軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2話:成長期*1

「違和感はあったのよね。竜王様の話だと、夜の国の封印が緩んできて、レネや竜王様がこっちに来られるようになるよりも前から、魔物がマーピンクに誘惑の魔法を授けたり、骨の騎士団が襲ってきたりしてるのよねえ……」

早速、クロアさんが渋い顔をしてそう言う。

うん。確かに、竜王様が動き出すより先に魔物が動いていたかんじはある。ただそれも、竜王様と夜の国のために、魔物が独自に動いていたっていう可能性もあるので……。

「まあ、仮にマーピンクへ接触した魔物や骨の騎士団の元締めが竜王様のために動いていたとしても……竜王様と連絡がとれていたわけではないでしょうし、竜王様が望んだことではない気がするわね」

「そうだな。竜王と志を同じくしていたのなら、魔王と竜王が異なることくらいは知っているはずだ。そして竜王はむしろ、魔王の復活は望んでいなかっただろう」

あ、そうか。確かに、昼の国ではずっと、竜王様……というか、夜の国の住民が魔王だって、思っていた。けれど、夜の国の人達にとっても魔王は魔王で、そして、夜の国は魔王に滅ぼされかけていたわけで……。

「元々の予定だと、魔王の封印を解いて昼の国に魔王を押しやって夜の国を救う、っていう手筈だったのよね。そういう意味なら、昼の国で言うところの『魔王の復活』は、竜王様の為だって言えなくもないと思うけれど……うーん、少なくともやっぱり、竜王様と意思の疎通ができていないんでしょうね」

うん。僕もそんな気がする。竜王様の襲来の前に来ていた魔物の軍勢って、竜王様の直々の命令とは関係なく動いていたと思うよ。

「で、そいつらがまた、襲い掛かってきた、ともとれるわけか。今回と前回のゴルダでの襲撃は」

「そうね。そうなると……いよいよ竜王様との意思の疎通がとれていない、っていうか、暴走しているのかしら。困ったわね」

ラオクレスとクロアさんがそう言って揃ってため息を吐くのを聞いて、僕は……心配になってきた。

何せ、相手の素性が分からない。

魔王復活を目指していた魔物達が、今、何をしているのか、僕にはよく分からない。そもそもどうして彼らは昼の国に居ながらして、夜の国の魔王の復活を望んでいたのか……とにかく、よく分からないことが多い。

分からないことはまあ、いいんだ。そういうものか、で済ませられなくもない。でも、相手がこちらに危害を加えようとしているなら、大いに問題がある。

「……今回はゾンビだったけれど、次は、もっと強いのが来るかもしれない」

「ああ」

「そうしたら、僕が竜王様に攫われた時の戦いみたいな……ああいうかんじになって、今度こそ、この町を、守り切れないかもしれない……」

言っていて、不安になってきた。あの時、結界を維持するのに精いっぱいだったことが強く思いだされる。あれがもう少し長引いていたら、きっと……。

……この町、駄目だったと思う。

「……頑張らなきゃ」

少し考えて……いや、考えるまでもなく、結論は出た。

「この森の守りを、高めよう」

僕はこの森とこの森の町に住む生き物達を、守らなきゃいけない。

「守り、か。なら、森の騎士団の増員か?」

僕が呟いた直後、ラオクレスがそう、聞いてきた。

「ええと……ああ、そうか、そういうのもあるんだ……」

「……逆に、お前は何を考えていたんだ」

「設備面での強化、というか……」

僕が僕の力でどうにかしやすいのって、設備面での強化だと思うんだよ。壁を生やすくらいならできるし。砦を築き上げることもできる、と思う。

「ええと、屋根を付ける訳にはいかないと思うんだ。太陽の光を遮るわけにはいかないし、風を遮るわけにもいかないし……」

早速、ラオクレスとクロアさん相手に、森の守りのアイデアを話してみる。ラオクレスは上手に僕の話を聞いてくれるし、クロアさんは面白がってくれるし、こういう時、すごくやりやすい。先生が僕に向かって話すと上手くいく、って言ってたのと同じことかもしれないね。

「あとは、防壁?防壁は……」

「これ以上は要らんだろう」

あ、うん。壁はこれ以上増やさなくてもいい、か。うん……。

「ええと、じゃあ、壁が戦えるようにした方がいい?」

「壁が戦うの?それって、生きた壁を生やす、っていうことになるのかしら……?」

あ、駄目か。うん、駄目な気がしてきた。壁が能動的に動いてしまったら、それ、もう壁じゃない。生き物だ。そして生き物を増やすなら責任を負わなきゃいけないので、壁のご飯とかが必要になる。あ、駄目だ。多分それ、夜の国での魔王みたいなことになる。食糧難に陥る!

ええと、じゃあ……。

「なら、罠を仕掛ける?侵入者が入ってきたら罠が作動するような仕掛けにして……」

「罠、か。成程な。矢か?」

矢。……いや、矢だと、誤作動した時が怖い。壁に近づいたただの人が、うっかり矢を射掛けられてしまったら大変だ。命に係わる問題だから、妥協はできないよ。

「……もうちょっと安全な奴がいいと思う」

「……安全な、奴、か」

「優しいわねえ、トウゴ君は……」

うん。そうだな、例えば……。

「こういうやつとか」

僕は、ちょっとこの場で鳥黐を描いて出してみた。木の枝にくっついて、びよーん、と粘っこくもちもちしているかんじのやつだ。

これが降ってくる、とかなら、相手が敵なら足止めできるし、相手が罪のない人だったとしても鳥黐を外してもらえばいいだけなので、これならいいと思う。

……と思っていたら、出したばかりの鳥黐に、なぜか吸い寄せられるように鳥が飛んできて、引っかかった。キョキョンキョキョン、とうるさい。いや、自分で引っかかっておいて騒ぐなよ。

更に鳥は、鳥黐を啄んで食べ始めた。……あ、美味しかったらしい。よかったね。うん。

……いや、おかしいよ!鳥黐って餅じゃないんだぞ!どうして食べちゃうんだ!

鳥が引っかかって、更に魔王まで自ら引っかかってまおんまおんと騒ぎだしたのを見て、ラオクレスとクロアさんは鳥黐の大体の用途を確認してくれたらしい。そうだよ。鳥黐って、こういうやつ。

キョンキョン騒ぐ鳥とまおまお騒ぐ魔王とを救助しに、僕は試しに魔王を掴んで引っ張ってみたのだけれど、鳥黐じゃなくて魔王自体が伸びてしまうものだから、鳥黐から外せない。……まあ、いいか。魔王は多分、鳥黐を外してもらうよりも自分が伸びる方が楽しくて、それで伸びてるんだろうし……。

「こういう……こういうのでくっつけてしまえば、ゾンビだって、うまく捕縛できないだろうか」

「成程ね。まあ、あいつら知能は無いし、動きもゆっくりだし。こういうもので動きを止めるだけでも効果はありそう。……でも、もし導入するなら、鳥さんと魔王ちゃんが遊ばないように言い聞かせておかないとね」

クロアさんは鳥と魔王が鳥黐から離れられずにもぞもぞしているのを眺めてくすくす笑った。そうだね。何故か今回、すごい速さで鳥が引っかかりに来たからね。これ、実用できるんだろうか……。

「……トウゴ」

「うん」

「このとりもち、とやらは、使うとしたらどこに使う」

「壁かな、って思ってる。街壁の部分に、鳥黐を設置しておいて、必要な時にはそれを門の上からぶちまけられるように……」

……あ。

僕は、気づいてしまった。ラオクレスも、僕が気づいた、ということに気づいたらしい。

ラオクレスはちょっと重々しく頷いて……言った。

「俺は、何よりも、ゾンビがここに出てきたことに危機感を抱いている」

「要は、ゾンビは結界を抜けてきた、ということだろう」

……言われてみれば、その通りだ。地面の中を通ったら結界が効かない?いや、そんなことは、ないと、思いたい、のだけれど……。

「以前、ここが襲われた時には、お前が結界の維持に苦しんでいたが……ああならないよう、防壁や餅より先に、結界の強化が先決じゃあないのか」

……ご尤もだ。ラオクレスの言うことは、本当にご尤もなんだ。

前回、僕が結界の維持に精一杯だったこともあるし、それ以上に……結界がちゃんとしていれば、きっと、地面の中を通ったって、ゾンビがここへ入り込むことはできなかったはずだから。

……でも

「……結界がどうにも、うまく伸びないんだ」

ここに限界があることは、自分が一番よく分かってる。

「これ以上の範囲は無理なんだと思う。僕が鍛えれば範囲が広がるのかもよく分からなくて……」

なんというか、強く硬く保とうと思えば、一応、僕の意思に合わせて結界が保たれはするんだよ。すごく眠い中でも意識を保とうと頑張ればなんとかなる、っていう感覚に近い。

けれど……それ以上の方法は、分からない。

今の状態だと、強度は今一つみたいだし、保ち続けるのにすごく気力と体力が要る。竜王様が来た時みたいには、次はできないかもしれない。

だから……どうにも、結界をどうこうしよう、という気持ちになれない。自分の体のことなのに、自分じゃ分からない、っていうのが、少しもどかしい。

僕が悩んでいると、ラオクレスは僕の顔を見て、ちょっと考えて……そして、言った。

「……なら、フェイに聞いてみればいいんじゃないか」

「へ?」

フェイ?なんで、フェイ?

「自分ではあまり魔術を扱えんようだが、魔術に一番詳しいだろう。あいつは」

……あ、そっか。フェイは僕らの中で一番、魔法を勉強している人だった。それに、魔法の道具を開発するのも得意だし、何より、魔力敏感肌。

フェイなら何か、分かるかもしれない。この森の……僕の結界を、ちゃんと保つためにはどうすればいいか。