軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13話:依頼と雷*1

僕は、そんなにたくさんのお金は要らない。他の人に迷惑を掛けない程度にお金があればそれでいい。

それから、仕事も多分、別に要らない。絵を描くことを仕事にしなくても絵は描ける。

……なので僕は、『絵師』になる気が、あまり無い。

フェイに頼まれた絵を描くのは嫌じゃないし、頼まれれば可能な限りで幾らでも描く。……けれど、それって恐らく、僕にとって『仕事』ではない。

そう。僕にとって、『絵を描くこと』は、『仕事』ではない。

だから僕は多分、『絵師』になれない気がする。

……ややこしく考えすぎ、なんだろうか。

単純に、その先にあるものが不安なだけなんだろうか。

いい加減、天馬に下ろしてもらった。そして僕はラオクレスと一緒に食事を摂る。(パンにチーズ挟んだやつ。ハムは黒いお化けに食べられたっきりなので無い。少し楽しみにしてたのに!)

「ねえ、ラオクレス」

「なんだ」

「僕、フェイに『レッドガルド家のお抱え絵師にならないか』って誘われてる」

ラオクレスは『どうしてその話を自分にするのか』みたいな顔をしたけれど、僕は構わず続ける。

「どう思う?」

……いよいよラオクレスは『そんなこと聞かれても』みたいな顔になるけれど……それでも、考えて、答えてくれた。

「お前があの貴族を悪く思っていないなら、受けるべきだろうな」

そっか。

「それはなんで?」

理由を聞いておきたかったのでもう少し、ラオクレスには喋ってもらう。彼も喋るのはあまり得意ではないらしいけれど、そこは頑張ってもらおう。

「お前には保護が必要だろうと思ったからだ」

……うん?

「金銭については……保護は不要だな。お前は」

「うん」

「だが、お前は、その……人付き合いが得意なようには見えない」

「うん」

その通りだ、という思いを込めて頷く。そうだね。僕は人付き合いがあまり得意な方じゃない。話すのは苦手な方だ。それから、近づいてくる人の善悪を見極めるのも、何となく苦手だ。多分。

「これから先も絵を描くなら、厄介ごとはあるだろう。今回、俺に巻き込まれたように、誰かに巻き込まれることだってある。そしてそれ以上に、向こうからお前を巻き込みに来ることだって増えるだろうな」

「うーん……」

向こうから、巻き込みに。

……嫌だな、それ。避けようがない気がする。

「そういう時、後ろ盾があった方がいい。お前1人ならただの世間知らずのガキ1人だが、レッドガルド家が後ろに付いているとなれば、そうそう手は出せない」

「そういうもの?」

「少なくとも、お前をただの世間知らずと侮るのは難しくなる。特定の貴族との繋がりが分かっていれば、その伝手で色々な対策ができるはずだ、と誤認させられる。お前が何もしていなくても、な」

うん。そっか。何もしてなくても。

確かに、フェイは領主の家の人だ。領主を敵に回したい人は居ないだろうし……僕が変わらずにぼんやり絵を描いているだけでも、レッドガルド家を警戒して手を出さないでもらえる、っていうことか。

「そっか。うーん……」

「……逆に、何を迷うことがある?」

僕が悩んでいると、ラオクレスは不思議そうな顔をする。

うん、そうなんだよな。そういう反応が普通なんだと思う。

……僕も、なんでこんなに躊躇うのか、分からない。

レッドガルド家の人達は良い人達だ。僕がそこに居るのが少し申し訳ないくらいに。

だから、彼らに不満がある訳じゃなくて……それから、絵を描けるようになるんだから、絵師になる、というのも、悪い話じゃないはずで、更に後ろ盾にもなってもらえて、金銭の援助……これは必要無さそうだけれど、でも、色々と勝手が分からない異世界生活をサポートしてもらえる。

うん。悪いことなんて何も無い。

何も無い、のだけれど……考えようとすると、頭の奥で、1枚の紙がちらつく。

僕を『そっち側』に連れ戻そうとする手が、伸びてくる。

「……答えが出ないならもう少し待たせてもいいだろう」

「うん……」

ラオクレスはそう言ってくれる。うん。元々、お抱え絵師の話はそう急ぐ話じゃない。何せ、僕自身がまだ、自分の魔力を制御しきれていないから。

まだ、一番強い封印具を身に着けていないと、実体化しない絵は描けない。これじゃあ、まだ絵師としてはやっていけないだろうし……。

「ただ、お前には保護が必要なように見える」

「うん」

けれど僕は今すぐ、保護、が欲しい、のかもしれない。

僕は……僕自身はどうでもいいのだけれど、ラオクレスやフェイ、馬や鳥達に迷惑を掛けるかもしれないし、犯罪に巻き込まれないような工夫だけは、しておかないといけない。少なくとも今回みたいに、店に入った瞬間に殺されかけるようなことは無い方がいい。あと、密猟者みたいなのも来ないでくれると嬉しい。

だからこそ、今すぐにお抱え絵師の話を受けるべきなのかな、とも思ったのだけれど。

「……盾をくれ」

「え?」

突然、ラオクレスがそんなことを言い出す。

びっくりして、彼の顔をじっと見ていると……ラオクレスは、言った。

「剣と盾があれば、ひとまず戦える。多少の厄介事なら、俺がなんとかできるだろう」

ラオクレスの申し出に、驚いた。

そっか、彼は……戦える、って、確かに言っていたけれど。

「それは……護衛をしてくれる、ってこと?」

「ああ」

「モデルだけじゃなくて、護衛もしてくれるの?」

「……俺は元々モデルよりは護衛だ」

まさか、僕の護衛をしてくれるとは、思ってなかった。そっか。やってくれるんだ。

「ただし、お前が貴族連中と上手くやっていくには枷になるかもしれない。権力ではなく武力で物事を解決するのは」

「ううん、いい。すごくいい。よろしくお願いします」

僕は嬉しくて、嬉しくて……早速、画材を持ってくる。

「待っててね。すぐ盾、出すから」

「待て」

そして僕が画用紙に鉛筆を乗せかけた時。

「今日はもう寝ろ」

……そう、言われてしまったのだった。

うん……。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

言われてしまったので寝ます。

朝になったので、すぐ起きる。おはよう。

起きてすぐ、水浴びしに行った。

「おはよう」

今日は鳥が一緒だ。鳥はいつものように、我が物顔で水浴びしている。そういえば、この鳥見たのはちょっと久しぶりだったかな。最近は僕がフェイの家にお邪魔することも多かったし、単純に魔力切れで寝っぱなしのこともあったし。

……僕も水浴びして、さっさと泉を出る。

今日はラオクレスの盾を描く日だ。気合を入れていきたい。

「おはよう!」

ということで、僕は早速、画材を一通り持ってラオクレスの家に向かった。ラオクレスは家の前で剣を振っていた。その姿が堂に入っていて、とても格好いい。

「……今日は早いな」

早いよ。だって盾を描くから。昨日は早く寝たから。

「盾、描こうと思って……」

「そうか」

ラオクレスは剣を納めて、僕に近づいてきた。……そして、僕が画用紙に鉛筆を下ろそうとして下ろせないのを見ながら、首を傾げている。

「……描くんじゃないのか」

「うん。描く。描きたい。んだけれど……」

僕は……ここにきて初めて、大変な事態に直面している。

「盾って、どういうのだろう。僕、盾を見たことが無い気がする」

なんと、僕は盾の構造が分からなかった。

ということで、僕らは町へ出た。

フェイの召喚獣に乗らずに町へ出るのは初めてだな。

道は分かる。天馬が飛んでくれるから。……うん、今回も天馬選びに苦労した。皆、寄ってくるから……。

「ペガサスというのは、速いな……」

ラオクレスも馬に乗ってる。……ラオクレスには未だに、一角獣は寄り付かない。けれど、天馬は割と慣れてきたらしい。ラオクレスの方が戸惑い気味だけれど、彼も『乗せてあげてもいいよ』というように近づいてきた天馬に乗って、一緒に町へ向かうところだ。

森の中、木々の間を飛んで抜けて、町までは平原の上をひとっ飛び。地面を走っている訳じゃないから、ほとんど揺れない。すごく快適。

「……俺が乗っていていいのか?」

「うん。ね」

ラオクレスが天馬に対して尻込みした様子だから、少し面白い。天馬に確認してみたら、やっぱり、ひひん、と鳴いてくれた。多分、肯定。

……ということで、僕らは町に到着した。

「ついに自力で森から出てくるようになったか!」

とりあえず、フェイを訪ねた。なんとなく。やっぱり『自力でこっちまで来たよ』と伝えたかったので。

「そっか、ペガサスかぁ。速いもんな、こいつら。ラオクレスも乗ってきたのか?」

「ああ」

「よかったじゃん。俺、まだ乗せてもらってねえんだぞ」

フェイがそう言って天馬の鼻の辺りをつつくと、天馬は『まあ乗せてあげてもいいけど』みたいな顔をした。こいつはフェイよりラオクレスの方が気にいってるらしい。

「で、どうしたんだ?急に。あ、まさかお抱え絵師の」

「その話はごめんなさい。もうちょっと保留させてほしい」

「それは構わねえよ。で、どうしたって?」

「盾、買いに来た」

僕がそう言うと、フェイは、「ほー」と言いつつ、ラオクレスを見て……それから、にやりと笑った。

「そっか。ようやくラオクレスは剣と盾を買い与えられて、ただの家事手伝い兼モデルから、護衛の騎士に昇格するってわけか!よかったなあ!」

フェイはそう言って、自分のことのように嬉しそうにしている。

けれど……。

「いや、買う盾は資料用で」

「……ん?」

僕は、そこは間違えない。

「買った盾を見ながら、盾、描くことにした」

やっぱりラオクレスには最高の盾を装備してもらいたいから。

妥協はしない。