軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9話:妖精の国*1

「あれ、たんぽぽじゃねえのかー」

「たんぽぽの綿毛って、結構描くの大変なんだよ。うん、次回までに練習しておく」

「これは……ええと、何かしら」

「アカシアの綿毛に似ているか……いや、萱の穂にも似ているが」

ということで、カチカチ放火王の封印は綿ぼうしになった。ふわふわのわたわただ。たんぽぽの綿毛よりは密な感触で、けれど、風が吹いたらほろほろと崩れるように宙を舞う。そんなかんじ。

……けれど。

「燃えてるな……」

「まあ、さっきまであれだけ熱していたものねえ……」

封印の宝石だった綿ぼうしは、燃えている。そう。封印の輪が持っていた熱で、燃えちゃったみたいだ。まあ、綿毛って燃えやすいよね。

「……封印が燃えて、奴は大丈夫なのか?」

「さあな。ま、自業自得ってやつだろ」

まあ……ええと……うん。

カチカチ放火王が出てきたら、ちょっと、謝ろうかな……。

それから少し待っていたら、カチカチ放火王が出てきた。けれど……。

「わ、ちっちゃい」

僕の腕ぐらいの太さの火柱が上がったなあと思ったら、そこから、僕の手のひらぐらいの大きさのカチカチ放火王が出てきた。すごいなあ、こうやっていつも出てきていたのか。

……カチカチ放火王は出てきてすぐ、自分の違和感に気づいたみたいだ。そして、自分の火柱が大した被害を出していないのを見つけて、僕らが覗き込んでいるのを見つけて……自分の体の小ささにも、気づいた!

『貴様、何をした!』

「ええと、ごめんなさい。封印を綿ぼうしにしてしまった」

ほらね、という気持ちで、綿毛の一欠片を手の平に乗せて見せてみた。途端、カチカチ放火王は悲鳴とも怒声ともつかない声を上げたので、僕はびっくりして、掌の上の綿毛を放してしまった。綿毛はふわふわ宙を漂った後、怒ったらしいカチカチ放火王の出す火で燃えてしまった。あああ……。

『綿……だと!?』

「うん」

『随分と都合のいい、訳の分からん力を使うものだな、精霊よ……』

それはどうも。

「おい、トウゴ!こいつ、何て言ってる!?」

「えーと、何をした、って聞いてきたから、封印を綿ぼうしにしてしまいました、って言ったら、随分と都合のいい、訳の分からん力を使うものだな、って」

「ま、まあ、確かに都合はいいし、訳は分からねえけどなあ」

僕らは顔を見合わせて、それからもう一度、ちいさなカチカチ放火王へと視線を向ける。

『これだけ余を馬鹿にしたのだ、それ相応の覚悟はしてもらおう』

カチカチ放火王は小さくても威厳たっぷりにそう言うと……。

『死ね!』

そう言って、襲い掛かってきた!

「あぶねえなあ……」

「そうねえ……」

「踏み潰しちゃいそうだ……」

……カチカチ放火王は今、突進してきたところでラオクレスの盾に思いっきりぶつかって、伸びている。手のひらサイズのカチカチ放火王は……その、すごく、弱い。

「前回の戦いは何だったのだろうな」

死闘も想定して身構えていたラオクレスは呆れ顔で、盾の端っこでカチカチ放火王をつついている。

「魔力を吸われちまったらこの程度、ってことかあ。ま、元々が7分の1にされてるわけだしなあ……」

「逆に、本来ならソレイラで出てきた奴の7倍の力がある、っていうことなんだろうか」

「だとすると、封印が全て解けた後が厄介ね。ソレイラと琥珀の池ではほとんど魔力を奪わずに復活を許してしまっているから……最低でも、琥珀の池でのカチカチ放火王の2倍の力を持つカチカチ放火王が最終結果になる、っていう予定かしら?」

うわあ、それは嫌だな……。まあ、仕方ないこと、なんだろうけれど。

でも、だとしたら余計に、今後は1回だって失敗できない。琥珀の池でも、相当に厄介だったんだ。ソレイラの分も合わさったらとんでもない強さのカチカチ放火王が生まれてしまう。それぞれの封印で、確実にカチカチ放火王の魔力を削っていかなければ……。

……なんてことを、話していたら。

「……おい。こいつをどうするのかそろそろ決めろ。これを見ながらだと、今後の話をしていても、どうにも気が抜ける」

ラオクレスが呆れたようにそう言う。

ラオクレスの手元では、盾に向かって諦めずに突進しているカチカチ放火王の姿があった。手のひらサイズだから、緊張感が何もない。

「おっと。じゃあ考察はこの辺りにしとくか」

フェイはそう言って、一歩、足を踏み出して……。

「えい」

「あっ」

ぷち。

……カチカチ放火王を踏み潰してしまった!なんてことを!

『おのれ……精霊共め、散々、馬鹿にしよって……』

「フェイが踏んづけたのは悪かったよ……」

カチカチ放火王は今にも掻き消えてしまいそうな、そんな弱弱しい姿で、恨めし気に僕らを見上げている。

『だが……次も、こう上手くいくとは、思うなよ。次の封印には既に、余の眷属を送り込んである』

「……眷属?」

『精々、時を無駄に費やすがよい!』

僕の疑問に答えることなく、カチカチ放火王は更にそう言うと……ふっ、と、消えてしまった。

……あれ。消えちゃった。

「戦わずして消えたな」

「まあ、あのちっちゃな大きさで戦っても勝てっこないってくらいは分かるでしょうし」

「引き際を弁えた奴だよなあ。やったぜ、俺、カチカチ放火王を踏んづけてやった!」

こちらは好き勝手に感想を述べつつ……まあ、とりあえず、ゴルダの防衛には成功した、っていうことで、いい、のかな……?

ゴルダの精霊様のところへ報告に行くと……ちょっぴり色艶が良くなった精霊様がいらっしゃった。あと、ガラス細工の花も、大分艶が増した。魔力をたっぷり吸って元気、っていうことなんだろう。

「精霊様。カチカチ放火王はひとまずここの封印を離れたようです」

とりあえず報告すると、精霊様はおしべ同士をなんどかぶつけ合って見せてくれた。多分これ、拍手のジェスチャー。

「ええと、こちらは大丈夫ですか?……うわあ」

そして精霊様の様子を聞こうとしたら、精霊様はおしべを伸ばして僕を持ち上げると、花の上にそっと下ろして……おしべで僕の頭を撫で始めた。どうやら、僕らの働きがお気に召した、ということらしい。ついでにおしべがするする伸びていって、フェイも、クロアさんも、そしてラオクレスまでもが頭を撫でられている!

すごい!世界広しとは言えども、ラオクレスの頭を何の躊躇もなく撫でられる人はそうは居ない!やっぱりゴルダの精霊様はすごいなあ!

……あ、それはそうか。そうだった。この方、ゴルダの精霊様、だ。そしてラオクレスはゴルダの子(今は森の子だけれど)なので……まあ、自分の子の頭を撫でるようなものか。そっか。それなら納得だ。

……それから僕らはしばらく、ゴルダの精霊様に頭を撫でられたり、ガラス細工の花と戯れたり、白い蛾達と戯れたりしながらちょっと過ごして、さて。

「そういえば、カチカチ放火王が『次の封印には眷属を送り込んである』って言ってた」

こちらもこちらで報告だ。フェイ達にはカチカチ放火王の言葉は聞こえてないから。

「はあ?眷属ぅ?……なんだろうなあ」

「素直に考えるなら、そいつが私達の邪魔をしてくる、っていうことよね、きっと」

「厄介だな」

うん。一体どういう『眷属』が用意されているのか分からないけれど……。

「予想できるものがあるとすると、ルギュロスか」

「ええー……いや、まさか。ルギュロスさんはどちらかといえばカチカチ放火王を倒したい人だよね」

「倒せない、と踏んで、なら倒すべき相手と手を組んででも優位に立ちたい、と考える可能性は十分にあると思うわよ。元々アージェントってそういう奴らでしょ」

そ、そうだろうか。まあ確かに、可能性を否定することはできない、けれどさ。

「他は……ま、いくらでも考えられるか。琥珀の池では水の女の子に話しかけてた訳だろ?ってことは、カチカチ放火王の言葉って、人間には通じなくても、他の生き物には通じる、ってことみてえだし、呼びかけりゃあ1匹2匹、協力してやろうって奴らも出てくるのかもしれねえ」

成程ね。そうか、それは困ったなあ。あの水の女の子みたいなのがたくさん出てきたら、その、ちょっとやりづらい。できれば出てこないでほしいんだけれど。うーん……。

「まあ、こっちとしては出たとこ勝負しかねえな。さっさと次行って対策考えようぜ」

最終的にはフェイがそう結論を出したので、僕もそれに倣う。案ずるより産むが易し。百聞は一見に如かず。そういうこともまあ、あると思うから。

「……で、次ってどこだろうなあ」

「それはがしゃどくろ達に聞かないと」

琥珀の池についてもがしゃどくろ達が解読してくれたし、きっと次も重大なヒントをくれるに違いない。早速戻って、聞いてみよう。

ということで、僕らは森に帰った。

帰ったら……なんだか、騒々しかった。主に馬が。あと、骨が。

「おい!アンジェを放せっての!おい!」

「ただいま。どうしたの、これ」

騒々しい馬の塊をどうにかしようとしているらしいリアンに話しかけてみたら、リアンは……。

「それが、アンジェに変な手紙が来てさ!それを読んでたら、馬がアンジェを放さなくなっちまって……。しかも、その周りで骨の騎士団もカタカタしてるしさ……」

……うん?

とりあえず、馬達にはアンジェを放してもらった。骨達にも解散してもらった。のだけれど、骨達は僕らを見守るようにおろおろしながらちょっと離れた位置に居るし、馬達は僕らを監視するようにちょっと離れた位置に居るので落ち着かない。

そしてアンジェは前回のリアン同様、天馬の羽まみれにされてしまっていた。非常に天使っぽい。じゃなくて、ええと、闘いの痕跡が見える。

「ええと、アンジェ。手紙、っていうのは、どれ?」

「これ……」

アンジェはそっと、ポケットに入れていた手紙を出してくれた。馬から死守しようとした結果、大分しわしわになっている手紙だ。

それがポケットの外に出てきた途端、馬達がまた騒がしくなったので落ち着いてもらう。どうどう。

……なんとか馬達には落ち着いてもらって、改めて、手紙を開く。

すると。

「読めない」

僕には読めなかった!なんだろう、この文字……。

……結局、アンジェに読んでもらった。リアンも読めなくて、アンジェに音読してもらったらしい。その結果、馬達が寄ってきてしまった、ということらしいんだけれど。

「ええと、じゃあ、読みます」

改めて、アンジェに読んでもらうことにして、僕らはそれを、ちょっと緊張しながら聞く。

「……『森の妖精さんへ。こちら、妖精の国の妖精です。とつぜんですが、わたしたちは、こまっています。森にはおおきな妖精さんがいると聞いて、たすけをもとめることにしました。このままでは妖精の国は、へんなやつにのっとられてしまいます。どうか、妖精の国をたすけてください』……だって」

……ええと。

「あの、アンジェって、妖精だった……?」

「ううん、にんげん……」

あ、だよね。うん。よかった。

「……あるいは、てんしさま?えへへ……」

あ、うん。そうだった。アンジェは天使だった。今の表情も非常に天使っぽいので描こう。

……あれ。

「ということは、その、『おおきな妖精さん』って、どなたのことだろうか」

手紙にあった『おおきな妖精さん』というのは、アンジェのこと……では、ない?

「トウゴもついに、妖精の国とやらに招待される日が来たか!ははは」

いやいやいや。フェイが笑っているけれど、僕は妖精ではない!繰り返すけれど、僕は妖精ではない!