軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1話:気もそぞろだけど餅は美味い

「トーゴ。眠そうだな」

「いや、大丈夫だよ」

僕の向かい側でノートPCに向かい合っていた先生が、ディスプレイから顔を上げて僕を見て、そう、言ってきた。

そんなに眠そうな顔、してたかな。勉強に集中できていない顔、だったんだろうか。……よくないな、こういうの。

「また徹夜かい?」

「ちょっとは寝てるよ」

先生は心配そうな顔をしているけれど、大丈夫だ。一応、4時間は寝てる。

眠気覚ましがてら、先生が淹れてくれたお茶を飲む。今日のは緑茶だ。先生は急須に茶筒をガサガサ振って適当に茶葉を入れるので、毎回毎回お茶の濃さが大分違う。今日のは結構濃いから、眠気覚ましには丁度いい。

「君の『ちょっと』はどうせ6時間未満なんだろうなあ……」

「うん、まあ……」

僕は、4時間眠れば、なんとか動ける。けれど先生は、6時間でもあんまり頭が動かないタイプらしくて……僕の睡眠時間を言ったら、きっとひっくり返ってしまうものと思われる。

「そんなに命を削って何を頑張っているんだい、トーゴ」

「期末テストの出来が、悪かったから。冬休み明けの課題テストは、いい成績、取らなきゃいけない」

「ああ、成程……それで、これかあ……」

先生はため息を吐くと、両手を広げてちょっと大仰に、言った。

「この、クリスマスという、時に心躍り時に心が死ぬイベント真っただ中においても、君は勉強をしているのか!」

……うん。

まあ、今日は、クリスマス、という日なので。

ちょっと、町は騒がしいよね。

「嘆かわしい!実に嘆かわしい!君、勉強してていいのか!?」

「先生だって仕事してる」

「そりゃ、トーゴ。僕は大人だぜ。一応な。あんまり自覚は無いけどな。大人っぽくもないけどな。だからまあ、仕事はするのだ。うむ……」

先生はそう言って自信なさげな顔をしている。……僕、先生が大人っぽくないと思ったことは、あんまり無いよ。大人げないと思うことはよくあるけれど。

「……僕が大人かどうかはさておき、君は間違いなく子供だぜ、トーゴ。中学生って言えば、サンタさんが来ずとも、何となく浮かれポンチになる程度は許されてしかるべき時であるように思うのだがなあ」

先生はふと、そう言った。それがなんだか寂しそうで、なんだか僕も、申し訳なくなる。

「君、プレゼントをもらえる予定は?」

「貰えるよ。お願いした」

先生がなんだかしょんぼりして見えたから、少し、見栄を張る。

「ほう!何か、おねだりしているってことかい!?」

「うん」

「サンタさんにか!」

「いや、親だけれど……」

流石にサンタさんはもう来ないよ。……実は、小学生の頃はまだ来ていたのだけれど。でも、5年生の時に模試の成績が悪かったので、その年はプレゼント無しで……それからは親が親から、って分かる形でくれてる。

「ほうほう。それで、何をおねだりしたんだい?」

先生が何故かワクワクした顔でそう聞いてきたので、ちょっと不思議に思いつつ、答える。

「何がいい、って言われたから、今年は単語帳、貰うことにした」

「……たんごちょう」

「うん。あ、ええと、英単語が載ってる奴。学校で使ってるやつは本当に単語と意味と活用形とフォニックスぐらいしか載ってないやつだから、暗記用に、例文と一緒に載ってるやつが欲しくて……」

「いや、分かるぞ!トーゴ!僕だって一応はかつて受験生だった身だからな!単語帳の存在くらいは知っているとも!うん!」

あ、流石に知ってはいたみたいだ。うん。いや、なんだか目をぱちぱちやっているから、てっきり、単語帳っていうものを知らないのかと思った。

「……それ、プレゼントか!?」

「え、あ、うん……」

貰えるのだから、プレゼントだと思う。あれ、プレゼントって、そういう意味だよね……?先生の知っているプレゼントと、僕が知っているプレゼント、何か、意味が違うんだろうか……。

「せめて……せめて、何か、本……小説とかにしてくれと思うのは、僕だけか……?」

「あ、去年は本だったよ」

「おお、そうか!ええと、ちなみに本のタイトルは?あ、差し支えなければで構わないが……」

「源氏物語」

「……成程。成程な。古典の学習か。うん。成程。徹底している……実に、徹底している……」

何故か先生が落ち込んでしまった。なんだか申し訳ない。

「……なあ、トーゴ。君、それ、貰って嬉しいか?」

「うん。ありがたいよ」

「いや、そうじゃなく……」

先生はなんとなく遠い目をして考えて……それから、僕の方を見て、言った。

「……画材、とかじゃ、ないのかい」

画材。

えーと……うん。

「ほら。油絵の画材とか、どうだ」

まあ、欲しい、のかもしれない、けれど……。

「ちょっと気になる。でも、別にいいかな。興味はあるけれど、欲しいとは思ってない」

先生の提案をちょっと不思議に思いつつ、そう答える。すると先生はちょっと複雑そうな顔をした。

「あの、今持ってるものだけでも、特に不便は感じてないから……」

「ああ、そうだろうなあ、うん……」

僕が言葉を追加したら、先生はいよいよ困ったように頭を抱えてしまった。

ええと、なんだろうか。何か、先生を困らせてしまっていることだけは分かるから、何か言わなくちゃいけない、とは思うのだけれど、何を言ったら先生を困らせなくて済むのかがよく分からない。

僕は、何を言ったらいいんだろうか。

「……すまんな。どうやら僕は君を困らせてしまっているな」

「え?」

先生が唐突にそう言うものだから、びっくりした。

「いや、違う。僕が先生を困らせてる」

だから咄嗟にそう言ったら、今度は先生がびっくりした顔をする。

「……よね?」

そうだよね、と確認を取るつもりで、そう聞いてみたら……先生は何か、どうしようもなくたまらなくなったような、そんな顔をして席を立って、身を乗り出して、テーブルを横切って手を伸ばしてきて……。

……僕が思わず引っ込んでも、先生の長い腕は僕の頭を捉えていた。そして、そのまま、わしゃわしゃ、と、やられる。……あ、撫でられる、のか……。

「別に、僕の顔色を窺わなくったっていいんだぜ、トーゴ。いや、君にとっては中々それが難しいことなのかもしれないが……」

ちょっと緊張したからか、なんだか先生の言葉がふわふわ浮いて、耳に入ってこない、というか……変なかんじがする。現実味がない、というか……。

「なあ、トーゴ。別に、君は君が欲しいものを欲しがったって、いいんだぜ。誰かのためになるものとか、誰かを喜ばせたいとか、そういう気持ちで、『自分が欲しいもの』を決める必要は、無いんだ」

「うん……」

……そう言われても、よく分からない。

僕は、単語帳が必要だと思ったから、単語帳を貰えるようにお願いした。勿論、単語帳じゃなくて、数学の参考書とかでもよかったし、別に、こだわりがあるわけじゃないけれど……。

「……まあ、言ったところで本当にそれが貰えるか怪しい上、何なら言ったら余計に酷いことになる可能性が高い、という君のご家庭の事情を鑑みるに、確かにそのおねだりはベスト回答なのかもしれないが……」

先生は、何と言ったものか、みたいな顔をして……それから、随分と、寂しそうな顔で言うのだ。

「欲しいものは、忘れちゃ駄目だ。何なら、どんどん口に出していくべきだぜ」

……欲しいもの。

そう、言われても、なんだかぼんやりしていて、うまく掴めない。

「そうだ。欲しいもの、だ。『必要なもの』じゃないぜ。何なら、不要でもいいから、欲しいもの、だな。無くてもいいけれど、あったら嬉しい、って奴は特に忘れちゃいけない」

ええと、欲しいもの。無くてもいいけれど、あったら、嬉しい、もの。

……うん。

「……おいおい、どうした、トーゴ。何か悲しいことにでも思い当たっちまったかい?」

「悲しいわけじゃ、ない、んだけれど」

自分が欲しいもの、って、考えれば考える程、なんだか嫌な気持ちになってくる。駄目だって思う、というか……。

「それは、無駄遣い、っていうか……その、自分勝手、では、ないかな」

……わがまま言うんじゃない、と、自分の中で誰かが言ってる。

こういうことを言ったら、先生は困るんだろうな、ということは、分かってた。多分、『うん。そうする』と、ただそれだけ言った方が、先生を困らせなかったと思う。それで終わりにするのが、正解だった。きっと。

けれど……先生は、困らせても、それを、嫌だって思わないでくれる気が、した。だから、そう、言ってみた。

……すると先生はまた困った顔をしつつ、でも、『いい加減にしろ』でもなく、『人を困らせるんじゃない』でもなく、ただ……困ってくれる。

「……何かを欲しいと思うことは、悪いことじゃない。ましてや、それは、自分勝手なんかじゃ、ないぞ」

そして、困った果てに、先生はそう、言った。

「……いや、自分勝手なこと、かもしれないな。だが……別に、いいんじゃないか」

更に続いた言葉は、なんだか意外だったというか、ちょっと変に思えた、というか……。

「うん。そうだな。よし。トーゴ。君、自分勝手でいいと思うぜ」

「それはどうなんだろうか……」

「いやいや。自分勝手。自分勝手っていいじゃないか。アイアムキッチン。大いに結構だ!」

自分勝手をそう訳すのが間違いだってことは分かる。多分それは駄目なやつ。

「なあ、トーゴ」

先生は、なんだか吹っ切れたような顔で、僕に笑いかけた。

「確かに、世界は自分を中心に回ってはいないだろう。だが、自分くらいは……自分の心くらいは、自分を中心に回してやっても、いいんじゃないかな」

「君の心は君のものだぜ、トーゴ。君が好きなものは君が決めていいし、君が嫌いなものは君が決めていい。やりたいこともやりたくないことも、君が決めていい」

先生は、なんだか当たり前のようにそう言って、それからふと、嫌なことを思い出したらしくて、ちょっと情けない顔になる。

「まあ、勿論、やりたくなくてもやらなきゃいけないってこともあるが。うん。素麺を送ってきてくれた奴にお礼の電話を掛けるとか……」

……そういえばこの間、それ、やってたね。今みたいな顔で。

「素麺はともかくとして、君は、誰かを喜ばせるために君自身のことを決めなくてもいい。嫌なことを嫌だと思いながらやるのと、嫌だとも思えずにやるのとじゃあ、意味が全く違う」

そういう、もの、なんだろうか。

……嫌なことを嫌だと思いながらやる方が、辛いんじゃないだろうか。

「そうやって、自分の心を守ってやらなきゃいけないんだ。心が死んでしまわないように。豊かであれるように。……君の心を一番に守れるのは、君自身なんだぜ、トーゴ」

先生の話を聞いていても、なんだか、よく分からない、というか、実感が湧かない、というか。

……でも、何か、心の中に引っかかるものはあって……この引っかかりはきっと、僕にとって大事なものなんだな、ということは、何となく分かる。

「というかだな、トーゴ。君が君に我儘言わないんだったら、誰が君の我儘を聞いてくれる?」

先生はそう言って……それから、神妙な顔で頷いた。

「まあ、僕だな」

「あ、うん……?」

「いいかい、トーゴ。僕は君の我儘、幾らでも聞くぜ。いや、やっぱり幾らでもじゃないな。うん。ヌードデッサンとかはちょっとご遠慮いただきたい。流石の僕もそれはちょいと恥ずかしい。いやん」

あ、うん、ええと、別に先生でヌードデッサンするつもりは今のところないよ……。

「……うん、そうだな。まあ、冗談はさておき……僕は君の我儘、聞いてみたいな。今、誰かと誰かの間できゅうきゅう言って心を押し殺している君が、誰かを振り回して、声高に自分の欲しいものを主張するような、そういう様子を見てみたくはある。うん。振り回されるのは僕でもいい。ぶん回されてみたい」

……既に僕は、先生の家に度々お邪魔して、その度にお茶やお菓子や餅をご馳走になっていて、十分に先生に我儘を言っていると思うし、先生を振り回していると思うのだけれど……これ以上、ってことだろうか。そ、それって、どうなんだろうか……。

「まあ、誰かを振り回して大事になっててんやわんやするのも見たいが、とりあえずまずは……君が、君の欲しいものを言えるようになるところが見たいな」

よっこらしょ、と、先生は椅子から立ち上がって、テーブルの反対側から僕の方へやってきて……。

「君、眠いかい?」

そういうことを、聞いてきた。

「え、ええと……」

大丈夫だよ、と、言うのが正解だな、と、瞬時に頭の中で答えが出る。でも、それは違うらしいよ、と、僕の心が答えを退かしてしまった。

……口に出すのはなんとなく、ちょっと、怖かった。

けれど。

「……うん。眠い」

こんな昼下がりに、しかも勉強中に言ったら怒られそうなことを、言ってみた。

……すると途端に、先生は嬉しそうな顔をして……。

「よし分かった。なら、とりあえずそういうわけで……よっこいしょ!」

先生は僕の後ろに回って、僕の脇の下に手を突っ込んで、ふんぬ、と力を入れてきた!

……のだけれど、僕が持ち上がる気配は、無い!

「あ!駄目だ!持ち上がらない!くそ!僕の鶏ガラボディでは中学生を持ち上げるのは無理だ!トウゴ、君、大きくなったなあ!」

「あ、うん……?」

うん。あと、僕、そんなに大きくなってないよ。どっちかっていうとチビな方だよ……。

「まあいいか。まあ、君は子供な訳だが、赤ちゃんじゃあないしな。抱っこで運ぶってのも失礼か。ということでムッシュー、どうぞこちらへ」

なんで急にフランス語になったんだろう、と思いつつ、僕は先生に案内されて、ダイニングからリビングへ向かって……。

「はい、座った座った」

ソファに、座らされて。

「はい、寝ろ寝ろ」

寝かされて。

「よーしあったかくしてお休み!」

……毛布を掛けられてしまった!

……かくして。

僕は、寝ることになった。

冬の、ちょっと低めの温度に暖房が効いた室内の、窓辺の、陽だまりの中。そこのソファの上で、毛布を被って。

毛布はふわふわというより滑らかな手触りで、僕の体温と陽だまりの温度に温もって、包まっているとすごく気持ちがいい。ソファは皮なのか合皮なのかが張ってあるやつだけれど、これもまた、僕の体温でいい具合だ。

先生は、『多分君は時間の制限が無い方が却って落ち着かんだろうから、時間を決めておこう。よし。じゃあ君は3時までお昼寝だ。いいな?』と言って、僕の横にタイマーと時計をセットしていってくれた。それを見ると、まだ、2時15分。……あと45分はお昼寝だ。

いいのかなあ、とも思うのだけれど、如何せん、ここは居心地がいい。先生のPCのファンの音と先生がタイピングする音だけがちょっと遠くに聞こえて、僕はそれを聞きながら、ふわふわ眠りの中に落ちていく。

……先生は怒っていない。沢山困らせたし、投げ出された勉強の道具は机の上に置きっぱなしだし……でも、それらを気にする様子は無い。時々、僕の方を見てはにこにこしながら何かキーボードをカタカタやったり、手書きでメモを取ったりしているのだけれど、それぐらい。

だから僕は、誰にも邪魔されずに、ぬくぬくと、ふわふわと、とろとろと……そういう具合の昼寝の中へ。

……幸せだなあ。

なんだかすごく幸せで、嫌なことなんて全部忘れて、僕は、また目を閉じる。

なんだか、本当に、世界が僕を中心に回ってるみたいだ。いいのかなあ。ええと……でも、僕は、その……眠い。

それで、ここでは、今だけは、眠かったら寝てもいい、らしい、ので……。

……うん。幸せ、だなあ……。

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第十一章:振り回し振り回される喜びを

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森の町のパーティが始まった。なので今、町は随分と賑わっている。

……町の名前のお披露目、ということで、今日は貴族達を沢山呼んでいる。だから、社交の場になることもそうなのだけれど……。

「屋台がたくさん出てるね」

「ね」

それ以上に、森の町の住民やその他の町から来た人達……つまり、こうやって屋台が出て、皆が浮かれた気持ちで行き交うような……平民の人達が大騒ぎする、お祭りの場でもあるんだ。

僕はアンジェの隣を歩きつつ、町の道の両側に出ている屋台を眺めている。

肉の串焼きや魚の揚げたやつ、パンみたいなものや大きな具がたくさん入ったスープみたいなもの、果物の飴掛けや枝豆……。食べ物だけでも色々なものがある。

その他にも、飲み物が並んでいたり、装飾品や細工物の類が並んでいたり。中々賑やかな眺めだ。

「おにいちゃーん!こっちー!」

「おい、アンジェ!あとトウゴも!あんま俺達から離れるなよ!迷子になっちまうんだからな!」

僕とアンジェが先行していたら、後ろからリアンがそう、声をかけてきた。

……それ、リアンが迷子になるっていう話だろうか。それとも、僕とアンジェが迷子になると思われているんだろうか。

僕が迷子になると思われているなら心外だけれど、とりあえず、子供達3人を見ていない訳にもいかないので、僕はアンジェと手を繋ぎながらリアンの傍に居ることにする。

「ねえリアン!私、あっちのお店も気になるわ!あれ、何かしら!果物みたいにも宝石みたいにも見えるわ!あ、ガラスのランプかしら!?」

「カーネリアも!ほら!あんまり離れるなって!」

ちなみに、リアンはカーネリアちゃんと手を繋ぎっぱなしだ。……最初こそ、照れていた。お互いに。けれど、その内、カーネリアちゃんは好奇心の方が勝ってきたらしいし、リアンは世話焼きが勝ってきたらしくて、今は時々、ふとした拍子に思いだしたように照れているだけだ。よかったね。

「……あ!あれ、ライラおねえちゃんのお店!」

「おーい!こっちこっち!」

そしてそんな中、屋台の内の1つでライラがこちらに手を振ってきた。

ライラのお店は、妖精カフェ出張店。テイクアウトできる素朴な焼き菓子やキャンディを売っているらしい。なんでも、カフェでウェイトレスをやるまでには体力が戻っていないけれど、何も働かないのも落ち着かないし、こんなお祭りに参加できないのは勿体ないから、っていうことで、座ったまま屋台の販売をやっている、らしい。ライラらしいなあ。

「ライラおねえちゃん!お月さまのキャンディ、1つくださいな!」

「はい。じゃあ銅貨と交換ね」

「ありがとう!」

……そして早速、アンジェが買い物している。お月様のキャンディ、というと……あ、やっぱり。なんか大きな瓶の中に、ぼんやり発光するキャンディが詰まっている奴がある。あれか。つまり、月の光の蜜で作ったキャンディ、ってことなんだろう。

「ライラ!私、妖精のマドレーヌがいいわ!」

「はいはい。じゃあちょっとオマケしておくからね……トウゴは?何か買ってく?」

「ううん。緊張のせいで、お腹、空いてないから……」

「あ、そうだったわね……」

ライラはカーネリアちゃんのために小ぶりなマドレーヌを紙袋に詰めつつ、揶揄うような、憐れむような、そんなかんじで僕に言った。

「あんたこの後、スピーチだっけ?」

「うん……」

……そうなんだ。

僕は夕方から、貴族の人達の前で、短いとはいえ、スピーチなんてものを、することになっているんだよ……。

「スピーチ?え、それ、今ここに居ていいのかよ」

「うん。あまり早く入りすぎると、僕も社交界に参加しなきゃならなくなるから、入場はぎりぎりでいい、って、フェイのお父さんが言ってくれて……」

もう、ある程度、貴族の人達は集まっている。僕がそこに入っていったら、間違いなく……狙われてしまう、らしいよ。うん……。

「だからもうしばらくこっちのお祭りに居させてもらう予定」

「へー。大変ねえ……」

そうなんだよ。大変なんだよ。元々、人前に出るのは苦手な方なのに、なんで僕がスピーチなんてする羽目になっているんだろう。うう……。

「まあ、あんたが町の代表みたいになっちゃってるし、しょうがないか」

「そうだよなー。だからトウゴが起きるの待ってたんだし」

「トウゴは精霊様の声を聞く巫さんの役目だって、フェイお兄様から聞いたわ!すごいわ!」

……そういえばそういうの、あったね。うん。そっか。だから僕が町の代表か。そうだよね。森の精霊様の声を聞いて、人々にそれを伝える役目だもんね。僕。うん……。

「……ま、頑張りなさいよ」

「うん……」

とにかく、気が重い。すごく、気が重い。

「じゃあ折角だし、屋台、手伝ってく?多少、気が紛れるかも」

「あ、うん、そうする……」

ライラが僕を見かねてか、そう提案してくれたので、僕はライラの隣に座って、屋台を手伝うことにした。うん、こうすると、少しは、気が紛れる……。

「トウゴ!ぼーっとしない!」

「あ、うん……あ、注文は餅ですか……?今出しますね……」

「トウゴおにいちゃん、だいじょうぶ……?おもち、たのまれてないよ……?」

……いや、気が紛れるというか、気もそぞろ、ってやつかもしれない。うん、これ、駄目だ……。

けれど、その後、うっかり出してしまった餅をカーネリアちゃんが食べて『とってもおいしいわ!』ってやっていたら、周りの人がなんだなんだ、と寄ってきてしまって……結局、僕は、屋台の裏で餅を描いては出して、それをライラが『妖精カフェ屋台特別メニュー』として出す、という、そういうことになって……。

……うん。まあ、餅屋をやっていたら、結局、気は紛れた。結果オーライ。ありがとう。