軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22話:銀色の剣

……というわけで。

「……魔物が、踊っておる」

「はい。お祝いのダンスらしいですよ」

魔物と一緒のダンスパーティが、開催された。

主催はラージュ姫、ということになっている。けれど、王様が協力してくれたことは間違いない。だって、見たことが無い魔物が何匹も居るんだから。

「王様。この度は、魔物を沢山出していただいて、ありがとうございました」

なので僕は素直に王様にお礼を言う。すると王様は、心底困り果てた顔をして、手を顔の前で振った。

「な、何を言っているか。余は、その、ただ、ラージュが『召喚獣が欲しい』と急に言いだしたのを、その、許可しただけだ。決して余は関わっておらん。このようなもの……」

あ、結局そういうことになったのか。まあ、つまり、王様がたくさん出した魔物を、ラージュ姫が片っ端から召喚獣にして、今、こうやってダンスパーティにしてくれてるんだろうけどさ。まあいいか。

「そ、それにしても余は聞いておらんぞ!貴族連合の者達が、これほどまでに押し掛けるなど!」

「おや、私のごく親しい間柄の者については呼び寄せても構わないか、お伺いを立てましたが……」

「『ごく親しい間柄の者』が30人余り居るなど、誰が想像するのだ!」

「はっはっは、これは失敬」

……王城のダンスホールを丸ごと貸し切りにして開いてもらった、『ごく個人的な』パーティには、僕らやフェイ達の他、貴族連合の貴族達も集まっている。

ええと……彼らは皆、踊る魔物達を見て悲鳴を上げたり逃げ出そうとしたり色々な反応を見せてくれたのだけれど、骨の騎士団が『ようこそ!』とか『歓迎!』とか書かれたボードを持って立っていたり、マラカスとタンバリンを持ってシャカシャカカタカタ歓迎のダンスを踊っていたり、はたまた、ドラゴンがそれなりに人懐っこく振る舞いながらのしのし歩いていたりするのを見て、ちょっと考え直してくれたらしい。

今日集まったのは元々フェイのお父さんの意見に賛同してくれる人達だった訳で、結構、この手のびっくりには慣れっこだったんだろうな。貴族の人達、もうすっかり馴染んでしまって、骨達と踊ったり、ドラゴンと踊ったり、大きな蝙蝠達と戯れたりしながら楽しんでくれているらしい。

……そして、こんな中だから、僕も下手な変装はしなかった。

サトイモの葉っぱみたいな大きい葉っぱで作ったお面だけつけておいて、あとは、膝の上には鳳凰が乗っかって、頭の上には管狐……という恰好で、文字通り、存分に羽を伸ばさせてもらっている。

僕以外にも羽が生えた魔物がたくさん居る状況だから、あんまり僕は目立っていない。見つかったとしても、『なんか変な魔物が居るなあ』『ハルピュイアの亜種かな?』というような顔をされるだけだ。それに、大体は僕、鳥を背もたれにして座っているので、羽は鳥の羽毛にすっぽり埋もれてしまって、あんまり目立たないんだよ。

唯一、サフィールさんだけは僕を見つけて、ものすごくびっくりして、それから吹き出して大笑いして、他の人達に何事かと心配されながら適当に何か言い訳しつつ、僕にウインクして去っていった。うん。今のところ、そんなかんじ。

「全く、レッドガルドは、これだから……」

やがて、フェイのお父さんと口喧嘩して、そして案の定押し負けたらしい王様が、僕の隣でぶつぶつ言いながら椅子に座る。……その椅子、僕が画材を置こうと思って借りた奴だったんだけれど……まあいいか。どうぞどうぞ。

「レッドガルドの子達は、お嫌いですか?」

僕の方は、絵が一枚仕上がったところだったので、小休止がてら、王様に話しかけてみる。すると王様は深々とため息を吐いて、堰を切ったように話し始めた。

「憎くない訳が無いであろう。全く、あのように無礼な者は他に居るまい。身の程を弁えぬ振る舞い、規律を乱す行動……それらを裏打ちするものは結局のところ、運でしかない。ああ、全く、忌々しい。あのように、運の良かっただけの無礼者に、このような目に遭わされるとは……あ、いや」

大分話した王様は、ふと、僕に気づいて、ちょっとしどろもどろに口籠る。

口籠って、それで……小さくため息を吐いて、僕の方を見ずに、続けた。

「……このようなことを精霊様に言うべきでは、ないな」

「別にいいですよ。僕、気にしないですよ」

「いや……」

……どうやら王様は、『精霊』にちょっと遠慮があるらしい。

なんだろうな。自分がヒエラルキーの中に居ることで力を発揮していた人だから、王様の中のヒエラルキーで王様より上にいそうな生き物に対して、あんまり強く出られないのかな。

「あの、王様」

王様が僕に対してどういう振る舞いをするか迷っているらしいところで、僕は、試しに聞いてみた。

「魔物は、お嫌いですか?」

王様は最初、きょとん、としていた。

けれど……ちょっと考えて、何か……何か、勘違いし始めたらしい。

「い、いや、あなたのことを嫌うなどということは……」

いや、僕のことじゃなくて。僕のことじゃないものについて、聞いていたんだけれど……あ、そうか。僕が、『僕も魔物ですよ』って言ったから、僕が僕について聞いていると思ったのかな。うーん、大分、僕に対して遠慮がちな王様だ……。

「……うむ、そうだ。できることなら、あなたには是非、王都にもお越しいただきたい。その恵みを、どうか、我らの土地にも」

「それは嫌です」

「う、うむ……」

けれど、その勧誘はお断りする。僕はレッドガルドの子達と一緒に居たいんです。

……断ったら、王様は、しゅんとしてしまった。

あ、もしかして、僕に対してなんだか妙に遠慮がちだったのって、フェイ達から僕を引き抜こうとしていたからだろうか?魔物じゃない、力を授けてくれそうな何かに頼ろうとした?うーん……ま、まあ、いいけれど……。

「僕だけじゃなくて、今踊っている彼らについても、嫌いではないですか?」

王様の思惑は置いておいて、ひとまず、質問の形を変えてもう一度。

「ま、魔物は魔物だとも。ああ。あなたは精霊だ。元より異なるもので……」

「あ、あの、僕は関係なしに、その彼らのことは嫌いじゃないですか、っていう、そういう質問なんですが……やっぱり、魔物はお嫌いですか?」

王様の反応はさて置き、魔物のことを嫌いでも当然かな、とは、思う。この世界の人にとって魔物ってそういうものであるらしいし、王様はその魔物に首を切られかけていたわけだし……。

……王様は、ちょっと困惑した様子で、ちら、とダンスホールの真ん中を見る。

そこで踊る骨や鎧、蝙蝠やドラゴンや蛇やうにょうにょした謎の生き物、小鬼のような生き物や半人半鳥のハルピュイアなど、様々な魔物達の喜び笑いあう様子を見て……困惑したように僕を見て、そして……。

「……不思議なものだ。悍ましいと思っていた魔物が、なんだか妙に、愛嬌があるように見える」

そう、零した。

王様はそう零してから、はっとしたように僕を見て、僕の反応を怖々と待つ。そんなに心配しなくていいのにな。

「僕もです。彼らは、描いていて楽しい。人に危害を加えることもあるようだけれど、でも、こうして一緒に踊っていれば、ただの愛嬌のある不思議な生き物です」

だから、そう言って王様を安心させることにした。

実際、彼らを描くのは楽しいし、見ているだけだって楽しい。ローゼスさんとサフィールさんがそれぞれに骨のご婦人をダンスにお誘いして踊っているのを見ると、なんというか、こう……いいなあ、って思う。

「……精霊様。あなたは、ご自分のことを魔物だと、そう、言っていたが……あなたにとって精霊と魔物とは、同義のものである、ということか?」

けれど、王様からそんなようなことを言われてしまうと、ちょっと困る。

「え?えーと……」

確かに言ったけどさ。でもそれ、角とか生えてた人に、親近感を持ってもらうための言葉だったし、異質なものは幾らでも隣にいますよ、っていう証明のためだったし……あと……。

……上手く、説明、できるだろうか。

「……僕らは全員、魔物だと思っています。人間だって、魔物みたいなものだと、そう、思っています」

僕が話し始めると、王様はちょっと不思議そうな顔をした。

僕の話、魔法の話ではないし、生物学の話でもない……強いて言うなら哲学なのだけれど、そういう話、王様にはあまり馴染みが無いように見える。伝わるだろうか。

「全員思っていることも感じていることも目指すものも大切にしたいものも違っていて、絶対に相容れないことだって、絶対に分かり合えないことだってあって……もっと、一目見て分かるくらいに、見た目に違いがあればな、って思うことがあります」

「ふむ……」

多分王様は、よく分かっていない、んだと思う。曖昧に首を傾げつつ頷いているので、それは分かる。

「僕らは皆魔物で、違う生き物だって、全員がそう思っていれば、上手くいかないことが減るんじゃないか、って思うんです。相手も自分と同じようにものを考えている、と勘違いしてしまうから、色々上手くいかないんじゃないかと、思って……」

けれど、王様、こっちは分かったらしい。ちょっと反応があった。

「でも、全員が同じじゃないからこそ生まれるものがこんなにたくさんあって、だから……違うからこそ嫌な思いをしたり傷ついたりすることもあるけれど、それでも、皆が違ってよかったと思うし……同時に、これだけ皆が違う世界で、自分と似ているところがある人と巡り会えたことを、とても嬉しく思うんです」

僕がそう話すと、王様は、何とも難しい顔で頷いた。

「……成程。確かに……相成れぬ存在、理解し難き存在は、魔物のようではある、か……」

多分、王様は僕の話、一応分かったけれど納得はしていない、んだろうな、と思う。

僕が思うようには人間がバラバラじゃないって思っているのだろうし、全員が違うものを考えているっていうことも、あんまり実感が無いんだと思う。

それ自体は……仕方のないことだ。説明したって分かり合えないこと、たくさんある。

「そして、余もまた、そちらからすれば、魔物、か」

「はい。魔物です」

「ふむ……」

王様は何か、考え込んでしまった。

僕が言ったことについて考えてくれているなら嬉しい。どう僕に同調するかを考えているんだとしたらちょっと困るけれど、それは仕方ない。

何せ、僕らは違う生き物なんだから。

……だからこそ、無駄だろうが徒労だろうが、同じものについて考えるということには意味があるって、僕は思うんだよ。

それから少ししてラージュ姫じゃないお姫様が王様を連れて踊りに行ったので、僕は、王様が骨や鎧に囲まれながら怖々踊っているのを描く。楽しい。

他にも、ラージュ姫を誘って一緒に踊っているがしゃどくろとか、フェイのレッドドラゴンと一緒に踊るラージュ姫の金色ドラゴンとか、ちょっとお酒が入ってけらけら陽気に笑いつつ大蛇と踊ってるフェイとか、隅っこの方でラオクレスを誘って踊っているクロアさんとか、いつの間にか僕の横に来て同じく絵を描き始めたライラとか、そういうものをどんどん描く。

……楽しいなあ。変なものがいっぱいの空間って、居て楽しいし、描いて楽しい!

「……ということで、王家は……貴族連合の、独立を、認める……こととした……」

……それから、しばらく皆が踊った後、王様の声明発表があった。『ものすごく不服』みたいな顔で、王様はそう言って、貴族達からの盛大な拍手を受けていた。

「正式な発表は、また後日とする。それまでは、不用意な動きをしないように」

王様はそう言って、ため息交じりに声明を締めくくった。

まあ……ひとまずこれで、貴族連合は無事に独立できて、貴族連合が独立したことによって王家は今まで貴族連合に支えてもらっていた部分を全部自分でやらなきゃいけなくなって、今までとは打って変わって頑張ってくれるだろうから……これでよかったと思う。

それで、お互い、自立した状態でそれぞれに良いものを生み出していけたらいい。

「はー、やれやれ。これでやっと、貴族連合も独立かあ」

やがて、踊りに踊って疲れたらしいフェイが僕の横にやってきて、よっこいしょ、と鳥に埋もれた。ただ、予想以上に埋もれたらしくて、「うおわあああ」とか言いながら、ひっくり返りそうになる。分かる分かる。この鳥を背もたれにするにはコツが要るんだよ。

「よかったね。独立」

「おう。まあな。これで王家に搾取されるってことはなくなる訳で、そうなりゃ、王家だって楽して儲ける手段を失った分、真面目にやってくれるだろ。やってくれなかったら……まあ、その時はその時だな。尤も、ラージュ姫もオーレウス王子も居るから大丈夫だとは思うけどよ」

フェイはそう言って笑いながら、座り直してうまいこと鳥に凭れる。

「ただ……心配なことも、できちまったなあ」

そしてため息を吐くので、僕もちょっとため息を吐きつつ、聞いてみる。

「うん。まおーんじゃない魔王のこと、だよね」

フェイは渋い顔で頷いた。

「まおーんじゃねえ魔王が来るとなると、まあ、色々とまずいよな。1つまずいのは単純にまおーんじゃねえ魔王がこっちに危害を加えてくる可能性だよな」

うん。それは分かる。

まおーんは僕らに友好的(……だと思うよ。一応は。)な魔王だけれど、まおーんじゃない魔王も友好的とは限らない。

……というか、今までの流れを見る限り、友好的じゃないからこそ、王様にソレイラを滅ぼさせようとしたり、王様がソレイラを滅ぼせないことを見越して王様を殺してしまうような契約をしようとしたり、していたんじゃないかな。

「で、2つ目に……勇者関係がめんどくせえ」

「ああ……アージェントさんのところの勇者の人だっけ」

確認がてら言ってみると、フェイは重々しく頷いた。

「一応、こっちの勇者はラージュ姫ってことになってる。で、まおーんが魔王ってことになってて、それを解決したのはそのラージュ姫と仲良しのトウゴだから、勇者として名乗りを上げたアージェント家の奴はますます立場がなくなっちまって、それがアージェント家と王家との対立ないしはアージェント家と貴族連合との対立の原因になってる」

うん……僕らとしてもラージュ姫としても魔王としても、アージェント家の人達に嫌な思いをさせようとしていたわけじゃないのだけれど……結果として、そうなってしまった、というか。

「ってことで、間違いなくアージェント家は、首突っ込んでくるぞ。まおーんじゃねえ魔王について知れたらそれはものすごいことになるだろうし、そうでなくとも、俺達や貴族連合をなんとかして引きずり降ろそうとしてくるだろうな。自分の優位性を保つためにも……」

「うん……」

王家から独立した貴族連合は、結構前途多難らしい。

「まあ……気になるのは、どうして魔物達がソレイラを狙うのか、ってことなんだよな」

それからフェイはそう言って、ちら、と僕を見る。

「やっぱりソレイラ、何かあるんじゃねえの?」

……それは僕も思うんだけれどさ。僕は僕の様子をちゃんと分かっていて、森の中にそんなに変なものは無い、っていうことは、分かっているんだよ。

だから、何かあるんじゃないか、と言われても、『無いよ』と言うしかないのだけれど……うーん、もしかしたら、僕が森に近づいてしまったせいで違和感を覚えられなくなってしまった何かが、あるんだろうか?僕以外の人が見たら明らかに分かる変なものが、僕の中にあるのだろうか……?

「あー、まあ、そんな湯気出そうなほど考えるなって」

それからフェイが僕の目の前で手をひらひら振って、ごめんなあ、とか言って僕の頭を撫で始めた。撫でないで撫でないで!あとライラは描かないで!撫でられてる僕なんか描いて何が楽しいんだ!

「ま……分かっちゃいたが、狙いはお前か」

それからフェイは、もそ、もそ、と僕の頭を撫でながら、ちょっとため息を吐いた。

「魔物は精霊を狙ってる。そういう風に、考えられるだろ」

その説は、割と納得がいくんだよ。

ゾンビ達がゴルダの山の精霊様を狙っていたこともそうだし、僕を狙っていたこともそうだし……『精霊』そのものが狙いなんじゃないか、っていう考えは、あながち間違っていないんじゃないかな、と思う。

「……どうして悪い方の魔王は精霊を狙うんだろう」

「さあなあ……莫大な魔力が欲しい、とか、そういうことか?」

成程なあ……そういうことなら、僕やゴルダの精霊様を殺そうとすることにも納得がいく、のかな。うん……。

「或いは、食べたら美味しいからかもよ。ほら、トウゴなんて、齧ったら案外美味しいかも」

「怖いこと言わないでほしい……」

ライラがにやにや笑いながら急に怖いことを言いだした。食べないで。食べないで。僕は齧っても美味しくないです。

「ま、トウゴはこれから益々気を付けねえとな。四六時中ラオクレスと一緒にいるくらいのつもりで居ろよ?」

「うん」

なんだか物騒になってきたなあ、と思いながら、まあ、ひとまず今日のところはひたすら絵を描いて過ごそう、と思い直して、また画材を並べ始める。

……と、その時だった。

バン、と、ダンスホールのドアが開く。

全員が注目する中、そこに立っていた人は……。

「……貴族連合の連中が王城に集まっていると報告を受けて来てみれば……これは一体、何の騒ぎだ?」

僕が知らない男の人は、そう言って、呆然とダンスパーティ会場を眺めた。

まあ……この会場、人間以上に、魔物が居るから、驚く、よね……。

「……成程な。王城も、魔の手に落ちたか!」

その人は何かに納得したようにそう言うと……。

ぎらり、と銀色に光る剣を、抜いた。

「この場の魔物共は、この勇者、ルギュロス・ザイル・アージェントが討伐する!」

そして、その人の後ろから、どしどしと、兵士の人達が駆け込んできた!