軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11話:2人の勇者、それから絵描き*4

「ラージュ姫!無事か!?」

フェイとラオクレスを先頭に僕らがラージュ姫の部屋へ辿り着いた時、ラージュ姫は既に……数十匹の蜘蛛によって、糸でぐるぐる巻きにされていた!大変だ!

「くそ、狙いはラージュ姫だったのかよ!」

「い、いいえ!違います!皆さん、蜘蛛を追ってください!」

フェイがラージュ姫に駆け寄ると、ラージュ姫はぐるぐる巻きにされながらも、そう言って窓の方を示す。

窓の方を見ると、ぞろぞろと、子蜘蛛達が逃げていくところだった。それを見ながら、ラージュ姫は、必死に声を上げる。

「剣を……勇者の剣を、奪われました!」

剣、というと……勇者の、光の剣!

見てみると、丁度、窓枠を越えていく蜘蛛達が、蜘蛛の糸でぐるぐる巻きになった長いものを運んで出ていくところだった。あれか!

「成程な、狙いはラージュ姫じゃなくて勇者の剣だった、ってことか」

「となると、いよいよアージェント家が犯人っていうことでいいわね。『勇者』であるルギュロスは光の剣が欲しいでしょうし」

早速、クロアさんとフェイが動く。フェイは火の精を呼び出して蜘蛛達の進路を塞ぎ、クロアさんはラージュ姫を蜘蛛の糸から助け出した。

「こら!盗みに入るだなんて、躾のなってねえ蜘蛛だな!」

フェイは早速、子蜘蛛達から剣の包みを取り戻して、尚も足元に群がろうとする子蜘蛛達をひょいひょい避けて戻ってきた。後は、子蜘蛛達の進路を火の精達が塞いでくれて、これで終了。どうもありがとう!

「……ところで」

子蜘蛛達が部屋の隅っこで火の精達に囲まれて右往左往するだけになった横で、僕らは光の剣を見ながら相談する。

「この剣、盗まれてしまってもそれほど困らなかったのではないだろうか」

主に、この剣と、この子蜘蛛達の処遇について。

「……そう、だなあ……確かにこの剣って、トウゴが描いて出した奴だったっけ」

「うん」

そうなんだよ。この剣、『勇者の剣』のレプリカでしかないんだ。本物は……ほら、僕が持つと筆になっちゃうあれだから。今は森の中、鳥の羽毛に埋もれてぬくぬく温められているはずだ。

「ちょっと光るけれど、普通の剣なんだよ、これ」

「そ、そう言われてみれば、そう、なのですよね……私はこの剣に少し愛着があるのですが」

あ、そうか。ラージュ姫はレプリカとはいえ、この剣とずっと一緒に居るから。そっか。愛着があるのか。なら、やっぱりこの剣、取り戻してよかった。

「それにしても、アージェントの野郎もよくやるよなあ……仮にも勇者名乗らせてるルギュロスを投獄させて、雌の大蜘蛛に出産させて、生まれた子蜘蛛を城内に潜入させておいて、父蜘蛛を使って子蜘蛛を操って光の剣を盗み出す……って、相当に大がかりだぜ?」

「そうねえ……まあ、多分、これはあくまでも第二案、第三案なんだと思うわ。第一案は多分、私達か王家の誰かがルギュロスに近づいたら何かする、っていうものだったんじゃないかしら」

成程。つまり、ルギュロスさんは、作戦が失敗したから、別の作戦を遂行することにした、っていうことなのかな。ということは、本来の目的は勇者の剣ではなくて、別の何かだったのかも。例えば、本当にあそこで王様を殺してしまうことだった、とか……。

「まあ、これで大方、相手の狙いは分かったわね。ルギュロスはどうせアージェントのところに戻っているのでしょう。どうやって脱獄したのかは分からないけれど……それで、勇者の剣を使って、より『正統な勇者』であることを主張するつもりでしょうね」

「それで民衆の支持をアージェントに偏らせて、王家を転覆させようってか?結構難しいんじゃねえのかなあ、それは……」

まあ……分からないけれど、とりあえず、アージェントさん達は、勇者の剣が欲しかった。そういうことで間違いは無さそうだ。

僕は、部屋の隅で火の精にちょっかいを出されては右往左往して縮こまる子蜘蛛達を描きつつ、ひとまず一件落着、ということで安心した。よかったよかった。

……そうして僕が、『火の精に追い詰められる子蜘蛛達』の絵を描き終わった頃。

「じゃあトウゴ君。ちょっと別室行きましょうか」

クロアさんにそう言われてしまった。

「え?」

「オーレウス王子も呼んできましょう。フェイ君とラオクレスはここで子蜘蛛達の見張りをお願いね」

不思議に思っている内に、僕とライラとラージュ姫はクロアさんに引っ張っていかれて別の部屋へ入って……そこで、言われた。

「提案があるの。あの子蜘蛛達には『お土産』を持って帰ってもらう、っていうのはどうかしら」

それから、騒ぎを聞きつけて駆けつけてくれたオーレウス王子も含めて、僕らでクロアさんの提案を聞く。

「ここで子蜘蛛達が勇者の剣を奪取し損ねたとなると、アージェントはまた次の手を打ってくるでしょうね」

「だろうな」

王子は頷きつつ、ちらり、とラージュ姫を見る。……『次の手』が何かは分からないけれど、その手は確実に、ラージュ姫を狙うものだ。

ラージュ姫は一応、勇者として名乗りを上げている訳なのだけれど、特別な力を持っているわけでもない、普通の女の子だ。……いや、普通の女の子よりは魔法を使えるんだろうけれど。

だから、これからもっとラージュ姫が狙われるようなことがあると、不安だ。すごく。

「なら、勇者の剣を持ち帰らせてしまった方が、ラージュ姫や王城への被害は少なくて済むんじゃないかしら」

「……ふむ。成程な」

クロアさんの案は結構大胆なものだと思うのだけれど、オーレウス王子はするり、と納得しているように見える。

「元々、この剣、レプリカなのよね。ええと、本物は……今、どこにあるのかしら、トウゴ君」

「鳥の羽毛の中」

「成程ね」

あの鳥さん、あれ気に入ってるのよねえ……と言いつつ、クロアさんはため息を吐く。僕の頭の中では鳥が元気かつ何故か自慢げに、キョキョン、と鳴いている。

「とにかく、どうせレプリカなら、渡してしまってもさしたる問題は無いでしょう、ということ。それでラージュ姫への直接の危害が減らせるなら、安い買い物だと思わない?」

クロアさんがそう言うと、オーレウス王子は少し難しい顔で考えた。

ええと……ラージュ姫の安全は確保したいけれど、レプリカとはいえ、勇者の剣を渡してしまうと何かと厄介、っていうこと、なんだろうか。

まあ、『物が盗まれた』ってなったら、警備体制の甘さとかを問われることになるんだし、責任問題とかにもなるのかもしれない。難しいことはよく分からないけれど。

「……いや、折角なら」

そして、考えた末、オーレウス王子は、切り出した。

「トウゴ殿。もうひと振り、この勇者の剣の偽物を授けては貰えないだろうか?」

「え?もうひと振り?」

「ああ。アージェントには偽物の偽物を渡したい」

それは……構わないけれど。うん。そういえば、ラージュ姫は今の剣に少し愛着があると言っていたから、僕としてもそちらの方が嬉しいな。偽物だろうがなんだろうが、愛着がある道具って、特別なものだから。

「勇者の剣を使ってアージェント側がやりたいことは、まず間違いなく民衆の扇動だろう。この間の鎧騒ぎの時も、同じ目的だったと考えられる。民衆を動かすことでこの国を転覆させようとしているのだ。なら、その道を突き進んでもらおう。勇者の剣が欲しいというのならば、ルギュロス・ゼイル・アージェントを表に出すつもりということだろう。ならば……」

オーレウス王子はラージュ姫を見て、頼もしい笑顔を浮かべて、言った。

「ラージュとルギュロス。どちらがより民衆に支持される勇者足り得るか。その勝負になる」

それから僕は絵を描いた。光の剣の絵を描いて、光の剣を出した。

デザインはラージュ姫が使っているやつと同じだ。光の具合はちょっとレプリカのレプリカの方が弱め。出てきた剣は、ラージュ姫がずっと持っている剣と瓜二つだ。当然だよ。だってどっちも僕が描いたものなんだからさ……。

「どうせレプリカを増やすなら、実物があった方がトウゴ君も描きやすいものね。丁度いい機会だったわ」

「そりゃあまあ」

一度描いて実体化させてしまったものって、紙の記録としては残らないから、もう1つ同じものを描く、っていうのが少し難しいんだ。それこそ、実物が残っていれば話は別なんだけれど。

「じゃあ、こっちは子蜘蛛さん達に持って帰ってもらうことにしましょうか」

「うん」

……そして僕らは、フェイとラオクレスが警備する部屋へ戻って、そこで勇者の剣のレプリカのレプリカを子蜘蛛達に渡して、子蜘蛛達がえっちらおっちら剣を運び出していくのを見送る。

「じゃあ、これで様子見っていうことにしましょうか」

「賛成」

ということで、僕らは子蜘蛛を見送った。お達者で。

それから、1週間。

僕はラージュ姫をより勇者らしくするべく、彼女のための軽い鎧やアクセサリーのデザインを請け負ったり、ラージュ姫の肖像画を描かせてもらったりしながら過ごしていた。

そんな中。

「案の定、だわ。アージェント領でルギュロスの演説があったそうよ」

密偵らしいことをやっていたクロアさんから、そんな情報が入ってきた。

「……ということはいよいよ、ラージュ姫とルギュロスとの信用勝負かあ」

妖精カフェでお茶を飲みながら、フェイはちょっと引き締まった顔でそう言った。

「負ける気はしねえな」

「どうかしら。私がアージェントなら、いくらでも汚い手を使ってラージュ姫や王家の評判を落としに落とすけれど」

そしてクロアさんがちょっと苦い顔でそう言ってお茶を飲む。

「……ましてや、王家には明確な汚点があるわけだしな。国王という」

ラオクレスも珍しく毒舌気味だ。……ラオクレス、顔にほとんど出ないけれど、相当、あの王様のことが嫌いらしい。かつて自分の主で領主だった当時のゴルダ領主の人のあれこれがあったから、上に立つ人への目は人一倍厳しいんじゃないかな、と思う。

「大変ね!でも私、ラージュ姫を応援するわ!だってラージュ姫、素敵だもの!はい、季節のケーキ!オレンジのプリンよ!」

そんな中、カーネリアちゃんが小さな太陽みたいに明るい笑顔と明るい言葉を持ってやってきてくれた。ついでに明るい色合いのケーキのお皿も置いていってくれる。今日はオレンジのプリンだそうだ。薄いオレンジ色をしたプリンの上にカラメルじゃなくてオレンジのソースが掛かっていて、目にも爽やかなかんじ。

「そうね。今、民衆の覚えがいいのは間違いなくラージュ姫の方だと思う。私もラージュ姫、好きよ。気取ったところが無くてさ。親しみやすいっていうか、森っぽいっていうか……」

ライラが僕の向かいの席で、オレンジのプリンをつつきながら、ふと、僕を見た。……いや、ラージュ姫が森っぽいのは僕のせいではない。元々だよ。元々。

「ただ……ラオクレスの言う通り、彼女のお父様が、ねえ……ただ、この情勢で王様を消してしまうとそれはそれで地盤を揺るがすことになりそうだし。厄介だわ」

「……王族でも貧民でも、クソ親父に振り回されるのは一緒なんだな。ほら、トウゴ。アイスティーお代わり入れとくからな」

クロアさんがぼやいていると、リアンがアイスティーの入ったピッチャーを持ってきて、僕らのコップに注ぎ足してくれた。ちなみにこのお茶はカーネリアちゃんが淹れた奴らしいよ。彼女、お茶を淹れるのがすっかり上手になった。

「クソ親父、かあ……まあ、そうかもな。ラージュ姫もオーレウス王子も大変だ。外にも中にも敵がいるっつうのは、いい環境じゃねえよな」

フェイはリアンの言葉に思うところがあるらしくて、ちょっと気まずげにお茶を飲んでいる。

……この中では唯一、フェイの家だけが、真っ当、というか……ええと、その、親子の仲がいい。

ライラは天涯孤独になってしまっているし、リアンとアンジェのお父さんはあんまり良い人じゃない。少なくとも、自分の子供を借金のカタに売ってしまう人は真っ当な親とは言えないと思う。

カーネリアちゃんのところは、リアンのところよりはいい、気がする。色々と思うところはあるけれど、でも、今も時々王都の刑務所に遊びに行っては差し入れと面会を続けているらしいカーネリアちゃんの様子を見る限り、そこまで酷くはない、と思う。

そして僕のところはまあ、ああいうところだし、ラージュ姫のところもああいうかんじだ。

……ということで、フェイだけが、この中で唯一、家族に恵まれている、というか……うん。

そっと、自分のスケッチブックを開いてみる。ここ1か月分くらいのスケッチブックだ。分厚いそれを捲っていくと、王城で描いた絵を中心に、色々な絵が残っている。

その中にあるフェイ達の絵は、大体全部、和やかな絵だ。フェイの家は仲良しで、見ていて楽しい。だから描きたくなってつい描いてしまって、枚数が増えていく。

……一方、ラージュ姫の一家は、揃った絵があまり無い。食事風景を描いたものが1枚あったけれど、王様と王子王女達の間にある会話はぎこちなくて薄くて、お互いにお互いを見ることなく食事が続いているような、そういう、少し味気ない風景が描き残してあった。

ちょっとだけ、僕の家を思い出す。僕の家はそもそも同じ食卓に親子で着くことがすごく少なかったのだけれど、たまに3人揃っても、会話がなんとなくぎこちなくて、嫌だった。家族の食卓に会話が無いのは変だからとりあえず会話を、っていう目的で始められる会話は、すごく息苦しい。

「……僕、レッドガルド一家と出会えて、よかったなあ」

「へ?な、急にどうしたんだよトウゴ」

だから、フェイ達の姿を見られてよかったな、って、思うんだ。多分、ラージュ姫も思ってるんじゃないかと思う。

家の中の嫌なことって慣れてしまえば段々苦しくなくなってそれが当たり前になるけれど、それって、いいことではないと思うから。これは自分にとって嫌なことなんだって気づけるのが、一番いいと思うから。

だから、フェイ達みたいな家族が存在していることを知ることができて良かったって、僕は思ってる。幸せを知らなければ不幸じゃないなんてことはないはずだから。

ええと、閑話休題。

「ラージュ姫のためにできること、無いだろうか」

問題はそこだ。王様がどうだろうが、家族仲が悪かろうが、関係なしにルギュロスさんはラージュ姫と対立することになるのだろうし、僕らはそれを助けることができるかもしれない。

「そうね……1つ、大きな利は、ラージュ姫も勇者の剣を持っている、っていうことを、ルギュロス達は知らないっていうことよね」

ああ、成程。ルギュロスさん達は、子蜘蛛達が運んできた剣を本物の勇者の剣だと思っている可能性が高い、っていうことか。

「だから、剣を根拠に自分が勇者だと主張してくると思うのよ。ルギュロスは。……けれど、ラージュ姫も剣を持って対抗できるわけだから、これで1つ、アージェント側のアテが大きく外れることになるわね。逆に、もし自分達が偽物の剣を掴まされたと気づけたとしても、まさかラージュ姫の剣も偽物だとは思わないでしょうし、どう頑張っても五分五分よりはこっちに有利になるでしょうね」

な、成程。『途中で偽物とすり替えた』という可能性に思い至ったとしても、まさか、『ラージュ姫が持っている勇者の剣がそもそも偽物』だとは思わないよね……。

「五分五分、か。それが分かったならば、向こうは汚い手を使ってくるだろうが……」

「それだよなあ……民衆を脅すとか、民衆を襲って王家がやったことにするとか……いくらでもできちまうからさあ」

そうだね。作るより壊す方が簡単だし、守るより壊す方が簡単だ。自分を魅力的に見せるよりも他人を醜く見せる方が簡単だし、誰かを守ることよりも、誰かを傷つけて、その誰かを守るべき立場の人を糾弾する方がずっと簡単だ。残念なことに。

「で、でも、嫌なことばっかりやる人のことなんて、誰も好きにならないわ!私だったら嫌いよ、そんなやつ!」

カーネリアちゃんはぷりぷり怒ってそう言ってくれるのだけれど……。

「アージェント家は汚えことするだろうけど、同時に王家も同じぐらい嫌な奴だって思わせようとしてくるだろうからさ。だから、泥仕合にされちまうっつうか……しかも、アージェント家の方が今のところ有利だろうし……」

カーネリアちゃんが不安そうな顔になるのを見て『ごめんな』みたいな顔をしつつ、フェイは言った。

「親父と兄貴と話してたんだけどさ。結局、ルギュロスが王家を攻撃する一番の材料って、王家の表明なんだよな」

「ルギュロスさんが王様を殺そうとした、っていうやつ?」

「そうそう。それそれ」

フェイはそう言って勢いよくアイスティーを飲み干すと、早速言葉を連ねていく。

「あれを『王家の虚言だった』って言っちまうことができるんだよ。アージェント家は。だって、ルギュロスが今、牢じゃなくて外に居るんだからな」

……そうか。そうだね。

王様が言った、『ルギュロス・ゼイル・アージェントが国王を殺そうとした』っていう話は、つまり、『ルギュロスさんは城の地下に居る』っていう話とセットなんだよ。だから、ルギュロスさんが今、牢の外で自由にしているのなら、『そもそも王の話は嘘だった』って十分主張できてしまう。

まさか、『ルギュロスさんは本当に王様を殺そうとしたけれど、その後誰にも分からない方法で王家の兵士の見張りを掻い潜って脱獄しました』なんていう内容を信じる人が居るだろうか?ましてや、それって王家の牢のセキュリティへの疑いとセットなわけだし。

「ルギュロスが、『王家は自分に国王殺害未遂の濡れ衣を着せようとした!』って声高に言い始めたら、そっちを信じる奴だって多いはずだ。何が真実かなんて外から見ても分かりゃしねえし」

ちょっとやさぐれ気味にフェイはそう言って……そして、にやり、と、真夏の夕陽みたいな、ほの暗くて力強い笑みを浮かべて、言った。

「だから……俺達の出番だ。ルギュロス・ゼイル・アージェントが牢に居たっていう証明をすること。……ルギュロスがどうやって消えたのか。それを証明することが、ラージュ姫を助ける一番の手段だと思うぜ」