作品タイトル不明
6話:半分取材旅行*5
それから僕らは、急いで封印を探すことになった。
カチカチ放火王がいつ出てくるかは分からない。もっと先なのかもしれないし……今すぐなのかもしれない!そう考えたら、居ても立ってもいられなくて、僕らはひとまず手あたり次第、あちこちを探すことになった。
……ただ。
「……精霊様の手あたり次第って、すごいなあ」
「ね。探し物については、何も心配が要らない勢いね……」
……正直、僕ら、要らないんじゃないかと思う。だって、ゴルダの精霊様が、すごい勢いで根っこを伸ばして、あちこちを探ってくれているから。
「封印に使ってた魔石の欠片だけでも見つけておけたのはよかったなあ」
ゴルダの精霊様がものすごい勢いで地中を探し回っているのを眺めつつ、僕らは僕らで、そこらへんの石の下とか、岩の割れ目とかを探すことになった。
「封印の魔法の気配がなんとなく分かれば、それを辿ってゴルダの精霊様が探知できるみてえだし」
……うん。ゴルダの精霊様、すごいんだよ。根っこの勢いもすごいけれど、その根っこで繊細に魔法の気配を読み取って、封印の魔法の欠片を探そうとしているらしいんだ。
「それにしても、気配のねえ魔法なんだよなあ、これ。魔物達に見つけられたくなかったからこういう造りにしたんだと思うけどよぉ、後世には残しておいてほしかったよなあ!」
「そもそもこうなることを想定してなかったのかもね」
「アージェントの話がどこまで信用できるかは分からんが、あいつの言葉を信じるならば、封印は王城の裏手のものだけを解いて封印し直すのが通例だったようだからな」
うん。確か、アージェントさんはそういうことを言っていた。いくつかある封印の内の1つだけを解くことで、そんなに強くないカチカチ放火王を封印することができる、って。
つまり……複数あるうちの最後の1つだけしか知られている必要が無いから、他の封印は完璧に隠してしまった、っていうことなんだろうな。その方が悪意ある人に狙われたりしないから安全なのかも。まあ、その結果、今、僕らは困っているのだけれど……。
ゴルダの精霊様がものすごく頑張る中、僕らは僕らで探していたのだけれど……ふと、クロアさんが、言いだした。
「……まおーんちゃんも、封印されてたのよね?」
……うん?うん。
そう、だね。まおーんの方の魔王は、夜の国と一緒に封印されていた、っていうことでいいと思う。
初代レッドガルドさんの日記を見る限り夜の国の人達は昼の国に魔王を押しやろうとしていたみたいだし、他の歴史書を確認したりレネ側の話を聞いたりした限りでは、百年ちょっとに一回くらいは昼の国に進出してこようとしては、その都度封印されていた、らしい、けれど……。
「で、カチカチ放火王も封印されてたのよね?」
「うん」
こっちは、今の王家に記録が残っている、らしい。ラージュ姫は『封印の地』について言及していたことがあったと思うし。
……と、思っていたところ。
「カチカチ放火王とまおーんちゃん、やっぱり、こっちの世界では混同されてたんじゃないかしら……?」
クロアさんは、そう言った。
あ、うん……。僕もそう思う。そういうことを言ったらうちの魔王が『まおーん!』と怒りそうだけれど。
「ということは、ここに使われてる封印の魔法って、結構汎用性が高いのかもな。カチカチ放火王も封印できるし、まおーんも封印できる……うん?いや、もしかしてこの封印って、魔王とは関係ないのか?夜の国を封印する時はまた別だったのか?」
「……そもそも歴代の勇者達は、どちらの『魔王』を封印していたのだかな」
「こうして封印が各地に残っている以上は、まあ、カチカチ放火王の方も昔から居るんでしょうけれど。でも、夜の国が最初に進出してきた時が初代レッドガルド様が昼の国にやってきた時だもんね……うーん、その後で、カチカチ放火王が出てきたのかしら?」
「その前から居た、とも考えられるわよ。カチカチ放火王はそのまま数百年以上ずっと封印されていたことになるけれど」
……うん。
その、壁画とかにある『魔王』の図を見る限り、まおーんよりはカチカチ放火王に近いんじゃないか、と思う。だから、カチカチ放火王の姿が確認されていることは間違いないのだろうけれど……うーん、やっぱり、伝承とか歴史とかの上では、魔王とカチカチ放火王が混同されている気がする。
その、下手したら、カチカチ放火王って……そう頻繁に復活してないんじゃないだろうか。夜の国が昼の国とのゲートを結んで光の魔力を取りに来ることを『魔王が復活した』っていうように形容していたんだとしたら、初代レッドガルドさんの時代からこの方ずっと、カチカチ放火王は封印されっぱなしとも考えられる。
……と、いうか……うん。
「壁画にカチカチ放火王の姿がある方が変な気がしてきた……」
……考えれば考える程、カチカチ放火王の歴史が分からなくなってくる。
封印されているのに封印の場所は伝わってないし。
昔からいた割には知名度が低いし。
夜の国のこともあるから、本当に度々復活していたのか怪しいし。
……うーん、駄目だ、分からない……。
そうして僕らがカチカチ放火王と魔王の関係について考えていたところ。
がらがら、と、石が崩れるような大きな音がして……そして、見てみれば、ゴルダの精霊様が、根元に大きな空洞を開けていた。空洞、というか、坑道、というか……。根っこを沢山出して、出来立ての坑道が崩れないように補強してくれているらしい。
「あの、見つかったんですか?」
僕がそう聞いてみると、ゴルダの精霊様のめしべが、こくん、と頷く。そっか!見つかったか!やっぱりゴルダの精霊様はすごい!
僕らは、できたてほやほやの坑道を進んでいく。
勿論、坑道の中は真っ暗なので、魔石のランプを描いて出した。それをぶら下げて先頭を行くラオクレスに続いて、フェイ、僕、ライラ、クロアさん。
それぞれ、うっかり暗闇の中ではぐれたら困るので、手のひらサイズの小さなランプを服のベルトとかに括り付けている。だから、僕らが並んで進んでいくと、僕らに合わせてそれぞれのランプがふらふら揺れて、僕らの影がいくつも重なってはふらふら揺れる。ちょっと不思議な眺めだ。
「足元に気を付けろ。少し段差がある」
ラオクレスは坑道の先にあるものだけじゃなくて、坑道の途中のあれこれにも警戒を配りながら、先頭を進んでくれている。彼がいつでも剣を抜けるように身構えているから、僕ら全員、緊張感に包まれていた。
……そうして僕らは、大分、下っていった。
鉱山の奥の奥、下の下。ゴルダの精霊様が居るところから更にずっと地下の方へと進んでいったところに……それは、あった。
「うおっ、眩しっ!」
突然、フェイが持っていた探知機が、強く光る。つまり、封印の魔法が近い。
僕らがはっとして前方を見ると……。
そこには、大きな宝石を捧げ持つようにして伸びる台座みたいなものが、あった。
宝石は、僕の頭ぐらいの大きさ。金属細工の輪が付けられていて、その金属細工が細かい模様になって宝石をぐるりと包んでいるような具合だ。
台座は、僕の胸ぐらいの高さ。7本の細い柱が伸びて、その先に宝石が据えてあるかんじだ。7本の脚は石だか金属だかよく分からないものでできていて、やっぱり、模様が刻まれている。宝石も嵌め込まれていて、結構豪華な台座だ。
「さーて、見つかっちまったけど、どうするかね、これ」
「持って帰る?」
「いやいやいや。待て待て待て。ラオクレスも動かそうとするんじゃねえっつの!」
見つかったから持って帰るか、と思っていたら、フェイに止められてしまった。ごめん、ラオクレス。僕のせいで怒られてしまった。
「えーと、じゃあこの場でどうにかするしかないってことね?」
「そういうことだな。うーん……」
フェイは難しい顔で台座と宝石と、宝石に嵌った輪とを眺めて、ため息を吐いた。
「どうすっかなあ……うわ、これ、結構複雑だな。教本持ってくりゃよかったぜ」
「一旦帰る?」
「そうだなあ、場合によっちゃ、その方がいいかもなあ……うーん、ちょっとだけ粘ってみるか」
こういうのを解析するのは、魔力敏感肌なフェイの仕事っていうことになる。生憎、僕は森の魔法以外はあんまり詳しくないので……。
……けれど。
「……う。俺、これ、駄目かもしれねえ……。近くに居ると魔力酔いする……」
フェイは魔力敏感肌だから、繊細に魔法を読み解くことができるけれど、その分魔力に酔いやすくて……カチカチ放火王の封印なんてものの近くに居ると、酔う、と。そういうことらしい。
「ううー……ちょっと休んでからこれの処理考えてえな。いいか?」
「うん。勿論」
この中で魔法に一番詳しいのはフェイだから、フェイが辛いなら休ませなきゃいけない。僕は早速、坑道の中のちょっと広いところにベッドを出させてもらった。フェイはそこに寝っ転がると、少ししてすぐ、寝息が聞こえてくるようになる。疲れもあったんだろうなあ。無理をさせてしまっている。ごめん。
「……お前達も休んだ方がいいだろうな」
「そうねえ。いざという時にトウゴ君が動けないと困るわ。トウゴ君も寝ちゃいなさいな。どうせフェイ君が起きるまでは何もできないわ」
そして、ラオクレスとクロアさんにもそう言われてしまったので、他の人達の分のベッドも出してから、大人しく寝ることにする。おやすみなさい。
それから起きて、ご飯を描いて出して食べて、そして、フェイが魔法の分析をするのを眺めながら、その様子を絵に描いておくことにした。
……僕にできることって、あまり無いんだよ。精々、ゴルダの精霊様に『見つかりましたが対処に困ってます』っていうことを報告しに上へ戻ったのと、疲れたフェイに出すお茶を描いて出しておくことくらいしか仕事が無い。歯がゆい。
「絵を描くことしかできない……」
「そうね……。あとは精々、フェイ様に不自由が無いようにお世話するくらいか……」
ということで、僕とライラは絵を描いている。
……カチカチ放火王の封印らしい宝石と台座の絵を記録がてら描いておいたのは勿論、いくらか風景画も描いた。
ゴルダの精霊様の根っこが張り巡らされた坑道をランプの光が照らして、根っこや石の凹凸で生まれた影が色濃くコントラストを生んでいる様子は、結構描きごたえがある。楽しい。
「おーい、トウゴー」
……とやっていたら、フェイに呼ばれたので慌ててそっちに行く。今は絵よりもフェイ。
「トーウーゴー」
「お疲れ様、フェイ。休憩する?」
フェイはすっかり酔っぱらった様子で、ぐったりしている。ちょっと熱っぽくなってるみたいで、ちょっと顔が赤い。
「わかったぜー」
「え?」
「とりあえず……台座のちょっとだけらけどなあ……」
フェイはへべれけな状態で、ちょっと呂律の回らない言葉を発して……そして、説明してくれた。
「なんかよお……台座の脚、それぞれの、封印を、表してるっぽくってよお……」
……うん。
「で、7本あるだろぉ……?」
……うんうん。
「そういうわけだ……わりい、ちょっとやすむ……」
……うん?
あ、ちょっと。待って待って!寝ないで!まだもうちょっと説明して!
あと、僕はベッドじゃないよ!寝ないで!乗っかって寝ないで!
ラオクレスー!ラオクレスー!助けてー!