軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話:2人の勇者、それから絵描き*7

理想の世界を絵に描いて提示することで、『ああ、こういう世界もいいな』って思ってもらえるように、僕は絵を描く。『こういう世界もありますよ』っていう提案を、絵の形で行う。そういうこと、らしい。

……要は、イメージアップ、っていうことになる、のかな。ラージュ姫や魔物達のイメージアップの為の絵を描いて、それを王立美術館に展示する、っていうことになった。

描いているのは、『魔物』の絵。この間描いていた、魔物のダンスパーティの絵と同じようなかんじに。平和で優しくて柔らかいかんじに。描いていて楽しい。

2枚目は、『勇者と魔王』。ラージュ姫とルギュロスさん、そしてまおーんと鳴くうちの魔王を中心に、魔物も人間も一緒になって、明るく進んでいく絵。子供を肩車しているがしゃどくろが居たり、おやつを貰ってにこにこしているハルピュイアが居たり、天馬が首からがま口ぶら下げていたり……なんとなく、平和でちょっと間が抜けていて、底抜けに明るい絵だ。描いていて楽しい。

……他にもお題はいくつかあって、『勇者』と『天使』と『森』がお題だ。『勇者』はまあ後で描くとして、『天使』はリアン達を描かせてもらえばそれでオーケー。『森』はいつも描いてるから問題なし。

こうして僕は、全部で5枚描くことになってる。結構ハイペースだ。これ、魔法画が無かったら無理だったと思う。

「ま、いいんじゃないの。あんたは勇者じゃなくて絵描きなんだしさ」

「うん」

「それでいて、勇者の演説よりも絵描きの絵の方が人の心を動かせるってことも、あるかもしれないし」

「うん」

「……あんたの絵にそういう力があるって、ラージュ姫もオーレウス王子も仰ってるんだから、頑張りなさいよね」

絵を描くことは楽しいし……その、ラージュ姫やオーレウス王子が僕の絵を選んでくれたっていうことが、すごく嬉しい。

今回の依頼……王立美術館の企画展に飾るための絵を数枚、っていう依頼をオーレウス王子から直々に賜った時には、役者不足ではありませんか?って、思わず聞いてしまった。けれど、王子は『君の絵だからこそいいんだ』って言ってくれて、その、それがすごく、嬉しかった。

『魔物をこんなにも美しく暖かく描ける絵描きは他にいないだろうから』って、そう、言ってもらったのが、まだ、胸の中でふわふわしている、というか、何というか。

「うん。嬉しいから頑張る。ライラも頑張って」

「当然。……ま、恐れ多いっていうかさ、なんていうか……本当に私の絵でいいの?って、思っちゃうんだけどね」

そして僕と一緒に、ライラもこの企画展に絵を出すことになっている。

……今回の企画展、『トウゴ・ウエソラとライラ・ラズワルドが同じお題で絵を描いたらどうなるのか?』っていう企画にするらしいんだよ。そりゃあ、王家と魔物のイメージアップのための企画です、とは言えないし。

だから、ライラも描く。王立美術館では龍の一件があって以来、僕らがセットになっているらしいので、折角だから2人とも描くことなった。その方が、見に来る人が楽しんでくれるだろう、っていうことで。

「僕はライラの絵、好きだよ。荒々しくて」

「それ、褒めてんの?……褒めてるのよねえ、トウゴだし」

「うん。褒めてる」

ライラの絵は、僕のよりもタッチが力強い。魔物達も、柔らかくて暖かいというよりは、力強い、っていうイメージに描かれている。

そして何より……。

「ラージュ姫が、勇ましい」

「そうね。ラージュ姫っておっとりしているように見えるけれど、いざという時は凛々しく勇ましく立ち向かってくれるでしょう?……っていう、印象付けの絵、かもね。でも、あながち嘘じゃないと思ってるわ」

ラージュ姫が。ライラの描いた『勇者』の絵が……すごくいい出来栄えだ。

真っ黒な闇の中、ラージュ姫だけが明るく浮かび上がっていて、その銀髪も白い肌も眩しいくらいで……そして、勇者の剣を片手に構えて、画面の斜め手前右を見据えている、というような、そういう絵。

躍動感がすごいんだよ。この一瞬後には、ラージュ姫は地面を蹴って暗闇の中を進んでいくんだろう、と思わされる。そういう絵だ。ライラが普段から真面目にデッサンをやっているのがよく分かる。人間の体の形を正確に捉えて、しかもそれが動きの中でどう歪んでどう動くのかまでがちゃんと絵に再現されているっていうか……。

……いや、違うかな。人体の動き方を、『どう動かしたら見栄えするか』で動かしてるんだ。よくよく見ると、ライラはこの絵の中でも嘘を吐いているらしい。光の具合とか、影のでき方とか。そしてそのせいで、余計に力強く躍動感に溢れた絵になっているっていうか……すごいなあ。

「ラージュ姫はやっぱり濃い色の背景に映えるわね。銀の髪も白い肌も紫水晶みたいな瞳も、陽の光の中より暗闇の中での方が見栄えがするっていうかさ」

「うん。分かる……」

「で、こういう風に描くと、やっぱりカッコいいのよね」

「うん。すごく分かる……」

いいなあ、この、暗闇の中、1人だけスポットライトを浴びているかのような、そういう構図。少しレンブラントの絵を思い起こさせるかんじだ。

「どうしよう。僕、ライラの絵に影響されてしまいそうだ」

「あら。そりゃあ光栄だけど、駄目だからね。あんたはあんたの絵を描かなきゃ」

「分かってるけどさ……」

優れた絵を見ると、それを取り入れたくなってしまう。これはしょうがないことだよ。

「ま、頑張ってきなさいよね」

「うん」

……僕は、ライラの声掛けに頷く。

そう。僕は、頑張ってこなきゃいけない。

……ライラが『勇者』のお題で描いたのは、ラージュ姫だった。

そして、僕が『勇者』のお題で描くのは……ルギュロス・ゼイル・アージェントさんだ。

折角、僕とライラで性格も画風も違うんだから、同じお題で同じものを描く必要はない。

ラージュ姫ばっかり描いていたらちょっと王家に偏りすぎ、っていうところもあって、僕はルギュロスさんの方を描くことになった。

……のだけれど、僕、ルギュロスさんの顔をあまりよく覚えていない。何せ、僕がルギュロスさんを見たのは、ダンスパーティの日に殴り込みに来てそのまま捕まっていってしまったあの時の一回きりだから。

ということで。

「……トウゴ。あまり目立つ動きはするなよ」

「分かってるよ」

僕は、ラオクレスと一緒にアージェント領に来ている。

その、取材旅行っていうことで。

僕とラオクレスの2人旅なのには、理由がある。

それは、もし見つかってしまったとしても、『ただの旅行です!』で済ませられるから。

……ここにフェイがくっついてきてしまうと、貴族連合の奴が何の用だ、ってなってしまうし、ラージュ姫やオーレウス王子はもっと駄目だ。

アージェント領では何があるか分からないので、子供達を連れてくるのも躊躇われた。ライラは美術館に飾る絵を描いているところなので、取材旅行の余裕は無い。

唯一、クロアさんに同行してもらうかどうかだけ悩んだのだけれど……クロアさん曰く、『今後も私が1人で動くことを考えると、私とトウゴ君が一緒に居るところを印象付けない方がいいと思うの』ということで、今回は僕とラオクレスの2人旅になった。まあ、気楽でいいよね。こういうのも。

アージェント領の街並みは、『瀟洒』という言葉がしっくりくる。

取り立てて華美ではないのだけれど、センスがいい、というか。町の広場に敷かれたタイルの色合いとか、並べ方とか、柵のデザインとか、そういうものが1つ1つ、合理的にできていつつ、その範囲内で綺麗に誂えてある、というか。そういうかんじだ。

街灯の黒とか、ベンチのダークブラウンとか、タイルのブルーグレイとベージュとか、そういう落ち着いて渋い色合いが多いから、華やかさはないけれど、その分落ち着いて洒落た印象が強い。

「ゴルダとはまた違うけれど、この町もお洒落だ」

「そうだな」

ゴルダの街並みも綺麗だけれど、アージェントの町もいいなあ。落ち着いてゆっくり描きたい……。

それから僕はラオクレスと一緒に町をぶらぶらしつつ、買い食いなんかもしてみたりして、存分に町を楽しんだ。……いや、その、買い食いについては、何故かラオクレスが積極的に買い食いさせようとしてきた。『珍しいものが売っているな』とか、『腹は減っていないか』とかそういう話題が多かったし、何ならラオクレス自身が積極的に食べ物を買っていた。

……ラオクレスは、ソレイラでのお祭りの時に僕がお祭りの買い食いで楽しんでいたのを見て、僕は買い食いが好きらしいと勘違いした、のかもしれない。いや、確かに、好きだけれどさ。買い食い。なんか、新鮮でいいよね。

ということで、買い込んだご飯やおやつを広場の隅っこのベンチで食べていると。

「……少し騒がしいな」

「ルギュロスさんかな」

広場の向こうの方が騒がしくなってきたので、ちょっと様子を窺ってみる。

……すると案の定、広場の中心の方では、ルギュロスさんが何か、演説をしているらしい様子が見えた。どうやら、始まったみたいだ。

「よし。描いてくる」

「待て。俺も行く」

慌ててルギュロスさんを見に行こうとしたら、ラオクレスに襟のあたりを掴まれて引き留められてしまった。なのでそのまま、一緒に広場の中心へ向かうことになる。

「……して、王家の連中は何をやっている!?魔物を城に集めているというではないか!諸君らの中には城から出てくる魔物の群れを見た者も居るだろう!」

やってた。案の定、ルギュロスさんだった。

ルギュロスさんは一生懸命演説をしていて、町の人達はそれを聞いている。

足を止める人ばかりではなく、通り過ぎていってしまう人も多いのだけれど、それにしたって、聞き入っている人達は十分多い。

……ということで、描く。

「早速描くのか……」

「うん」

折角だから、どんどん描いていくよ。時間も機会ももったいない。

ルギュロスさんは、淡い色の金髪にブルーグレーの瞳をしていて、太陽の光が良く似合う。強い光を浴びた時、真っ白に見えるくらい輝く髪と力強い瞳のコントラストが中々綺麗だ。

儀礼用なのか、すごく綺麗なつくりの鎧を身に着けていて、マントが風にたなびいて、そして、その手には勇者の剣……のレプリカのレプリカ。実に勇者っぽい出で立ちなので、描いていて楽しい。

そんなルギュロスさんは……なんというか、ちょっと不思議な雰囲気がある。

なんだろうな、少し特別なかんじ?少し他と違うかんじ……うーん、異質、とも、言える、かもしれない。

「トウゴ。今のルギュロスを見て、魔物らしいと思うか?」

僕が首を傾げていたら、ラオクレスがそう、聞いてきた。

ああ、そういうことなのかな、と思って改めてルギュロスさんを見てみると……成程。確かに、『魔物っぽい』のかもしれない。

気配というか、魔力というか、そういうものが人間っぽくないんだ。それでいて、森っぽくもない、というか……見ていて落ち着くかんじじゃなくて、見ているとちょっとそわそわするというか、ざわざわぞわぞわする、というか……。

「うーん……ちょっと不思議なかんじはある」

「成程な。以前とは違うか」

「うん。間違いなく」

見た目は変わらないけれど、気配は全然違う。玉座の間で王様に剣を向けたあの時のルギュロスさんから、大分変わってしまった。……それはきっと、彼が魔物になった、っていうことなんだろう。

「そうか。なら、急いで描け。そして、さっさとこの町を出た方がいい。一泊するにしても、王都まで引き返してから一泊する方がいいだろう」

「うん。分かった」

ラオクレスからそういうお言葉をいただいたので、僕は更に急いで絵を描いていく。

ルギュロスさんの表情をいくつかメモして、体つきや色合いをメモして……絵を描けるように、ルギュロスさんの資料を集めていく。前、王様を人間に戻した時にライラがやってくれたことと大体同じだ。こういうメモがあれば、後からメモを見て、頭の中でルギュロスさんを想像して組み立てて、それを描くことができる。これがなかなか便利なんだよ。

……ということで、ルギュロスさんが演説する中、僕は広場の端の方で、ルギュロスさんをひたすら描いていた、のだけれど……。

「トウゴ・ウエソラか?」

声を掛けられてしまって、びっくりして振り返る。

……するとそこには、アージェントさんが居た。

あ、お久しぶりです……。