軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17話:琥珀の池*9

「そっかそっか。じゃあ、あの水でできてる子が『もうこんな場所要らない!』って言ったのを聞いて戻ってきた、ってかんじなのかもな」

「ふむ……何やら、この気配には覚えがある。以前、カーネリア様とここへ来た時に感じていた視線はこやつのものだったようだな」

「あら!じゃあ、お久しぶりね、っていうことね!」

……それから。藻の塊さんはインターリアさんの膝の上、カーネリアちゃんとフェイに撫でられて、そのフワフワカサカサの藻を揺らして、気持ちよさそうにとろんとしていた。

藻の塊さんは藻の塊なので、どこが顔かはよく分からない。けれど多分この辺りが首、っていうのは分かるので、一応、コミュニケーションはとれているみたいだ。

「君はここの精霊、かな」

話しかけてみると、藻の塊さんは、こてん、と首を傾げた。……うーん、妖精以上、精霊未満、みたいな気配がする。微妙なライン。

でもまあ、悪いものじゃないな、っていうのは分かるので、安心してカーネリアちゃん達に預けておくことにした。彼女達は藻の塊さんを撫でるのが楽しそうだし、僕は僕で、脚をくすぐられると絵に集中できなくなってしまって、琥珀の池の復旧作業が遅れるので……。

……ということで、僕がまた、風景画の作業に戻った、その時だった。

「あ……あら!?た、大変だわ!」

カーネリアちゃんの悲鳴が聞こえる。

なんだなんだ、と慌ててそっちを見てみたら……。

「私、藻の塊さんを撫ですぎちゃったかもしれないわ!禿げちゃった!禿げちゃったの!」

カーネリアちゃんはそう言って、大慌てで、今にも泣きそうな顔をしている。

……カーネリアちゃんに抱き上げられた藻の塊さんを見ると、なんと。

「……禿げちゃった、というよりは、剥げちゃった……っていうかんじかな」

藻がごっそり一部分剥がれ落ちていて、その奥に、きらきらと煌めく琥珀色の輝きが見えていた。

「どうしましょう!生き物はあんまり撫でられすぎると疲れてしまって、毛が抜けてしまう、って聞いたことがあるの!うさぎさんもそうなんでしょう?」

「いや、落ち着いて落ち着いて」

慌てているカーネリアちゃんを落ち着かせて、そして改めて藻の塊さんを見る。

……よくよく考えてみると、この生き物が本当に『藻の塊』なんだとしたら、その藻がカサカサに乾いてしまっているこの状態って、瀕死じゃないだろうか。しかし、藻の塊さんは特にそういった様子もなく、むしろ楽し気に、インターリアさんの膝の上でフワフワしているので……。

「……もしかして、藻は、単にくっついちゃってただけ?」

そう、聞いてみた。ついでに、剥がすね、と断りを入れてから、藻をもうちょっと剥がしてみた。

……うん。

「ねえ、カーネリアちゃん。多分この生き物は……池の底で無精していたら、藻が生えてしまっただけの……藻とは全く関係のない生き物、だと思うよ」

僕が藻の塊さんの頭部らしい部分から藻を剥がしてみたら、その下に、きらきらした目が隠れていたので……そして、彼(彼女かもしれないけれど)自身は、藻が剥がれてすっきり、というような顔をしているので……。

折角なので、ということで、カーネリアちゃんとインターリアさんは、藻の塊さんを掃除し始めたらしい。

「あら!あなた、藻を落としたらすごく綺麗だわ!」

「宝石細工のようだな。ふむ……実に美しい」

藻を剥がされていくにつれて、藻の塊さんは藻の塊ではなくなっていく。藻の下から現れたのは、琥珀と金でできた鶏のような、そういう生き物だ。

……ただ、鶏にしては、その、尻尾が変わってる。尻尾が蛇なんだよ、この鶏。

まあ、巨大なコマツグミが居るし、角や翼が生えている馬だって居るんだから、尻尾が蛇の鶏だって、居てもおかしくないか。

「綺麗ね……」

「カーネリア様のフェニックスと並ぶほどの美しさだな、この鳥は」

そして、その変な鶏は、カーネリアちゃんとインターリアさんにすっかり綺麗にしてもらって、もじもじしつつもご機嫌な様子だ。よかったね。

そうして僕が描いていた絵も無事に完成。

よいしょ、と最後の一筆を加えると、風景画はふるふる震えて、きゅ、と縮まって、ふわり、と広がっていって……。

「よし。後片付けはこれでいいか」

無事、琥珀の池は元の美しさを取り戻すことができたのだった。よしよし。

「やっぱりここの琥珀は綺麗だなあ」

元々の琥珀の美しさをちゃんと取り戻せたか自信は無い。けれど、一生懸命描いたから、その、魔力は籠ったと思うよ。多分。

「大変だわ。この池、とんでもない池になっちゃったわね」

僕が満足していたら、横からクロアさんが困ったような顔でそう言ってきたので、ちょっと不安になる。僕、うまくやれなかっただろうか。

「こんな上質の、こんな巨大な魔石が無造作にごろごろしている池なんて……まるで、トウゴ君のクッキーの空き箱みたいだわ!」

あ、そういう。

……ええと、それについては、その、こちらの変な鶏が大喜びしているみたいなので、オッケー、っていうことに、させてもらってもいいだろうか……。

とりあえず、変な鶏を放した。

変な鶏は新しくなった琥珀の池の周りをちょこちょこ歩いては、くるるるる、と嬉しそうに鳴く。池の水を飲んでまた、くるるるる。

そして最後はカーネリアちゃんとインターリアさんのところへ戻ってきて、2人の足元にすりすりとやるのだ。すっかり懐いてるなあ。まあ元々、この2人を気に入っていたのはこの変な鶏なんだろうしなあ。

「よし。じゃ、ここはこれぐらいにして、俺達は帰るかぁ」

さて。そうして僕らはそろそろ撤退の準備。次の封印のところへ行かないといけないし……。

……と思っていたら。

「まあ!ここ、こんなに綺麗に直ったのね!」

ぷるるる、という鳴き声と共に、女の子の声。……あ、忘れてた。

「やっぱり私、ここに住むことにするわ!」

水でできた女の子はお人形サイズになってしまいながらもそう言って、にこにことそこに立っていた。その横で、ケルピーは申し訳なさそうな顔をしていた……。

「いや、待って。この池、こっちの鶏が戻ってきて住むみたいだから、駄目だよ」

この鶏、二度も追い出されるのはかわいそうだから、流石に口を挟ませてもらう。

すると、くるる、と鳴きながら、変な鶏も立ちはだかる。その琥珀色に透けて煌めく羽を広げて、威嚇のポーズだ。

「……こいつ、誰なの?無礼ね」

「君もね。で、こちらは藻の塊さん」

「ええ?……もしかして、藻の下にこれが隠れてたの?」

「そうみたいだよ」

説明すると、水の女の子は、ふーん、と言いながらまじまじと変な鶏を見つめて……。

「そう!喜びなさい!お前は綺麗だから、私が飼ってあげるわ!」

そう言った。

……その途端。

こっけこ、と、変な鶏が鳴く。それと同時に、鶏の目が、強く光った。琥珀色の強い光が僕らの視界を遮って……そして。

「……あれっ」

変な鶏の前には、水の女の子の代わりに、琥珀の像が立っていた。よくできた彫刻だ。

……ん?

あ、も、もしかしてこれ……さっきの女の子が、琥珀になってしまった!?

「……あー、こいつ、もしかして、コカトリスの亜種か」

フェイは変な鶏を抱き上げて、よしよし、というようにちょっと揺らしながら、そう言った。

「何?コカトリスって」

「見つめたものを何でも石にしちまう魔物だ。……ただ、格が高くなってくると、見つめたもんを石じゃなくて金銀に変えるようになる。だから、もしそういうコカトリスを見つけて手懐ければ金銀を手に入れ放題、ってことで、大人気の魔獣だよな」

へー。それは面白いなあ。この鶏……コカトリスからしてみたら、ちょっと迷惑な話なのかもしれないけれど。

「で、多分こいつは、見つめたもんを琥珀にしちまうコカトリスなんだろ。多分」

成程。だから、『亜種』なのか。

でも、そういうことなら納得がいく。この池の周りの琥珀って、きっと、このコカトリスが見つめては琥珀にしてしまった石なんだろう。

……あれ。ちょ、ちょっと待って。ということは僕ら、結構危険なんじゃないだろうか!

「ねえ、フェイ。ということは、僕らも琥珀になってしまう?」

「あー、大丈夫大丈夫。要は、コカトリスの邪視ってのは敵意を込めた視線だからな。このコカトリスは俺達に友好的みたいだし、問題ないだろ。多分」

あ、よかった。どうやら、僕らまで琥珀になることはない……らしい。少なくとも、このコカトリスが僕らに友好的な間は。うん。

水の女の子が琥珀の彫像になってしまったのだけれど、ケルピーがぷるぷる鳴きながらバシバシと琥珀の彫像を蹴っていたら、琥珀が割れて、中から水が出てきた。どうやらこの女の子、琥珀になってしまったのは表面だけだったらしい。コカトリスが手加減してあげたんだろうなあ。

「な、なんてことするの!酷いわ!私、また小さくなってしまったじゃないの!」

更に小さくなってしまった女の子は、また文句を言い始める。

けれど、自分より大きなコカトリスにじっと見下ろされて……這う這うの体で逃げていった。

取り残されたコカトリスとケルピーは……じっと見つめ合って、そして、ぷるぷる、くるるん、と鳴き交わす。

また見つめ合って、それから、互いに擦り寄り始めた。……どうやらこっちは気が合うらしい。

うん。いいと思うよ。馬と鶏のルームシェアっていうのも……。いや、池シェア……?

ということで、平和になった琥珀の池を後にして、僕らは一度、森へ帰ることにした。

次はゴルダの封印が解けてしまう訳だから……失敗できない。心してかからなきゃいけない。

「あの宝石、カチカチ放火王を封印しているものだ、っつったろ?だからあれが割れると中に封じられていたカチカチ放火王が解き放たれちまう、ってことになる」

帰り道、フェイの頭の中ももう、次の封印のことでいっぱいになっているらしい。

「今回はあの宝石をカチ割ってやったから、正規の解き方じゃなかったんだよな。それで、カチカチ放火王も本調子じゃなかったと見える」

「……あれで本調子ではなかったとしたら、相当に厄介だぞ」

「だよなあ、俺もそう思う。ついでに、次はもっとヤバくなって出てくる気もしてる」

……うん。

そうだね。今回は失敗だった訳だけれど、でも、それでもまだマシな失敗だった。

カチカチ放火王は本調子じゃなかったし、封印も2つ目だから、そもそもの力がまだ戻り切っていない状態で……でも、あれだけの範囲が燃えてしまった。今回は火の精とレッドドラゴンが守ってくれたけれど、次も守り切れるかは分からない。

そして、もし、次の封印でまた失敗したら……その時は、ゴルダの精霊様が命を落とすことになるかもしれないんだ。

……ふと、思う。

僕、失敗した割に、そんなに落ち込んでないなあ、と。

なんでだろう。僕、結構、失敗は引きずるタイプだ。だから2日連続で模試があるような時には、絶対に自己採点しない派なんだけれど……。

……答えは結構簡単に見つかった。

僕の横で、ああでもないこうでもない、と話し合うフェイ達を見て、成程ね、とすぐ納得がいく。

多分、1人で失敗したものじゃないから。更に、失敗しても、次にまた働かなきゃいけない場所があるから。そして、失敗した後、一緒にああだこうだ言い合える人が、隣に居るから。

「……いい親友を持ったなあ」

「ん!?トウゴ!なんか言ったか!?」

「なんでもないよ!」

まあ、こういうの、あんまり言うもんじゃないから言わないけれど。でも……僕は、いい親友、良き仲間を持ったなあ、って、思うよ。

だから、失敗しても次に立ち向かえる。頑張ろうって、思えるんだ。