作品タイトル不明
11話:泥棒に花束を*3
「……これはどういうことだ。おい、クロア」
「ええ……うーん、そうねえ……」
クロアさんもちょっと困った様子なのだけれど、この絵の読解ができるのは間違いなくクロアさんだけだ。お願いします!
「……とりあえず、この『蛇の像』って、グリンガルの魔導士の家、だと思うのよね」
やがて、しばらく考えたクロアさんは、そう、考えを組み立てながら話すようにぽつぽつと、言葉を発し始めた。
「蛇の像は、グリンガルの領主に仕えていた魔導士の紋章なんですって。魔導士の家にはこの、蛇の像が建っているのよ。私も見に行ったことがあるからそれは確か。そこの地下にあった宝石を、お父様が手に入れた、っていう話は知っていたから、それで今回、あなた達をお父様のところへ案内したわけなのだけれど」
成程。そういうことか。そうだよね。クロアさんの実家、蛇の像は無かったし。
……つくづく、クロアさんが『お父様』と色々な話をする程度に仲良しでよかった。そうじゃなきゃ、絶対に辿り着けなかったと思う。
「でも……これってもしかして、同じ場所に2つ目の封印があった、っていうこと、かしら?」
「だとしたらもう持ち出されているんじゃないだろうか。ええと、魔導士の一家が絶えてしまった後、グリンガルの領主の人が宝石とかを持ち出したって、『お父様』が言っていたけれど」
「……お父様のことをトウゴ君が『お父様』って言っていると、その、ちょっと不思議なかんじね……」
しょ、しょうがないじゃないか。僕、あの人の名前、知らないんだから。……多分、知らない方がいいから教えてもらえなかったんだろうなあ、ということは分かっているから、文句は言わないけれどさ。
「まあ、そうね。順当に考えるならグリンガル領主の家を漁るのが一番かしら。或いはもう一度お父様に相談しに行ってもいいけれど……いえ、そうするとそれはそれで面倒になりそうだわ。あの人、グリンガル領主に何か圧力をかけたことがありそうだし……」
……うん。僕もそう思う。あの人、頼りになる人だと思うけれど、あんまり頼っちゃいけない人だとも思う。少し、怖い人だ。
「じゃあ、次はグリンガルに探りを入れてみる、っていうことでいいかしら。フェイ君にもついてきてもらって、封印探知機で地道にやりましょう」
ということで、僕らの方針が大体決まる。とりあえず動くための指標があるっていうのはいいよね。
ということで、その日と更に翌日の2日間はとりあえず、ぐっすり寝てしっかり休んだ。王都から帰ってきてすぐ出発、っていうのは、体力が持たない。
ラオクレスなんかは連日の移動になっても大丈夫そうな顔をしているけれど、彼だって疲れが無いっていうわけじゃないだろうし。ちゃんと休める時に休んでおくべきだと思うので、しっかり休憩。
……なので、その2日間、僕はのんびりスケッチして過ごしたし、クロアさんはお家でのんびりしていたらしいし、ラオクレスは……ちょっと覗きに行ったら、北側の窓辺に苔玉を飾って、霧吹きで水をやりながら満足気に眺めていた。そっか。気に入ってくれたんだなあ、苔玉。ちょっと嬉しい。
そうして一日ゆっくりしたら、翌日。
「じゃあ、行ってきます」
「はいはい。行ってらっしゃーい。グリンガルのお土産、楽しみにしてるからねー」
「良い画材があったら持って帰ってくるよ」
「別に画材に限らなくったっていいわよ!」
そうだろうか。何だかんだ、ライラが一番喜ぶのは画材のような気がするけれど。まあいいや。
僕らはライラ達に挨拶して、僕とフェイとラオクレス、そしてクロアさんの4人で出発。グリンガルの領主の人に、封印の宝石持ってませんか、とやりに行くわけなのだけれど……。
「ま、近くにあればこれが反応するからな!領主が隠し持っていたって、しらばっくれることはできねえ!」
「ふふ。場所さえ分かっちゃえばこっちのものだものね。最悪の場合は盗みに入ってやるわ」
……まあ、この通り、ものすごくやる気の人達が居るので……封印の宝石が見つからないとか手に入らないとか、そういうことは無いんじゃないかと思う。そこは安心。
「可能な限り交渉でなんとかしろ。盗むのは最終手段だ」
「当然ね。分かってるわよ。まあ、あの領主相手だと盗んでやった方が気分がいいでしょうけれど……」
けれど、できれば領主の人と交渉してなんとかしたいところではある。……まあ、グリンガル領主の人がクロアさんの『お父様』に見つからないような隠し方をして封印の宝石を持っているのだとしたら、それって相当上手に隠してあるっていうことで……交渉しても駄目かもしれないけれど。まあ、やるだけはやってみよう。
グリンガル領は、王都の西に位置する領地だ。王都を中心にすると、レッドガルド領が5時から6時ぐらいまでの方にあって、一方、グリンガルは9時のあたり、っていうことになるだろうか。ちなみに11時から2時ぐらいまでがアージェントで、3時の方にオースカイアがある。ジオレンは4時ぐらいだろうか。
……というだけなら、グリンガルまでの距離は王都までの距離とそう大きくは変わらない、ということになるのだけれど……領地って、綺麗にきっちり円や正方形でできている訳じゃなくて、歪んだ部分も伸びた部分もあるわけだ。なので実際の距離としては、正直、アージェント領までと大して変わらない。間で一泊したい距離だ。
道中、グリンガル領について多少知っているフェイとラオクレス、割とよく知っているらしいクロアさんから話を聞いて、ひとまず、『グリンガル領は他の領地と比べて森が多め』ぐらいの知識は仕入れた。つまり、雰囲気がちょっとだけレッドガルド領。
そんな話を聞きつつ僕らは朝から夕方まで移動を続けて、グリンガル領の端っこに到着。今日はここで一泊。
「長旅になるわねえ。トウゴ君、大丈夫?」
宿について荷物を下ろして、クロアさんは早速、僕を気遣うように顔を覗き込んでくる。
「大丈夫。2日間、しっかり休ませてもらったし、僕だって体力がそんなに無い訳じゃないんだよ」
「それもそうね。でも、もし疲れたら遠慮なく言って頂戴ね」
うん。遠慮はしない。無理もしない。それは大丈夫だ。何かあったらすぐに言う。
「……なー、クロアさん」
僕とクロアさんが話していたら、宿の部屋の中を見ていたフェイが、訝し気な顔で、やってきた。
「どうしたの?」
「……なんか、部屋が2つしかねえんだけど、これ、つまり俺とトウゴとラオクレスで1部屋か?あと、なんか、ベッドが滅茶苦茶にでけえの1個なんだけど……」
……あっ。成程。
「ああ、違うわ。私とラオクレスとトウゴ君で1部屋。一応何があるか分からないから、トウゴ君を挟んで寝ようと思って」
「まじかあ」
まじなんだよ。……僕としてもちょっと恥ずかしいのだけれど、恐ろしいことに、クロアさんもラオクレスも、その案に非常に積極的なんだよ。
「……あら、でもよくよく考えたらフェイ君だって狙われる可能性が十分にあるわね?」
「貴族の子弟、それもレッドドラゴンを所有する男だ。トウゴ以上に狙われる可能性もある」
「へ?」
……積極的なクロアさんとラオクレスは、2人で何か話して……そして。
「4人で寝ましょうか」
こういう結論に至った。……いいのかなあ。
流石に、いくら大きなベッドとはいえ、4人で寝るのは難しい。
……ということで、もう一部屋のベッドをラオクレスとアリコーンが運んで、ベッド2つをくっつけて、4人がすっぽり眠れるような大きな寝床が出来上がった。
その後、夕食を食べに外に出て、美味しいご飯でお腹いっぱいになって、順番にお風呂に入って身支度を整える。……ちなみに、お風呂の順番は、クロアさん、僕、フェイ、ラオクレス。クロアさん曰く、『男臭くない順にしましょう』とのことだった。複雑な気持ち……。
そうして僕らはベッドに入る。クロアさん、僕、フェイ、ラオクレスの順。……両脇はクロアさんとラオクレスがいいね、ということで、それからフェイが『クロアさんと隣だと流石に落ち着かねえ!』と主張したため、この並び。僕、またクロアさんの抱き枕にされやしないだろうか。心配。
「……意外と、狭くて落ち着くなあ」
こういう就寝初体験らしいフェイは、僕とラオクレスの間で『おおー……』と感嘆の声を上げている。
「騎士見習いの合宿とか、こういう雰囲気らしいよな?なあ、ラオクレス。やっぱこんなかんじなのか?」
「騎士の人数が多いところならそうだろうな。当時のゴルダにはそれほど騎士も騎士見習いも多くなかったからな、一部屋にベッドが4つある所に寝泊りしていたくらいだ」
「おおー!ということは、寝る前に皆でなんか話したりしてたんだよな!?」
「まあ、そうだな。くだらない話ばかりだったが」
「猥談とか!?」
「……想像に任せるが」
珍しく苦笑いのラオクレスと、目をきらきらさせて眠りそうにない顔のフェイ。うーん、楽しそうだ。……フェイはこういうの、やったことが無かったらしいから、まあ……よかったね、ということで。
その後、ちょっと興奮気味のフェイとベッドの中で話している内に段々眠くなってきてしまって、多分、僕が最初に寝てしまった。……どうしていつも最初に寝ちゃうんだろうか。もしかして、クロアさん辺りがこっそり僕を寝かしつける魔法とかを使っているんだろうか。
……それはさて置き、また、僕が起きたら明け方だった。今度こそクロアさんの抱き枕にされないように、そっと、そっと、ベッドから抜け出す。
窓の傍まで歩いていって、そこからぼんやり、明け方の外の景色を眺める。
グリンガルは緑の多い領地だ。つまり、未開拓の土地が他の領地よりも多い、ということなんだろうけれど。あ、勿論、レッドガルド領はまた別だ。多分、この国にレッドガルド領よりも森が多く残っているところは無いんじゃないかな。流石に……。
……景色を見ながら、僕は思う。行きの道中で教えてもらった話だ。
このグリンガルに森が多い理由。それは……森を拓こうとしたら、事故ばかりが起きて全然開拓が進まないから、ということらしい。
「……もしかして、グリンガルの精霊様が居たりするのかな」
森の精霊がグリンガルの森にも居るんだとしたら、ご同輩だ。是非、仲良くなりたい。けれど……。
……気難しい精霊だったら、嫌だなあ。事故とか起こすような精霊なんだったら、やっぱり、ちょっと気難しいんだろうか。うーん。
窓辺で景色を眺めていたら、ほんのり肌寒くなってきた。もう秋なものだから、明け方の窓辺に寝間着で居たら、ちょっと寒い。
このまま着替えてもいいのだけれど、まだ他の3人が寝ているらしいので……僕はそっと、ベッドに戻ることにした。だってここが一番あったかい。
する、と、フェイとクロアさんの間に滑り込んで、毛布を被ると、自分の体温の残りがまだそこでぬくもっていて、格別の居心地。
ここからグリンガルの領主の人の居る町までは、半日程度の道らしい。だから、今朝は少しゆっくり出発、ということになっているから……よし。
僕は、二度寝を決め込んだ。
……ベッドの中で目が覚めてすぐもう一度寝てしまうタイプの二度目も好きだけれど、僕は、一回ベッドから出た後にもう一回ベッドに戻って寝るタイプの二度寝が特別好きなんだ。特に、秋から冬にかけては。
ということで、おやすみなさい……。
たっぷり二度寝して、太陽がしっかり顔を出してから二回目の目覚め。その頃にはもうラオクレスが起きて身支度を始めていて、クロアさんがもそもそ起きかけては寝ぼけて僕を抱き枕にしようとしていて、そしてフェイは見事に寝ていた。……この中だと一番よく寝るのがフェイ。成程。
クロアさんには抱き枕は遠慮してもらって、僕もベッドから抜け出しつつ、クロアさんが毛布を抱きしめてむにゅむにゅ言っているのを眺めつつ、朝の光の中、ベッドで微睡むクロアさんって綺麗だなあ、と思って早速描きつつ、フェイの足の裏をくすぐって起こしつつ……僕らの朝が始まる。おはよう。
朝ご飯は宿で出るタイプだったので、宿の食堂で頂く。野菜やベーコンと一緒に煮込んだ麦のお粥みたいな奴と果物。これが中々美味しかった。
ご飯を食べたら早速出発。グリンガルの中心の町へ、また、召喚獣の旅になる。
「本当に森が多いね」
空から地上を見下ろすと、たくさんの緑が目に入る。グリンガルは緑の多い土地だと聞いていたけれど、それは本当なんだなあ、というかんじだ。
「精霊、居るだろうか」
「どうだろうな。グリンガルの森に精霊が居るという話は聞いたことが無いが……」
「まあ、それを言ったらレッドガルドにだって精霊が居るって信じてねえ奴ら、多かったぜ?実際はいたけどな。想像とは違う、でっけえのが」
うん。鳥は……多分、多くの人達が想像する『精霊』の像からはかけ離れていると思うよ。僕だってあいつが精霊だって思わなかった。なんか変な鳥だなあ、とは思っていたけれど。
「案外、居るかもね。……いらっしゃったら、お話を聞けるかしら」
「そうだね。ゴルダの精霊様にも封印の宝石探しを手伝ってもらったし、グリンガルに精霊様が居たらまた手伝ってもらえるかもしれない」
「友好的な精霊だといいけどなあ。せめて、友好的じゃなくてもいいから、お前ぐらい話しやすい奴だといいなあ……」
……それは、まあ、うん。
僕、今までに出会った精霊が、鳥とゴルダの精霊様ぐらいだから……友好的じゃない精霊というものを知らない。(鳥の場合は友好的というかんじでもないけれど、少なくともあいつ、敵意は無い。)
うーん……もし敵意があるような精霊が住んでいるとしたら、それは、精霊が居ないよりも厄介、なのかもしれない。
だから、居るとしたら友好的な精霊様でお願いします、ということで。うん……。
グリンガルの空を飛んで、途中でお弁当を食べて、そして夕方。僕らはようやく、グリンガルの中心の町へ到着した。
「一応、領主様には手紙を出してあるからな。手紙はもう届いてると思うから、明日の朝、すぐ会えると思うぜ」
流石に抜かりの無いフェイはそう言ってにやりと笑う。頼りになる親友だなあ。
「ってことで、さっさと休もうぜ。流石にちょっとくたびれちまった」
フェイはそう言って、ふわ、と欠伸をする。空を飛ぶ召喚獣での旅は、自分の脚で歩くよりも、地を走る馬に乗るよりも、ずっと楽で速い旅路ではあるのだけれど……風を切って飛ぶわけだし、緊張もするし、まあ、疲れる。特に、半日ずっと空を飛びっぱなしだったりすると、余計に。
「俺、グリンガルには詳しくねえんだけどさ。いい宿、知ってるか?」
「そうね。なら、私が泊まったことのある所にしましょうか。確か大きな部屋もあったと思うし……」
「……また4人並んで寝るのか」
「おっ!いいねいいね!俺はあれ、好きだぜ!なんか楽しくていいよなあ」
ということで僕らは早速、宿に向かって歩き始めた。
……のだけれど。
「……あ、あら?」
クロアさんはちょっと素っ頓狂な声を上げて、それから、僕とフェイの襟を掴んで、さっ、と路地裏に引っ張り込んだ。こういう時は何かある時なので、僕は抵抗せず、大人しく協力的に引っ張られる。フェイはちょっと慌てていたけれど、ラオクレスがフェイを押し込んで、路地裏の入り口に蓋をするように陣取る。
「どうした」
「ええとね……」
クロアさんは僕とフェイの襟から手を離して、ついでに僕の襟をちょっと直してくれつつ、頭の痛そうな顔をした。
「……奴が居たわ」
「……何?」
ラオクレスが片眉を上げて訝しむと、クロアさんは今度こそ、深々とため息を吐いた。
「ルスターが居たわ。……あいつ、どうしてここに居るのかしら」
……どうやら。
僕の部屋からガラス玉を盗み出したあの人が、この町に居るらしい。何の用事だろうか……。