軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話:書を焼く者へ*2

森に帰った僕らは、カチカチ放火王との最後の戦いに向けて準備していた。

まず、森の町の人達への説明。

……ええと、『その内カチカチ放火王との戦いになりますが、町への被害は出さないように気を付けます。もしダメでも、その時はすぐに龍が来て火を消してくれるはずですのでご安心ください。でも念のため、石造りの建物の中に全員避難していてください』みたいなかんじで。

まあ、つまり、結構とんでもない説明になってしまったんだよ。彼らからしてみたら唐突だろうし、訳が分からないだろうし。

なのに、ソレイラの人達は皆、『ああ、そういうことなら』って納得してくれて、大事なものをいつでも持って逃げられるように荷物の整理なんかをそれぞれに始めてくれた。

……理解の早い町民を持って、町長としても森の精霊としてもありがたいことだけれど、その……ええと、いいんだろうか!?

町の人達への説明が終わったところで、次は森の動物達。

馬に運んでもらって森のあちこちへ赴いて、直接、動物達に説明する。『カチカチ放火王が来て色々燃やそうとするから、巨大な木のある方面にはしばらく立ち入らないでおいてね』と。

こちらも、動物達はとても聞き分けが良いものだから、すぐ納得して移動を開始してくれた。

……唯一移動しなかったのが、鳥。まあ、カチカチ放火王の出現地点って、鳥の巣の割合近くなんだよね。つまり、家から離れるつもりはありません、っていうことなんだろうし……それ以上に、この鳥、やる気だ。絶対にこの鳥、カチカチ放火王をまた踏み潰して勝鬨のキョキョンを森に響かせるつもりなんだよ!

それから、森の騎士団達への連絡。

カチカチ放火王が出てきそうなタイミングは多分僕にしか分からないので、その時には鐘を鳴らして伝えることにした。ちなみに鐘は森の中央に設置。鳥の巣の傍。鐘を鳴らす役目は鳥に頼んだ。目立つ役目だからか喜んで引き受けてくれた。君ってそういう奴だよね。いや、まあ、いいと思うよ……。

……それで、鐘の音が聞こえたら、森の騎士団には森の町の人達の避難誘導を手伝ってもらう。

戦いに参加する人数は、できるだけ抑えたかった。相手が火だっていうなら、戦いに出る人が多いとその分被害が増えそうだから。カチカチ放火王と最後に戦うのは、少人数で。

そして最後に……龍の所へ行く。

「……ということで、雨を降らせてほしいんだけれど」

龍にそうお願いすると、龍はなんというか、じっとりした目で僕を見てきた。……しばらく放っておいたからなあ。それで拗ねてるのかなあ。

あ、もしかすると、しばらくフェイとかレネとか、あと、グリンガルの精霊様とか、他のドラゴン達と一緒に居たから、それかも。他のドラゴンの匂いが付いているの、嫌みたいだから。

「あの……えーと、もしもし」

けれども、ここはなんとしても頷いてもらいたい。僕も描けば雨を降らせられるけれど、龍がやってくれた方が安心だ。僕が絵を描けない状況にならないとも限らないし。

けれども龍は『つーん』みたいな顔でそっぽを向いてしまった。あああ……。

「ねえ、お願いだよ。君がやってくれないと、この森、燃えちゃう」

胴体のあたりを掴んでゆさゆさやってみるのだけれど、龍は全く動いてくれない。うーん……。

なら仕方ない。一度撤退して、準備。

龍がご機嫌になる条件はいくつか知ってる。ええと、僕が着物を着ていた方が好きみたいで、あと、お酒が結構好き、らしい。ああ、折角だから『ふわふわ森の陽だまり』、貰ってこよう。

ソレイラに下りて、『ふわふわ森の陽だまりください』とやったところ『トウゴさんが飲むんですか!?駄目ですよ!』と怒られてしまったので、精霊様へのお供え物だと言ってみたら、『精霊様にお酒はまだ早いです!』とよく分からない怒られ方を……いや、だから、その精霊って僕のことじゃなくて!

……けれども丁度そこへ通りがかってくれたラオクレスのおかげで、無事、『ふわふわ森の陽だまり』を入手することができた。ああよかった……。

「成程、龍の機嫌取りか」

「うん……。他に何をしたらいいかな。あいつ、結構気難しくて……」

「俺に聞かれても困るが……」

ラオクレスと一緒に森の方へ帰りながら、とぼとぼ。僕が着物を着てお酌すれば機嫌、直してくれるだろうか……。

……と、思っていたら。

「とうご?わにゃーにゃ?」

丁度行き会ったレネが、心配そうに僕の方を覗き込んできた。

……そういえばレネも、前、龍にお腹の中弄られる奴、やられてたなあ。それで多分、あれって、龍なりの愛情表現、なんだとは、思う、んだよ。迷惑だけれど。迷惑だけれどね。うん。

まあ、そういうわけで……あと、水晶の小島への滞在が許されていたライラのことも気に入ってるんじゃないだろうか。

「……ねえ、レネ」

「にゃい?」

「ちょっと、ライラと一緒に手伝ってほしいことがあるんだけれど」

……ということで、僕はレネとライラの着物を描いて出した。

レネには濃紺の地に三日月や星の模様が入った着物。帯は金銀で刺繍をした豪華なやつ。そこに月の光の蜜で染めた、ほんわり光る羽織を羽織れば完成。なんとなく、月の光に照らされて光る雲の間から覗く夜空、みたいな恰好になった。

ライラは浅葱色の鮮やかな着物。裾の方や袖に白く染め抜かれた花の模様が入っている。……ライラがこの間染めた奴、らしい。綺麗に模様を染められるようになった成果だってさ。そこにふんわりした黄色の帯を締めて、真っ白な透ける布の羽織で完成。こっちはよく晴れた日の空みたいな恰好だ。

そして僕は例のごとく、ブルーグレーの着物に紺色の金銀刺繍の帯、白から薄藍へのグラデーションの羽織、という恰好。曇りか雨の日の空みたいなかんじだ。

……ちなみに、ライラの着物の着付けはクロアさんに手伝ってもらった。僕も知識だけはちょっとあったけれど、女性の着物の着付けなんて難しくてできないから。

そしてレネは、その……相変わらず性別不詳なので、袖の振りが大きい男物の着物を端折らずに着て、帯は少し太め、位置は少し高め、みたいな、そういう微妙な格好になっている。いや、どうしていいのか分からなくて……。

「……よし」

そして僕らは、龍の居る水晶の湖へやって来た。

僕の手には『ふわふわ森の陽だまり』の大きい瓶と、水晶の盃。ライラの手にはクロアさんお勧めのお酒である『月影月明かり』の瓶と、桃。そしてレネの手には『銘酒まおーん』の瓶……を抱えた魔王。

僕ら3人と1匹で龍の前に立つと……龍は、流石にびっくりしたらしくて、そういう顔で目をぱちぱちやっていた。

「ええと……どうぞ」

なので早速、龍の目の前に盃を置いて、まずは『ふわふわ森の陽だまり』から……。

……お酒を勧めてみたら、龍はなんだか呆れたような顔をした。まあ、すごく分かりやすく機嫌を取られているもんなあ。

でも、龍は一つ、鼻でため息を吐くと、くぴくぴ、とお酒を飲み始めた。ついでに、開き直って楽しんでやろうとしているらしくて、尻尾をくるんとやって僕とライラとレネとを巻き込む。

「きゃあ!ちょ、ちょっと!何!?巻くの!?巻くの!?」

「わにゃあ!?」

巻き込まれたライラとレネは困惑していたけれど、やがて、龍のとぐろの中に僕ら3人がすっぽり巻かれてしまうと、却って落ち着いてくる。まあ、これはこれで……。

まおんまおん、と鳴きながら魔王が龍の体をよじ登って、それから、お酒を盃に注いで、まおん、とそれを勧める。龍は尻尾の先で魔王の頭を撫でてやっている。どうやら、龍は割と魔王のことも気に入っているようだ……。

「……これ、いつまで巻かれてるのかしら」

「龍の気が済むまで……」

そして僕ら3人は龍に巻かれて、時々尻尾の先で撫でられたり、何故か僕だけお尻を叩かれて例のやつをやられたり、一緒に桃を食べたり、水晶の小島の木の実を食べたりして過ごした。

……水晶の小島の木の実は、ライラは最初からやめておいた。魔力酔いが間違いないので。けれどレネが挑戦して……その結果。

「ふりゃっ!ふりゃっ!」

「かつてない輝きね」

「あったかいね」

レネが煌々と光り輝いている。そしてあったかい。これには龍も大笑い。

盃にお酒を手酌(尻尾酌……?)しつつ、盃に尻尾を突っ込んで勝手にお酒シェアしている魔王と一緒にお酒を楽しんだり、光るレネや笑うライラや困る僕を見て楽しんだりしたらしい龍は、まあ、結果として、機嫌を良くしてくれたので……まあ、よかった、ということにしよう。

僕が「雨、降らせてくれる?」と聞いてみたらちゃんと頷いてくれたので、きっと大丈夫だ。どうもありがとう。頼りにしてます。

……ただ、帰り際にまた例のやつをやったのはちょっとどうかと思う!人の膀胱なんだと思ってるんだ!漏れなければいいっていう話じゃないんだぞ!

さて。

こうして対カチカチ放火王兵器である龍の協力が取り付けられたことで、森への被害の拡大は確実に抑えられる見込みが立った。

後は、カチカチ放火王とどうやって戦うか、なんだけれど……。

「とりあえず、トウゴが描いて消したり縮めたり、ってのはやめておこうな」

作戦会議をしていたら、フェイが真っ先にそう言った。

「え?なんで?多分、一番有効な方法だと思うけれど……」

僕としては描いてなんとかする気でいたから、むしろ、フェイとは反対意見だ。……けれど。

「カチカチ放火王をどうこうするにあたって、トウゴがどれぐらい魔力を持って行かれるかまるで分からねえ。カチカチ放火王ってこの世界のモンじゃねえんだろ?なら、とんでもねえ量の魔力を持って行かれる可能性だってあるわけだ」

まあ……それはそうかもしれないけれどさ。

「俺はよー、もう二度と、トウゴが3日以上目覚めねえ、なんてことになってほしくねえんだよー。お前が寝たまんまじゃ、勝った気、しねえよー」

「こらこらこら、乗っからないで、重い重い」

フェイがぐでぐで、と僕の背中に体重をかけてくる。やめてやめて。分かったからやめて。

「まあ、そうよね。トウゴ君はカチカチ放火王で切るべき切り札じゃないわ。もっと本当にどうしようもない事象をどうにかできちゃう可能性を持っているのがトウゴ君だもの。カチカチ放火王を倒した後に何も無いとは言えないのだし、そこまで温存しておくべきだと思うわ」

それからクロアさんもそう言って、フェイが僕から離れたのを見計らって、僕の背中にぽすん、と凭れてきた。僕に乗っかるの、流行ってるんだろうか?

「なら、主に戦うのは俺達か。まあ……生身の人間如き、大した戦力にはならんだろうが。アリコーンやレッドドラゴンは十分な戦力になるだろうな」

「そーだな。レッドドラゴンなら火に対して強いし、丁度いい!」

「骨の騎士団も戦力に数えていいだろう。あいつらは既に骨だ。焼かれてもそうそう変わらん。鎧についても、焼かれてそうそう変わる素材じゃあない」

確かに。人間が戦うよりは、召喚獣達に任せてしまう方が安全かつ効果的、な気がする。成程なあ……。

「フェニックスと鸞達には救急隊をやってもらおう。いいだろうか」

「勿論よ!フェニックスと一緒にたいきしてるわ!」

「カチカチ放火王が来てからトウゴ達が戻ってこなかったら、俺が鸞連れて様子見に行くよ」

うん。いざとなったら彼らの救護が必要だ。そこはリアン達に頼ることにしよう。……怪我人が出ないのが一番だけれどさ。

「トウゴおにいちゃん。あのね、妖精さんがばけつりれーの練習、してるの」

「あ、妖精達の参戦はちょっと見合わせっていうことで……」

けれど妖精達は、ちょっと。ほら、飛んで火に入るなんとやら、って言うし……なんとなく、妖精ってすぐに燃えちゃいそうなイメージが、あるし……。

その日、寝る前。

僕は1人、ベッドに腰かけて、先生の直筆サインが入った本を手に取ってみた。ランプは灯さない。なんとなく、薄暗いところに居たかったから。

窓から入ってくる月の光に照らされて、表紙の金の箔押しが煌めく。箔押しの縁取りの中は、只々真っ白。

今、この本は『勇者と魔王の物語』だ。この世界の本。先生にとっての、作中作。

……ぺら、とページを捲ってみる。そこに書かれた文字を読んでみても、先生らしさは特に無い。まあ、そうだよね。口語体で記されているわけでもないし、これ、歴史書とか伝説の扱いだから、先生らしいジョークが混じっているでもないし。

ぺら、ぺら、と更にページを捲ってみると、やがて、本は白紙の部分へ突入してしまった。そうだった、この本の後ろの方は全部白紙なんだった。

月明かりを反射してぼんやり白く光るように見える寂しい白紙を一枚一枚、ぺら、ぺら、と捲っていく。

先生はどういう気持ちでこの本を書いたんだろう。この世界が先生の書いた世界だとしたら、この世界はどういう結末を迎えることになるんだろう。

……ルギュロスさんが言っていたこと、分かるよ。この世界が小説なのだとしたら、きっとそこには結末があるんじゃないだろうか。僕はそれを知らない。けれど世界は確実に、そこへ向かって動いていくのだろうし……そこで、終わってしまう、のかもしれないし。

……でも。

「先生が書くんだったら、きっとハッピーエンドだと思うんだよ」

真っ白なページを捲っていった最後。裏表紙の裏側、先生のサインを見て、思う。

『現実』の酷さをたくさん見てきたはずの人が、これだけ温かく美しい世界を書いたのなら。この世界の行きつく先はきっと、ハッピーエンドだ。

……きっと。

月光に照らされた本の中、先生のサインは只々、力強い。

翌日は、いつも通りに過ごした。

起きて、馬に挨拶して、フェイがやってきたので鳥が水浴びに来たのを眺めつつ一緒に朝ご飯を食べて、絵を描いて、昼食を食べさせに来たラオクレスによって絵は中断して、3人で昼食を取って、午後も絵を描いていたらクロアさんが見に来たのでクロアさんを描いて、それからおやつ時にリアンに呼ばれて、カーネリアちゃんとアンジェの新作おやつを試食して、夕焼け空を描いていたライラと並んで空を描いて、絵の議論をしながら『ぽかぽか食堂』に入って、そこで何やら政治の議論をしていたらしいラージュ姫とルギュロスさんと相席させてもらっておしゃべりを楽しんで、そして家に帰ったらフェイが『泊めてくれ!』と待っていたので客間を提供して、それからレネがやってきたので、僕はレネと一緒のベッドでぬくぬくふりゃふりゃ眠って……。

そして、朝が来て、目が覚めて。

「……来る」

森の空気がざわり、とざわめく朝だった。

……カチカチ放火王がやってくる日の、朝だ。