軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たんぽぽが綿毛になるように*1

「伯父上に面会しようと思う。付き合え」

……ルギュロスさんからそんなことを言われて、僕、ものすごく驚いてしまった。

何と言っても……ほら、ルギュロスさんはアージェント家の次期当主にと望まれている人で、一方、王城の地下牢に居るアージェントさんはカチカチ放火王復活を企てた大罪人、という扱いであって……まあ、お互い、気まずい間柄だと思うので。

そこにルギュロスさんが面会に行く、っていうのは驚きだし、しかもそこに『付き合え』っていうのは……どういう風の吹き回しだろう!

「……そのような顔をするな」

「ごめんなさい、その、驚いてしまって……僕、てっきり、ルギュロスさんはフェイにハンコ押し係にされた文句を言いに来たのかと思ったんだよ」

「なんの話だ!?」

ああ、びっくりした……。予想外のことだし、彼らしからぬ言動だし……本当にびっくりした。

ルギュロスさんも今、『ハンコ押し係……!?』ってびっくりしているらしいけれど、多分、それはその内フェイから申し出があると思うのでその時によろしくお願いします。

「それで、どういう風の吹き回し?」

さて。僕は家にルギュロスさんを招き入れて、そこでお茶を出しつつ、改めて話を聞くことにした。

「その……私は、伯父上の減刑を、嘆願しようと思うのだ」

「えっ」

そしてお茶を飲み始めるより先、またしてもびっくりさせられることになってしまった。

……減刑を、嘆願。ルギュロスさんが!?

「……お前が思っているような優しい理由からではないぞ」

あ、ああ、うん、僕、そういうことを考えていたように見えた?まあ、ええと……否定はしないけれど。

「アージェント家の家長であった者が公開処刑にでもされてみろ。外聞が悪いだろう」

「あ、うん……」

……公開処刑される可能性、あるの?僕、てっきりアージェントさんはこのまま王城の地下牢で終身刑か、或いはほとぼりが冷めた頃にそっと出所して、どこか田舎の方で余生を過ごすか、そういうかんじだと思ってた……。

「……ラージュ姫から何も聞いていないのか」

「うん。僕、最近ラージュ姫に会ってない」

僕がそう言うと、ルギュロスさんはため息を吐いて……言った。

「伯父上の処分が決定しないのは、国王が死刑執行の書類にサインすることを躊躇っているからだ」

「あ、そうなんだ……」

……そうか。まあ、世界を滅ぼしてしまおうとした人に対する刑罰としては、妥当なところなのかもしれない。死刑、かあ。

「だからこそ、今の内ならばまだ、嘆願の余地がある。処刑は免れなくとも、アージェント家の名誉を汚すような……公開処刑の類は避けられる可能性が高い」

ルギュロスさんはなんとなく渋い顔でそう言うと、ため息を吐いてお茶を飲んだ。ものすごくぶすっとした顔なのだけれど、それでもお茶を飲む仕草は上品なのですごいなあ、この人……。

「ところで、その役割はルギュロスさんのものなんだね」

今、ルギュロスさんってアージェントの次期領主になるかならないかで揉めているところじゃなかったっけ、と思って聞いてみると、ルギュロスさんはまた渋い顔で頷いた。

「ああ。全く、一族の中で揉めている最中だからな。私ではなく本家の無能が出てきたがっていたようだが……王家の者と最も親交があり、王家の者からの覚えが良いのは私だろう、ということで押し通した。内輪揉めの決着より先に伯父上の公開処刑が始まってはたまったものではないからな」

まあそうだろうなあ。まあ、あの王様、死刑のサインなんてそうそうできそうにないから、あんまり焦らなくても何とかなりそうな気はするけれど……。

「……そして恐らくは、『次期アージェント領主をルギュロス・ゼイル・アージェントとせよ』という条件と引き換えに減刑の嘆願は受け入れられるはずだ。お互いにその辺りが落としどころだろうな」

「成程ね」

ラージュ姫やオーレウス王子は、ルギュロスさんがアージェント領主になることを望んでいる。要は、話が通じる相手がトップに居てくれた方がやりやすい、っていうことなんだろう。

それに、ほら、ルギュロスさん、もう随分と森っぽくなってきてしまっているので。つまり、彼はソレイラに対して好意的で、つまり貴族連合との折り合いも悪くない人物であって、だから、また国王派だ貴族連合だアージェント家も独立だ、っていうかんじの分裂は避けられるだろう、っていう目論みもあるんだろうな。

「やれやれ。これで私も晴れて、不自由な身分となるわけだ」

ルギュロスさんはそう言いつつまたため息を吐いて、お茶を飲んで……。

……その顔を見ながら、僕は、最後の気になることについて、質問してみる。

「あの……それは分かったんだけれど、どうして、僕?」

ルギュロスさんが、アージェントさんの減刑を嘆願しに行くっていうのは、分かった。けれど、それに僕が付き合う理由が、分からない。

なんでだろうなあ、という気持ちを込めてルギュロスさんを見つめていると、ルギュロスさんはなんとも言えない顔で僕を見返して、ちょっと重たげに口を開いた。

「……嘆願の場にお前が居れば、まあ、絞首だ斬首だ晒し首だ、などとは言いにくいだろう。伯父上の処分がより穏便なものになる可能性が高い」

「……それはどういう意味でしょうか」

一応。一応、確認のために聞いてみたら……ルギュロスさんは妙に神妙な顔で、言った。

「ふわふわした者もこういう時には役に立つ、ということだ」

……あのね!ルギュロスさんに付き合うの、やめたっていいんだからな!

結局、僕はルギュロスさんに付き合うことにした。ふわふわだって馬鹿にされたような気もするけれど、拗ねてしまうのも大人げない気がするので……。

それに何より、僕が『いいよ、付き合うよ』と言った時、ルギュロスさん、なんだかほっとしたような顔をしたから。まあ、ああいう顔をしちゃう人になら、付き合ってもいいかな、と思うんだよ。

ということで、出発の日。僕らは僕の家に集合した。

のだけれど。

「……あのさ。フェイ様は分かるのよ。貴族連合の中心であるレッドガルド家の中で一番身軽に動ける人、っていうことでしょ?」

「おう!そういう訳で俺も同行するからな!」

フェイはにんまり笑ってルギュロスさんの肩に腕を回した。ルギュロスさんはちょっと嫌そうな顔をしているけれど、振り払いはしなかった。

「トウゴも分かるわよ。ふわふわだし、アージェントさんの一番の被害者だしさ」

「成程。そういえば僕、被害者だった……」

言われて思い出してはっとしていたら、ルギュロスさんがちょっと気まずい顔をして、フェイが『忘れてたのかよ!?』と驚いていた。まあ、うん……。

「……でも、私まで同行する意味が分からないんだけれど!」

そしてライラが、そう主張しているのだけれどさ……。

「いや、ライラは居なきゃ駄目だよ。だってルギュロスさんはライラの召喚獣だし」

「そうだよなあ。ルギュロスはライラの召喚獣なんだから、ルギュロスが王城に行くんだったらライラも居た方がいいよなあ」

まあ、そういうことで。ルギュロスさんは、ライラの召喚獣なので。

……とは言うけれど、一応、心配になって聞いてみる。

「……いや、あの、実際のところ、どうなの?ルギュロスさんとしては」

「別に、契約主から離れて行動することもできる。今までもそうしていただろうが」

ルギュロスさんはぶすっとした表情でそう答えてくれた。ああ、そうか。ルギュロスさん、ソレイラから離れてアージェント領や王都を行き来してるんだもんね。そっか……。

「……だが」

……うん。

「傍に、契約主が居た方が、その……調子が、いい……」

……そっか。調子がいいのか。

「なら仕方ねえな!」

「じゃあライラも行こうか」

「あああああ!私、本当に、どうしてルギュロスさんを召喚獣にしちゃったのかしら!」

ライラは頭を抱える勢いだけれど、君のそういうところ、いいと思うよ。

「いやー、でも、今からルギュロスをどうこうするってなったら、ウヌキ先生になんとかしてもらうことになんのかなあ……なんかこう、ルギュロスはライラの召喚獣でいるからこそ、魔物化が再発しない、とか、そういうのあるかもしれねえしなあ……」

そうだね。ルギュロスさんの安全と安定を考えると、ライラにはこれからも、ルギュロスさんの契約主でいてもらうのが妥当かなあ……。

「大丈夫だよ、ライラ。鳥だって龍だってライラに懐いているんだし、そこにルギュロスさんが1人加わったくらいどうってことないよ」

「そもそも鳥さんとか龍とかだって私には荷が重いのよお……!」

ライラは嘆いていたけれど、まあ……おかげでルギュロスさんが森に居ついているのかもしれないし。ルギュロスさんだって、そんなに気にしていないみたいだし。

悪いことじゃないよ。ね。

ということで、僕とフェイとライラとルギュロスさん、という4人組で僕らは出発した。

僕はフェイと一緒にレッドドラゴンに2人乗り。ルギュロスさんは新しく召喚獣にしたらしい、大きな鳥の形をした風の精に乗って。そしてライラは鳥。

「……鳥はライラを乗せて飛ぶのが好きなんだろうか」

「あー、もしかして、アレじゃねえの?ほら、裁判があった時。神の窓からライラを攫って飛んでっただろ?アレを思い出すから好きとかそういうのじゃねえのかなあ。或いは、ライラを気に入ってるとか。ほら、森に連れて帰った後、あっためてたし」

……僕とフェイが訝し気に思いつつ鳥を見ていると、鳥は僕らに気づいているのかいないのか、ライラを乗せて(いや、埋もれさせて……?)空を飛びつつ、キョキョン、と元気に鳴いた。まあ、君はそういう奴だよね……。

この中で一番速度が遅いのは、ルギュロスさんの風の精。だからそれに合わせてちょっとゆっくり目に(それでも十分な速度で)飛んで、夕方には王都に到着した。

「よーし。じゃあいつもの宿でいいよな?行こうぜ!」

王都に到着したら、早速宿へ。いつものところ……つまり、1つの部屋の中に4つ部屋がある魔法仕掛けのお宿。あそこで部屋をとって、僕らはそれぞれ荷解きする。一応、ここには2泊する予定。もっと長引くかもしれないけれど、まあ、その時はその時。

そうして僕らはちょっと部屋でくつろいで……それからご飯を食べに行く。

フェイの行きつけのお店ということなのだけれど、ちょっぴりスパイシーな焼き鳥みたいなものが出てきた。こんがり香ばしく焼けた肉にたっぷりの香辛料が合わさって、異国情緒あふれる美味しさだった。

焼き鳥もどきの他に、焼いた野菜と蕩けたチーズ、よく煮込まれたスープなんかも食べて、僕らはすっかり満腹になる。お腹がいっぱいになると眠くなってくるので、幸せいっぱいお腹いっぱいの僕らは早々に宿に引き上げることになった。

宿に戻ってお風呂に入って、さて、寝るかな、という頃。

「……ルギュロスさん?」

窓辺でぼんやりしているルギュロスさんが気になって、声を掛けてみた。なんとなく、彼にしては珍しいな、と思いながら。……ほら、ルギュロスさん、先生の家のお泊り会でも早々に寝て一番寝坊助だったので……。

「どうしたの?考え事?」

僕が声を掛けると、ルギュロスさんははっとして、それからなんだかちょっと嫌そうな顔をした。要は、ぼんやりしているところを見られたのがなんだか嫌だったんだろうなあ。

「僕でよければ、お話、聞きますよ」

ルギュロスさんが何か言う前に彼の横に椅子を持ってきて座る。そうしてしまうと、ルギュロスさんとしてはもう僕を追い払いにくいらしい。何か言いかけてやめて、何か考え始めたのか口を閉じてしまった。

「おっ。トウゴとルギュロスと、2人で何してんだよ。混ぜろ混ぜろ」

そしてそこにフェイがやってきた。もう手近に動かせる椅子が無かったので、ルギュロスさんの隣に立っている。

「ちょっと。皆してなんでそんな寒いところに居るのよ。お茶淹れたからこっちに来たら?」

……そして、ライラが僕らを暖炉の傍のソファの方へ案内してくれたので、僕ら3人、ぞろぞろとそちらへ移動。ルギュロスさんは何やら複雑そうな顔をしていたけれど、まあ、ひんやりする窓辺に1人で居るよりは、あったかい暖炉の前に皆で固まってソファに座っていた方がいいと思うよ。

そして、森に来ちゃった時点で、ルギュロスさんはもう、こうなる運命だったんだと思うよ……。