軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

森の野郎のお泊り会*3

「……は」

「レネが言ってたんだよ。タルクさんは歌が上手い、って。それから、ラオクレスはどうですか、っていう風にも言ってた」

ラオクレスはびっくりしたらしくて、僕とリアンを床に下ろしてくれた。そこで僕とリアンは改めて、ラオクレスの前に座ってラオクレスを見上げる。

「ラオクレスが歌うのを聞きたい!」

「俺も!俺も聞きたい!」

僕らがそう主張を始めると、ちょっとたじろぐラオクレスを、フェイも一緒になって囲み始める。

「伴奏が欲しいなら、楽器があるぞ!リコーダーだが!」

ぴょろろろろろ、と先生がリコーダーを吹き始めた。あ、ちょっと上手い。流石、石ノ海さんの甥っ子。

ただ、僕と先生は、ラオクレス達が知っている音楽を知らない。なのでしょうがない、先生はラオクレスに迫りつつ『タイタニック』のテーマを吹いている。ちょっと上手いのがなんとも。

……そうして、結局。

ルギュロスさんが「少し待て」と言って出ていって、それから少しして、楽器を持って帰ってきた。どうやら、彼の家に一度戻って持ってきたらしい。

バイオリンみたいなチェロみたいな楽器で、音も大体、そんなかんじ。ルギュロスさんはそれを持って片膝を立てた胡坐みたいな姿勢になると、チェロとかコントラバスみたいな構え方で弾き始めた。

華やかな弦の音が響くと、フェイがぱっと表情を明るくして、『トウゴ!俺にもこれと同じの出してくれ!』と言ってきた。なのでルギュロスさんが弾いている楽器を見て、さっと描いて、実体化。ほぼ同じ楽器がぽん、と出てきたら、フェイがそれを手にルギュロスさんの横に並んで、伴奏2人目。

「よし!これで伴奏はいいだろ?さあラオクレス、何を歌う!?」

……ここまできたら、ラオクレスも諦めたらしい。ふう、とため息を吐くと、『大して上手くないぞ』と前置きしてから……伴奏2人に向かって、聞いた。

「『竜と騎士』は弾けるか」

多分曲名であろうそれをラオクレスが言った途端、フェイは嬉々として弓を構えた。

「分かるぜ!」

そして。

「分からん」

……ルギュロスさんは、訝し気な顔で首を傾げていた。

成程!彼ら、曲のレパートリーが違うんだ!

それからしばらく、ラオクレスとフェイとルギュロスさんでああでもないこうでもない、あれは分かるこれは分からない、とやっていた。

……ラオクレスが分かる曲は大体ルギュロスさんにとって『そんな低俗な歌など知らん』になってしまって、ルギュロスさんが分かる曲はラオクレスにとって『学の無い俺には分からん』になってしまうらしい。ちなみにフェイは大体どっちも分かった。すごいなあ、フェイ。

まあ、そうして3人でああだこうだやったところ、一応、なんとか3人の共通項が見つかったらしいので、曲が始まった。

……弦の音が2つ合わさった中に、低く低く、ラオクレスの声が混ざる。

厳かで静かな曲調の中、地を震わせるような響きを持った歌だった。

戦士達の祈りの歌なんだな、ということは、歌詞や曲調からなんとなく分かった。どこか少し物悲しくて、ぴんと背筋が伸びるような、そういう歌。戦いに傷ついて倒れた人達への祈りであって、戦いの果てに穏やかな世界を望む祈りであって……ラオクレスにぴったりだ。

……なんとなく僕は、石ノ海さんが言っていたことを思い出す。

『音楽には音楽にしかできない情報伝達がある。言葉で無くとも空気を震わせ、心までもを震わせる。音楽はある種、もっとも原始的な情報伝達方法。』

正にその通りだ。

ラオクレスの歌と2本の弦の音は、空気を震わせて、僕の心を震わせて……なんというか、じんわりと、感動させてくれた。

「……すごい。ラオクレス、歌、上手なんだね」

「大したものでもないがな……」

曲が終わって僕とリアンと先生が並んで拍手をする中、フェイは陽気にお辞儀してみせて、ルギュロスさんは久しぶりに楽器に触ったからか何か楽し気で、そしてラオクレスは、只々照れて顰め面になっていた。うーん、えっちな話よりもこっちの方が恥ずかしいのか。成程。

「さっきの曲、祈りの歌、だよね」

「そうだなー。まあ、この国で武術に携わったことのある人間なら大体知ってるよな。武術に携わったことがなくても、礼拝に出ればまあまあ聞くだろうし」

……成程。そのレベルでポピュラーな曲なんだね。そこが、3人の数少ない共通項……。

「あー、そっか。教会でやってるような曲ならフェイ兄ちゃんもルギュロスも分かるんだな」

僕が納得していると、リアンがにやりと笑って、弦楽奏者達の前に進み出た。

「じゃああれ弾いてくれよ。『天使は雪の空より来たれり』!」

……そうしてリアンが歌い始めた、のだけれど。

僕ら、圧倒されていた。

途中から、ルギュロスさんとフェイの伴奏、消えてた。けれど気にならないくらいだった。

厳かでも明るくて優しい曲だった。正に、雪の空から天使が降りてくるような、そういう曲。それを歌い上げて、リアンは満足げ。

「……リアン、歌、上手いんだね」

曲が終わってそう言ってみたら、リアンはにやりと笑う。

「まあな。母さんが生きてた頃は教会でずっと歌ってたんだ。母さんが死んでからもこれで稼いでた時、あったし。結局、スリでもしねえとアンジェの代金が稼げねえからやめたけど」

成程。本当に天使っていうかんじだったなあ、リアン。もしリアンがスリじゃなくて歌手をやっていたら、僕より先にリアンが天使だって気づいて捕まえていた人が居たかもしれない。危ない、危ない……。

「ってことで、はい」

……そして、僕らに向かって、リアンが手のひらを出す。

「おひねり」

「やったー、儲けた!」

「リアン、本当にスリの方が稼げたんだろうか……」

「裏通りではなく王都の大通りで歌っていたなら、有力貴族のパトロンがついていたかもしれん……」

「成程なあ、場所次第ではスリより稼げてたってことだよなあ、それ……」

僕らからお小遣いをもらってリアンはにやにやしていたけれど、僕としては、只々思うばかりだ。

リアンがスリでいてくれて、本当に、本当によかった!

「リアンが歌ってると、本当に天使に見えるよなあ……」

ふと、フェイがお酒の瓶をまた開けつつそんなことを言う。

「亜麻色の髪に空色の瞳の美少年。歌も容姿も天使そのもの。むしろ、よく森に来るまで目立たずにいたよなあ、お前」

「そ、そんなに珍しい容姿じゃないだろ。俺みたいな色合いのやつなんていくらでも居るし」

フェイに褒められて照れ隠しにちょっと怒ったような顔をしつつ、リアンはそう言って……そして。

「珍しいって言ったら、トウゴの方が珍しいだろ」

そんなことを言いだした。

「た、確かに僕には羽が生えてるけど」

「そっちじゃねえって。髪と瞳!どっちも真っ黒じゃん。珍しいよな」

……珍しいの?そんなに?

うーん……よくよく思い返してみると、確かに黒髪の人って、この世界で見たことが無い気がする。

「そういや気になったんだけどよー、トウゴ達の世界の人間って、もしかして皆、髪と目が黒なのか?」

「へ?」

更に唐突にそう聞かれてしまったのでびっくりする。

「ウヌキ先生も黒髪に黒の瞳だろ?2人とも、血縁じゃねえんだよな?」

うん。残念ながら。

「僕と先生の髪の色は結構違うよ。僕のは真っ黒だけど、先生のは光に透けると茶色に見えるような色で、ちょっと癖っ気のふわふわ。面白いよね」

ほらね、と見せてみるのだけれど、フェイは、『ほーん』とか言いつつ首を傾げている。……フェイからしてみると、僕らどっちも黒髪で黒い瞳、ってことなのかなあ。確かに、先生の髪の色でも十分、この世界では黒い方だけれどさ。

「僕とトーゴは一応、同じ人種だからね。色合いが似通うっていうだけさ。髪は金だの茶色だの赤っぽいのだの、僕みたいな茶色っぽい黒だのトーゴみたいな真っ黒だの、僕らの世界には色々な色の人間が居るよ」

それから先生がそう解説すると、フェイは、ふーん、と興味深げに頷いて……ふと、気が付いたように聞いてきた。

「あっ!じゃあ、俺とかラオクレスみたいなのは居ねえの!?」

「そうだね、フェイ君並みに赤い人は、まあ、居ないなあ。君の瞳は綺麗な緋色だが、これも僕らの世界にはほぼ居ないね。ラオクレスは……こういう重めのグレーの髪は、まあ、実在するかな。ただ、こういうグレーの髪をしている人の瞳はグレーであることが多いか。金色っぽい瞳の人っていうのは大抵、茶色の髪をしている気がするなあ……」

人間の色素って2つのメラニンで決まっているから……ええと、黒っぽいメラニンと茶色っぽいメラニンの、その比率で色合いが変わるわけであって、つまり、黒のメラニンがちょっとあって茶色メラニンがあんまりない人の髪がグレーになる、ってことかな。それで、そういうメラニンの人の瞳は金色じゃなくて銀色っぽい色合いになるんだと思う。現実的に考えてしまうと、多分、そう。

「ふーん。俺は?」

「リアンの色合いは、まあ、現実味があるか。亜麻色の髪に空色の瞳……うーん、出来過ぎなくらいの美少年だが、そこの現実味の無さを除けば十分実在しそうではあるな!」

「そ、そうかよ」

リアンは面と向かって『出来過ぎなくらいの美少年』と言われて照れている。うーん、天使。

「私はそちらでは実在しない髪色か?」

「ルギュロス君はなあ、淡い金髪にブルーグレーの瞳、というのは、まあ、十分にあり得るな。君も相当な美形だが……」

先生はそんなことを言いつつ、ルギュロスさんを見て『リアンと2人で並んで歩いていたらスカウト間違いなしだろうな!』という結論を下していた。まあ、僕もそんな気がする。

それから、『クロアさんは実在してもよさそうな色合いだがあの美しさは流石に実在しない』とか『ライラは実在しそうでしないライン。ああも綺麗な藍色の瞳はちょっと存在しない』とか『カーネリアちゃんはライラ並みには実在が怪しい色合い』とか『ラージュ姫はものすごく珍しいが実在しないこともない』とか『レネのあれはファンタジーだ!』とか、色々色合いについて話した。

この世界の人達の感覚だと、むしろ、国1つ分丸ごと黒から茶色までに収まっちゃう人でできてる、っていうことの方が珍しいみたいで、なんだか面白がられた。

「へー。トウゴの髪って珍しい色だなって思ってたけど、トウゴ達の世界にはこういうのがたくさんいるのかあ」

「いやいや。トーゴの髪みたいに細くて柔らかくて真っ黒、っていうのはちょっと珍しいのさ。逆に、僕みたいなのはそんなに珍しくないね」

「面白いものだな。世界が違う、という言葉の意味を思い知らされる」

へー、とか、ふーん、とか言いながら、フェイもラオクレスもリアンも、僕の髪を一房つまんでみたり、撫でてみたりしている。まあ、ご自由にご鑑賞ください。これが異世界人の髪です。

「あーあ、見てみてえなあ、トウゴ達の世界!魔法が無くて、代わりにガガク?が発達してんだろ?」

「ガガクじゃなくてカガクね」

雅楽が発達していたらそれはそれで楽しそうだけれどさ。僕の頭の中で、ぽん、と鼓が鳴った。

「滅茶苦茶興味あるんだよなあ……トウゴの世界の技術とこっちの技術が合わさったら、楽しそうだと思わねえ?」

「うーん、どうだろう。混ざらない方がお互いの良さがあっていいかな、とも思うけれど」

科学が発達していないからこそこの世界にあるものだってあるんだろうし。僕の世界だってきっとそういうもの、あると思うし。世界の良さを保存したい、って思うのは、僕のエゴだろうか。

「そうかもしれねえけどよー、でも、見てえなあ……魔王が自慢げでよー……」

そうだね。魔王は自慢げだった。先生の家にあったおせんべ配りながら、なんだか自慢げだった。それは間違いない。

「俺達が行ってもそんなに目立たねえなら考えたけどなあ。トウゴとかウヌキ先生みたいな色合いの人間ばっかりいるところに俺みてえなド派手な色合いのやつが行ったら、目立って目立ってしょうがねえよなあ……」

フェイはそう言いつつ、ぐて、とテーブルに突っ伏した。

「目が赤いのだって、レッドガルド領内だからこそ『綺麗な瞳ですね!』なんて言ってもらえるけどよー、場所だの時代だのが変われば、下手すりゃ迫害の対象だ。実際、王都の学園に居た頃にはあんまりいい顔しねえ奴、結構いたし」

そして、ちょっぴり寂しそうな顔をした。……フェイの学生時代、って、どんなかんじだったのかな。ちょっと気になってきた。

「……まあ、そうは言っても、髪を染めたりカラーコンタクトレンズを入れたりする人は居るからね。フェイ君もそういう人、ってことにすればいい気もするなあ。向こうでもう死んでる僕は別として、魔王が行けたならフェイ君も向こうに行けるような気もするし」

先生はふと、そんなことを優しい笑顔で話すと、ちょっと悪戯めいた笑顔を浮かべた。

「物は試しさ。やってみないかい?」

……途端、フェイは顔を輝かせる。

「やってみてえ!そうだよな!挑戦するだけしてみたっていいよな!」

おお。どうやらフェイも異世界行きに挑戦してみたい、らしい。ええと、その場合、僕の家は……流石にフェイをホームステイさせるのは厳しい気がする。となると、先生の家にお泊り、かなあ。うーん。

「つーかよ!魔王に先越されたのが納得いかねえー!異世界行きは魔王に先越されたし!トウゴとのお泊り会はレネに先越された!悔しい!」

「そう言わずに」

……実際にフェイが僕の世界に来たら楽しいだろうなあ、なんて思いつつ、魔王が見て喜んだものにフェイはどんな反応をしてくれるかなあ、なんて、ちょっと楽しみになった。

フェイも来られたらいいなあ。

僕らの世界の話をしていたら、その内夜が更けていって……そして、ルギュロスさんが『帰る』と言い出したので布団を敷いた。そしてルギュロスさんをそこに入れた。ルギュロスさんは帰らせてもらえませんでした。

……まあ、ルギュロスさんはなんだか嫌そうな顔をしつつも、ちゃっかり先生の家で一番風呂を楽しんで、ちょっと気が変わってきたらしい。要は、先生の家の和風なかんじが物珍しくて、『ここで一泊するのも悪くないかもしれない』みたいな気分になったらしいんだよ。

何と言っても先生の家、天然の露天風呂付きなんだ。先生の家の裏庭には温泉が湧いてる。そして室内のお風呂もあって、そっちはそっちで温泉のお湯を引いてきているから、やっぱりとっても気持ちのいいお風呂なんだよ。

露天風呂周りの庭の造形も中々いい具合になっているし、まあ……ルギュロスさんのお気に召した、っていうことなんだろうなあ。

そういうわけで、ルギュロスさんは先生の家の貸し出し用寝間着である浴衣と半纏を興味深そうに着ながら、敷かれた布団の上に寝そべっている。この人の遠慮のないところ、いいと思うよ。

「じゃあ、眠くなった奴から適宜就寝!起きてるやつは静かに起きてる、ってことで!」

フェイはそう言うと、ルギュロスさんの横に布団を敷いて、ひゃっほーい、なんて言いながら布団にダイブしていた。そして『……ベッドとはやっぱ違うな!』とか言ってた。まあ、布団っていうのはね、ダイブしてきた人体を優しく受け止めるような包容力は持ってないんだよ。布団はもっとおしとやかな寝方向き。

それから僕とリアンとフェイはそれぞれ適宜順番にお風呂に入って、リアンがちょっと眠くなってきたらしく、ルギュロスさんの隣の布団(フェイがさっきダイブしてたやつ!)に潜り込んで就寝宣言。ちなみにルギュロスさんは既に寝てた。この人、結構自由だなあ。

……それから僕とフェイと先生とラオクレスとで、静かに騒いでいたのだけれど、段々眠くなってきてしまって、なので僕とフェイも就寝宣言。適当に隙間に布団を敷いて、そこにもそもそ潜り込む。

ああ、布団って久しぶりだなあ。何時ぶりだろう、布団。

先生がどういう風に『書いた』のかは分からないけれど、この布団はとっても上等なやつだ。ふんわり軽くて温かくて、かかっている毛布はとろけるような肌触りで……。

そうして、僕が眠りの中に沈んでいくまで、そう時間はかからなかった。