軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話:夢見るだけならタダなので*2

「それは確かにね。うん。そうだった……」

カチカチ放火王なら『この世界を燃やせ』って言うんだろうけれど、それじゃあ駄目なので……僕は、元の世界へ帰る方法を見つけなきゃいけない。

「まあ、方法が見つからなかったら門を描こうと思う。そうすればそこを通って、元の世界へ帰ることができるんじゃないかな、って」

「……何か月ぐらい魔力切れになるんだろうなあ、それ」

うーん……まあ、そうなんだよ。それはすごく不安。描いて出す、っていうのはシンプルかつ真っ直ぐな解法なんだけれど、魔力切れが今度こそ年単位になりそうで、ちょっと。

「お前の元の世界って、魔力多めかあ?」

「いや、無いよ。魔力とか、無いんだってば」

「……だとしたら魔力切れになった後どうすんだよ」

……ええと、じゃあ、門を描いて、こっちで魔力切れを回復してから、戻る……?

いや、駄目だ。そもそもあとどれくらいでこの世界が『停滞』しちゃうのか分からないんだった。あんまり寝ている訳にはいかない!

「うう、カチカチ放火王、その辺りも教えてから消えてくれればよかったのに……」

「まあ、一応あいつ、敵だったしな?な?」

そうだけどね。でも……やっぱり、共存できたんじゃないかなあ、って、思うんだよ。

最後にカチカチ放火王が『共存できるというのならやってみろ』って言っていた。なら、やってみせたい。現実は物語を滅ぼさなくていいんじゃないかって、問いたい。……現実とファンタジーは共存できるって、証明してやりたい。

そう思って、ふと、気になった。

「……カチカチ放火王は、本当に何も教えてくれなかったんだろうか」

「は?いや、だって聞こえなかったんだろ?」

「うん。僕には」

カチカチ放火王は僕に、元の世界への帰り方は教えてくれなかったけれど……でも、もしかしたら何か言っていたんじゃないだろうか。例えば、それが僕には聞こえなかった、っていうだけかもしれない。

「でもそのためにルギュロスさんが居るので……ちょっと聞いてこようかな」

この間だってルギュロスさんにだけ聞こえたんだからさ。今回もそれかもしれない。よし、思い立ったが吉日。ルギュロスさん、ルギュロスさん。

「何か聞こえたか、だと?」

「うん」

ということで、レッドガルド家に滞在中のルギュロスさんを尋ねた。お願いしますルギュロスさん。

「……トウゴ・ウエソラ。そもそもお前には何が聞こえた?お前はそれを我々に共有せずに寝たのだぞ?」

「ごめん、そうだった」

あの時は……その、色々な考えで頭がいっぱいで、情報共有とかよりも先に休んでしまいたかったんだよ。うん……。

「まあ、私が聞いたものは全て共有し終えたが」

……けれど僕が情報共有より先に休むことを提案してくれたのは外ならぬこのルギュロスさんなんだ。『私が聞こえたものを共有しておく。どうせ大した違いは無いだろう。お前は用済みだ、さっさと帰れ』と。その言葉にありがたく、僕はラオクレスによって運搬されてベッドの中に放り込まれてしまったわけなんだよ。

「ええと、僕が聞いたのは……『この世界には停滞が待ち受けている』っていうこと。それから、『この世界にはタイトルが無い』っていうこと。それで『僕が元の世界に戻らないとこの世界は滅ぶ』っていうこと」

「まあ、だろうな」

僕が説明すると、ルギュロスさんはティーカップを傾けつつソファの上で脚を組み替えて、背もたれに凭れ直した。……ここレッドガルド家の客間なんだけれど、我が物顔で寛ぐよなあ、ルギュロスさん

「聞き取れなかった言葉は無いのだろう?」

「うん。聞き取れなかったな、っていう自覚は無いから、まあ、駄目元でルギュロスさんのところに来た」

「駄目元で、か。全く……」

ちょっと心外、みたいな顔でルギュロスさんは僕を見てくるのだけれど、いや、そういう顔されても。駄目元は駄目元だってば。

「それで、何が知りたくて私のところへ来た?情報共有に来ただけか?」

「いや、僕、元の世界へ帰ろうと思うんだけれど……」

ちょっと不機嫌そうになってしまったルギュロスさんにそう説明すると……途端、ルギュロスさんは目を見開いて、唖然、としてしまった。

「……帰るのか。お前は随分と、元の世界とやらを嫌っていたように見えたが」

「え、うん。そうしないとこの世界が滅んじゃうっていうのなら、そう、しなきゃな、って……」

そうだよね、っていう同意を求めつつルギュロスさんに聞いてみたら、彼はものすごく、渋い顔をした。

「……私なら世界1つ滅んだところで知ったことか、と思うが」

「いや、自分が大好きなものが滅んじゃうのは嫌だよ」

「だが、この世界が滅ばなかったとして、そこに自分は居ないのだ。ならばわざわざ自分が損を被ってまで滅びを回避する意味があるか?」

「すごい!すごく自分勝手だ……!」

ルギュロスさんの実に自分勝手な意見に、なんというか、こう、感動してしまった。そうか、こういうのもあるのか、と。……彼から知ることって、たくさんあるなあ。

「自分勝手で何が悪い」

ふん、と鼻で笑ってルギュロスさんはそう言うけれど、僕としてはもう、なんか、拍手ものだよ、これ。すごい。あなたがナンバーワン自分勝手!

「まー、俺としてはトウゴにこの世界に居てほしいからよー、滅んじまえって気持ちは分からんでもないんだよなあ……」

かと思ったら、フェイが妙にやさぐれた顔で、勝手にルギュロスさんの隣に腰を下ろして腕組みする。

「……トウゴをトウゴにとって居心地の悪い世界に帰して、俺達は助かっても、なあ……」

どうやら、フェイのやさぐれ具合はしょんぼりのなれの果て、らしい。フェイはいい奴だから、僕がちょっと寂しい思いをするっていうことに、ものすごく心を痛めてくれている。……それが嬉しくて、ちょっと申し訳ない。

「おい、レッドガルド!狭いぞ!勝手に隣に座るな!」

「トウゴも座るかぁ?」

「うん。座る」

「狭いと言っているだろうが!」

……まあ、そういうことで僕はルギュロスさんとフェイの間にぽすんと座って、嫌な顔をするルギュロスさんとにこにこのフェイに挟まれつつ、ちょっと考える。

「……それで、ルギュロスさんは僕が元の世界に帰る方法、知ってる?」

聞いてみると、ルギュロスさんは案の定、ものすごく渋い顔をして口を噤んだ。

「やっぱり知ってるんだね」

「……信憑性には欠けるぞ」

そっか。ということはカチカチ放火王から聞いた話、とかなのかもしれないなあ。まあ、駄目元で来た甲斐があった、ということで。

「教えてほしいんだけれど……」

どうでしょうか、という気持ちを込めてルギュロスさんの顔を見上げると、ルギュロスさんは僕の後ろ……まあつまり、フェイの顔があるのであろう位置を見て、非常に嫌そうな顔をしつつ……フェイは無視して、僕に教えてくれることにしたらしい。

「『封印の地』は何を封印しているか知っているか」

「まおーんだろ?」

「夜の国とまおーんじゃないのかな」

うん。あの封印の地、夜の国へ行くのを邪魔するための祭壇があるだけだったんだよなあ。……いや、でも、そこの壁面が崩れて、先生のサイン本が出てきたんだっけ。ということはまだ何かある、んだろうか?

「……私は、あそこに『夢見る者の夢を醒ます記憶』が封印されていると、魔王から聞いている」

……うん。

うん?

夢見る者。夢見る者……。なんだかその言葉を聞いたことがあるぞ、と思って、僕らは早速、クロアさんのところへ行った。多分、彼女が一番よく覚えてる。

……ということでクロアさんの家に行ってみたら、ラオクレスも居た。ラオクレスはそわそわしながらクロアさんに出されたらしいお茶のカップを前に、ちょこん、と座って、そわそわそわそわ。

「……ラオクレス、どうしたの?」

「トウゴ」

クロアさんの家にお邪魔して最初に目に入ったものがそわそわラオクレスだったから思わず声をかけてみたら、ラオクレスはものすごく狼狽した様子で僕を見て……それから、そっと、視線を逸らした。え、あの、どうしたの?

「ふふ、彼ね、トウゴ君が心配で、ここにそわそわしに来たのよ」

そこへ、僕らの分のお茶のカップを持ってクロアさんがやってきて、解説してくれた。成程、それでそわそわ……。

「……心配かけてごめん」

「気にするな。俺が勝手に心配しているだけだ。お前は何も、気にしなくていい」

ラオクレスはそう言って、所在なさげに手をふらふら、とさせてから……迷うように、ぽす、と僕の頭の上に手を置いた。……それがちょっと面白い。

心配させてごめんね、と、心配しなくても大丈夫だよ、を合わせてラオクレスの手に自ら撫でられにいくと、やがて、ラオクレスの手が、なで、なで、と動くようになる。うーん、僕、この世界に来てから随分と撫でられ慣れてしまったけれど……元の世界に戻って撫でてくれる人が居なくてもやっていけるだろうか。いや、やっていけなくちゃ困るんだけどさ……。むしろどうして僕はこうなっちゃったのか……。

「それで、どうしたのかしら。ラオクレスを見物に来たの?私はそれでも大歓迎だけど」

「おい」

ラオクレスがちょっとじっとりした目をクロアさんに向ける中、クロアさんはどこ吹く風。

「ええとね、『夢見る者』について、覚えてるかな、と思って」

僕もどこ吹く風でクロアさんにそう聞くと、クロアさんはちょっと考えて……ピンときた、みたいな顔でにっこり。

「ああ、お父様が見せて下さったやつね?」

うん。そうそう。封印の宝石を探す途中で、クロアさんの『お父様』に教えてもらった奴。本来なら、グリンガルの魔導士のところにあった、っていう記述、らしいけれど。

クロアさんは『待っててね、写したものがあるから』と言ってぱたぱた出ていって、それからまたぱたぱた戻ってきて、その紙を僕に見せてくれた。

『夢見る者が夢見ることをやめた時、この世界は崩れ去る。この世界が消える時、夢見る者は目覚めるだろう。かの者を目覚めさせるな。そしてこの世界を焼かんとする者を封じ続けよ。この石は、7つに分けたそれを封じるものである。』

……うん。

成程。中身が、よく分からない。これはちょっと、考えてみないと駄目な気がする……。