作品タイトル不明
14話:妖精の国*6
そうして、ローゼスさんとサフィールさんが出陣していった。ものすごく楽しそうに。
「……ローゼスさん、もうちょっと大人しいタイプかと思っていた。フェイみたいに行動力があるっていうよりは物腰柔らかなかんじだし、フェイのお父さんみたいな切れ味の鋭さっていうか、どっしりしたかんじっていうか、そういうのはあんまり感じないし……」
「おう。まあ、兄貴は確かに俺より頭いいし大人しいし、でも威厳があるってかんじでもねえしな。……けど、兄貴は兄貴で、ちゃんとレッドガルドだぜ!」
うん。今、それを実感している。
「私は実は、ローゼス君がこういう人っていうのはもう知ってたのよ。ほら、トウゴ君が寝てる間、レッドガルド家の秘書紛いのことをやっていたから、その時に色々お話しする機会があってね?」
一方、クロアさんはもうちょっとローゼスさんに詳しかった。ちょっと悔しい。
「……ただ、なんというか、彼、楽しそうね」
「……うん」
「まあなー、兄貴、いっつも俺に『ずるいぞフェイ!私だって面白いことやりたい!』って言ってたからなあ……今回は正に、本領発揮、っていうところで、まあ、余計に張り切ってるよなあ……」
成程。確かにローゼスさんも、レッドガルドの子。
そうしてローゼスさんとサフィールさんの2人組が女王様を篭絡しに行って、30分くらい。
「じゃあ、そろそろ俺達も行くか」
リアンが、よっこいしょ、と立ち上がる。そこにカーネリアちゃんとアンジェがくっついて、にこにこ、やる気に満ち溢れた笑顔だ。
そこに僕も加わって……よし。
「えーと……じゃあ、行ってきます」
「ええ。皆、気を付けていってらっしゃいね」
……そうして、僕らは子供達とたくさんの妖精に囲まれながら、妖精の城の方へと向かう。
歩き始めて数歩で僕は気づいた。
「……お散歩、っていう言葉が似合ってしまう」
妖精達とアンジェとカーネリアちゃんの楽し気な様子といい、咲き乱れる花々といい、ぽかぽかとしながら暑くはない程良い気候といい。非常に、お散歩日和。
「緊張感ねえな」
「うん……」
目の前に見えてきた城では、今頃、ローゼスさんとサフィールさんが楽しくやっているんだろう。なので余計に、僕らに緊張感は無い!
妖精の城は、素敵な造形をしていた。
白い石材でできた城にたっぷりの蔓草や花や木が絡みついて、城自体が1つの巨大な植物のようにも見える。
特に、大きな大きな木。それが一本、城の一部を突き抜けながら伸びているのだけれど……その木の幹に窓が付いていたり、階段がついていたり、ドアが付いていたり。あの木も建物の一部、っていうことらしい。
他にも、城に絡みついた花の蕾がぼんやり光って照明の役割を果たしていたり、ぶら下がった蔓がそのまま吊り橋に加工されていたり。このように、妖精の城は植物をそのまま建築に生かした、非常に面白い造りをしている。
「わあ!すごいわ!あの妖精さん、お花の中でお昼寝してるわ!図鑑の挿絵みたい!」
「見て。見て。あの子、お花の蜜たべてる!」
「うわ、花から水が出て池になって川になってる……あれ、どうなってんだろうな。ゴルダの精霊様もああいうかんじのことしてたっけ?」
「あの時は毒の処理だったけれど……あ。川に妖精が流されてる。大丈夫だろうか……」
そして、そこで暮らす妖精達も、植物を大いに利用しながら生活しているらしい。城門らしい、苔むした古い大木のアーチを潜ってからは、妖精達と植物の不思議な生活の模様をひたすら眺めながら歩く。こういうのって、見ているとつい、わくわくしてきてしまうよね。
白いタイルで舗装された道を進んで、透き通って煌めく水の小川を、水晶みたいな石でできた飛び石を踏んで越えて、庭らしい場所の見事な花に見惚れながら更に進んで……そして。
妖精達に案内されて、僕らは妖精の城の裏口からこっそりと城内に入ることになった。お邪魔します。
僕らが城内に入ると、城の中をぱたぱた飛んでいた妖精達が、一斉に僕らを見る。……そして僕らを見るや否や、満面の笑みで飛んできて、僕らの指に、きゅ、と抱き着き始めた。多分、歓迎されている。
「こんにちは」
妖精式の握手には慣れたものだ。僕はそっと指を振って、妖精達と握手握手。
アンジェやリアンやカーネリアちゃんにくっつきに行った妖精達は、それはそれは楽しそうに彼らの周りを飛び回って、それを、僕らをずっと案内してきた妖精達にちょっと諫められている……ように見える。『この子達はただ遊びに来たわけではなく、妖精の国の危機を救うためにやってきたのだ』とか、そういう説明をしてくれているのかな。想像だけれど。
……そして、そんな中、僕に握手を求めてきた妖精達は……はた、と何かに気づいたように僕を見つめて……そして。
揃って、ぴゃっ、と悲鳴を上げて、飛び上がった。
「え、あの……」
妖精達の『ぴゃっ』は伝染するらしくて、他の妖精達も僕を見て、ぴゃっ。……あああ。
「あの、確かに僕は、レッドガルドの森の精霊なのだけれど……あの、ここへは妖精の国を助けに来たのと、カチカチ放火王の封印を処理しに来ただけなので、あの、そう畏まらずに……」
僕がそう言うと、妖精達は何事か囁き合って頷き合って……そろり、と、僕の指にまた抱き着いてきた。
「……トウゴ、人気だな」
「あ、うん。ありがたいことに……」
妖精達は代わる代わる僕と握手して、それから僕をじっと見つめたり、僕の周りを飛び回って羽を観察したりしている。まあ、物珍しいんだろうなあ。
ちなみに、こちらでも僕の羽は人気だった。ぱちぱちと小さな拍手を沢山いただいている。どうもどうも。
それから妖精達は、『連れてきた子供達と楽しく遊んでいる』みたいなふりをしながら、僕らをあちこちに案内してくれた。
……というのも、妖精達、『カチカチ放火王の封印を知らない?』とアンジェ伝いに聞いてみても、誰も知らなかったからだ。
「もしかすると新しい女王様のところに隠してあるのかもしれないね」
「ってことは、フェイ兄ちゃんの兄ちゃんとサフィールさんが先に見つけてるかもな」
うん。あの2人、今どうなってるだろうか。ものすごく気になるけれど、僕らは僕らで先に城の他の所を偵察してこなければ。
……ところで。
「ところでリアンって、フェイのことを『フェイ兄ちゃん』って呼ぶよね」
「え?あー、うん。王都の裏通りでは俺みたいなガキが集まって、なんとなく兄貴分と弟分ができるから。だから、その、ちょっと仲のいい年上の男は、皆、兄ちゃん」
成程。だから『フェイ兄ちゃんの兄ちゃん』というややこしい呼称が生まれるのか。
……ん?
「あの、リアン。僕、君に『トウゴ兄ちゃん』と呼ばれたことが無い気がする」
リアンはフェイとは仲がよくて僕とはそれほどでもない、っていうことなんだろうか。ずるいぞ!……と思って聞いてみたところ。
「そりゃ……。トウゴって、弟分、ってかんじだし。少なくとも兄貴分じゃねえから」
……なんだかすごい悪口を言われた気がする!
リアンの『トウゴは弟分』がちょっとショックだったのだけれど、気にせず探索を続けることにした。気にしていたらどんどん元気じゃなくなってしまうので、こういう時は気にしないように頑張るに限る。
「うわあ、綺麗ね……この花瓶……花瓶、なのかしら?花瓶が無い花瓶なのかしら?」
幸いにも、妖精の城には不思議なものが沢山あるので、気分を切り替えるにはピッタリだ。カーネリアちゃんが今見ているのは、花を生けた花瓶……から花瓶を消したようなオブジェ。ええと、要は、何も無いのに何故か形状を保っている水の塊の中に花が活けてある、というような。そういうやつ。
「……おい。おい、トウゴ!何描こうとしてるんだよ!」
「水がこういう風に観察できる機会はあまり無いので……」
容器に入っていないのにじっくり観察できる水ってすごく貴重なので、早速描く。いや、ほら。何かのヒントになるかもしれないし。
「見て!見て!トウゴ!こっちにも不思議なもの、あるわ!」
「本当だ。カーテンが溶けている……」
「あのね、このカーテン、風で作ったんだって。だから、空気にとけちゃうのよ」
花瓶の花瓶抜きオブジェを描き終わったら、次は風のカーテン。薄緑の布なんだけれど、裾の方が揺らめいて透けて、空気に溶けてしまっている。うーん、風の精みたいなかんじだ。
試しに風の精を出してみると、風の精はカーテンに親近感を覚えたらしく、早速、カーテンにじゃれつき始めた。妖精達は風の精を見て喜んでいる。妖精は風の精に親近感を覚えるらしい……。
「ほら。あんまり余所見ばっかりしてないでさ、ちゃんと探そうぜ」
「はーい。ほら、行きましょ、アンジェ」
「はあい。ええと、トウゴおにいちゃんも」
「あ、うん……」
……ということで、リアンがカーネリアちゃんの手を引いて歩いていって、カーネリアちゃんがアンジェの手を引いて歩いていって、アンジェが僕の手を引いて歩き始めたので、しょうがない。僕も先へ進むことにする。
色々解決したら、またこの城、描きに来たいなあ。
……さて。あちこち探索して、一通り城を見て回った僕らは、残念ながらカチカチ放火王の封印を見つけられずにいる。
「封印、無いわね……」
「そうだね。どこか、もっと深い場所に隠されているのかもしれない。なんとなく気配だけは感じるから。この城にある事は間違いなさそうだ」
きょろきょろ、と辺りを見回すカーネリアちゃんと妖精達を元気づけつつ、僕は感覚を研ぎ澄ます。
……この城は植物だらけだからか、ほんの少し、森っぽい。そういうわけで、この城は割と僕に好意的に接してくれて、おかげでこの城の中のものの気配は何となく、感じ取る事ができる。
そういうわけで、僕はこの城のどこかから、カチカチ放火王の気配を感じている。植物の根の絡み合った中にあるのかな。なんというか、深い場所、っていうようなイメージだ。ということは、地下、だろうか?
「このお城って地下室、ある?」
けれど、僕がそう聞いてみても、妖精達は顔を見合わせて首を傾げたり、首を横に振ったりするばかりだ。うーん……よっぽど変な場所にあるのかな。困ったな。
僕らが困っていると……ふと、妖精の一匹が、ぴょこん、と宙で跳ねた。
そして何かを妖精仲間達に話して、妖精達は一斉に、ふんふん、と頷く。……何だろう。
僕らが不思議に思いつつ妖精を見ていると、妖精達はアンジェに話しかけ始めた。アンジェもふんふん頷きながらそれを聞いて……ちょっと首を傾げつつ、僕らに通訳してくれる。
「あのね。地下しつ、あるかもしれない、って」
「あら!なら早速、そこへ行きましょ!そこにフワフワたんぽぽ王が居るのね!」
カーネリアちゃんが早速やる気を出したのだけれど、ええとちょっと待って。
「あるかもしれない、っていうのは……実際にあるかどうかは分からない、っていう事なのかな」
アンジェに確認してみると、アンジェは頷いて、答えてくれた。
「うわさがあるみたいなの。その、女王さまのおイスの後ろに、地下へ行く階段がある、って……」
……成程。ということは……。
「多分、今、女王様の部屋に、女王様とローゼスさんとサフィールさんが居るから……」
どうにかして、ローゼスさんとサフィールさんに、女王様を連れ出してもらわなければならない!