軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たんぽぽが綿毛になるように*4

そうして、会議室に面子が揃う。

ルギュロスさんと僕とフェイとライラ、そしてラージュ姫。王様とオーレウス王子。あと、大臣さんとか、そういう執政を行っている人達。

僕らの目の前にはお茶とお菓子が用意されて、用意した妖精達がぱたぱたと去っていく。……王城の中庭からお茶デリバリーしてくれた。頼んでないのに!すごいなあ、妖精達……。

「……この度は、お時間を頂戴し、感謝申し上げる」

始めに、ルギュロスさんがそう言って、王様達に対して頭を深く下げた。今回のお礼、というよりは、今までのお詫び、みたいな気持ちなのかもしれない。

「用件は、アージェント卿の減刑嘆願、ということであったな」

「如何にも」

ルギュロスさんの返事に王様は頷いて、それからお茶を飲んで……そして、ちょっと身を乗り出すようにして、尋ねる。

「では、聞こう。ルギュロス・ゼイル・アージェントよ。そなたは彼の刑罰として、何が相応しいと思う」

「……非公開の処刑を」

そして、ルギュロスさんはそう、あっさりと言って頭を下げた。

「伯父上の大罪は承知している。この世界を滅ぼす方向へと働きかけた以上、生かしておくわけにはいくまい。だが、今まで王国へ寄与してきたこともまた事実。であるからして……どうか、その命はとっても、今まで築き上げてきた名誉まではとらずにおいてやっては頂けないだろうか」

それから一拍置いて、ちょっとだけ嫌そうな顔をしつつ、顔を上げて……渋々、言った。

「その代償というには恐れ多いが、今後は私がアージェント家を率い、王国の安寧に尽力していく所存だ」

これにはラージュ姫もオーレウス王子もにっこり。王様だけは今一つ事情が分かっていないらしくてきょとん。でも、オーレウス王子が何かひそひそ言ったら、なんとなく事情が分かってきたのか、分かっていないけれどとりあえず調子を合わせることにしたのか、王様もにっこり……。

「うむ、うむ。そなたの望み、しかと聞き入れた。ならば……」

そして王様が頷きつつ、そう、言いかけたその時。

「提案があります」

すっ、と、ラージュ姫が手を挙げた。

「アージェントの行いは大罪です。よって……ただの死刑では、生温いかと」

……打ち合わせとは違う、とでも言うような顔で、ルギュロスさんがラージュ姫を見る。けれどラージュ姫は動じず、王様にそっと言う。

「奴が、最も嫌がることをさせましょう。それがこの世界を裏切ろうとし、ソレイラやトウゴさんを手に掛けようとした者への相応しい処罰です」

「……と、いうと」

王様もちょっと困惑する中……ラージュ姫は。

「おひさまぽかぽか地区での奉仕作業です!」

堂々と、そう、言った。

……会議室が静まり返る。

おひさまぽかぽかちく。

おひさま、ぽかぽか、ちく……?

「……な、何?何と言った、ラージュよ」

「おひさまぽかぽか地区での奉仕作業です!」

だ、駄目だ。僕の頭の中でおひさまがぽかぽかし始めている……何も考えられない!

「……おひさまぽかぽか地区、とは」

「お父様!もうお忘れになったのですか!?霊脈が枯れた王家直轄領をおひさまぽかぽか地区として再開発するというお話をしたばかりではありませんか!」

「いや、その時はまだ、『おひさまぽかぽか地区』は仮称であったと……」

「昨日、正式決定いたしました。明日にでもお父様の下へ許可を求める書類が届きますので、サインをお願いします」

……あああああ!王様が!王様が何とも言えないしゅんとした顔をしている!ラージュ姫のネーミングって、血族である王様にすらこの反応をされちゃうものなのか!

「……えー、では、その、おひさまぽかぽか地区、での、奉仕作業……と言うと、具体的にはどのようなものになる?まさか、野放しにするわけにもいかんだろう。アージェント卿には恩があれども、奴に罪があるのもまた事実だ」

「ええ。勿論、監視付きで、ということになりますが……彼に、おひさまぽかぽか地区の開発指揮を任せればよいのではないかと」

「な、なんと!?」

これには王様がびっくりしているし、多分誰よりも、ルギュロスさんがびっくりしている。

「……ラージュ姫。どういうことだ」

「私とて、考え無しにこのようなことを申し上げている訳ではありません。『荒れ地の再開発』はアージェント卿に相応しいと、考えております。……現場で開発にあたる農民達と直に接し、彼らの悩みを解決していく形で開発を進めていけば……民衆の考えに触れることになりましょう」

成程。つまり、アージェントさんには、成果が分かる形で人の気持ちに触れなきゃできない仕事をさせる、っていうことなのか。……あの人、目に見える成果は好きそうだし、それなら頑張れるのかもしれない。

「伯父上の理想の国とやらが王家直轄領に生み出されるぞ」

「そうなったらそうなったでよいのではありませんか?アージェント卿の理想の町が生まれるのであれば、そこからは間違いなく税収が見込めそうですし……」

……まあ、あの人が頑張って好きなように開発地区を担当したら、文明の発展は間違いないと思うよ。

「ね。折角能力があるのですから、その能力を国のために役立ててもらいつつ、反省と更生を促すやり方が良いと思うのです」

いかがでしょうか、とラージュ姫が微笑む中、オーレウス王子はにこにこしながら頷いて、王様は困惑気味におろおろして……そして、ルギュロスさんは。

「……あまりに、生温いだろう。それでは」

ルギュロスさんは、戸惑っていた。

「……伯父上がそう簡単に更生などするとは思えん」

「あら。更生しなかったとしても、知ることには意味があります。……違いますか?」

ラージュ姫がなんだかじんわり嬉しそうな顔でそう言うと、ルギュロスさんは、ぐ、と言葉に詰まった。……まあ、反論できないよなあ。ルギュロスさん自身が、さっき、牢屋の前で言ってた言葉なんだからさ。

「それに、もう一押しだという感覚はあるのです!妖精達があの喋るお花を植えたあたりで、アージェントは喋る相手があのお花だけになってしまい、少しずつ、あのお花に心を開いているようにも見えるのです!」

なんてこった!あの花、そんな働きをしていたなんて!

「……そうして、自らの心にゆっくりと向き合うことができた今なら、彼は多少、変わることができるのではないでしょうか」

僕らが『ワタシタベテモオイシクナイヨー』の花に思いを馳せている中、ラージュ姫は微笑んでそう言うのだった。

……ということで。

「あー、アージェント卿よ。刑が決まった」

王様達も含めて、僕らは再び牢の前。アージェントさんは『いよいよか』みたいな顔をしていたけれど……。

「おひさまぽかぽか地区の開発に係わる奉仕作業だ」

「……は?」

……刑が申し渡された途端、アージェントさんはこの世の終わりみたいな顔になってしまった。いや、そんな顔しなくても……。

『シケイジャナイネー』『タベラレナクテヨカッタネー』と花が喋る中、アージェントさんはぽかんとしていた。その間にも、今後の予定がラージュ姫の口からつらつらと述べられて、1か月後にはもう、アージェントさんは『おひさまぽかぽか地区』に飛ばされてしまうということが判明した。けれどアージェントさんは考えと気持ちが追い付いていない様子だ。まあ、そうだよね。『おひさまぽかぽか地区』だもんね……。

「……ということです。何か質問は?」

「……聞きたいことは山のようにあるが」

そして最後にラージュ姫がそう聞くと、アージェントさんは頭の痛そうな顔をしつつ、質問した。

「何故、死刑にしなかった?」

「死刑では生温いと思いましたので、より、あなたが嫌がることをして頂こうかと」

ラージュ姫があっさりそう答えると、アージェントさんは『その通りだ』と言わんばかりの苦々しい表情でため息を吐いた。

「まるで理解できん。わざわざ、危険を冒してまで嫌がらせを行うだと?為政者として恥ずべきことだと知れ」

「為政者としては、多少性格と思想に難がある程度で優秀な人材を死刑にする余裕はないという判断です」

……ラージュ姫のまるで包み隠さない物言いに、アージェントさんはちょっと詰まって、それから、そうだな、と、精一杯の皮肉らしいことを言った。けれどラージュ姫もオーレウス王子も、『そうなんですよ』と頷くばかりなので、皮肉がまるで効いていない……。

「まあ、そういうわけだ、アージェント卿よ。今後はしかと、おひさまぽかぽか地区で成果を出すように」

そして王様がそう言うと、アージェントさんは何も言わず、ただ項垂れてため息を吐くのだった。

……そうして、諸々が終わって、王城の中庭。

「お疲れ様でした」

「ああ、本当にな!」

僕らはお茶会をしつつ、ルギュロスさんを励ます会を開催中。

「あのようにするなど、まるで聞いていなかったぞ!?」

「申し訳ありません。お話しする機会が無く……そしてやはり、処刑するには惜しい、と、お父様が言うものですから」

成程。やっぱりあの王様、死刑の書類にサインするのは嫌だったのか……。

ラージュ姫の話を聞いて、深々とため息を吐いて、ルギュロスさんはお茶を飲んで……またため息を吐いた。

「……奴に所領を与えたようなものだろう、今回の処罰は」

「まあ、そうとも言えるかもしれません。無論、アージェントその人が利益を貪るようなことがあれば、即刻公開処刑と致しますが」

「だとしても、過ちの種となるぞ。伯父上は必ず、繰り返す。私には……私には、あの人が真っ当に更生するなど、信じられん」

ルギュロスさんは迷うように視線を彷徨わせて、所在なげにお茶のカップをソーサーに戻す。ちょっと傷ついたような、困り果てたような、そういう顔をしていた。

「あら。ですが、あなたは随分と変わりましたよ?」

……けれど、ラージュ姫がそう言うと、ルギュロスさんは幾分驚いた顔でラージュ姫を見て……それから、彼の周りでにこにこしている僕らを順番に見て、何か思ったのか、ちょっと居心地悪そうに俯く。照れたって駄目だよ!

「それに、過ちを繰り返すというのであれば、その時はその時です。その時は……あなたがアージェント家当主として、彼の過ちを止めてください」

「……それが私への刑罰か」

「いいえ。刑罰ではありません。アージェント領を治める者に刑罰など、与えられませんから。……けれど、あなたはきっと、そうしたいでしょう?」

ラージュ姫の言葉を聞いて、ルギュロスさんは今にも舌打ちくらいしかねない不機嫌な表情になる。

「……ふん。そうだな。身内が見苦しい真似をするようであれば、私の名に傷がつく。ああそうだ。そうせざるを得んのだ、私は」

……けれども、彼の不機嫌そうな表情っていうのは、なんというか、必ずしも『不機嫌』の表現じゃないっていうことは、もう分かってるんだ。ラオクレスが照れた時に渋い顔をするのと一緒。

「ルギュロスさん。どうぞこれから、よろしくお願いします。互いにこの国を率いる立場の者として」

そうして、ラージュ姫がにっこり手を差し出したのを見たルギュロスさんは、渋々、といった顔で、けれどちゃんと、握手をしていたんだよ。

と、いうことで。

まあ、アージェントさんの処分が実際に行われるのはもうちょっと色々準備が済んでから、ということらしいので、もう一泊してから僕らは森へ帰ることになる。

その帰り道……フェイと一緒にレッドドラゴンの背中の上で、ちょっと話す。

「アージェントさんが言ってたこと、少し、考えてしまって」

そう切り出すと、フェイは目をぱちぱちさせて、それから、ふうん、と興味深げに頷きつつ、僕の話の続きを促してくれる。

「ソレイラは本当に、僕にとって理想の町なんだ。優しくて温かくて柔軟で……でも、壁を築くことでしか保てない町だっていうことも、分かってる」

僕が思ったこと。それは、アージェントさんがずっと前から言っていることだ。

『何故、壁を造るのか』。

……上手くいかない人との間には壁があった方が上手くいくって僕は思っているし、それを実現するためにソレイラに壁を造った。けれど、それはアージェントさんからしてみれば技術や精霊の力の独占だし、僕の我儘っていうことになる、んだと思う。

「……そうだな。人間誰しも、ソレイラの民みたいじゃあ、ねえもんな」

そう。僕の両親みたいに、他者に対してあまり寛容じゃない人達が世の中にはたくさん居る。勿論、僕の両親は最近段々と寛容になってきたというか、僕を色々と諦め始めてくれたみたいだから、少し、居心地が良くなってきているんだけれど。

……そうだ。僕の両親みたいに、時間と努力を重ねれば、少しは分かり合えるようになる人だって、たくさん居るんだ。きっと。でも、僕はソレイラの周りに壁を造って、そういう人達を拒んでいる。

それが正しい事かと言われると、ちょっと、考えてしまう。やりやすい方法ではあるし、効率的でもある。ソレイラの為だけを考えれば、これ以上にない方法だって思う。でも……正しくはない、のかな、と、思う。

僕は幸福で、ソレイラの人達もそれなりに幸せでいてくれているらしくて……でも、きっと、正しくはない。そういう場所なんだよ、ソレイラって。

……そう、思って悩んでいたんだけれど。

「ま、いいんじゃねえかな。どうしたって意見のぶつかり合いはあるだろ?そこで相手の意見だけを受け入れてやるのも正しいとは言えねえしさ」

フェイはそう言って真夏の太陽みたいな笑顔を浮かべてくれる。

「アージェントが開発に携わって、どうなってくんだろうなあ、おひさまぽかぽか地区……」

……おひさまぽかぽか地区は、アージェントさんの理想郷になるんだろうか。あの人の理想は、僕には理解できても共感できない代物ではあるのだけれど、もし、実際にそれが形になることがあったなら、もしかしたら……ちょっと共感できるようになる部分も、ある、かもしれない。

「……んで、いつか。いつか、さあ……アージェントの理想郷とやり取りができる日が来たら、楽しいな!」

「うん!」

……お互いに分かり合えなくて、けれど潰し合う必要なんてきっとないはずの、隣人。

アージェントさんや、彼がこれから作る町が、そういった存在であってくれたらいいなあ、と、思った。

さて。

ソレイラに着いた僕らは、『今晩はお持ち帰りメニューで晩ご飯!』と決めて夕暮れの町を歩く。

何がいいかなあ。ぽかぽか食堂のシチューが食べたい気もするし、けれど、最近できた『石膏像賛歌』なる屋台で売っている串焼きも気になってるんだよ。

……ええと、『石膏像賛歌』は、精霊御前試合でのラオクレスの雄姿に魅せられた元求婚者の人が奮起して、『ソレイラで森の騎士団に立ち寄ってもらえる飯屋を開きたい!』とやっている屋台だ。串焼きとかの、お酒のつまみになりそうなメニューが多め。そして実際、森の騎士団がちょっと一杯、という時に利用し始めていて、店主さんは大いに喜んでいる。よかったね。

……ということで、僕らはソレイラの大通りを進んでいた、のだけれど……ふと見たら、大通りの脇の方にカーネリアちゃんが居た。

いや、それ自体はおかしくないんだよ。彼女、ソレイラの街中に居ることも珍しくない。妖精カフェで働いていることもあるし、ラオクレス達の学校で先生役もしているらしいので。

……けれど。

「……何故、キャベツを眺めているのだろうか」

何故かカーネリアちゃんは、野菜を売るお店の前で、積まれたキャベツをじっと見つめていたんだよ。

ええと……キャベツ、食べたいの?