軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17話:何度でも楽園を*1

なかよし魔物ふれあい広場について、早速、ラージュ姫から釈明を頂いた。

「召喚獣の実物に触れることは、教養のためになります。娯楽にも教養にもなるならば、多方面から国民の為にもなりますし……魔物についての正しい知識を持ってもらうことで、国の土台をより強固なものにすることができます」

僕らが真剣に聞く中、ラージュ姫はより一層熱を入れて、『なかよし魔物ふれあい広場』について語ってくれた。

「魔物は怖くない、などと思う必要はありません。けれど、『全ての魔物は恐るべき、嫌悪すべき対象である』などと思われていては困るのです。だって、この森の魔物の皆さんはとても友好的で、可愛らしいんですもの。不必要に魔物を恐れる必要は無いはずです。ならば、それを分かってもらうためにも、国民が魔物を知る機会を設けていくべきであると考えました」

「その結果が……『なかよし魔物ふれあい広場』、か……」

ネーミングにちょっと肩を震わせつつフェイがそう言えば、ラージュ姫は至極真剣な顔で頷いた。

「……父がああなのですもの。魔物と共存できる国にしていった方がいいと、思っています。魔物と手を組む者が1人だからこそ問題なのであって、人が皆、魔物と仲良しだったなら、魔物と手を組む者など脅威になりませんから」

成程なあ。アージェント家の人達が魔物とやり取りして、それによってこの国をひっくり返そうとしているのなら、その優位性をひっくり返してやればいい。

全員が魔物のことをよく知っていて、全員が魔物とやり取りしているのなら……アージェント家の優位性は随分と目減りするだろう。

……けれど。

それはそれとして。

「ええ。ですから今こそ、なかよし魔物ふれあい広場を開催し、この国にとって、魔物が当たり前の存在となるようにしたいのです!」

「も、もう駄目だ!笑うしかねえ!」

フェイが笑いだしたのを皮切りに、全員、気が抜けてしまった。

……いや、だってさ。『なかよし魔物ふれあい広場』だよ?こんなの……こんなの、笑うなって言われても、難しい!

「……駄目でしょうか、『なかよし魔物ふれあい広場』は……」

「いや、いいと思うよ……」

うん。実際、いいと思うよ。いいとは思う。対象者を主に子供にするならぴったりだし、大人にも警戒心を抱かせないっていう意味では、すごくいいネーミングだと思うよ。ただ、真面目な顔で連呼されると笑ってしまうネーミングでもあるけれど。

「ええと、それで、ラージュ姫。その……な、なかよし魔物、ふれあい広場……っていうのは、どういう風に実施する予定なのかしら」

ちょっと笑いながらも、クロアさんは真面目に話を進めていく。偉いなあ……。

「そうですね……魔物は私が召喚獣として所有することになったものの協力を仰ぐつもりです。そして、多くの国民が立ち寄れる場所……例えば、広場などで実際に魔物を間近に見て、触れて、魔物というものがどういうものなのかを知るきっかけにして貰えれば、と思うのです」

そして相変わらず真面目にラージュ姫が答える。うん……。

「そうね、とてもいいと思うわ。……でも、問題もあるわね」

そこへクロアさんは、早速問題提起した。

「警備がものすごく大変だわ。それこそ、不可能なくらいに。……私がアージェントなら、魔物と触れ合う機会を王家が用意しているところに、魔物の軍勢で攻め入って、催しを滅茶苦茶にするわよ」

「……まあ、奴らならやりかねん。鎧の時もそうだったが、あいつらはそういった粗暴な手段をとることに躊躇いが無いように見える」

ラオクレスは渋い顔で腕組みをして、唸る。その横にいつの間にかやってきていた魔王が、ラオクレスの真似をして腕組みみたいなポーズをとり始めた。

「そうね。彼らにとっては簡単なことね。魔物を大暴れさせて催しを壊せばそれで利益がある。……とっても都合がいいと思うわ。王家が用意したなかよし魔物ふれあい広場に魔物が現れて、人々を襲い始める、なんてことが起きたら……当然、人々の怒りは王家へ向かうでしょうから」

クロアさんはラオクレスの横から魔王をそっと抱き上げて、自分の膝の上に乗せた。魔王はそれが嬉しかったらしくて、クロアさんの膝の上、撫でられながら、まおーん、と満足げに鳴いた。

「本当にそうなる?王家が開催している催しをぶち壊しに来るのは分かるけれどさ、そこで積極的に暴れたところで、アージェント側の評判が落ちるだけなんじゃない?」

ライラは横から魔王をつっついてまおんまおん鳴かせながら、そう言って首を傾げる。そうだね。実際に人に危害を加えているのがアージェント家だって分かれば、人々の不安や不満は王家ではなくてアージェント家へ向かうんだろうけれど……。

「アージェント家は間違いなく、魔物使ってくるだろうしなあ……。アージェント家が魔物を操ってる、なんつう話を始めたら水掛け論にしかならねえし、魔物が主犯な以上、なかよし魔物ふれあい広場を開催してる王家の方の印象が悪くなるのは間違いねえ。アージェントの罪を証明できるわけでもねえし、民意は真実を元に動いちゃくれねえ」

そうなんだよなあ。難しい。

魔王がクロアさんの膝の上からライラの膝の上を通って、やがて僕の膝の上までやってきて、そこで丸くなる。僕はそれを撫でてやりつつ、考える。

「……やっぱり、作るより壊す方が簡単だ」

「そうだな」

「でも、だからといって何も作らないでいたら、それは駄目なんだ。何も生まれない世界なんて……少なくとも、僕らは望んでない」

僕がそう言うと、周りで皆が頷いた。

ありがたいことだ。ここに居る人達は、何かが生まれることを喜んでくれる人達だ。僕が美しいと思ったものを同じように、或いはちょっと違った視点で、やっぱり美しいと思ってくれる人達だし、僕が大切にしているものを大切にしてくれる人達だ。というか、僕に限らず、他者が大切にしているものを大切にしてくれる人達なんだよ。

だから、僕は安心して色々話せる。『そんなことどうでもいいでしょう』とは言われないから、だから、幾らでも話せるんだ。

「完璧な守護が、必要なんだ。敵を外から受け入れないような、そういう仕組みが」

「とは言ってもなあ……王都のどこで開催するにせよ、難しい気がするんだよなあ。大規模に結界を張ってみたところで、会場の外を襲うってこともあり得るし」

フェイが唸っていると、僕の膝の上からフェイの膝の上に移動した魔王がそのままフェイの背中を這っていって、フェイの頭の上に、てろん、と乗っかった。まおん、じゃないよ。こら、降りてきなさい。

「王家が主催している以上、この国のどこが襲われても王家の責任だものね。難しいわ……まあ、幸か不幸か、この国で貴族連合領とアージェント領を除いたら、王都以外に襲って都合がいい都市ってほとんど無いのよね。だからまあ、守るなら王都、なんだけれど……」

「そうですね……王都をすっぽり覆うような結界でもあれば話は別なのかもしれませんが、流石にそれは実現不可能でしょう」

ラージュ姫もため息を吐きつつ、フェイの頭の上から魔王を持ち上げて、そっと自分の膝の上に乗せた。

……すると、後ろから出てきた鳥が、ひょい、と魔王を咥えて、そのまま自分の羽毛の中にしまい込んでしまった!

鳥の羽毛の中から、まおーん、まおーん、と魔王が助けを求める声が聞こえ始める。ああああ……。

「こら、駄目だよ。魔王をしまっちゃ……うわああ」

魔王を鳥の羽毛の中から回収しようとした僕も、鳥につつかれて、そのまま鳥の羽毛に埋もれさせられてしまう。暑い!

鳥の羽毛から顔だけ出られたところで、森の方から鳥の子達が飛んでくる。珍しいなあ、と思う間もなく、鳥の子達はすっかり鳥を囲んでしまって、キュンキュンキョンキョンやかましく鳴く。うるさい!しかも、余計に暑い!どこまでもふわふわ!

「……トウゴと魔王が鳥の壁に囲まれてらあ」

「フェイ!助けて!出られない!」

「なんだかよく分かんねえけど、しばらくそのまんまで居ろよ。鳥はそれがいいみたいだし……正直、これだけ囲まれちまってるともう手出しできねえっつうか、見てて面白いっつうか……」

「薄情者!フェイの薄情者!」

鳥の羽毛と鳥の子達にすっかり囲まれてしまって、僕は鳥の羽毛から出られないし、フェイ達も手出しができないらしい。それに調子づいたのか、鳥の子達は余計にやかましく、キュンキュンキョンキョン、すこぶる元気だ!

「……あっ」

そんな僕らを見ていたライラが、ふと、声を上げた。

「ねえ、これ、どう?こういうのを『なかよし魔物ふれあい広場』で展示したら?鳥さんは魔物なのかそうじゃないのかよく分かんないけど、でも、こういうの、見ごたえあっていいと思うわよ」

ライラも薄情者!

「そうねえ……でも、鳥の子達は森から出ないんじゃないかしら。ソレイラの方まで降りてくることだって珍しいから……」

クロアさんも冷静に考えていないで助けて!ほら!魔王もまおーんまおーん鳴いてるから!

「……なら、ソレイラで開催するかぁ?『なかよし魔物ふれあい広場』」

そしてフェイもそんなことを……。

……うん。

「あ、あの、本当に、ソレイラで開催したら、駄目かな」

僕が鳥の羽毛の中から肩ぐらいまでなんとか出つつそう言うと、皆が、きょとん、として……そして、気づいて納得したような顔をしたり、頷いたりし始めた。

「なかよし魔物ふれあい広場を、ソレイラで、主催者は僕っていう形で、開催すれば……貴族連合が開催するからアージェントさん達は手出ししにくいんじゃないかな」

魔物と触れ合う機会なんて、王家が作らなくてもいい。

うん。そうだ。このソレイラには骨の騎士団が居るし、ちょくちょく馬達が買い物に来るし、妖精が飛んでるし、鳥がお供え物を攫っていくし……元々、魔物との共生が実現している町なんだ!

だったら、王家の為じゃなくても、この町のためにやってもいいんじゃないかな。なかよし魔物ふれあい広場!

それから僕らは準備を始めた。

まず……声明は、僕から出すことにした。

これについてはフェイのお父さんともよく話し合ったんだけれど……フェイのお父さんからの発表だと、『王家と和解している貴族連合からの申し出』になってしまう。そうなると何か思惑が裏にあるって思われそうだし、何となく硬い催しになってしまうので、今回は無し。

……ちょっと希望的観測なんだけれど、どうやらアージェントさんは僕のことを高く買ってくれている、らしい。ついでに、ラオクレスの見立てでは、『出来る限り敵に回したくはないと思っている』みたいだから……僕自身が『なかよし魔物ふれあい広場』を開催する分には、邪魔しないでくれるんじゃないかな、と、思った次第。

「……こんなに豪華な催し、中々無いわよ」

「そういえば、召喚獣って高級品なんだっけ」

早速、ソレイラの北の催し物スペースに新しい会場を設置して、魔物達をある程度配置してみたところ、クロアさんからため息交じりにそんな感想を貰った。

「そうだな。これだけの召喚獣を揃えるとなると、貴族の催しくらいしかないだろう」

「……貴族もなかよし魔物ふれあい広場をやるのか」

「いや……自分の持ち物を自慢するための催し、会合……といったものだろうが」

ああ、なるほど。そういうやつか……。

「普通、こんな『なかよし魔物ふれあい広場』なんてやらないわよ。高級品をわざわざ一般人に見せる必要は無いし、何なら、召喚獣って美術品でもあるし武器でもあるわけでしょう?そんなもの、人に見せないわよね」

「じゃあ、なかよし魔物ふれあい広場はとても貴重な場なのか……」

聞けば聞くほど、ちょっと腰が引けてくるというか……いや、やるけれどさ。なかよし魔物ふれあい広場。ただ、それが、この世界では中々難しいことだっていうのが分かってくると、ちょっと……誇らしいような隠れたいような、複雑な気持ちだ……。

「がしゃ君達、張り切ってるわねえ」

「触れ合いキャスト兼、警備員だからね」

庭園風の会場の中、試しに歩き回っているのはがしゃどくろ達だ。骨と鎧の騎士団の彼らは、今回もばっちり張り切っている。

彼らは彼らなりに人間に怖がられない見た目づくりに気を遣っているらしくて、今もタンバリンを鳴らしたり、肩を組んで踊っていたり、『ようこそ』と書かれた看板を花で飾りつけて掲げてみたり、色々試行錯誤している。この試行錯誤っぷりがすごくいいと思うよ。魔物が人間に歩み寄ろうとしているっていう実例だから。

「鎧達もすっかり馴染んだな」

「うん。彼ら、とてもなかよしなんだよ」

そう。骨の騎士団が骨と鎧の騎士団になってからもう2か月が経つけれど、彼らはとっても仲良くなった。たまに軍事訓練をしているのを見るけれど、息ぴったりな骨と鎧のコンビネーションは、見ていてとても楽しい。骨が動いて鎧が引っ張って、普通ではありえないような動きを実現しながら剣と盾とで戦うんだよ。とても見ごたえがあるから、今回のなかよし魔物ふれあい広場では骨と鎧の剣舞ショーを開催しようと思っている。

「……賑やかだな」

他にも、妖精達が飛び回る花畑を用意したり、ついでにそこに妖精カフェ出張店を用意してカフェスペースにしてみたり、ふわふわが宙を漂っていたり、リアンとアンジェの鸞がカーネリアちゃんのフェニックスと一緒に木々の間を飛び回っていたりと、中々賑やかになってきた。

あと馬。……ちょっと水辺を作って花を咲かせて低木を植えて、ってやってみたら、買い物帰りだったらしい馬達が水浴びしにやってきた。その数分後、鳥もやってきて、水場は鳥に占領された。賑やかだ。

それから、魔王も居る。魔王は今、水辺の隅っこでちゃぷちゃぷと水遊び中だ。涼しくて気持ちいいらしくて、まおーん、とご機嫌に鳴いている。

「森の魔物達だけでも十分すぎるくらいに魔物が揃っちゃうわね……」

「うん」

見てください、この個性豊かな魔物達。自信を持って皆に見せびらかしたい面々だ!

これなら自信を持って、なかよし魔物ふれあい広場を開催できる!

「ところで、鳥さんに埋もれる精霊様の展示は無いのかしら?」

ありません!