作品タイトル不明
コウノトリとキャベツの里より*2
「な……なんだと!?カーネリア様が行方不明!?」
僕らがびっくりして何か反応しようとするよりも先、インターリアさんがそう、悲鳴に近い声を上げた。
「あ、いやいや、落ち着いて、インターリアさん。大丈夫。森の中に居るから」
けれども大丈夫。僕は森なので、カーネリアちゃんが今どこに居るかもちゃんと分かるよ。
インターリアさんにそう伝えると、彼女はほっとして、それから力が抜けたみたいになってしまったので慌てて近くの椅子を勧めた。どうぞどうぞ。
「……それにしても、こんな夜に外出?カーネリア様が?一体、どうして……」
「ええと……それがね」
僕は森としての感覚でカーネリアちゃんの位置を正確に確かめて……キョキョン、という鳴き声を何となく聞きつつ、答えた。
「彼女、鳥の巣にいるみたい……」
「……は?鳥の、巣……?」
「うん。あの巨大コマツグミの巣……」
……僕の頭の片隅では、カーネリアちゃんが鳥に温められて『どうして温めるのかしら!?』ってやっている。うん……。
ということで。
僕らは揃って、例の鳥の巣へ。
「カーネリアちゃーん」
「あ、あら!?トウゴ!?どうしてここが分かったの!?」
「いや、そう言われても。僕は森なので……」
自分の腕の中に居る生き物の場所くらいは分かるよ、そりゃあ。……そう言ってみたら、フェイに『もどってこーい』ってやられたけれど、いや、そう言われても……。
「カーネリア様!今、お助けします!」
「えっ!?インターリアも居るの!?」
そしてインターリアさんが何やら剣を抜き放って鳥の巣の中の鳥を睨んでいるけれど、いや、ちょっと待って、ちょっと待って!
「インターリアさん!多分、あの鳥がカーネリアちゃんを攫ったわけじゃないと思うんだよ!彼女、自分であの巣の中に入ってみたんじゃないかな!」
「な、なんだと?あの鳥は人攫いだと聞くが……」
いや、攫われてるのは主に僕、時々ライラっていうだけなので……。
インターリアさんを落ち着かせつつ、僕ら、鳥の巣の傍まで飛んでいく。フェイは火の精で、ルギュロスさんは風の精で。そしてインターリアさんは彼女の相棒である天馬に乗って。
……ライラは乗り物である例の鳥が巣の中に居るものだから、しょうがない。僕が自力で飛んでいくついでにライラも運んだ。……レネが僕を運んでた時みたいに後ろからきゅっとやって運んでみたのだけれど、その、ちょっと落ち着かなかった。帰りは鳳凰にライラを運んでもらおう……。
「トウゴ!ごめんなさい、心配をかけてしまったかしら」
「ええと、僕よりはインターリアさんが心配してたよ」
巣の中に到着すると、カーネリアちゃんは気まずげな顔をしたし、インターリアさんも巣の中へやってきたのを見て益々気まずげな顔をした。そして鳥は『何故こんなに来客が?』みたいな顔で首を傾げている。いや、君、カーネリアちゃんがいきなり巣に来た時点でもうちょっと頓着して。
「カーネリア様。何かこの鳥の巣にご用事が?」
「あ、うん……でも、もう大丈夫よ。ご用事は済んだわ。新しくもう1つご用事ができちゃったけれど、それはまた明日にするわ。もう夜だものね」
カーネリアちゃんはもそもそと鳥のお腹の下から抜け出してきて、服や髪についてしまった羽毛を叩いて払って、それから、インターリアさんにぺこん、と頭を下げた。
「心配かけてごめんなさい」
「いえ、大丈夫ですよ。トウゴ殿が見守ってくださっていますから。……けれど、夜分に外出されます時には、念のため誰かに言づけてからお願いしますね」
「ええ。今度からそうするわ」
カーネリアちゃんはちょっとしおれながらそう頷いて……それから、ちょっと僕の方にやってきて……ひそひそ声で囁いた。
「あのね、トウゴ。相談があるの。明日、相談に行ってもいいかしら」
「うん。どうぞ」
彼女のお願いを了承すると、カーネリアちゃんはぱっと表情を明るくした。
「じゃあ、また明日、よろしくね!」
……うん。
そういえば彼女、『用事は済んだけれどもう1つ用事ができた』と言っていたなあ。
……次は何が来るのだろうか。
ということで、翌日。
「あのね、昨夜は鳥さんの巣に赤ちゃんが居ないか確認に行っていたの」
僕の家に相談に来たカーネリアちゃんは、開口一番、そう言った。
「『鳥さんが赤ちゃんを運んでくることもある』ってウヌキ先生が言っていたから、鳥さんの巣を見に行ったのよ」
……先生の優しい誤魔化し方は別に悪くなかったと思うんだけれどさ。けれど、今のところ先生の言葉によってカーネリアちゃんはキャベツを見つめたり鳥の巣へ行ったりしてしまっているので……一番影響が大きいです!
「でも、赤ちゃん居なかったわ……」
「……ええとね、多分、赤ちゃんを運ぶ鳥はあの鳥じゃない別の鳥だと思うよ」
あの鳥はコマツグミ。赤ちゃんを運ぶのはコウノトリ。鳥違いだね。
「そ、そうなのね。鳥さんにも職業ってものがあるのかしら……」
……いや、職業って訳ではないと思うけれど。けれど、そうだな。もし鳥に職業があるとしたら、うちの巨大コマツグミは……ええと、何だろうか。職業。そもそもこいつ、働く気はあるのだろうか……。無職、が相応しい気がする。或いは自由業、とか……。あ、もういっそのこと、あいつは『勇者』でいいのかも……。
「それでね、トウゴ」
「うん」
さて、鳥の職業の話から何が来るかな、と思いつつ、カーネリアちゃんの次の言葉を待ち構えていると……。
「インターリアの赤ちゃんは多分、居なかったのだけれど……赤ちゃん、居ないわけでもなかったのよ」
……ん?
「鳥さんの赤ちゃんが居たわ」
……ああ。成程、成程。そうだね。あの鳥、最近産卵して僕と先生であっためて孵したばっかりだった。
「それで思ったのだけれど……」
そして、カーネリアちゃんは真剣な顔をして……言った。
「鳥さんの卵って、どこから来るのかしら」
……うん。
先生!助けて!
「さて。僕が呼ばれてしまったからには仕方がない。鳥だな?鳥の設定を考えればいいんだな?」
「先生が考えずに書いちゃったのが原因なので……よろしくね」
さて。ということで先生にお出まし願った。ということで、ところ変わって先生の家。僕とカーネリアちゃんはそれぞれ座布団の上に正座しつつ、向かいの座布団で同じく正座している先生と向かい合って、緑茶が入った湯飲みを手にしているところ。
ずずず、とお茶を飲んで、先生は神妙な顔で……言った。
「……あの鳥さんはね。実は……」
……うん。
「鳥じゃないんだよ」
……うん。
そっか。鳥じゃないのか!
「いや、どう考えてもおかしいんだよなあ。僕の記憶している限り、あの鳥には番になる鳥がいるわけでもないし……」
「そ、そうだわ!あの鳥さん、夫婦じゃないわ!なのに卵を産んでるわ!」
「そう。その点からあの鳥さんのことを考えると……奴が産む卵っていうのは、まあ、無性生殖なのか、はたまた魔法的な力で生み出された自身の分身みたいなものなのか……ということになる」
成程。そっか。そういうことなら謎は一応解決する気がする。……『どうやって』っていうのは今更気にしちゃいけないんだよ。それはあの鳥、腐っても精霊なので……。
「よ、よく分からないけれど、あの鳥さんの卵はキャベツから生まれたり別の鳥さんが運んできたりしたわけじゃないっていうことね?」
「そうだね。きっとそうなんだろう。ああ。……僕も正直、よく分からんが。あの鳥さんはもう、そういう不思議と謎の塊だから解明も理由付けも諦めた方がいい気がするが……」
先生の説明でひとまず納得したらしいカーネリアちゃんは、ふんふん、と頷いて……首を傾げた。
「じゃあ、インターリアの赤ちゃんはどこに居るのかしら……」
……やっぱり、そこに戻ってきちゃうのか!
カーネリアちゃんは悩んでいる。とても悩んでいる!
彼女は真剣だ。それはそれは真剣なんだよ。それこそ、中途半端な誤魔化しじゃあ彼女の悩みを解決できないくらいに。だって彼女、キャベツや鳥の巣を覗きに行っちゃうくらい好奇心と行動力に満ち溢れているんだから!
だから、なんとか彼女を納得させる説明を、と思って、僕は先生の方を見て……。
「……よし。僕は腹を括ったぞ、トーゴ」
そこで先生は、神妙な面持ちでそう言った。妙に決意を感じさせる瞳で、じっと虚空を睨んで……そして。
「まずカーネリアちゃんには僕らの体の最小単位から説明しなければならないな。さて、僕らの体を目に見えない程細かく分けていくと、細胞、というものになる」
……こういう説明を始めたんだよ!