軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23話:聞きそこなった質問*2

……そうして、6つ目の封印も、無事、処理が終わってしまった。

カチカチ放火王はレッドドラゴンに踏み潰されて消えてしまったので、色々と聞き損なった。『奴』のことも、『外の世界』のことも、聞きたかったんだけれどな。……いや、聞いても答えてくれないような気もするけれどさ。

「さて、いよいよ次が最後の封印だなあ……気合入れていこうぜ!」

フェイの声に反応して、鳥が、キョキョン、キョキョン、と騒ぐ。フェイは『おお、気合入ってんなあ!』と笑っているけれど、多分、違うよ。これはきっと、『次こそは自分がカチカチ放火王を踏み潰す』という意思表明だよ。

「正直なところ、グリンガルの魔導士の幽霊の方が厄介だったわね」

「……そう言ってやるな。奴は短い時間だったとはいえ、封印の宝石にたんぽぽを生やされていたんだぞ」

「一方、あの幽霊は幽霊になれる程度には魔力が元々多かったってことだろ?その上、魔力と意思だけ残って幽霊になった後にも魔力をちびちび蓄え続けてきた奴だったんだろうしなあ。いや、強くて当然だぜ、あんなの」

なんというか、カチカチ放火王が聞いたら怒りそうな話がされている。いや、カチカチ放火王、今回も強かったと思うよ……。少なくとも、フェイにぷちっとやられてしまうんじゃなくて、レッドドラゴンにどすんとやられるくらいには、強かったと思う……。

とりあえず、怪我人は鳳凰か僕の治療を受けてもらって、ちょっと休憩。帰宅はもうちょっと後で。

僕らはグリンガルの精霊様おすすめの休憩スポットにお邪魔して、そこでのんびり、木漏れ日を浴びている。

……精霊様のおすすめだけあって、とても居心地のいい場所だった。

大きな木数本に囲まれた小さな広場のような場所で、小さな泉と色とりどりの花を有する天然の庭園、といったかんじ。下草は細くて柔らかくて、絨毯みたいな感触。あんまり柔らかい草だから靴のまま上がるのが申し訳なくて、僕は裸足でいる。足に草がちょっとくすぐったい。

そこで僕らは揃ってのんびりしながら、ちょっと話す。

「最後の封印が処理されたら、いよいよカチカチ放火王が本当に復活してしまうんだよね」

「そういうことになるなあ、多分。……多分、だけどな?」

うん。確かなことは言えないけれど、まあ、概ねそうなるんだと思うよ。

「……ま、ある意味、よかったかもなあ。ルギュロスが封印を解きやがった時にはどうしてくれよう、って思ったけどよ。未来にカチカチ放火王を残しておくよりは、ここで処理しちまった方がいい気がする」

「そうかもね」

フェイのポジティブシンキングは見習いたいものがある。そうだね。嫌なことを後回しにしても解決にはならないので……うん。思うところは色々あるけれど、今回はこれでよかったんだって思うことにしよう。

「それに、それぞれの封印から、相当に魔力は吸ってやってる。最悪の状況じゃあねえよ」

「……どんな状態で出てくるんだろうね、カチカチ放火王」

「まあ……ソレイラと琥珀の池ではほとんど魔力を吸わずに出しちまってるから……ソレイラの2倍ぐらいは、力を出してくるんじゃねえかな、とは思うけどな」

ソレイラの2倍、か。……自分が焼けてしまった時の記憶はまだ、新しい。あれの2倍となると……想像したくない。

「そうねえ……被害をできるだけ抑えるためには、ルギュロスをもう一度、捕まえてみるのもいいかもね」

クロアさんも同じく『想像したくない』みたいな顔をしつつ、そう言った。

「封印を解いたのはきっと、ルギュロスの魔法でしょう?なら、その魔法を分析することで、もうちょっと何か、分かるかもしれないし。カチカチ放火王の一部を封印して戦えるなら、私達に有利だし。その辺りを狙いたいわね……」

「となると、次はアージェント領行きか?」

「んー……それは親父とかラージュ姫と相談して決めてえけどな。うん。王城の様子もまた聞きに行くとするかあ……」

ひとまず、今後の方針がなんとなく固まる。

次が最後の封印だ。それが終わったら、いよいよ最終決戦だ。

それに向けて、少しでも安全な道を通れるように、今から整備しておかなきゃいけない。

「それにしても、なーんで、火なんだろうなあ、カチカチ放火王……」

今後の方針も固まってきたところで、フェイがふと、そんなことを言う。

「なんかこう、物語の『魔王』ってよお、もっと、闇の力を持った存在、とか、そういうこと、多いじゃねえか」

そうなの?……確かに、闇の力を持った魔王なら森に居るけれど。多分、今日も元気にまおーんと鳴いている。

「それが、火だもんなあ……確かに、森を焼いたりしてるからよお、火って、破壊力抜群なんだけどよお……なーんか、『魔王』ってかんじ、しねえよなあ」

そう言われると、森に住んでいるうちの魔王も、魔王っていうかんじはしない。魔王とは一体何なのか。

「……下手な闇よりは炎の方が迷惑な存在だが」

「あー、まあ、そんなとこかねえ……」

成程なあ、森が焼けて本当に迷惑したしなあ、なんて言いながらフェイは草原に寝っ転がる。僕も真似して寝っ転がってみたら、グリンガルの精霊様が僕のお腹の上にするするやってきて、ちょこん、と居座り始めた。……寝心地は保証しませんけれど、僕のお腹でよければどうぞ。

「……んー、くそ、なんか眠くなってきたなあ……」

「色々あったものねえ。どうする?お昼寝するなら、もうしばらく居てもいいわよ。どうせ今日中にレッドガルドへ向けて出発するのは難しいもの。宿にさえ帰りつければそれでいいわ」

「じゃあそうすっかなあ……ここ、気持ちいいなあー」

そうしてフェイが昼寝することにしたらしいので、僕も早速、昼寝を始める。僕が寝ようとすると、グリンガルの精霊様も一緒になって目を閉じた。

うん。色々あったので、ちょっと休憩。涼しい風と優しい木漏れ日に包まれながら森の中でする昼寝って、贅沢だなあ。

……つくづく、この森が燃えなくて、本当に良かった。

目が覚めたら夕方だった。

僕らは慌てて撤収。精霊様に別れを告げたら名残惜し気に巻き付かれてそのままぱたぱたとどこかへ飛んで僕を運んでいこうとされたので、それはラオクレスに止めてもらって……僕らは改めて、グリンガル東部の宿へ帰る。

宿で一泊したら、今度こそレッドガルド領へ帰る。夕方には森に帰りつくことができて一安心。

森に帰ったらリアンとアンジェとカーネリアちゃんに出迎えられて、それからライラと情報共有。こんなことがありましたよ、という話をして、一段落したところでライラが淹れてくれたお茶で一服。はあ、落ち着く。

「やっぱり他所の森と自分の森は違うなあ。自分に自分が帰ってきた安心感……」

「……ちょっと、トウゴ。しみじみと人間離れした感想、言わないでくれる?」

ライラにはなんだかじっとりした目で見られてしまったけれど、今の気分はそんなかんじなんだよ……。

レッドガルドの森に居るっていうこともそうだけれど、ライラのお茶もいい。ライラが淹れてくれるお茶は、大抵、ちょっと渋くて、でも口残りが甘い、というか。……ライラみたいなお茶だなあ、と、よく思う。僕はこれ、好きだよ。

「それにしても、クロアさん、恋人がいたのね。まあ、あれだけ綺麗な人なんだものね。恋人の1人や2人、居るか」

「うん」

既にフラれて久しい恋人だったけれどね、ルスターさんは。

まあ……クロアさんなら、とんでもない恋愛遍歴を持っていたとしても、全く不思議じゃない。むしろ、それはそれで魅力的というか……説得力があるというか。

「……ね、ねえ、トウゴ」

「うん?」

そんなことを考えていたら、ライラが妙に居住まいを正して、僕の方を見ていた。

「あんたはさ、その……『恐怖』っていうの?感じたこと、あるの?」

「ええー……?」

それ、僕に聞きますか?という気持ちを込めてライラを見つめ返してみると、『なんか悪いの?』みたいな開き直った目で見つめ返された。うう、ライラは強い。

「……情けないようだけれど」

「……うん」

隠すことじゃないしなあ、情けないけれど、と思いつつ、やっぱり情けないからちょっと言うの抵抗あるなあ、と思いつつ……でも、話す。

「僕、そういう経験が、無いので……分かりません」

「……ま、そんなかんじ、するわよね」

途端、ライラは気の抜けたような、緊張が切れたような、そんな顔をして呆れたような声を出した。聞いておいてその反応は酷いのではないだろうか。

「あんたのこと好きな子とか、居なかったわけ?居そうだけど……いや、あんたのことだし、居たとしても気づかないか」

いや、本当に無いと思うよ。……お世辞くらいなら言われたこと、あるけど。でも、それぐらいっていうか……『上空君って可愛いよね!』『分かる分かる!綺麗な顔ってああいうことだよね!』『横顔見たら、睫毛長くてびっくりした!』……みたいなのは、絶対に何かが違うって僕は思っています。少なくとも、男として僕のことを好きとかそういう話ではないんだ、どうせ!だから彼女達は、文化祭で僕に女の子の服を着せようとするんだ!

「ライラは?そういうの、ある?」

「へ!?私!?」

やられたらやり返す、の精神でライラに聞き返してみると、ライラはなんだか焦ったような顔でわたわたして、考えながら喋る。

「そ、そうねえ……恐怖……あ!恐怖、あった!あったわ!」

なんだか妙にどきどきしつつ、ライラの言葉の続きを待つ。ライラは何かを思い出すようにしながら、また喋る。

「ほら、貴族の家を転々としてたじゃない、私。……そうしたら、まあ、その……依頼主から、いきなり、好きだって言われたことは、あるわよ」

……わあ。

「あれは結構、ビビったわね。そうねえ、そういう意味では恐怖だったかも。なにせ突然だったし、話す機会があったって言っても、本当にちょっとだけだしさ。一体私のどこを好きになったのよ、ってかんじで」

それは……ええと、確かに、怖い、だろうなあ。うーん、ええと多分、ちょっと僕が想定していた奴じゃないんだけれど、でも……まあ、確かに、恐怖、か。うん。恐怖だなあ。

「それ、結局どうなったの?」

「どうもならなかったわよ。2日後ぐらいにはもう、その家での依頼を終わらせちゃったから、まあ、なあなあになっちゃった。私はそれ以来、その家に呼ばれなかったしさ。向こうだって身分違いの恋なんてする利点が無いし、親御さんに止められるだろうしね」

そっか。ふーん……。

「大体さあ、絵の影武者やらせてる相手に愛の告白をするのって、どうなのよ」

「……結構失礼だと思う」

「そうよね!?いや、私もそうだと思ってた!あー、全く!腹立つったらありゃしない!」

ライラは怒っている。まあ、怒るよね。

彼女の絵描きとしての才能を買い叩いていいように利用して、その上で、その、好きだ、なんて、流石に虫が良すぎる。……相手も複雑な感情があったのかもしれないけれどさ。

「……あの、参考までに、聞きたいんだけれど」

「な、何よ」

「それ、どこのお家?」

……聞いてみたら、ライラはあっさり教えてくれた。王都の外れの方にある小さな貴族の家だった。場所としては、クロアさんの『お父様』の家の近く。

「あんたさあ、もし近場まで行くことがあったら、あいつの家の庭、全面ねこじゃらしとかにしてやってよ」

「うん。分かった」

「えへへ。絶対面白いわぁ……」

ということで、僕とライラでちょっとした悪戯の話なんかしつつ、のんびり過ごす。

……明日、ラージュ姫がソレイラに来てくれることになっている。僕らはラージュ姫と現在の進捗を報告し合って、それから最後の封印を探しに行く予定。

なので、それまではのんびりする。僕はライラに報告がてら、旅先での絵を見せようとスケッチブックを持ってきているわけだし、クロアさんはラオクレスが持ってる夜の国のお酒(タルクさんから以前貰った奴だってさ)をご馳走してもらうって言っていた。ということはどうせラオクレスも酒盛り。

だからまあ、折角だし、ゆっくりライラと話しながら、ねこじゃらしを描く練習でもしてみようかな。

……あ。

そういえば、ライラに、『そういう恐怖じゃないやつは?』っていうのは、聞きそびれた。

……まあ、いいか。

うん。今はねこじゃらしの方が先決……。

「……トウゴぉ。それだと質感がちょっとふわふわすぎない?」

「ライラのは、大分ツンツンしてない?」

ほら、ねこじゃらしって、意外と難しいし。うーん、描きごたえがある……。