作品タイトル不明
10話:妖精の国*2
僕は妖精ではない。断固として妖精ではない。精霊ではあるけれど、妖精ではない!
……しかしそれはそれとして、助けを求める人……いや、助けを求める妖精が居るのなら、助けてあげたい、とは、思う。
けれどなあ……。
「カチカチ放火王の方もあるし……」
今は間が悪い、というか、なんというか。カチカチ放火王の方は次の封印を吸われないように対策しているらしいし、僕はすぐにでもそっちにとりかからなきゃいけない。
僕以外の皆も、それを考えているらしく、皆揃って、唸る。
……すると。
カタカタカタカタ、と、控えめに骨を鳴らしながら、骨の騎士団達がやってきた。そして、その手に持っていたスケッチブックを見せてくれるのだけれど。
「……えーと、高い塔と、花畑と、古いお城?あと、妖精がたくさん飛んでいる場所……」
そこにあった絵は、そんな具合。中でも、骨達が必死に見せてくるのは、『妖精がたくさん飛んでいる場所』だ。
「あの、もしかしてこれ、カチカチ放火王の封印がある場所?」
残り4か所についても解読ができたんだろう。骨達の様子を見る限り、そんなかんじだ。そして、骨達の様子を見る限り、ゴルダの次の順番にあたるのは、『妖精がたくさん飛んでいる場所』。
……成程。
「もしかして、妖精の国とやらで起きている事件って、カチカチ放火王と一繋がりの問題なのかもしれない。カチカチ放火王が送り込んだ『眷属』が、妖精の国で悪さしてるのかも」
骨達が示している『妖精がたくさん飛んでいる場所』が、アンジェへの手紙にある『妖精の国』なのかは分からない。けれど、とりあえず妖精がたくさん居るところに次の封印があるらしいので……なら、『妖精の国』が封印の場所じゃなかったとしても、伝手でどうにかなるかもしれない。
「ってことは、俺達、その妖精の国とやらに行ってみた方がいいか?」
「そんな気がする。これも何かの縁ってことで」
僕らがそう話していると、ふと、僕の服の裾をアンジェが引っ張る。
「……あのね。アンジェは、行きたい。妖精さん、助けてあげたいの」
……うん。なら、決まりだね。
「次の行き先は妖精の国だ!そこで困っている妖精を助けて、あと、カチカチ放火王の封印を探そう!」
僕がそう言うと、アンジェの表情がぱっと明るくなって、ぴょこぴょこ飛び跳ね始める。
「なら、おにいちゃんとカーネリアおねえちゃんもいっしょでいい!?」
「そうだね。折角だし、皆で行こうか」
「やった!ありがとう、トウゴおにいちゃん!」
アンジェは僕に、ぎゅ、と抱き着いて、それからすぐ、『じゃあ、カーネリアおねえちゃんも呼んでくるね!』と駆けてい……かない。飛んでる。
アンジェが飛んでいる。
……アンジェが、飛んで、いる!
「いつのまにアンジェは飛ぶようになったんだろうか」
「割と最近ね。妖精の魔法の一種らしいけれど」
あ、そうなんだ。知らなかった。アンジェが妖精の魔法を妖精に教わりながら練習していたのは知っていたし、既にいくつか使える魔法があるとも聞いていたけれど……まさか、飛ぶとは!
「自力で飛ぶ子が、トウゴ君とレネちゃんと、それに加えてアンジェまで!本当に不思議な森だこと」
半分ぐらいは自力で飛んでいるように見えるクロアさんがそう言ってくすくす笑う。うん。本当に不思議な森だよね、ここ。自分で言うのもなんだけれど……。
さて。
アンジェがふわふわ飛ぶのを眺めて『やっぱりおおきな妖精さんってアンジェのことじゃないだろうか』と訝しみつつ、僕らは僕らで大きな問題に直面している。
「……成程。分からん」
ラオクレスが匙を投げているのは、妖精達から聞いた『妖精の国の場所』の説明だ。
『青いお屋根の大きなお家のお庭のお花畑に行けば分かる』とのことだったのだけれど、この世界に青いお屋根の大きなお家って、ものすごい数あると思うんだよ。
妖精達は僕らに伝わっていないと見るや否や、アンジェを通して更に『初夏になると薔薇が見事だ』とか、『奥さんがとっても綺麗』とか、『裏庭で洗濯物を見ていると偶にとんでもない色のパンツが干してあることがある』とか、そういう教えてもらってもどうしようもない情報がたくさん与えられた。
いや、困るよ。青い屋根の大きなお家で、薔薇が見事な庭があって、そこの奥さんはとっても綺麗な人で、そして、裏庭には時々とんでもない色のパンツが干してある、とか教えてもらっても……。
「成程。分からない……」
何も分からない。びっくりするほど分からない。こんなに情報が出てきて、それらの全てがほとんど役に立たないって、あるんだなあ!
それからも『お庭の片隅に生えていたクローバーを全部四葉にしてみたことがある』とか『あそこの庭の花の蜜は中々おいしい』とか『偶に外でお茶会をしている時にはこっそりクッキーを貰ってきて食べる。あそこのクッキーはとても美味しい』とか、そういう情報も出てきたのだけれど……。
その中に一匹、ちゃんとした情報をくれる妖精も、居た。
その妖精は、こんな情報をくれたのだ。
『天使の絵が飾ってある!』と。
……成程。
青い屋根の大きなお屋敷で、庭が綺麗で、奥さんも綺麗で、クッキーが美味しい家。そして、天使の絵が飾ってある、となると……。
つまり、サフィールさんち!
ということで、翌朝、僕らは荷造りを終えて出発。とりあえずサフィールさんの家に行けば何とかなりそうだということで、僕らの気分は明るい。
「妖精さんの国、たのしみだね!」
「ええ!楽しみだわ!とっても楽しみだわ!」
「2人とも、あんまりはしゃぐなよ。一応、トウゴ達の方は大事な仕事あるんだからな」
今回はアンジェとカーネリアちゃん、そしてリアンも一緒だ。とりあえず妖精と親和性の高い子供達を連れてきたのは、妖精の国で上手く立ち回るため、っていうことらしい。
……フェイが言っていたのだけれど、『もし俺が妖精の言葉を喋れたとしても、俺よりもアンジェが話した方が妖精の連中は納得してくれる』とのこと。妖精ってそういう奴ららしいよ。つまり、理論よりも感性と感情、そして面白さを大切にしたい種族らしい。
まあ、元々アンジェは妖精にとても気に入られているみたいだし、手紙を受け取ったのもアンジェだし。うん。
「妖精の国、ねえ……私は入れてもらえるのかしら」
「妖精と一緒に働いている者が心配することではないように思うが」
「な。クロアさんなら大丈夫だろ。最悪、俺とラオクレスの2人だけ妖精の国の入り口で留守番ってことになるかもな」
そして、クロアさんとラオクレスとフェイも含めて、僕らは7人。ライラは妖精の国を見たがるかな、と思って声を掛けたのだけれど、『妖精洋菓子店で留守番するわ』とのことだったので今回はパス。また平和になったら機会を見て連れていきたい。
そして、今回は僕ら7人に加えて……もう1人。
「折角の、偶の外出だ。私も妖精の国に入れてもらいたいものだなあ。まあ、フェイと一緒に待ちぼうけでもいいが」
ものすごく。ものすごくわくわくした様子で、薔薇の花みたいな綺麗な鳥に掴まって空を飛ぶ、ローゼスさん。
……フェイのお兄さんも今回は同行するらしい。
「……なー、兄貴。兄貴の仕事、どうしたんだよ」
「案ずるな、フェイ。ちゃんと父上に全てお任せしてきた」
「親父が『ずるいぞ!ずるいぞ!』って言ってたのそれかー」
「ははは。まあ、私からしてみれば、フェイこそ『ずるいぞ!』というところだからな。偶には私にも冒険させてくれ」
「しょうがねえなー、兄貴は」
なんだか楽しそうに会話するご兄弟を見て、思う。
……レッドガルド家の人達って、仲いいなあ。
「妖精さんの国、って、妖精さんの大都会よね?なんでかしら、王都に行くよりも妖精さんの国へ行く方がずっと楽しみだわ!」
カーネリアちゃんがウキウキと話しているのを聞いて、ちょっと納得する。そういえば、前、妖精が言っていた。オースカイア領の方に行く妖精は、『都会派』だと。
僕はてっきり、森に比べれば町の方が都会だから、っていうことだと思っていたのだけれど……どうやら、違うらしい。
オースカイア領には本当に、妖精にとっての『都会』、つまり『妖精の国』があるから、だからオースカイアに行く妖精は、都会派!
1日くらいでオースカイア領に到着。そこでまずはサフィールさんにご挨拶。
「やあ、サフィール!元気に……しているな。君も、お子さんも」
……うん。
「ああ。本当に……いや、まあ、元気が一番だが」
サフィールさんは、お子さんに背中にしがみつかれ、もう1人のお子さんに肩に乗っかられ、アスレチックにされていた。そういえば第二子ご誕生おめでとうございます。
「いや、最近、うちの子達は私を遊具にすることを覚え始めてね……肩の上で粗相をするのは勘弁してほしいんだが、まあ、それをこの子達に言っても分からないわけだしな……。いずれ大きくなった時に文句を言ってやろうと思うよ」
ええと……その、お疲れ様です。
「ははは、妻子持ちは大変だな、サフィール!」
「お前もいずれこうなるんだぞ、ローゼス。早く結婚しろ。そしてこっち側に来い」
「まあ、いずれ、な。私はもう少しだけ身軽で居させてもらおうと思っているよ」
サフィールさんとローゼスさんがちょっと小突き合いをしているのを、僕らとサフィールさんのお子さんと妖精達が楽しく見守っている。
……うん。
なんかここ、妖精、多いな。すごく多いな。まあ、いいけれど……。
「トウゴ君。前回頼んだ絵だが、どうもありがとう。早速飾らせてもらって、すっかり我が子らのお気に入りだ。それにしても、いつも仕事が早いね、君は」
それからサフィールさんはお子さんを肩から腕に移動させて抱っこしつつ、僕にも話しかけてくれた。
「ああ、それからね、実は、王都に君達の展覧会を見に行かせてもらったんだよ。『トウゴ・ウエソラとライラ・ラズワルドの対比展』!」
「え、あ、いらしてたんですか」
「そりゃあ、話題にも上っていたしね。それに元々、僕は君の絵のファンだ」
ものすごいことを言われてしまって、僕はただ、ありがとうございます、と言うことしかできない。ものすごく恥ずかしい!そしてものすごく嬉しい!
「あの展覧会に出ていた天使の絵も中々良かった。……あの絵のモデルはこちらの天使の少年と、そちらの少女かな?」
「はい。リアンと、あと、カーネリアちゃんです」
リアンは前回、サフィールさんに会っているから分かると思うので、とりあえずカーネリアちゃんを紹介してみる。カーネリアちゃんは緊張した面持ちで、でも立派に、スカートをちょっとつまんで持ち上げつつ一礼。立派なレディの振る舞いだ。これにはサフィールさんもにこにこ。ああ、描きたい。
「……それから、トウゴ君も天使の絵のモデルにされていたが」
「それについては触れないでください……」
ライラが描いたものについてはノーコメントで!
それからサフィールさんとちょっと色々な話をした。主にローゼスさんが。
……話の内容は、まあ、現状報告。カチカチ放火王がソレイラに出た、っていう情報はラージュ姫の発表があったからもうサフィールさんもご存じだったのだけれど、その後の話は当然ながらご存じないので、その辺り。
ついでに、どうやらオースカイア家の庭に、妖精の国への入り口があるらしいですよ、ということも。
「いや、驚いたな……我が家に妖精が大勢住み着いているらしい様子は知っていたんだが、まさか、妖精の国が我が家の庭に入り口を構えているとは!なんて光栄なことだろう!」
サフィールさんはそれはそれは大喜びでこの話を聞いてくれた。妖精の国の入り口が自分の家の庭にある、と聞いてこうも喜んでくれる人なんだから、そりゃあ、妖精が気に入るわけだよなあ、と思う。
「成程。事情は分かったよ。そういうことなら早速、庭へご案内しよう。君達も急ぐ訳だろう?その、封印を……カチカチ放火王の封印を、処理するために……っふふ、カチカチ放火王……」
サフィールさんは庭の方へと歩いて行きながら笑っている。まあ、そういうネーミングですよね、カチカチ放火王。
僕らが庭の方へと歩いて行くと……妖精がやたらと居た。
「あら?妖精さん……どうしたの?」
妖精達はアンジェの姿を見ると、アンジェの方へ飛んできて、アンジェの指先にきゅ、と抱き着いて妖精式の握手をしている。ついでに、リアンはしげしげと興味深げに眺められているし、カーネリアちゃんはほっぺをつつかれて「くすぐったいわ!くすぐったいわ!」と声を上げている。
「おや、妖精達が騒がしいね。いつにも増してよく見える」
サフィールさんは妖精達がちょっと見えている人らしい。そして今は、妖精がよく見える、と。まあ、これだけの数が居るもんなあ。
……そこで僕は気づいた。
妖精達が皆、サフィールさんのお尻のあたりを見ている。
そういえば妖精が言っていたな。『時々とんでもない色のパンツが干してある』と。
いや、あの時は、その情報要らないなあ、としか思わなかったのだけれど、もしかしてそのパンツの持ち主って……とんでもない色のパンツの、持ち主、って……い、いや、やめよう!これ以上は考えないことにしよう!
「ん?どうしたのかな、トウゴ君」
「な、なんでもないです!」
「そうかい?もし疲れが出たならいつでも言ってほしい。こちらはいつでもお茶の準備をしよう」
サフィールさんは優しく気遣う言葉をかけてくれるし、穏やかな笑顔でお子さん2人を抱っこしながら庭を進んでいく。その姿は堂々としてしゃんとしてとても格好いいのだけれど……あの、とんでもない色のパンツ……。
「恐らくここだろうな」
サフィールさんのズボンの下がちょっと気になったところで、到着。『サフィールさんの家の庭の花畑』だ。
「わあ、きれい……」
アンジェがため息を吐きつつ花畑に見惚れる気持ちはよく分かる。この花畑……すごく綺麗だ。
花は、小さな小さな薔薇の花みたいな、そういう形。親指の爪ぐらいの大きさの薔薇の花が、糸みたいに細い茎の絡まる中にたくさんたくさん、開いている。
花の色は、淡いピンクから淡い紫、そして淡い水色まで。色んな色の花が混じり合って、花畑全体が優しい色の霞に覆われたように見える。
「綺麗だろう?この花はフェアリーローズと呼ばれる花らしい。非常に珍しい花でね。それがこうも群生しているのは珍しいから、ということで、ここは自然のものをできるだけ残して整備したんだそうだ」
成程……。妖精の薔薇、か。この花にぴったりの名前だと思うよ。小さくて可愛らしい形状も、ふんわり優しい色合いも、妖精にぴったりだ。
「だが、問題はここからか。ここに妖精の国への入り口があればいいが……生憎私も、そんなものは見たことが無くてね」
うーん、家主さんが見たことのないものが、家の敷地内にあるか、っていうのはなあ……。もしかして、妖精の国の入り口、ここじゃないんだろうか。
とりあえず困った僕らはフェアリーローズの花畑をじっと見つめて、どうしたものかなあ、と、考えて……。
……その時だった。
きゃらきゃら、しゃわしゃわ、と、妖精達の声が聞こえる。相変わらず僕の耳にはそれは言葉に聞こえないのだけれど……アンジェには、聞こえているらしい。
「え?あ、あの……え?」
アンジェが戸惑う間に、妖精達は次々と花畑の中から出てくる。湧いて出る、っていうかんじだ。すごい。
妖精達は揃って笑顔でアンジェを見つめて、何とも嬉しそうにその場でくるくる飛び回る。『歓迎!』っていうかんじだ。
……けれど。
「あ、あの、まって!」
妖精達は一頻り踊り終わると、アンジェの手を掴んでぐいぐいと引っ張っていってしまう。アンジェは妖精達に引っ張られて、ふわり、と浮いて、そのまま花畑の中へと連れていかれて……。
「お、おにいちゃーん!」
「アンジェ!」
アンジェが助けを求めて伸ばした手を、リアンが掴んだその瞬間。
……リアンがもう片方の手を繋いでいたカーネリアちゃんも含めて、3人の子供達の姿が、消えてしまった。