軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5話:僕らの異文化交流*4

「なんだ。もう知っていたのか。つまらん」

「それならもう深刻ぶってやらなくてもいいな。つまらんなあ……」

……ローゼスさんとお父さんは、そう言って口を尖らせる。

うん。まあ、フェイのお兄さんとお父さんだから。彼らもまた、自分達がドラゴンでも別にいいや、っていう考えに至っているらしい。すごいなあ……。

「それで、こちらが夜の国の?」

フェイのことを『つまらん』と言ったローゼスさんは、早速、にこやかにレネを見つめる。身長の低いレネに合わせて、少し身を屈めて。

「うん。こちら、レネです。そっちの布みたいな人がタルクさん」

僕が紹介すると、レネは紹介されていることが分かったらしく、ぺこん、とお辞儀した。

それを見てローゼスさんもお父さんもにこにこしながら、翻訳機を装備して、紙に字を書く。

『ローゼス・ルフス・レッドガルドだ。フェイの兄にあたる。よろしく。』

『ヴァン・ミリオ・レッドガルド。フェイの父であり、レッドガルド家の現当主だ。どうやら我々の先祖はそちらの世界のドラゴンだったらしいが、そんな我々とも仲良くしてくれるだろうか?』

2人の文字をそれぞれ見て、レネは大きく頷くと、スケッチブックを取り出して文字を書いていく。

『こちらこそ、この世界に危害を加えていた世界の者です。仲良くしてくれますか?』

レネは緊張気味の顔をしている。……そういえば、レネはフェイに対して、『少し緊張する』んだっけ。ということは、フェイよりもさらに貴族っぽい2人を前にしたら、ものすごく緊張するはずだ。

……けれど、レネの緊張ぶりを見て、お父さんの方はにっこり笑うと、紙に文字を書いて、そっと、それをレネに渡した。

レネは紙を受け取って、それを読んで……少し嬉しそうな声を上げた。

横から僕も紙を覗き込ませてもらうと、そこにはこう、書いてあった。

『お互いに思うところはあるだろうし、過去に起きたことは変えられない。だが、どちらの世界も、生き残るために必死だったということは確かだろう。ならば、これからの関係を築いていくことは可能ではないだろうか。』

それから最初に、レッドガルド家のお屋敷を観光することになった。

……いや、友達の家を観光スポットにしていいんだろうか、という気持ちは、僕の中にはある。僕は何度もお邪魔している家だから、観光するほどのものだろうか、という感覚なのだけれど……レネとタルクさんは、ものすごく、楽しんでいる、らしかった……。

「……そういえば、夜の国の城の中って、なんとなく、色味が寂しいよな」

「うん」

そうだ。夜の国は色々な色が褪せてしまっているから、鮮やかな色は珍しい。その点、レッドガルド家って、その、レッドドラゴンにちなんで、赤を基調にしたものが多いから……レネの目にはさぞかし、鮮やかで豪華絢爛なお屋敷に見えているんだろうなあ。

「きれーい!」

「綺麗、かあ。自分の家をそう言われると嬉しいけどよぉ……」

フェイはなんとなく気恥ずかしいらしくて、ちょっと照れている。貴重な顔だ。描こう。

僕がフェイを描いている間にも、レネは廊下をてくてく歩いて、敷かれた絨毯の赤さに驚き、金の刺繍の鮮やかさに驚き、壁紙のアイボリーと落ち着いた金と暗めの赤のストライプを見ては「きれい!」と目を輝かせ……。

……そうして、フェイの家をなんとなく一周、すっかり見て回ることになった。

「とうごー」

フェイのお家見学の最後は、庭だ。中庭じゃなくて、裏庭の方。そして……そっちの方にある、僕の画廊だ。

画廊の中に入ると、レネはうっとりとしたため息を吐いた。どうやらレネはここを気に入ってくれているらしい。

「きれーい……」

レネはため息を吐くようにそう呟きながら、じっと、僕が描いた絵を見つめている。

……今なら分かる。レネが最初、ここに来て、昼間の森の絵をずっと見つめていたのは……夜の国にはこんなに明るい景色が無いからだ。昼間の景色が珍しくて、それでレネはあの夜、僕の絵をずっと見ていたんだ。

どんな気持ちだったんだろう。レネは、あの絵を気に入ってくれているみたいで、今もレネのベッドの近くに飾ってあるけれど、レネはどんな気持ちであの絵を飾っているんだろうか。憧れなのか、寂しさなのか……。

『トウゴの絵はあったかくて好きです。』

僕がちょっと考えていたら、レネが、そう書いて見せに来ていた。

『見ているだけであったかくなれます。』

僕がなんて返事をしようか迷っている間に、レネは他の絵を眺めに行ってしまった。……まあ、気に入ってもらえてるなら、なにより。

……うん。嬉しい。

結局、その日は森に帰って、夕方の森で馬や花畑、木々に斜光が煌めきながら濃く影が落ちる様子なんかを見て回って……そして最後に、水晶の湖に行く。

ただ……龍は他のドラゴンが入ってくるの、嫌かな、と思ったので、事前に僕だけで龍に聞きに行くことにした。

レネの鱗を見せて、このドラゴンにここを見せてあげたいんだけれどいい?と聞いてみると、龍はちょっと考える素振りを見せた後……渋々、というわけでもなく、頷いてくれた。

あれ、と思ったのだけれど、とりあえず快諾してもらえたので、レネを連れていくことにして……。

「きれーい!」

案の定、レネは水晶の湖を見て、ものすごく気に入ってくれたらしい。透き通って煌めく水と水晶の様子、そして小島に生える木を見て……レネはとても喜んでくれた。

……のだけれど、その小島の上空から、龍がやってくる。

龍が来ると、レネは少し緊張した様子を見せた。知らないドラゴンが居る、って思ったのかな。

龍は僕らの前に来ると、そこでレネをじっと見て……そして!

「きゃうっ!?」

レネにも、いつものあれをやった!

レネは悲鳴を上げて、ものすごく混乱した顔で真っ赤になってもじもじし始める。それを龍はなんとなく満足げに眺めている!な、なんてやつだ!

「だ、駄目だよ!早く戻してあげて!」

慌てて僕がお願いすると、龍はちょっと不満そうな顔をしながら、尻尾で軽くレネのお尻を叩く。レネは元に戻ったらしくて、すっかり混乱した顔で目を瞬かせていた。龍はまたレネをじっと見た後、満足したらしくて小島に戻って寝始めた。なんなんだろう……。

……レネは少し落ち着いてから、『あのドラゴンはドラゴンですか?』と聞いてきたので、そうだよ、と答えると、ものすごく迷った後……『ちょっといじわるです』と書いて見せてきた。ごめんね、うちの龍が……。

けれど、龍も『いじわる』なだけじゃなくて、木の実を1つずつ、僕らにくれた。中身を飲んで、レネはものすごく喜んでいた。味も効果も気に入ったらしい。

ただその直後、また龍にお腹をやられていたけれど。

うん、あの、本当にごめんね、うちの龍が……。

……そうして、昼の国観光1日目は終わってしまった。

レネはレッドガルド家の観光と森の観光を、大いに喜んでくれた。見るもの全てが珍しいみたいで、あちこち見ては目を輝かせるものだから、僕らとしてもレネの描き甲斐があった。

そして、夜ご飯には根菜たっぷりの温かいシチューやじっくり焼いた鶏肉なんかを食べて……そして、夜。

「レネの寝床はどうする。お前の部屋に泊めるか?その場合、タルクは俺の家でもいい」

「そうだね、うーん、新しく一軒出してもいいんだけれど……」

レネの寝床について、ちょっと相談。折角だから、昼の国の寝床を満喫してほしいところではあるんだけれど、よく考えたら昼の国だって夜になったら夜だから、今、そんなに珍しいものって無い気がする。

なら、目いっぱい日光に当てた布団だろうか、とか、色々考えていたのだけれど、考えるまでもなく、布団をお日様に当てるのを忘れていた。何やってるんだ、僕は。

「……ねえ、ラオクレス」

「何だ」

「タルクさんはラオクレスの家に泊まるってことでいい?」

「俺は構わんが」

いつの間にかラオクレスはタルクさんと仲良くなっているらしいので、じゃあ、彼についてはそういうことで。

「それで、レネはどうする」

「うん……ええと、今日は割と暖かいから……」

僕はラオクレスに聞かれて、外を指さす。

……泉のほとりの、ハンモック。

『こんなに光の魔力がたくさんの場所で寝られるなんて、夢みたいです!』

結局、レネの寝床は、竹の間に設置されたハンモックになった。折角だから泉の傍よりもこっちの方が嬉しいかな、と思って、こっちに設置してみたんだけれど……想定以上の喜ばれ方をしている。嬉しい。

「気に入ってくれたなら何より」

僕も隣に設置したハンモックに横になって、毛布に包まる。今夜は暖かいから、これでも十分だ。

ハンモックに揺られながら空を見れば、竹の葉がさらさら揺れる向こうに星空が見える。

夜の国とは星の位置が違うように見える。というか、夜の国で見える星が本当に星なのかは分からないし。あれ、魔王のお腹かもしれないし。

……そしてやっぱり、竹にはふわふわと、光が集まってくる。それを浴びていると、なんとなく、眠くなってくる、というか。

ふと横を見ると、レネはもう眠ってしまっていた。毛布にくるんと包まってハンモックに揺られながら、ふわふわと月の光を浴びて、そして、なんとなく緩んだ顔で寝ている。

……やっぱりレネをこっちに連れてきてよかった!

翌朝。

朝ご飯を食べた僕らは……レネの前に、服を2着、用意している。

「これだけ可愛いんだもの。かわいい恰好しましょう?これなんてどうかしら?」

クロアさんがにこにこしながら出しているのは、濃いブルーグレーのワンピースドレスだ。

「いや、やっぱり動きやすい方がいいだろ」

フェイが出しているのは、薄いブルーのシャツに濃いグレーのズボンとサスペンダー。

……その間で困っているのが、レネ。

『どっちがいい?』

困っていたレネにそう助け舟を出してみたら、レネはまた困って……ワンピースをじっと見つめた。

夜の国の服って、大体全部、こんな形だよね。ずるずるした服、というか、すその長い服。竜王様もそういうものを着ているし、レネもそうだ。僕も居候させてもらっていた間、ずるずるした服を着ていた。

「こっちかな」

なら、着慣れている形状の方がいいのかな、と思っていたら……。

「じー。あ、れくた!」

レネはシャツとズボンの方を選んだ。

夜の国らしくない服を着てみたかったのかな、と思ってレネを見ていると……レネは、僕をちょっと見て、嬉しそうににこにこ笑う。

……あ。もしかして、レネ、僕が着ているのと似ている方を選んだのかな?

「よーし!町だ!観光するぞ!」

そうして支度を終えた僕らは、レッドガルドの町に来ていた。午後は森の町を観光する予定だ。まずは、人が多くて華やかなこっちから。

「見せてえもの、幾らでもあるぜ!よし!じゃあお前ら、俺についてこーい!」

フェイはすっかり張り切って、観光ガイドを務めてくれている。町のことならフェイは何でも知っているから、レネが突然色々聞いても、全部そつなく答えている。

レネが綿菓子の屋台を見て『あの星雲みたいなものはなんですか?』と尋ねてきたのに対して『あれはこっちの世界の星雲だぜ!』と適当なことを言いつつ綿菓子を買ってレネに食べさせていたのが面白かった。レネが『星雲を食べてしまうなんて!流石、光の魔力がいっぱいの世界はすごい!』とはしゃいでいた。……もちろん、その後で『それは実は星雲じゃなくて綿菓子っていうんだ』っていう話もしたけれど。

公園を見て、そこの噴水に光が煌めくのを眺めて、時計台を見上げて、お店を巡って、タルクさんが案外、剣や鎧に興味があるらしいということが分かって、宝石屋さんでレネが『魔石がいっぱい!すごい!』とはしゃぐのを見てちょっと申し訳なくなった。……その魔石、僕が描いて売ったやつです。

……あと、レネとタルクさんにはお小遣いとしていくらかお金を渡してある。レネは申し訳ながったけれど、それは『その分描かせてください。あとそちらの世界の花がちょっとほしいです!』というようなことで了解を得ている。ちなみにタルクさんはそこら辺を割り切るのが上手いらしくて、特に申し訳ながらなかった。流石だ……。

「とうごー!」

「これ?分かった。すみませーん、これください!」

なので、あちこちでレネは買い物を楽しんでいる。竜王様にお土産を持って帰る約束をしているし、それを意識しているらしい。

今、レネが選んだのは……茶葉だ。ハーブティー、なのかな。乾燥した花や葉なんかが茶葉と混ざってガラス瓶に入れられている。ちょっと試飲させてもらっていたから、気に入ったんだろうな、と思う。

……ん?

「レネ、発光してない?」

「ふりゃ」

レネがほのかに光っている。本当にごく僅かな発光だし、ここは店内の光が差し込む場所だから、全然目立たないけれど。

「あー、これ、日向菊のお茶よね?あと、金木犀も入ってるのか。道理で甘い香り、するわけだわ」

横から覗き込んできたライラが、納得したように頷いている。

「……要は、太陽の光たっぷりのお茶ってこと。レネはそういう味、好きなんじゃない?」

「成程……」

レネは「ふりゃ」と言いつつ嬉しそうな顔をしている。成程。つまり、このお茶、あったかい味……。

それから昼食。昼食は買い食いになった。

この世界で言うところのジャンクフードみたいなものなのかな。とは言っても、僕、この世界でも元の世界でも、あんまりジャンクフードを食べなかった人だから、きっとレネと同じぐらい新鮮な気持ちで食べるのだけれど。

僕が買ったのは、枝豆とチーズを生地に混ぜたパンの間に、よく焼いた鶏肉ととろけたチーズ、トマトのスライスなんかが挟まったやつ。それに、潰した枝豆と白身魚か鶏肉かを合わせて揚げたナゲットっぽいもの。……すごい。枝豆がここにも普及している。

枝豆の普及は素晴らしい。他にも、枝豆を茹でて潰したものをソースにしたものとか、枝豆がごろごろ入ったスープとか、色々ある。枝豆が大好きな僕としては、とても嬉しい。

買ってきたものは、公園のベンチに座って食べる。僕、買い食いなんてしたことがなかったから、すごく新鮮だ。

「なんでレネだけじゃなくてトウゴまでそんなに嬉しそうなのよ」

僕の隣に座ったライラが、苦笑交じりにそう言う。ちなみに、ライラは枝豆の生地のクレープにハムとかチーズとかが包んであるやつと、肉団子入りのスープを食べている。

「こういう買い食い、したことなかったから新鮮で、つい」

弁明、というのも変な気がするけれど、そのまま答える。……するとライラは、ちょっと不思議そうな顔をした。

「そうなの?……あのさ、トウゴ。あんた、フェイ様のところに行くまで、どういう生活してたのよ」

「うーん……何と言ったものか」

……僕が、異世界から来た、っていうことは、フェイにしかまだ話せていない。いや、多分ラオクレスはなんとなく分かってるんだろうし、クロアさんあたりも知っている気がするけれど。

「買い食いしたことないなんて、あんた、よっぽど良家のお坊ちゃんだったの?」

「いや、そういう訳では……うーん、でも、一般的な家庭よりは、裕福、でした。多分」

他所の家のことなんてよく分からないけれど……小学校は公立だったから、そこでの様子を考えると……うん、まあ、僕の家は多分、若干、裕福だった。うん。

「へえ。そんな裕福な親元をわざわざ出てきた、ってこと?」

ライラは嫌味でもなんでもなく、ただ純粋に疑問、というような顔で僕を見て……そして、何かに気づいたように、にやり、と笑った。

「それ、絵を描くためでしょ」

咄嗟に言葉が出なかった。

僕が親元を離れて……つまり、この世界に来てしまったのって、別に、僕の意思でもないんだけれど……それをどう説明していいのか分からなくて、咄嗟に、言葉が出なかった。

けれどライラは僕の反応を見てちょっと考えた後、気にせず続けることにしたらしい。

「あんまりそういう話、されたくない気がしたから言わなかったけどさ……あんた、絵をまともに描くようになったのって、結構最近なんじゃない?」

「……うん」

鉛筆デッサンはものすごくやったけれど、水彩ができるようになったのは本当に最近だし、油彩についても、ほとんど経験がない、ぐらいの感覚だ。

「……そういうの、分かるのか」

「まあね。あんた、魔法画を初めて見た、って言ってた割に、油彩よりも魔法画の方、やるじゃない。かと思ったら、水彩は普通にやってるしさ。つまりそれって、経験の差があるってことで……あんたと画材の話してた時から、なんとなく、そこらへんは分かってた」

それってどうなんだろうなあ、という気持ちで、ちょっと落ち込む。要は、僕にはまだまだ技術的に稚拙な部分が多く見られる、ってことで……まあ、落ち込むも何もその通りだからしょうがないんだけれどさ。

「絵を描くことが許される環境じゃなかったんだろうな、ってくらいは、分かるわよ。育ちの良さからして経済的に難しかったって訳じゃないのは分かるし、なら、きっとそういう方針の家だったんだろうな、ってことも。……だって、禁止されてたんでもなければ、描くだけでこんなににこにこしちゃう奴なんて生まれないでしょ!」

……確かにそうかもしれない。絵を描くこととかゲームとかそういうものを一切禁止されていなかったら、ここまで絵を描く奴になっていなかった、かもしれない。

いや、でも、僕、描くだけでにこにこしちゃってるの?いや、そんな……。

……うん。僕、描くだけでにこにこしちゃう奴だよ!どうせ!

僕が開き直りとちょっとの恥ずかしさとその他諸々で複雑な気持ちでいると、ライラは僕を覗き込んで、ちょっと笑った。

「その、こういうこと、言っていいのか、分かんないけどさ……よかったじゃない。親元、出てこられて。絵、描けるようになったわけだし、あんたが出てきてくれたおかげで、私はあんたに会えたわけだし……」

「えっ」

なんだか意外な言葉を聞いた気がして思わずライラの方を見ると、ライラは『心外!』みたいな顔をした。

「……僕と会えて、よかったの?」

「そりゃあ……そうでしょ。あんたに会えてなかったら私、多分適当にどっかの貴族に使い潰されて一生を終えてたんだから。それに……そういうのは置いとくとしても……絵を描くのが好きだって気づけたのは、あんたのおかげだから」

……いや、そう、なのかもしれないけれど。けれど、それがライラの口から出てきた、っていうのが、なんか、ちょっと、意外で……びっくり、している。

そんな僕のびっくり加減を見たライラが、ちょっと拗ねたような顔をした。あ、描きたい。

「……た、偶にはいいでしょ、こういうこと言ったってさ。なんか、その、レネを見てたら、ちょっとは素直に色々言った方がいいんじゃないか、って、思っただけよ」

あ、成程。

確かにレネは、こう……言葉が通じないのに、ものすごく分かりやすい、というか。今も屋台の揚げアップルパイをさくさく齧っては言葉以外のところで『おいしい!』を表現している。筆頭は顔。目がきらきらして、それから蕩けるような笑顔。分かりやすい!

確かにレネを見ていたら、なんか、こう、色々と素直になってしまう、気がする。

「だからさ、その……あんたは、親元、飛び出してきて正解だったのよ。うん。それだけ」

ライラもレネを見て『美味しそうに食べるわよねえ』みたいな顔をしつつ、ちょっと早口気味にそう言って、ベンチから立ち上がった。

……少し、考える。

僕は、何故だかこの世界に来てしまって、それで、毎日絵を描いて楽しく暮らさせてもらっている。

毎日が楽しいし、自分にできることが増えていく感覚がすごく嬉しい。

ここに居る人達に会えたのも、嬉しい。彼彼女らから学ぶことは多いし……そういうの抜きにしたって、一緒に居て楽しい。

……うん。すごく、楽しいんだ。今までの生活からは、考えられなかったくらいに。

「うん。よかった」

だから僕も、改めまして。

「僕、ここに来られて、よかった」

振り返ったライラに、そう言ってみる。

彼女に言うことじゃないのかもしれないけれど……その、所信表明、っていう、ところで。

……僕がこの世界に来てしまったのは僕の意思ではなかったし、ここに来て困ることもあったし、分からないことだらけだし……ここに居るのが正しいことなのかも、よく分からないままだ。

けれど……よく分からない中でも、どう思うかは、僕の勝手だ。

「僕、絵を描くために、ここに来たんだ」

僕は、絵を描くためにこの世界に来た。

……そう、思うことにしても、いいよね?