軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3話:世界を尋ねて*2

アージェントさんは、まじまじと、僕を見ていた。そんなに見られても困る。

……確かに僕は異世界人だけれどさ。でも、見た目で分かるものでもないから……うん。

「知ってたか?トウゴが異世界から来た、ってのは」

フェイがそう言うと、アージェントさんは苦い顔で僕らを睨む。

「推測はできたとも。あまりにも不可解なことばかりしでかす人間を知った上で、『この世界は外なる世界の住人により創り出された世界であり、外なる世界から迷い込む人間も居る』とも聞いたなら、その2つを結びつけることは容易い」

そう言いながら、アージェントさんは不愉快そうに僕を見た。

「……トウゴ・ウエソラ。やはり、お前は早々に我が手の内に引き入れておくべきだったか」

……アージェントさんの言葉の意図がよく分からない。多分、アージェントさんは僕のことが嫌いだと思うんだけれど……彼はそれでも、僕が欲しかった、んだろうか。

「そろそろ、話してくれるよな。こっちも色々手詰まりなんだよ。このままだと何も分からねえままカチカチ放火王を倒して終わり、ってことになる」

フェイは鉄格子の前にどっかりと腰を下ろして、アージェントさんと向き合った。

「まず聞きてえのは、お前の目的はこの世界の崩壊なのか、っつうことだ」

フェイのお尻が石畳で冷えそうだったので、僕はそっと、フェイのお尻の下に座布団を差し込んだ。ついでに、アージェントさんのお尻も冷えそうだったので、鉄格子の隙間から座布団を差し込んだ。アージェントさんは胡散臭そうな目で僕と座布団を見ていた。いや、不審なものじゃないってば。

「……こないだの『会談』が時間稼ぎ目的だっつうことは、大体分かってるよ。あれの目的はアージェント領の独立の要請じゃあねえ。お前はそんなこと、望んじゃいなかった。ただ俺達全員アージェント領に集めることと、『アージェントが封印の宝石を持っている』っつう印象付けのためにやったことだ」

フェイはひょい、と腰を動かして座布団に座り直しつつ、アージェントさんをじっと見つめて問い詰める。

「カチカチ放火王封印の宝石は王都の貴族の間をたらい回しにしてたんだろ?そのたらい回しの最初の時点では、俺達もラージュ姫も王都に居ない方が都合がいい。だから呼んだ。違うか?」

アージェントさんは答えない。……ルギュロスさんと似ている。アージェントさんも、肯定したくないことを肯定する時にはただ黙っちゃうんだなあ。

「まあ、荒唐無稽な話だったしなあ。だからこそこっちは困っちまったわけだけどよお……」

フェイが頭を掻きつつ困り顔をしている横に、僕らも座布団を持って行って座る。……こうして、鉄格子の前に座布団を置いてそこに座る一団ができあがってしまった。でも、椅子を出すよりはいいと思うんだよ。座布団。

「……で、そうまでしてカチカチ放火王の封印を邪魔されたくなかったのは、なんでだ?この世界を、滅ぼしてえからか?」

アージェントさんは僕らを眺めて、やがて、深々とため息を吐いた。

「異世界のことを知っているというのなら、概ね、この世界がどのようなものかも知っているのだろうが」

いや、それ、全然分かってません。分かってないけれど、『はい、大体知っています』みたいな顔で僕らはアージェントさんを見つめる。

「……この世界は『外なる世界』の力で生み出された世界、創られた世界であるらしい」

「にわかには信じ難いが、確かにこの世界は作り物である、と。かの魔王はそのように言っていた」

アージェントさんの言葉を聞いて、座布団に座ったライラの膝の上に座った魔王が、まおん!と抗議の声を上げた。ライラが『後でいっぱいあいつのこと叩いていいから、今はちょっと静かにね』と、魔王にクッキーを与えたため、魔王は渋々、大人しくなった。

「んで?作り物だから壊しちまえ、ってことか?」

「それは短慮が過ぎるな」

フェイが嫌そうな顔をしながら聞いたら、アージェントさんは少し調子を取り戻してきた、というように余裕のある表情を浮かべる。

「この世界はこの世界だ。作り物だろうが、確かに存在している。我々はここに生きている。間違いないことであり……そして、万一に間違いであったとしても、特に問題はない。この世界が作り物であり幻だったとして、そこに何の問題がある?」

「なんも問題ねえなあ」

そりゃそうだ、というようにフェイが頷くと、アージェントさんは『そんなに素直に頷かれるとは思っていなかった』みたいな顔をした。こういう時に素直に納得できるところがフェイの美点の1つなんですよ。

「で?なのにあんたは世界を滅ぼしたい、って?」

「誰もそんなことは言っていないだろう。憶測だけでものを言うべきではないと思うがね、レッドガルドの無能君」

「てめーだって似たようなもんだろ、アージェントのムショ入りたんぽぽジジイがよお……たんぽぽ増やされてえならそう言ってくれてもいいんだぜ?」

……アージェントさんはフェイの気持ちを無意味にささくれ立たせたせいで、たんぽぽのことを思い出す羽目になったらしい。すごく嫌そうな顔をしている。でも、そんな顔をするあなたの頭の上には今も、たんぽぽがふらふら揺れているんですよ。

「アージェント卿。話してくださいますね?あなたの目的が世界の滅びではないのだとしたら、私達は協力関係になれるはずです。そして……事態は、あなたの計画通りには進んでいない。或いは、今更私達に話したところで大した影響がない。違いますか?」

ラージュ姫が座布団の上で身を乗り出すと、アージェントさんは嫌そうな顔で……けれど、諦めて話してくれるつもりになったらしい。

「私の目的は、魔王に協力する見返りとして、『外なる世界』の知識を得ること。そして……この世界を滅ぼされる前に、魔王を退散させることだ」

「……『外なる世界』の知識?」

「ああ。トウゴ・ウエソラ。君が当たり前に持っているであろうその知識だ」

……アージェントさんが言っていることは、分かる。僕の世界の知識、って、つまり、この世界にとってのオーバーテクノロジーなんだろう。

「外なる世界とやらは、実に面白い。……レッドガルド領で写本を生み出す道具が作られたらしいが、あれも大方、トウゴ・ウエソラの手によるものだろう?」

「いや、あれは本当にフェイが作ってます。僕、ああいうのに疎くて……」

フェイはすごい奴なんだよ。本当に。僕がよく分からないコピー機も、フェイには作れちゃうんだから。

「……また、外なる世界の思想は中々に興味深い。1つ教えてやろう、と魔王から持ち掛けられたので、『共産主義』とやらについて学んだが……」

「なんでよりによってそれ選んじゃったかなあ……」

「……何か問題でも?」

「いや、他の思想も学んでくれるなら別にいいんですけれど……ええと、その辺りを学ぶにあたって、基本的に『どれか1つだけ』はやっちゃいけないやつなので……」

アージェントさんは不可解そうな顔をしているのだけれど、そこで不可解そうな顔をしてくるということがもう既に駄目だ!

「……えーと、まあ、いいや。うん。その、きょーさんしゅぎ?とかは置いとくとして……えーと、あんたはトウゴの世界の知識が欲しくて、カチカチ放火王に加担してた、ってわけだな?そのために世界が滅ぶ、っつうのに」

フェイが話を戻すと、アージェントさんは鼻で笑うようにして言う。

「世界が滅ぶ前に決着をつける方法があるのでな。それに、ドラゴンの巣穴に入らなければ、ドラゴンの卵は得られないものだ」

つまり、ハイリスクハイリターンを狙った、と。まあ……分からないでもないけれど。でも、そこに賭けるものが、世界、っていうのはどうかと思う。

「あの魔王は、外なる世界の存在でありながら、この世界の中で認識される存在となり、この世界の中で活動するには、それなりに面倒な工程を経る必要があるらしくてな。最も簡単な方法は、この世界の住民が奴を招き入れることであるらしい。まあ、それに協力したのだ」

「……被害が出るって分かってて、やったのかよ」

「言っただろう。ドラゴンの巣穴に入らなければ」

「そのドラゴンの卵を手に入れるのがお前で、火に焼かれたのがトウゴってとこに問題があるっつってんだ!」

ガシャン、と大きな音がする。

……フェイが、鉄格子に拳を叩きつけた音だった。

「卑怯だろうが。てめえが勝手に燃やされて、勝手に卵抱えて逃げてくなら構わねえよ。けど……なんつう、自分勝手なこと、しやがる」

フェイはアージェントさんを睨みつけて、そして……少し落ち着いたらしくて、座布団の上に戻ってきた。

「……くそ、本当に、気に食わねえ」

フェイの心がささくれ立っているのが分かる。……ええと、その割に僕は大丈夫、っていうところにも問題があるとは思うんだけれど……その、僕のせいで、こういう気持ちにさせてしまっている、ので……お詫びに、ライラの膝の上から魔王をとって、フェイの膝の上に置く。まおん。

……フェイはちょっと驚いて、それから、ふに、ふに、と魔王をつついて……魔王がくすぐったがって、まおーん、とのんびりした声を上げるのを聞いて、なんだか気が抜けたような顔になった。

うん。そうそう。そういう顔でいるのがいいよ。きっと。

「ふむ、トウゴ・ウエソラが焼け死んだところで何も問題はないのだがな」

……と思ったら、アージェントさんはそんなことを言いだした!

「んだと?」

「そもそもどうして、魔王がこの世界に攻め入ってきたのかは分かるかね?」

アージェントさんは気色ばむフェイに対して、『教えてやっている』というような口ぶりで話し始めた。

「……そう。トウゴ・ウエソラのためだ。魔王は、外なる世界から別の世界へと住民が迷い込むことをよしとしていない。魔王の望みは、『外なる世界』の住民が皆、『外なる世界』にあること。そして、『外なる世界』の住民が迷い込む可能性のある、『外なる世界』以外の全ての世界の滅亡だ」

……なんというか、聞いていて息が詰まるような感覚がある。

彼ら、片っ端から自分以外の世界を排除していこうとして、息苦しくならないんだろうか。

「だが、世界は数多あるらしくてな。魔王も手が回らんらしい。……であるからして、魔王も、実害が出ていなければ、世界を見逃すことにしているのだそうだ。そして、外なる世界の住民が迷い込む、という実害が出た以上、この世界は滅ぼされる対象となった」

アージェントさんはそう言うと……僕を冷ややかな目で睨んだ。

「……分かるかね?つまり、トウゴ・ウエソラさえ迷い込まなければ、何も問題は起こらなかったのだ。そして、トウゴ・ウエソラさえ居なければ、今後も問題は起こらない。魔王がこの世界を滅ぼす理由がなくなるからな」

「つまり……実に単純なことだ。魔王を退散させるのに、魔王と戦う必要など無い。ただ……トウゴ・ウエソラを殺せば、全ては済むことなのだ」

フェイが立ち上がった。その目の奥に轟々と炎が燃えているように見えて、ふと、ああ、そういえばフェイはドラゴンの血筋だったなあ、と、思い出す。

「待って!」

いけない、と思って、慌ててフェイの腕を掴んで止める。

「落ち着いて、話そう」

「これが落ち着いてられるかよ」

フェイは僕の方を見ずに、フェイはアージェントさんを睨んでいる。今にも火を吹きそうな、ドラゴンみたいな形相で。

「それでも、だよ」

けれどもなんとか、僕はフェイの前に割り込んで、フェイの顔を見つめた。……するとやがて、フェイの拳の力が少し、抜けてくる。よし。

「……ええと、じゃあ、フェイは魔王を抱っこしててほしい。アージェントさんはちょっと後ろ向いててください。あと、ラオクレス。ちょっとそこに立っててほしい」

「何をするんだ」

こちらはフェイよりは落ち着いているラオクレスが、けれども剣に手をかけたまま、そう聞いてくる。

「うん。ちょっと、落ち着いて話せるようにしようと思って」

僕はそうはぐらかしつつ、ラオクレスを衝立代わりにさせてもらってアージェントさんの視線から隠れながら……牢屋の絵を描く。

……絵を覗き込んできたライラが吹き出したので、慌てて解説。

「いや、こうすると人は落ち着いて話ができるらしいんだよ。会議室とか、独房とか、こういう風にすると効果があるんだって。本当に」

「まあ、そうでしょうね!」

ライラがけらけら笑う中、横から私も私も、とクロアさんがラージュ姫を連れてやってきて、そして、やっぱり絵を見て、ころころ笑いながら戻っていった。

そしてフェイが僕の方を気にし始めたころ……絵が、完成。

牢屋の中が、全面ピンク色になった。

よし。