軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊御前試合*4

それから少しして、準決勝が始まった。

「たるくー!たるくー!たるくー!」

レネが応援しているのはタルクさん。

「兄貴ー!頑張れよー!決勝まで行っちまえー!その先でラオクレスに勝てる気はしねえけどー!」

「応援ありがとう弟よ!ついでに貶されている気もするが!」

そしてローゼスさんを応援しているのはフェイ。……応援してるよね?これ。

……ということで、タルクさんとローゼスさんが、準決勝第一試合。

「参ったね。私は自分と同じような性質の剣士とやり合うのはあまり得意じゃないんだが……」

ローゼスさんはそんなことを言いつつ、剣をみょん、とさせた。

どうやらローゼスさん、自分と同じ技巧派の人とはあまり相性がよくないらしい。まあ、そうだろうなあ。柔を以て剛を制す、みたいな戦い方だとすると、相手が剛じゃなきゃ強くないっていうことなんだろうし。柔同士の戦いって、どうなるんだろう。

「まあ、タルク殿。お互いに全力でよい試合をしよう」

……けれども間違いなく、見ごたえのある試合にはなるよね。

構え、の合図と同時、2人が剣を構える。

……2人とも、ちょっと変わった剣の構え方だ。

ローゼスさんは刃先を下に向けてぴたりと止まっていて、タルクさんは剣1本を胸の前、もう1本を背中側に回した状態でぴたりと止まっている。

見たことのない構えに観客席がざわめく中……始めの合図と同時、2人は一斉に動き出す。

……それは、戦いというよりも、踊りのようだった。

タルクさんの動きには回転が多い。ひらりふわりと左右に揺れたと思ったら、ぐるぐると回転。左右の剣が回転に合わせて振り抜かれて、隙を突こうとしていたローゼスさんの剣を弾いて更に斬り込んでいく。

タルクさんはふわふわしているから動きもゆっくりに見える。けれど、それってそう見えるだけであって、剣だけに注目しているとそれがものすごい速さで繰り出されていることが分かるんだ。

タルクさんは、体の位置がよく分からない。本体は布なのかもしれないし、手には手袋と剣があるにしろ腕の位置は分からないし。顔には仮面があるけれど、それが本当に顔に当たる部分なのかは分からない。

そんなタルクさんなので、縦横にぐるぐる回転されてしまうと何処を狙えばいいのか分からないんだよ。ローゼスさんもちょっと困っているらしかった。

剣が素早く振り抜かれては布がふんわり広がってふわり。ローゼスさんの剣を躱してはまたひらり。……こんな調子なので、戦っているよりも踊っているように見えてしまう。

一方、ローゼスさんもまた、踊っているみたいだった。

ちゃんと手足があるローゼスさんは、踊るようにステップを踏みながら、タルクさんの動きに合わせてステージ上を行ったり来たり。タルクさんの剣を避けながら剣を振って攻撃に行くその様子は、2人でダンスを踊っているみたいに見えるんだ。

つかず離れずの距離でお互い場外に気を付けながら動き回って、タルクさんが攻めて攻めて、ローゼスさんが避けて鋭く一撃返す、みたいな、そういう戦況。

「綺麗だなあ……」

タルクさんが裾をはためかせて剣を振り抜く。ローゼスさんが上体を大きく反らして剣を避ける。ローゼスさんが鋭く突く。タルクさんがくるりと回って逃げていく。そんな2人のダンスは、観客達に歓声を上げる暇を与えない。

……まるで花が開くみたいだ。開いては枯れて、すぐに次の花が咲く。華やかで優雅で、ちょっと刹那的。

歓声を上げて見る試合じゃなかった。黙って、息をのんで、瞬きすら惜しいと思わされながら見る試合だった。

……そうして2人のダンスは、唐突に終わる。

ローゼスさんが剣で大きく薙いで、タルクさんがひらりと避けたら……ローゼスさんは剣を振り抜いた勢いのまま、長くしなやかな脚を振り抜いて、回し蹴り。

ぱん、と乾いた音がしたと思ったら、タルクさんの仮面が蹴り飛ばされていた。

おお、と会場がどよめくと、タルクさんはふわ、ふわ、とちょっと揺れて……こっちを見た。ええと、つまり、レネの方。

「たるくー、るーりゃじー。にゃ?」

そしてレネが何か言うと、タルクさんはふかふか、と頷いて……ぴ、と両方の剣を掲げた。ええと……『お手上げ』のポーズ。つまり……。

タルクさんの降参負け。ローゼスさんの勝ち!

「マジかぁー!兄貴ー!やったなー!」

「そうだなあ。いやはや、全く、勝った気があまりしない戦いだったよ……」

ステージに落ちた仮面を拾ってレネが駆け寄ると、タルクさんはそれを受け取って顔の位置に戻して、ふわ、と、手袋をローゼスさんに向けて差し出す。つまり、握手を求める姿勢。

「タルク殿。いい試合だった。私の人生の中でも指折りの美しい試合だったことは間違いない!」

ローゼスさんはすごく嬉しそうな笑顔でそう言うと、タルクさんの手袋をぎゅっと握って握手した。

「たきゅ、ろーぜす。てぃふぃるふりゃめえるーら」

「うん?これはお褒めに与っているのかな?まあ、また筆談でじっくり話したいものだ。是非よろしく頼むよ、美しい夜の国の剣士タルク殿!」

そうして両者はにこにこ嬉しそうにステージを後にした。

ステージが空になっても、観客はしばらくの間、惜しみなく拍手を続けていた。

「いいなあ。我が息子ながら、実に羨ましい。楽しそうだ」

……それから次の試合の準備をしている間、フェイのお父さんがちょっと拗ねたような顔をしていた。

「私も出場すればよかったなあ。いや、実際、私も参加申し込みしようとしてたんだが、息子達に止められてしまってね。ううむ」

「あらあら。領主様自ら出場なさるおつもりだったんですか?」

「その通りだよ、クロアさん。あー、羨ましい!私も久しぶりに剣を握ってみたかった!」

フェイのお父さんがなんだかちょっと大人げないことを言いながら机の下で脚をぱたぱたさせているのを見て、ああ、この人フェイのお父さんだなあ、と思った。いや、なんとなく。

次の試合は準決勝第二試合。対戦者はラオクレスと……求婚者の人。

「こっちでマーセンさんが出てきてりゃよかったんじゃねえかな」

「そうね!どう見ても役者不足っていうやつだわ!」

「うん。まあ、トーナメントの悲しいところだよね」

……トーナメントだから、一番強い人同士がどんどん残っていく、っていうわけじゃない。最初の方に強い人同士が潰し合ってしまったら、そんなに強くない人が最後の方まで残ることだってあるんだよね。

「まあ、彼の奮闘を皆で見守ろうじゃないか。ラオクレス君が負けるとは思えないからな。却って落ち着いて観戦できていいかもしれないぞ」

フェイのお父さんはそんなことを言いつつ、丁度まおんまおんやってきたジュース売りの魔王から2杯目のジュースを買っていた。そして「おや!さっきとは違う味だ!」と目を瞬かせていたので気になって僕ももう一回買ってしまった。……星マタタビ味だった。すっぱい!

星マタタビジュースでふりゃふりゃ光り始めたレネで暖を取りつつ、第二試合。

「お前は……見たことがあるな。以前からクロアに求婚しに来ていたか」

「ああ、そうだ!今日で20回目の求婚になる!」

対戦相手の人は、ものすごく根性がある人のようだ。今までに19回も求婚しているのか。クロアさんが隣でなんだか渋い顔をしている……。

「お前さえ居なければ、もう30回目の求婚ができているころなのに!」

「……1度で諦めろとは言わんが、10回より先に諦めた方がよかったんじゃあないか?」

ラオクレスが何とも言えない顔をしているけれど、僕もそう思います。多分、10回以上になるともう、マイナスの効果しか発揮しないと思うよ……。

「うるさい!お前に何が分かる!」

「流石に20回近く求婚を続ける奴の考えは何も分からん」

相手はなんだか憎々し気にラオクレスを睨みつけているけれど、ラオクレスは少し困惑気味なだけだ。まあ、そうだよなあ……。

それから構えの合図があって、2人は武器を構える。いや、ラオクレスは徒手空拳なので構えるのは武器じゃなくて拳なんだけれど。

2人は見合って、見合って……そして、始め、の合図があると同時、動き出した。

躊躇なく真っ直ぐつっこんでいくラオクレスに対して、思い切りが足りないのか動きかねている相手。

ラオクレスの蹴りが相手のナイフを弾き飛ばして、更に距離を詰めて……ラオクレスは相手に組み付いた。おお、早業だ。

「降参か?」

そうして相手を適度に絞めつつ、ラオクレスは相手の降参を待っている。手加減が難しい、っていうことなのか、第2試合もこんなかんじだった。

……すると。

「いや、まだだ!」

相手はそう言って……靴の踵で、ラオクレスの脚の、鎧に覆われていない部分を、蹴りつけた。

ラオクレスは少し眉間に皺を寄せつつ、相手を絞める腕に力を込めて……。

……ふと、ラオクレスが片目を眇めた。

それから眉間に皺を寄せて、ぐ、と歯を食いしばって……。

その隙に、相手はもう片側の靴の踵でラオクレスを蹴りつけようと脚を動かす。ラオクレスはそれに気づいて、咄嗟に相手を付き飛ばした。

観客席がざわめく。僕らも困惑してる。ラオクレスが、むざむざ相手を逃がすなんて。

……様子がおかしい。何か、変だ。

「もしかして」

クロアさんが少し焦ったような声を出す。……クロアさんの反応を見て、僕も確信した。

多分、ラオクレスは毒を使われてる!

毒と魔法の使用は禁止。それがこの御前試合のルールだ。

僕はすぐに席から立ち上がって……。

「トウゴ!構うな!」

……ラオクレスの一喝で、留まった。

「……心配するな。俺は負けん」

ラオクレスは変に汗をかきながら、そう言って僕らに……多分、僕とクロアさんに、笑顔を向けた。

「な、なんでだろう……」

中断するな、っていうことだったのだろうから、僕はそのまま、そっと着席する。いや、でも、ラオクレスの命にかかわるような毒なら、ラオクレスの意思に反してでも、止めなきゃいけないけれど……。

「……馬鹿ねえ」

そんな僕の横で、クロアさんがため息を吐いた。

「記念すべき第一回精霊御前試合に傷をつけたくないんでしょうけれど。或いは、相手の反則負けで勝ち上がるのが嫌なのかしら」

……クロアさんの言葉を聞いて、なんとなく理由は分かった。

要は、ラオクレスはこの試合を止めたくない、んだな。自分に毒が回っていても。

「クロアさん。あれ、大丈夫なんだろうか」

「……まあ、あの仕込み方ができる毒で命にかかわるような毒なら、解毒方法があるからもう少し粘っても平気ね。勿論、できればすぐにでも処置したいところだけれど……」

クロアさんは冷静にラオクレスを見つめながらそう呟いて……それから、ふと、表情を曇らせた。

「逆に、命に別条がないような毒の方が厄介かもね」

……僕もそれには心当たりがある。ええと、痛みを生み出す毒、だっけ。ゴルダの山の中で戦った時、ラオクレスが使われてしまったやつ。ああいうやつだと、対処が難しいんだったよね。

クロアさんはステージ上のラオクレスが鈍った動きで、それでもちゃんと戦っているのを見て呆れたようにため息を吐く。

「まあ、本人のいいようにさせてあげましょ。その代わり」

そして、ぎらり、とクロアさんの目が鋭く光った。

「トウゴ君。あの対戦相手が負けた後、逃げないように捕まえて頂戴ね」