軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9話:2人の勇者、それから絵描き*2

「何!?消えただと!?」

事の次第を報告された王様は、そう言って玉座から立ち上がりかけて中腰になった。

「なんということを……何故そのようなことになった!誰の責任だ!」

「お父様の責任ですね」

そして王様はラージュ姫に睨まれて、すごすごと縮こまるように、玉座の上へと戻っていった……。

「アージェントを身体検査しても特に何も出なかったけれど、アージェントが関わっていることは間違いないと思うわ」

クロアさんはそう言って、表情を曇らせる。

「兵士の意見は、『アージェントがルギュロスの牢の前に立ってすぐ、ルギュロスが消えた』なのよね?」

「ああ。兵士はそう言っている。ルギュロスの牢が見える位置に居た兵士は2人。見間違い、と言うのは無理があるだろうな」

「幻覚の魔法で『居ないように見せかけられた』という可能性は?」

「それも考えたが……兵士を騙して牢から出たとも考えにくい。私達を呼びに来たのは、牢の鍵を持ったままの兵士だったのだ。牢から出る方法はどのみち、錠を開けるか錠を壊すかしかなかったが、鍵はずっと兵士の手元にあり、錠に異常は無かった。となれば、幻覚の魔法があっても無駄だろう」

うん。幻覚の魔法でどうこう、っていう訳じゃないと思う。何せ、こっちには幻覚の魔法のプロフェッショナルが居る。クロアさんが魔法の気配に気づかなかったんだから、幻覚の魔法が使われたっていうことはないと思う。

「となると、何らかの魔法が使われた、ということなのだろうが……生憎、それらの気配も特に感知されていない」

更に、魔法も使われていなかったとなると、いよいよ、どうやってルギュロスさんが消えたのかが分からない。

「……フェイも何も感じなかった?」

念のため、隣のフェイに聞いてみる。フェイは多分、この中で一番の魔力敏感肌だから、何か感じたかもしれない。

「いやあ……何か、っていってもなあ。召喚獣の気配を強く感じた、っていう程度だよな。まあ、実際召喚獣が出てた訳だし、当然なんだけどな」

フェイはそう言って唸る。決定打がどこにも無いっていうのはすっきりしないよね。

「あとは……あの地下牢、色々魔法があるだろ?その気配でよく分かんねえんだよなあ……」

「じゃあ、見てくる?」

「そうだなあ……俺が見て何か分かることってそんなに多くねえだろうけど、まあ、何かの役に立つ可能性があるんだったら……」

……ということで、僕とフェイは、一度地下牢を見に行くことにした。もしかしたら何か、重大なものが残っているかもしれないし。

「地下牢だな」

「地下牢だね」

地下特有の、ひんやりとして湿った空気。どことなくかび臭いような中を僕らは進んでいって、ルギュロスさんが収監されていた牢を眺める。

「鉄格子にも、細工はねえな。錠も綺麗にそのままだ。こじ開けた様子もねえ」

牢の扉の錠も確認。異常なし。フェイの魔力センサーにも引っかからないらしい。

「フェイ。この錠前って、召喚獣で開けたりできないだろうか」

「お前の管狐ぐらいのやつならできてもおかしくねえだろうけど、風の精だろ?なら流石に難しくねえか?火の精とか風の精とかって、俺でも使役できるようなやつだぜ?そんなに器用じゃねえし力も弱いんだ」

そういうものか。フェイの火の精達は賢いから、できそうな気もしたんだけどな。……逆に、管狐はできるんだろうか。後で聞いてみよう。

「他に何か、変なところは無い?」

「うーん……牢自体に軽い魔封じとか力封じがあるんだろうな、というくらいは分かるかな。まあ、大体の牢にはあるよな、こういうの」

森の牢には無いです。つけておいた方がいいかな……。

「あとは……んー?」

フェイは唸りながら、牢の鉄格子に触れて、それから牢の中をまじまじと覗き込んで、そして、首を傾げて……。

「あそこ、何かあるな」

そう言って、ちょっと牢の中を指さした。……なんだろう。

「ちょっと開けて……あ、くそ。鍵借りてくりゃ良かった」

「……じゃあ、試してみる?」

僕は早速、管狐を呼ぶ。すると管狐はするん、と出てきて、僕が説明するより先に、錠前の中に潜り込んだ。鍵穴から尻尾だけがはみ出て、ふりふり、と動くのをしばらく眺めていると……。

こん、と機嫌よく鳴き声がして、管狐がするり、と出てきた。それと同時、カチリ、と錠が回る音がする。……おおー。

「へー。本当にできちまったのか。やるじゃん」

フェイが褒めてくれたものだから、管狐はすっかりご機嫌だ。フェイのシャツの袖の中から潜り込んで、楽しそうにはしゃぎ回っている。そしてフェイはくすぐったがっている。

そんなフェイを横目に、僕は早速、牢の扉を開けてみる。

きい、と小さく音を立てて、牢の扉はあっさり開いた。少し重い鉄の扉だけれど、流石にこの程度も動かせない僕じゃないぞ。

「おいおいトウゴ。待て待て。こういうのは慎重にだな……」

そして牢の中に入ろうとした僕より先に、するり、とフェイが入り込む。そして、牢の奥の方へと進んでいった。慎重にって言ってる本人が慎重じゃない。

「んー……?」

フェイは牢の奥、ベッドへと近づいていった。

牢屋のベッドは牢屋のベッドらしく、簡素というか粗末な造りだ。簡単な木の枠があって、そこに干し草の布団があるだけの、簡単なやつ。……干し草の布団は、微かにかび臭い。

「……なんか、臭うな」

そして、ベッドについてフェイがそう言うので、納得。

「かび臭いよね」

「いや、そうじゃなくてよお……確かにカビてるんだろうけど」

あれ、違ったらしい。じゃあ何だろうか、と思いながら、じっとベッドを見つめるフェイを見つめてみる。

……すると。

「……ちょっとだけ」

フェイはそんなようなことを言いながら、ちょっと、布団の端を持ちあげてみた。

「……うわっ」

「うわあ……」

そして、僕らはその下にあったものを、見ることになる。

……そこにあったのは、人間の胴体ぐらいの大きさの蜘蛛の死骸、だった。

僕らは慌てて地下牢を出て、慌ててクロアさんとラオクレスとライラ、そしてフェイ一家を呼んできて、更にラージュ姫を捕まえて、皆で地下牢へ戻る。

そしてもう一回、布団を捲って、皆で大蜘蛛の死骸を見る。大蜘蛛の死骸が現れると、ラージュ姫が小さく悲鳴を上げた。

「わ……び、びっくりしたわ」

ラージュ姫ほどじゃないにせよびっくりしたらしいライラは、半歩下がって肩を抱く。ぶる、と身震いしているところを見ると、ライラは蜘蛛が苦手なタイプなのかもしれない。

「これは……どういうこと、なのでしょうか。元々あったものとは思い難いですし……となると、ルギュロス・ゼイル・アージェントが持ち込んだ、のでしょうか……?」

ラージュ姫は半歩じゃなくて2歩ぐらい下がって、僕らの後ろからそっと、ちらちらと大蜘蛛の死骸を見つつ、怖々と不思議そうにしている。

「身体検査はしたのだったな。なら、大蜘蛛を持ち込むことは難しいはずだ」

ラオクレスは布団をしっかり捲って、他に不審物が無いかを確認している。けれど、蜘蛛死骸の他にあるものは、ふわふわした埃ぐらいだ。

「……いえ。やろうと思えば、できるわよ」

そして、ラオクレスと同じく蜘蛛の死骸に堂々と近づいていったクロアさんは、蜘蛛の死骸を眺めつつ……言った。

「こいつが召喚獣だった、と考えれば、十分に考えられるわね」

「召喚獣……って、いや、無理だろ?だって身体検査したなら宝石は取り上げられるはずだ」

フェイがそう反論すると、クロアさんは小さく頷く。

「そ、そうですね。身体検査の結果は、聞いております。剣とナイフの他、宝石数点を押収した、と。つまり、ルギュロス・ゼイル・アージェントが召喚獣を所持していた可能性は無いものと思われますが……」

ラージュ姫もそう言って、クロアさんはまた頷いて……そして、クロアさんはそっと、言った。

「勿論、見えないところに隠すのよ。ナイフや剣だったら隠すのは難しいけれど、宝石1粒程度ならどうとでもできるわ」

……見えないところ?つまり、ええと、ルギュロスさんは、見えないように宝石を隠していた……?

「……実はね」

クロアさんは、そっと、秘密を話すように、小さな声で言った。

「召喚するだけなら、宝石が体内にあっても支障は無いのよ」

……えっ。