの情報って得られないんだろうか」

「うーん、後は……」

フェイは悩んで、悩んで……そして。

「……あ!ルギュロス!あいつにも招待状、来てるはずだ!同学年だったんだから!」

そう、思い至った。

……よかったね、ルギュロスさん。思い出してもらえて。

「私はラージュ王女を連れていく予定だが」

そして、妖精カフェで優雅にティータイム中だったルギュロスさんに聞いてみたら、そういうとんでもない答えが返ってきた。

「ら、ラージュ姫を!?なんでまた!」

「彼女が王立学園を見学したい、と言っていたのでな。折角だ、声を掛けた。この国の女の中で一二を争う『箔』となる者を連れ歩けるに越したことは無い」

「まーじかお前……ホントちゃっかりしてんなあ……」

フェイがちょっと呆れたような感心したような顔をしている一方、ルギュロスさんは堂々とした態度だ。本当にちゃっかりさんだなあ。

「そもそも同窓会に連れていくパートナーは、自らの持つ人脈を誇示し、或いは貴族の子弟同士、人脈を広げるためのものだ。そういった点ではラージュ王女は最高の人選であると言えるだろう?」

「そうかぁ……ラージュ姫もよく了承したよなあ、ホント……」

ルギュロスさんが続けて自慢げにしている横で、フェイがちょっとうにうにし始めて……そして。

「……だが、フェイ・ブラード・レッドガルドに声を掛けられたらそちらを優先する、とも言っていたのでお前は声を掛けるな」

……ルギュロスさんがものすごく渋い顔でそう言ったので、僕ら、びっくり。

僕らは鳩。ルギュロスさんの言葉は豆鉄砲。そんなかんじの気分だよ。

「おま、お前、正直だなあ……!」

フェイがそれはそれはびっくりした様子でそう言ったら、ルギュロスさんはちょっと嫌そうな顔でため息を吐いた。

「そういう訳だ。決して、ラージュ王女に誘いをかけないように」

「それはどっちなんだ?フリか?なーなールギュロス、俺、お前のこと分かんねえよお……」

「天邪鬼なのかそうじゃないのかはっきりしてほしい!」

そして僕らはそれどころじゃない。何なんだ!この人、本当に何なんだ!

結局、ルギュロスさんは本当にラージュ姫をとられたくないらしかったので、とりあえずそこは諦めることにした。

「くそー、ルギュロスに対抗するとなったらいよいよクロアさんかぁ……?」

「あら。私ならいつでもお付き合いするわよ?」

妖精カフェで丁度働いていたクロアさんは、にこにこしながらやって来てくれる。その笑顔が眩しい。やっぱり彼女、ものすごく美人さんだ……。クロアさんを連れて歩いていたら、ものすごく自慢できるだろうなあ。その一方、自分の影が薄くなりそうだけれど。クロアさんの隣に立っていても存在感を失わない人なんて、ラオクレスくらいなものだよ。

「或いは王女様に対抗っていうことで、女王様のアンジェはどうだろうか」

「妖精の国の、か!成程なあ、いや、でもアンジェはまだ小さいしよお……」

まあ、そうだろうなあ。アンジェを連れていったら目立つことは間違いないけれど、多分それって、悪目立ち、と言う。うーん。

「……いや、やめやめ。対抗とかそういうの、よくねえよな。はあ……」

そしてフェイは、そう結論を出して、改めて、僕に向き直る。

「……ってことで、改めて、トウゴ。俺と一緒に同窓会、来てくれるか?」

「僕でいいの?」

「おう!お前がいい!胸張って、『俺が俺の力で絆を結んだ親友だぞ!』って紹介できるお前がいい!」

がしり、と手を握られつつ、なんだか嬉しい気持ちになりつつ僕が頷くと、フェイはちょっと、へにゃ、とした顔になる。

「ほらぁ、クロアさんとかはよお、お前が運んでくれた縁だろ?だからなんつーか、俺が連れて歩いていい人じゃねえと思ってさあ……」

「フェイ君は真面目ねえ」

「ははは。それくらいが取り得なんで」

そんなことないと思うけれど。僕はフェイのいいところ、たくさん知ってるし、そういうフェイの親友で在れることがとても誇らしいけれど。

……でも、まあ、そういうのを置いておいたとしても。僕がいい、って言ってもらえるのが、すごく嬉しい。

「じゃあ、同窓会、よろしくね。連れてってね」

「おう!こちらこそ、よろしくな!」

フェイと握手しつつ、僕らは僕らの友情を確かめ合って……。

「……おい、レッドガルド」

そこに、ルギュロスさんが割って入ってきた。なんだなんだ。

「貴様……何故、私と連れ立って行く、という発想に至らない?」

「……へ?」

またしても、僕たちは豆鉄砲をくらった鳩になってしまった。豆鉄砲がよく当たる日だなあ!

「箔をつけたいなら主席であった私が第一に思い当たるべきだろうに。余程愚かと見える。或いはもしや、私を馬鹿にしているのか?」

なんだかちょっと心配そうなルギュロスさんは、そう早口に言って……。

「……ルギュロス!一緒に行こう!」

「ルギュロスさんがこういう風に誘ってくれるなんて思わなかった!是非、一緒に行こう!」

フェイと僕に、がしり、と手を掴まれることになった。

「誰が貴様らなぞと」

「そういうこと言わずに一緒に行こうぜ!な!折角仲良くなった仲じゃねえかよー!」

「言い出したんだから一緒に行こうよ。ね?」

ルギュロスさんは『言わなきゃよかった』みたいな顔をしているけれどもう遅い!もう捕まえた!もう離さないぞ!

「……くそ、全く!仕方のない奴らだ!」

そしてルギュロスさんは折れてくれた。なんだかんだこの人、良い人だなあ!

……そうして。同窓会パーティの前日。

「……やっぱりひらひらになるんだね」

「だってトウゴ君、こういうの似合うんだもの」

クロアさんが僕の服を用意しておいてくれたのだけれど……全体的にひらひらしてる。

シャツの袖口にはひらひらとレースがついているし、袖がたっぷりしていてふわふわしているし、ボタンの両脇にもレースがついているし、上に着るベストは裾が長い。前はベルトぐらいの丈で、後ろに行くにつれて長くなって、後ろ側では膝の裏を隠すくらいの丈で……それでいて、ドレープが綺麗。つまりひらひらしている。これじゃあまるで女の子のドレスの裾だよ!

「しかもこの色合い、ちょっと派手じゃないだろうか」

「同窓会のパーティでしょう?白黒じゃあカッチリしすぎよ」

そしてなんとなく、色合いがよくない。

ドレスみたいなベストは真っ白。細身のズボンは黒に近いグレーで、シャツの色は青みがかった桜色!こういう色の、しかもひらひら付きのシャツ、だなんて、いよいよ女の子の恰好みたいだよ!

「しかもリボン!またリボンか!」

「似合うんだもの」

そして襟のところにはリボンタイ!結び目には深紅の石のついたブローチ!どうしてクロアさん、こんな服を選んできたんだろうか!

「これを着たら、トウゴ君きっと妖精の国の王子様みたいに見えるわ」

「つまりアンジェの息子……?」

「……雰囲気が、っていうことでね」

うん、まあ、分かるけれど。分かるけれど……いや、待ってほしい。なんだ、妖精の国の王子様、って。僕、そういう恰好にされるの!?

「……恥ずかしいんだけれど」

「ふふふ。恥ずかしがるトウゴ君ってどうしてこう可愛いのかしらね」

駄目だ、クロアさんが話を聞いてくれない。あああ……。

「……まあ、折角、フェイ君と一緒にお出かけなんでしょう?なら、少し華やかな格好になってあげなさいな。地味なばっかりじゃ、フェイ君がかわいそうよ」

……でも、まあ、どうやらこれはフェイの為、らしいので。

「なら我慢しよう……」

フェイの為ならしょうがない。なんだか可愛い恰好にされてしまうくらい、諦めようじゃないか。ううう……。

「それとも、ドレスにしておく?多分トウゴ君、ドレスを着ても似合うと思うのよ」

「着ません!」

そして、うっかりドレスを着せられないためにも、この辺りで逃げ出しておかないといけない!うううう……。