軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異世界留学生*4

……と、そんなこんなで翌日火曜日。学校が終わったらすぐ帰宅。

先生の家に帰ったら、フェイはもう、ひらがなとカタカナの読み書きができるようになっていた。更に、簡単な漢字も読めるようになっていたので驚き。

「フェイは勤勉だね」

「お前も結構勤勉だと思うけどなあ……」

ちなみに、フェイが文字の勉強をしている横で、僕も勉強をしたり、鉛筆デッサンの練習をしたりしている。もうすぐ受験生なので、勉強の手は抜かないつもり。まあ、向こうの世界とこっちの世界とで、時間が倍あるようなものなのだけれど……それでもリズムはあんまり崩したくないので。

そうして翌日、水曜日。

今日も学校が終わったらすぐ校門を出て、とことこ駅まで歩いて電車に乗って、またとことこ歩いて先生の家まで。

その日のフェイは漢字練習帳を見ながら『数字なら書けるようになったぜ!』と漢数字の列を見せてくれた。勤勉だ。あと、山、とか、川、とか、そういうのも書き取りした痕跡があった。

フェイから『なーなー、複雑な漢字教えてくれよー』と言われたので、『羅針盤』とか『檸檬』とか『蟹』とか書いて見せてみたら大歓声だった。漢字を目の当たりにする外人さんのリアクションだ……。

ちなみにフェイのお気に入りの漢字は『陽』らしい。ソレイラっぽいんだってさ。そうだよ、ソレイラの字だよ、それ。それから、『赤』がかっこよくて好きなんだってさ。まあ、レッドガルドさんの字とも言えるだろうし、当然だね。

そうして木曜日……学校からまた先生の家へ直行。

その日のフェイは、ちょっとお散歩していたらしいよ。カフェに行ってお昼ご飯を食べたり、公園を見物したり、駅前通りを歩いたり。

そんなお散歩途中のフェイと、帰り道の僕が丁度、ばったり。駅の近くの通りで、フェイの赤い髪はよく目立つ。フェイに駆け寄って、フェイもちょっと驚きつつ、にこにこ迎えてくれて、僕らは仲良く帰りました。

ちなみにフェイの勉強は、またちょっと進んでた。いや、まあ、まだちょっとあやふやらしいけれど。でも、もう絵本ぐらいならフェイ1人で読めるらしい。勤勉だなあ……。

そうして金曜日。

「トウゴ!見てくれ!できた!」

「すごい!なんだかよく分からないけど、すごい!」

……フェイは、勉強はさておき、本の検索端末の内部機構を設計し終えていた。急に閃いた、だってさ。

「こういう風に組み立てておけば、後から蔵書が増えてもどんどん増やしていけるだろ?」

「成程……よく分からないけれども……」

フェイはそれはそれはもうはしゃいでいた。動物園の時と同じぐらい。

「向こうに戻ったら早速、トウゴにいくつか描いて出してもらわなきゃいけねえもんがある!よろしくな!」

「うん。それは勿論!」

「あと、こっち!この、電子レンジ!これも、魔法で動くようにしたらどうなるかな、っつうのを検討中なんだけどよお……まあ、もうじきできるから、こっちも頼むぜ!」

フェイはそれはそれはもう嬉しそうに、設計図を描いた紙をまとめている。僕はクリアファイルを1枚提供することにした。ええと、今日の校門の前で予備校の人が配ってたので。……フェイはクリアファイルを見て、『すげえ!』とこれまた興奮していた。まあ、透明な素材、って、ちょっと珍しいか。

「……ま、俺の異世界留学はひとまず今日までだもんな。とりあえず研究はここまでだ!後は、向こうに持ち帰ってもいいもんでもうちょっとこっちの言葉を勉強して……本を読めるようになりてえなあ」

フェイは目をきらきらさせつつそう言って……そして、にやり、と笑った。

「ま、それはともかく!今日はこの世界と一旦お別れってことで、飯、付き合ってくれよ!がすこんろで調理したんだぜ!」

「成程。そういえば確かに、なんだかいい匂いがするね」

フェイに連れていかれて台所を覗いたら……そこにはことこと煮えるお鍋。簡単な煮込み料理らしいけれど、よく煮込んだ野菜や肉が美味しいっていうのはよく知ってるし、そんなの考えなくったって、いい匂いが美味しさを教えてくれてる!

「なんかさ、アージェントの気持ちが分からねえでもないんだよなあ」

2人で煮込みをよそっては食べ、よそっては食べながら、そんな話をする。

「この世界の知識が欲しい、って思う気持ち、滅茶苦茶よく分かるんだよ。機械だって仕組みだって……思想とか学問とか、あらゆるものが珍しくて、高度でさ。こんなの見たら、欲しくならずにはいられねえもん」

「そっか」

アージェントさんの気持ち、かあ。……うん。あの人がフェイみたいにはしゃぐところは流石に想像できないけれど、でも、その分熱狂的にこっちの世界に魅了されてしまうんじゃないか、という気は、する。

「……まあ、だからと言ってあっちの世界がどうなってもいいとは思わねえけどさ」

「うん」

「いや、そりゃ当然だよなあ!?どう考えてもあっちだっていい場所だろ!?」

「うん。勿論」

「それを燃やしちまえってのはさあ……うー、どうなんだぁ?あいつら、ほんと何考えてたんだか……」

フェイは、うーん、と唸りながら天井を仰いで……それから、にっ、と笑った。

「……また、アージェントに話、しに行ってみるかな」

「うん。僕も連れてって」

僕ら、分からないものは当然沢山あるけれど。けれど、それでも分かりたいと思うものも無いわけじゃないので。

「ところでさ。すげえなー、がすこんろって。火が安定するし……あと、気づいちまったんだけど、煤が出ねえだろ!?これいいよなあ!本当に魔法の火ってかんじだ!」

……フェイがにこにこしているのを見て、ふと、思う。

アージェントさんに、カセットコンロとお鍋、持って行ってあげようかな。そうしたら、ほら、ちょっとひんやりする地下牢でもあったかいものが食べられるし……。

さて。

そうしてフェイの留学は一時終了。次の留学は『漢字がもうちょっと読めるようになってから!』とのことだ。

「いやー、楽しかったなあ、動物園」

「やっぱり動物は気に入ったんだね」

「おう。いや、機械の類もすっげえ面白かったけどさ。もっとこう、『異世界!』ってかんじがしたんだよ。動物園」

門を潜り抜けて僕の家の前の泉の方まで出つつ、そこでちょっと久しぶりなかんじの馬を撫でつつ、フェイの感想を聞く。

「まあ、色々開発したくなっちまった!ちょっと頑張れば実現できそうなもの、結構あったしな!当面は漢字の勉強しながら、色々作ってみるかなあ、って思ってるぜ」

「うん。いいと思う。出すものがあったらいつでも言ってね」

フェイが設計図を描いてくれたら、僕もその通りに描いて実体化できるので。試作品づくりは僕にお任せを!

「楽しかったなあ……便利なものがいっぱいあるって、ホント、楽しいよなあ……大きなものから小さなものまで、色々便利なモンがあってさあ……」

ああ、フェイ、ボールペンとかにも感動してたっけ。カチカチカチカチノック部分を鳴らしながら、すげえすげえと言っていた。その光景がちょっと面白かった。

「……あっ」

そして、そんな中。唐突に、フェイは声を上げた。

「……どうしたの?」

そう聞いてみると、フェイはゆっくりと、僕の方を見て……。

「忘れてた!髪縛る便利なやつ!」

「ああ、ゴム!」

「買ってくるつもりだったのに!あああー!」

……そうだね。元々、向こうに行ってみようか、っていう話の発端、ゴムだったのにね。すっかり忘れてた……。

「いや、でもそれだったら先生に書いて出してもらうのがいいと思う。そんなに大したものじゃないし、折角だし」

「ん?なんだか通りすがりに名前を呼ばれた気がするぞ?何かご用かな?」

「あ!ウヌキせんせー!丁度良かった!ゴムくれ!トウゴに教えてもらってさ、あっちの世界で買ってこようと思ってたのに、忘れちまったんだよー!」

「……ゴム、というと……ええと、輪ゴムかい?輪ゴムだね?」

「いや、髪縛るやつ……って、わごむ、っていうのか?」

「ああ、そっちか……よし。じゃあこれで……君のポッケの中に出しておいたから使うといい」

……まあ、こうしてフェイは無事、髪の毛を縛るゴムを手に入れて、『うおおー!伸びる!縮む!すげえー!』と大興奮だった。僕と先生は『ゴム1本でここまで興奮できるものか』と感心していた。

フェイの好奇心の強さって、すごいんだよ。本当に!

……と、いうことで。

翌週から、僕は普通に学校に行って、授業を受けて、放課後には美術部に紛れ込ませてもらって、家に帰る、っていう生活に戻った。

……先生の家に行ってフェイに『ただいま』って言う生活は何だかんだ楽しかったので、ちょっとだけ寂しい気分。

けれど、やらなきゃいけないこともやりたいことも沢山あるので、まあ、こっちとあっちと、2つの世界を行ったり来たりしながら時間を有効利用しつつ、勉強と絵の勉強、そして娯楽としての絵や色々な体験をして……。

ああ、そうそう。それから、僕、美術の予備校に通い始めることにした。

最悪の場合、親の同意の無いまま上手く潜り込む方法を探すか、と思っていたのだけれど……お金の心配がないっていうことが分かったからか、それとも気が変わったのか、親は予備校の入塾申し込み書にサインしてくれたんだよ。

なのでもうじき、授業と美術部と予備校とこっちの世界、っていう生活になる、予定。

そうしてウキウキしながら過ごしている僕なのだけれど……そんな折。

「トウゴー。ちょっといい?」

僕が鳥の水浴びを眺めていたら、ライラに声を掛けられた。

「突然変なこと聞いちゃうんだけれどさ」

「うん」

ちょっと妙な顔をしつつそう言ってやってきたライラに、ちょっと首を傾げつつ、ライラの言葉の続きを待つ。

「……鸞って、人の背中にやたらとすりすりやりたがる習性とか、ある?」

……うん?

「最近、妙に鸞がリアンの背中にすりすりやってるのよ。リアンも不思議がってるんだけれどね。……何か知らない?」