軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18話:夢見るだけならタダなので*4

封印の地は白大理石と黒大理石の祭壇があるばかりで、周囲を古びた石材の壁に囲まれた、こじんまりとした場所だ。

けれど、今はその古びた壁の一面が、ぼろぼろと崩れている。

「あそこから本がでてきたんです」

「成程。じゃあ、そこ崩すかぁ」

ラージュ姫曰く、ここの崩れた壁から先生のサイン本が出てきた、と。まあ、それなら、他にもこの壁に入ってる可能性は高いよね。

「ねえ、ラージュ姫。ここの壁って崩しちゃっていいものなの?一応、ここって王家が守る大切な土地なんじゃない?」

一方、ライラはそういう心配をしていた。……いや、僕もちょっと心配だけどさ。うん。

「ええ。問題ありませんよ。ここに何かの意味があるなら、それをしまいこんでおくより掘り起こす方が余程有意義ですから」

「よし!そういうことならここの壁全部とっぱらっちまうかあ!出てこいレッドドラゴン!出番だぞー!」

……ラージュ姫がにっこり許可をくれた途端、フェイは嬉々としてレッドドラゴンを出して、レッドドラゴンも嬉々として尻尾を振り回して……ドゴン、とすごい音を立てて壁を崩していく。

「……すごく雑だ!」

「ふふふ、まあ、このくらい豪快にやってしまった方が気が楽じゃない?ほら、ね?レッドドラゴンも楽しそう」

いや、確かに、フェイもレッドドラゴンも思う存分暴れられて楽しそうではあるんだけれどさ……いいんだろうか、こんな雑な壊し方で!

「ほら、トウゴ君。お茶でも飲んで待っていたらどう?」

「いいんだろうか……」

クロアさんが全く動じずにいるからこれでいいような気もしてしまうのだけれど、いや、でも、これ、いいんだろうか……?

……そのまま、僕とラオクレスとクロアさん、そしてライラとルギュロスさんとラージュ姫、という面子で、楽しくお茶を飲むことにした。

クロアさんが水筒に入れて持ってきてくれたお茶を携帯用のカップに注いで、ちょっとしたピクニック状態。お茶請けに妖精のクッキーをぽりぽりさくさく食べながら、フェイとレッドドラゴンの様子を皆で見守る。

レッドドラゴンの壁の壊し方はさっきより大人しくなっている。今は壁を爪で叩いて、ぽこ、ぽこ、とちょっとずつ削り落とすように壊しているところだ。

「フェイー!調子はどうー!?」

「おーう!壁っつうか、岩石を削ってる気分だぜー!何なら、洞窟掘ってる気分!」

……そして、レッドドラゴンがぽこぽこ削っている壁は、未だに壁の向こう側を見せてくれない程に分厚い。すごいなあ……。

「……ねえ、ラージュ姫。ここの壁の向こう側って、本来、何があるのかしら」

「ええと……まあ、野山、ということになるでしょうか。この建物自体の外側、があるはずですが……」

「だったらいっそ、外側から壊した方がよくない?」

「それで建物自体が崩れちゃったらちょっと困るんじゃないかな」

「あー、そっかぁ……ま、いっか。このままフェイ様とレッドドラゴンに任せておいても……」

まあ、うん。レッドドラゴン、楽しそうだし。折角だから、壁の掘削作業は彼らに任せることにしよう……。

そうして壁がどんどん崩れていった、ある時。

「おっ!なんか出たぞ!」

フェイの声が聞こえたので、慌てて皆でそっちへ向かう。……すると。

「これこれ。これが壁の中に埋まってたみたいだな」

フェイが指し示す先、壁の残骸がたくさん散らばった中に、ぽっかりと空洞があった。……本当に、壁っていうか、洞窟を掘っていたみたいなかんじだったんだなあ。

空洞を覗き込んでみると、空洞の先に……直方体の石があった。いや、石の、箱……?

縦2mぐらい、横60㎝ぐらい、高さ50㎝ぐらい。そういう石の箱。それが、空洞の中に鎮座している。そして、その箱の上に、数枚の紙が落ちていて……。

その紙は、遠目に見てもそれが何か分かる特徴を持っていた。

「……新聞だ」

新聞紙。明らかにそうだ。一番上に落ちているのは、新聞の一面、なのかな。大きな見出し文字と、カラー印刷の写真がちらり、と見えている。

……その新聞を見た途端、なんだか、寒気がした。読まない方がいいんじゃないかな、というか、そういう感覚。

「トウゴ?ね、ねえ。あんた大丈夫?」

「え?」

新聞を遠目に見ていたら、ふと、肩をがくがく、と揺さぶられてびっくりする。横を見たら、ライラが心配そうに僕を見ていた。

「なんか、急に動かなくなっちゃったっていうか、心ここに在らずになっちゃったっていうか……」

「あ、うん……大丈夫」

確かに心ここに在らずになってたけれど、まあ、大丈夫だ。呼び戻してもらったから、平気、平気。

改めて、新聞をちょっと眺めて、やっぱりあれ、読んでみないことには駄目だろうなあ、と思う。仕方なく、一歩、近づく。……なんだか怖くて仕方がない。

「待て。俺が先に確認する」

出所の分からない恐怖に耐えて二歩目の足を出そうとしたら、ラオクレスに止められた。そして……ラオクレスはすたすたと歩いて、箱の上の新聞に近づいていって、近くに屈んで新聞を読み始めた。

……けれど。

「……異世界の文字、なのだろうな。俺には読めん」

まあそうだろうなあ。うん、そうだった。代わりに読んでもらうっていうわけにはいかないよね。

「ええと……じゃあ、写真には何が写ってるかだけ、教えてほしい」

けれども心の準備は手伝ってほしかったので、そう聞いてみる。

「……しゃしん、とは、精巧な写し絵、のことだったか」

「うん。そうそう」

ラオクレスは僕のお願いに付き合ってくれて、また新聞へ視線を落とすと……首を傾げながら、じっとそれを眺めて、言った。

「……異世界の道具、なのだろうが、何やらよく分からないものが描かれている、としか分からん。すまない」

「成程……」

まあそうだよね。うん、そうだろうなあ……。

……しょうがない。これ以上の悪あがきは止めよう。

僕はもう一歩、石の箱と新聞紙に近づく。更に一歩。また一歩。

一歩ごとに、どんどん怖くなる。何で怖いのか分からないのが余計に怖い。

知らないはずなのに知っている気がする。これが何か、きっと僕は知っている。

……無理矢理足を進めて、ラオクレスの横に立つ。更に、他の皆もぞろぞろとやってきて、石の箱を……いや、僕を囲むように集まってきた。

皆が僕を見守っている。フェイの手が僕の手をぎゅっと握ってくれて、もう片方の手はライラが握ってくれた。なんだか恥ずかしいような気がするのだけれど、それどころじゃないからありがたく、手に触れる体温を拠り所に、少し落ち着かせてもらって……。

読む。

僕は、新聞記事を読む。

『無差別殺人 2人死亡 8人重軽傷』

……記事の大見出しの横に、上空から撮影したらしい写真がある。

駅前の交差点。

広げられたブルーシート。

救急車の赤いランプの光。

遠巻きに眺める人達。

大きく損壊した自動車。

血の跡。

……記憶に引っかかるような微かな違和感と、それを遥かに上回る恐怖とが合わさってやってくる。

恐怖は確かに僕を凍り付かせようとしてくるのに、でも、微かな違和感が僕の目を動かす。知らない方がいいことを知ろうとして、勝手に、新聞記事の小さな文字を読んでいく。

日付。場所。そういうものの情報が初めに並んでいて、それで……事件の詳細が、書いてある。

……殺人未遂の容疑で現行犯逮捕された人が居たこと。その人は自動車で駅前の交差点の信号待ちをしている人達の列に突っ込んで、その後、更に車を動かして人を撥ねたこと。被害者がお亡くなりになって、容疑を殺人に切り替えて更に捜査を進めるということ……。

……これはなんだろう。こんなもの、僕は知らないはずだ。そもそもこんな事件は存在しないんじゃないだろうか。そう頭では思うのに……心が先に、納得してしまう。

本当に、こういう事件が起きてしまったんだ、と。

だって、僕はこの場所に居た。

多分そうだろうなあ、とどこか遠く思いながら、ふわふわしたような現実味の無さに押し流されるようにして、僕は、新聞紙の下の箱を開ける。

大きな大きな箱の蓋に手を掛けて、持ち上げる。僕1人ではそれが少し難しかったのだけれど、ラオクレスが反対側に回って手伝ってくれて……それで、箱が、開いた。

「……先生」

箱の中には、先生が入っていた。

やっぱり、この箱は棺だった。

そして、棺の中の先生を見た途端。

ばちん、とスイッチを切ったように頭の中が切り替わって、僕は全部、思い出した。