軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13話:おかえりたんぽぽ*3

僕らはもう夜の内に、森へ帰ることにした。

だって、僕がたんぽぽを生やした状態の人って、アージェントさんしかいない。アージェントさんは王城の地下牢でたんぽぽの綿毛を吹き飛ばされつつ収監されているはずだけれど……それがどうしてか脱獄して、ソレイラに行ってしまった、と考えるしかない。

なら……今この時にも、ソレイラに危険が迫っているかもしれないんだ。

「くそ、アンジェ、カーネリア、無事だよな……」

「ああ、きっと大丈夫だ。落ち着け、リアン」

リアンが不安そうに言うのを、フェイが安心させるように背中を叩きつつ、皆で足早に歩いていく。

……僕らが今歩いているのは、妖精の国だ。

妖精の国って、便利なんだよ。フェアリーローズの花畑があればそこが妖精の国へのゲートになるっていうことは、フェアリーローズの花畑さえ描いて出せば、即座に他の花畑へ移動できる、っていうことになる。

……ということで、僕らは妖精の国を通って、何故か暢気に歌う妖精達を引き連れて、どんどん妖精の国を進んでいって……そして。

「アンジェ!大丈夫か!」

リアンが、夜の森の中を駆けていって、彼らの家へ駆けこむと……。

「ふわ、おにいちゃん、おかえりなさい……」

「んー……あら?まだ朝じゃないわ。リアン、どうしたの?」

……何とも暢気な、アンジェとカーネリアちゃんが出てきた。おそろいのネグリジェを着て、眠そうな顔をしている。

「……お、おい。アージェントが来たんじゃなかったのかよ」

「へ?ううん、ちがう人。……アンジェ、アージェントさんだったらわかるよ」

「ああ、たんぽぽが生えた人のことかしら!あの人ならアージェントさんじゃないわ!アージェントさんならあんなに若くないし、もうちょっとお上品だもの!インターリア達も知らない人だったみたいだわ!」

……どうやら、僕らの心配は、杞憂だったらしい!

力が抜けた。気が抜けた。ああ、よかった……。

……というか、よくよく考えたら僕、森なんだから、自分の中にアージェントさんが居ないことくらい気づけたはずなのに……気が動転していたみたいだ。

まあ、王都を探索しに行くにしろ、また妖精の国を通って行けば早いので……一応、たんぽぽが生えた人を見てから行こう。ほら、だって、僕が描いたたんぽぽの種が頭にくっついたせいでたんぽぽが生えてしまった人、とかかもしれないので……。

ということで、その頭たんぽぽの人が居るという、兵士詰め所へお邪魔した。当番だったらしいマーセンさんとインターリアさん、そして他2名ほどの森の騎士達は、僕らが帰ってきたことに驚いたようだったのだけれど……アンジェからこういう手紙が届いたので、という説明をすると、皆で頭を抱えてしまった。

「そ、そうか。いや、すまない。頭部にたんぽぽが生えている時点で、トウゴ殿のお力によるものだろうとは思ったのでな。だが、特に我々に知らされているものでもなかったので、一応、連絡すべきだと思ったのだ」

「アンジェちゃんに相談したら、妖精さんの力を借りてトウゴ君に手紙を渡せるから、と連絡役を引き受けてくれたのだが……すまないな。文章を監修すべきだったか」

「いや……安全を取るならやはり一度、森へ戻るべきだったからな。結果としてはこれでよかっただろう。トウゴ達が寝不足にならないかだけは心配だが」

ラオクレスに何とも言えない心配をされつつ、ひとまず僕らは、頭たんぽぽさんの拘留所へ。

……すると。

「おい!トウゴ・ウエソラ!お前、何をした!?」

そこには、たんぽぽがふわふわ揺れる、金髪の頭の……。

「ルスターさん!いらっしゃい!」

ルスターさんが、捕まっていた!

頭たんぽぽのルスターさんを見て、クロアさんはさっさと退避していった。まあ、ルスターさんはクロアさんが居たら嫌だろうし、クロアさんはルスターさんの居ないところで大笑いしたいらしいので……あ、森としての僕の感覚に、大笑いしているクロアさんの様子が伝わってくる……。

「ええと、遊びに来てくれて嬉しいです。いらっしゃい」

「馬鹿!遊びに来たわけじゃねえ!この……この、ふざけたたんぽぽをどうにかしろって言いに来たんだよ!」

ルスターさんはどうやら、たんぽぽが生えたからソレイラに遊びに来てくれたらしい。よかったよかった。一度くらい遊びに来てほしかったので、たんぽぽが生えたのは嬉しいことだ。まあ、僕にとっては、ということになるけれど。

「……ルスターさん、一体何をしたの?」

「はあ?こっちの台詞だよ!お前が何かしたから俺がこんなことになったんだろ!?」

「いや、契約には、ルスターさんが何かやらかしたらたんぽぽが生える、っていうようにしてあったと思うので……僕はあれ以来、特に何もしていないし、ということは、ルスターさんが何かやらかしたからこそ、たんぽぽが生えているんだと思うんだけれど……」

僕がそう言ってみると、ルスターさんは牢屋の中でちょっと首を傾げて、それに合わせてたんぽぽが、みょん、と動いた。それを見たレネが『たんぽっぽ……!』と目を輝かせている。レネはヒマワリとかたんぽぽとか、好きだよね。太陽みたいな花だからかな。

「別に、ソレイラを攻撃したとか、住民と接触しようとしたとか、そういうことはねえよ」

やがて、少し考えたルスターさんは、そう言って不貞腐れたような顔をした。

「えーと、じゃあ、たんぽぽが生える直前、何をしていたんだろうか」

「馬車を襲って積み荷を奪ってた」

……うん。

「それ、悪いことなのでは……?」

「ああ?文句あんのかよ。契約には盗みを禁じるような条項、なかっただろうが」

あ、そうか。ええと……うん。まあ、悪いことだけれど、契約には、そういう縛りは無かった、か。

『僕らの情報は一切他言無用』とか『二度と僕らに危害を加えない』とか、『カチカチ放火王に加担しない』とかが契約の条件で……いや、でも、ルスターさんの手の甲にたんぽぽ描きながら、『悪い事したらたんぽぽ生えますように』とは思った!まさかあれのせいだろうか!?

……うん。

「念のため、聞くのだけれど」

「おう」

「馬車の積み荷って、なんだった?」

「あ?宝石類だな。金も銀も、たんまりあったぜ」

……宝石。

「どこの馬車から盗ったの?」

「王都の貴族の家から出た馬車だな。金目のもの運んでる風だったからな。遠慮なく襲わせてもらった」

……王都の貴族の。

「ええと……その宝石、持ってきました?」

「あ?」

「出して。すぐ、出して!」

「は?お、おう……ソレイラに入る前に隠してきたからここにはねえよ」

「じゃあ今すぐそこまで案内して!」

「は?な、なんだよ、おい……」

「急がなきゃたんぽぽ増やすぞ!」

「ふざけんな!増やされてたまるかよ!つーか、さっさとこれ、消せよ!おい!あと、あいつは同席させるなよ!?分かってんだろうな!」

ルスターさんには悪いけれど、これ、ものすごく急がなきゃいけない奴だと思う!

だって……だって、多分、ルスターさんが破った契約は、『カチカチ放火王に加担しない』の部分なんだ。多分……彼が盗んで運んできた宝石類って、その中に、カチカチ放火王の封印の宝石が、入ってるんじゃないかなあ!

そして。

「ほ、本当にあった……」

「嘘ぉ……」

「……俺ですら、これを見て普通の宝石だとは思わんのだがな」

「いや、ガラス玉と宝石の区別すらつかねえ奴に普通の宝石と封印の宝石の区別はつかねえんだろ……」

……ルスターさんが案内してくれた隠し場所には、金銀財宝と、それに紛れた封印の宝石があった。僕は慌てて、宝石にたんぽぽを生やし始める。危ない、危ない。

「それにしても、他のも結構なすげえお宝だな。出どころは……ええと、どこだ?」

「知るかよ。俺はただ馬車から盗っただけなんだからよ」

「おおお、盗み以外できねえっていう評判は本当なんだなあ、お前……。じゃあ、帰ったらクロアさんに聞いてみっか」

フェイは他の宝石を検分しながら、そんなことを言って、ふう、とため息を吐いて……。

「ま、とりあえず、お手柄だ!よくやったな、ルスター!」

「うるせえ、慣れ慣れしくするなよ、お貴族様風情が!」

「いーじゃねえか、硬いこと言うなよお!世界の平和に貢献した同士じゃねえか!」

「はあ!?せ、世界の平和ぁ!?そんなもんに勝手に貢献させんな!」

……まあ、これをソレイラ近郊に運び込んだ時点で『カチカチ放火王に加担する』っていう条件に抵触したみたいだし、そういう意味では世界の崩壊に加担しているわけだけれど……でも、ルスターさんのおかげで、無事、最後の封印を見つけることができた!

ありがとう、ルスターさん!あなたが宝石と封印の区別がつかない人で、あと、たんぽぽが頭に生えている状態に耐えられずにソレイラへ来ちゃう人で、本当に良かった!大手柄!大手柄だよ!

お礼の気持ちを込めて、ルスターさんのたんぽぽはちゃんと消した。髪の毛も戻した。

そうこうしている内に夜が明けてしまったので、朝ご飯を食べることにした。……ただ、ルスターさんはクロアさんには会いたくないみたいだったから、彼の分は別に分けて渡すことにした。

それから……ルスターさんが盗んできた宝石一式の出どころを、クロアさんが探ることになった。そうすると、アージェントさんに与する貴族が自然と分かるだろう、っていうことで。

ただ……まあ、それってつまり、ルスターさんが盗ってきた宝石を、彼から取り上げてしまうことになるので。当然、ルスターさんからは大いに反対されたんだけれど、その分、僕が描いて出したやつを幾つかあげることで、ルスターさんには黙ってもらうことにした。

紅茶缶からざらざら宝石を出して、好きなやつ選んでいいよ、ってやったのだけれど、ルスターさん、ものすごく気が抜けた顔をしていた。まあ、気が抜けてくれる分には、いいかんじ……。

……とやっている内に、ルスターさんはソレイラを出ていくことにしたらしい。

「もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」

クロアさんの実家へのお土産っていうことで、妖精洋菓子店の焼き菓子の大きな紙袋を渡しつつ別れを惜しむ。ついでに妖精おやつ券もつけちゃった。

ルスターさんのこと、僕はそんなに嫌じゃないものだから、ちょっと別れが惜しい。クロアさんと会いたがらないっていうことは彼女に危害を加える気も無いってことだろうし、何と言っても封印の宝石を運んできてくれたし。

「また遊びにきてね」

「二度と来ねえよ!」

ルスターさんはそんなことを言いながら、けれどしっかり妖精洋菓子店の袋は持った状態で、ちゃんと妖精おやつ券と紅茶缶の宝石も持って、ソレイラから出ていった。

……また来てくれるといいなあ。