軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13話:月の光を集めて*4

何が起こるんだ、と、どきどきしながら待った。

鳥は僕の頭に乗せたものをちょいちょいつついて位置の調整をして、そして、『これでよし』とでも言いたげな様子で数歩ぴょこぴょこ下がって……。

……うん。

特に、何も、起こらないね……。

何だろうなあ、と思いながら待っていたら、その内、穴からフェイのレッドドラゴンが出てきて、きゅい、と鳴いた。鳥はそれを見て、僕を見て……『あれ?』みたいなかんじに首を傾げている。

いや、首を傾げられても困るよ。こっちが首を傾げたいよ。

結局、鳥は『なんかおかしいな』みたいな顔で僕の周りをちょこちょこと歩き回っている。うん、自信満々にこれ、僕の頭に乗せた割には何も起こらなかったからね……。

結局鳥は、僕の頭に乗せたものが何も起こさないと分かると、その場でもっそり丸くなって寝始めてしまった。あっ、こいつ、ふて寝してる!

「なんだろうなあ、これ……」

ふて寝する鳥の横で、僕らは謎の物体を観察し始める。

「髪飾り、みてえだけど……うん。綺麗だな、これ」

フェイは僕の頭に乗ったそれを見て、珍し気に眺めている。確かにこれ、耳の方まで飾る髪飾りだと言えばそうなのかな。宝石細工が付いた飾りを眼鏡のつるをそうするみたいに耳に引っ掛けて、そこからモノクルがくっついていて、あと、耳の飾りから伸びた宝石と金属線の細工が顎の方まで伸びていて、頭の方は冠……ええと、ティアラ、ってこういう形状だったっけ?うん、そういう風になっている。

全体的に金や他の金属の金属線で華奢に作ってある。そこに宝石や、レース細工みたいな模様が刻まれた金属板がくっついて、更に装飾的で華美で華奢。うん。そんなかんじ。

……うん。そうなんだ。装飾的で綺麗なつくりから見ても、髪飾り、というのは、分かる。

ただ、こう……あの鳥が、ただの髪飾りを僕に乗せた、とは思いにくい。あの鳥、何を考えているのか全く分からないけれど、何も考えてないわけじゃない、と、思う。……いやふて寝して丸まって巨大な大福みたいになってる様子から見ると、何も考えていないという説も濃厚になってくる気がするけれど……。

「ん、これ、なんかの道具っぽいな」

案の定、僕の頭を眺めていたフェイが、何かに気づいてまた観察し始めた。

「道具?」

「おう。多分な。ほら。ここの模様のとことか、魔力流すとこだろ?まあ……これ、多分、壊れてるんだろうけどよ」

……そっか。何かの、壊れた、道具。

うん……なんとなく、だけれど、この道具の形状、僕の世界で見たことがある、というか……。

異世界のヘッドセットです、って言われても、納得がいくんだよな。

それから、フェイは髪飾りみたいな道具を僕の頭から外して、検分し始めた。

「ふーん、駄目だ、これ全然分かんねえわ」

あ、分かんないのか……。うん。いや、でも、『全然分かんねえわ』と言うフェイは、目を輝かせて嬉しそうだ。分からないのに、嬉しそう……?

「これ、古代の魔法だな!幾つか機構が駄目になってるところは見つかったんだけどよ、元々が何のためのものなのかはよく分からねえし……とりあえず直せる箇所、直してみていいか?そしたらこれが何なのか分かるかもしれねえし」

「え、あ、うん」

別に、僕に決定権はない。鳥が掘り返したっていうだけで、この髪飾り自体はレッドガルド家の庭から出てきたものだし。うん。好きにしてもらいたい。

「おもしれえなあ……こんなもんが庭に埋まってるって分かってりゃ、もっと早くに掘ってたんだけどなあ……」

……うん。

なんというか、コピー機を作った時も、思ったけれど……フェイって、こういうの、割と、好きなんだな。

「とりあえずまずは魔石の交換だろ?あとはここは模様が推測できるから、埋めてから彫り直して、あと、こっちは線が切れてるから金線で補修……あ、金線、ねえな。どうすっかな、王都まで買いに……」

「あの、必要なものがあったら出そうか?」

「おお!助かるぜトウゴ!」

なんだかフェイが楽しそうにしているから僕まで楽しくなってきた。この道具が何の道具なのかも気になるし、折角だから直してみたらいいと思う。鳥だってきっと、そうして欲しいんだろうし。

……鳥は、フェイが修理の話を始めた途端、ふて寝からもっそり頭を持ち上げて尾羽をふりふり振り始めた。こいつ、ふて寝の上に狸寝入りだったらしい。鳥のくせに狸寝入り……。

「よし!んじゃあ、トウゴ!まずは金の線、作ってくれ!太さはこれと同じぐらいで!」

「分かった。他は?」

「後は、ここにあるのと同じ色の魔石と、こっちの欠けてる魔石と同じ色の奴1つずつ頼むぜ!俺は他の道具取ってくるから!」

僕が材料を描き始めると、フェイは走ってお屋敷の方へ向かって、それからまた走って戻ってきた。そして嬉々として、修理を始める。

金属の板の、深い傷が入ってしまっている個所に金色の粘土みたいなものを詰めて、形を滑らかに整えて、そこに模様の続きを彫り込む。

金属線の切れたり折れたりしている個所に金線を絡めて、元の線同士を繋ぎ合わせていく。

……見ていて楽しい。フェイが真剣な表情で、かつ楽し気に修理しているのを見ると、僕までわくわくしてくる。

この道具、修理したら使えるようになるだろうか。この道具、どういう道具なんだろう。なんでこんなものがレッドガルド家の庭に埋もれてたんだろう。

色々と考えながら、僕はフェイの手先を見つめてわくわく待った。やがて、フェイの指が器用に動いて、欠けた宝石を取り除いてそこに新しい宝石が嵌め込まれて……。

「おっ、きたきたきた!」

モノクルのレンズの部分に、ぽっ、と、光が灯る。う、動いた!

「んー……これ、一応、魔力は通ったっぽいけど……。トウゴー、着けてみてくれるか?」

「あ、うん」

フェイから受け取ったそれを、僕は頭に乗せる。鳥がさっきやってくれたみたいに位置調整をして、上手く頭に乗るようにして……。

「どうだ?」

フェイの言葉を聞いて、何となくそこに、ごく僅かな雑音が混じるような、妙な感覚を味わう。何だろう、雑音……というか、ええと、文字?文字が掠れて僕の頭の中に出てくる?僕の中でちょっとだけ雑音がしてる?うーん……?

「お、おい、トウゴ?」

「うーん……なんだろう、変なかんじだ」

「それって、この道具が正常に動いてる、ってことか!?」

「いや、正常に動いてる訳じゃない、とは、思う……」

僕が答えると、フェイはちょっとがっかりしたように肩を落とした。まあ、そう上手くいかねえよなあ、とぼやきつつ。

けれど……モノクルを通した僕の左目は、ほんのり光るレンズを通してなんとなく景色が変わって見えて面白い。うん。なんだろうな、これ。ちょっと遠近感が無くなるようなかんじだ。

その感覚がちょっと面白くてきょろきょろしていたら……。

「あ、あれ?」

「ん?どうした?」

……ガラクタの箱の外側に描かれた模様から、ぴょこん、と文字列が飛び出してきた。

突然、モノクル越しの視界に現れた、半透明の吹き出し。そしてそこに、掠れたり曲がったりして、しかも時折ノイズが走るみたいにぶれる文字列。

……ええと、これ、どういう……?

「お、おーい?トウゴー?」

「あ、うん、ええと……はい、どうぞ」

上手く説明できる気がしなかったので、フェイに髪飾りを渡してしまう。フェイは首を傾げながらも受け取った髪飾りを頭に乗せて、位置を調整する。赤い髪に金の細工の飾りって、映えるなあ。後で描かせてもらおう。

「で、ええと、あれ、見りゃいいのか?」

「うん。あの箱の模様みたいなやつ……」

僕がフェイを促すと、フェイは僕が指さした方を向いて……。

「……おー」

そこで、ちょっと呆然とするというか、ほう、とため息を吐いた。

「こりゃ、すげえもん、拾っちまったなあ……」

フェイはそう言うと……隠し切れないわくわくを滲ませて、僕に、言った。

「……こりゃ、翻訳機だ。多分あの読めねえ本に書かれた文字と、この世界の古代語とを翻訳する奴だ!」

翻訳。

それは……それは、すごい!

「じゃあ、これ使ったら、あの本、読めるかな」

わくわくしながら聞いてみたら、フェイはモノクル越しに色々眺めつつ……首を傾げた。

「いや、ちょっとまだ駄目だな。今、あの箱の模様に対して『残尿感』って表示されてるけど、あの箱の中身、本だったし」

うん。それは何かがおかしい。多分バグってるんじゃないかな、それ。

「なら、これが直ったら……」

「うー……ま、まあ、直せたら、な?まあ、古代語なら、辞書使いまくれば読める、かな……?いや、それ頼むんなら兄貴に頼んじまったほうがいいな……。古代語は兄貴の方が得意だから。兄貴は王都でやった古代語のスピーチコンテストで優勝したんだぜ」

あ、そうなんだ。じゃあローゼスさん、お世話になります!

……ところで古代語スピーチって何だろう。それ、実用性、あるんだろうか。いや、それとも、この世界には古代人がいらっしゃる……?

「もしかしたら、音声も翻訳する機能がついてたのかもな。そっちは直ってねえみたいだけど……」

フェイは頭から外した髪飾りもとい翻訳機をしげしげと眺めて、首を捻っている。どうやら、『残尿感』の表示バグよりも、全く修復できていない箇所が気になるらしい。気持ちはちょっと分かる。

「それに、これ、よく分からねえ言語と古代語の翻訳してくれるよりは、それをさらに現代語に翻訳してくれた方がいいよなあ……」

う、うん?

「つーかこの機構、上手く応用すれば、普通に古代語と現代語の翻訳とか、妖精の言葉の翻訳とかもできるんじゃねえか?」

え、ええと……?

……僕が見守っている間も、フェイは色々と思いついたことをぶつぶつと呟いて……そして、ぱっ、と顔を輝かせて、言った。

「よし!もうちょっとやってみっか!古代魔法の復刻ができるかもしれねえ!」

……うん。

そっか。フェイ、こういうの、好きなんだなあ。

「すまないね、トウゴ君。あいつはああいうところがある」

外がひんやりしてきたので、僕らはレッドガルド家のお屋敷の中に入れてもらって……そこでフェイは、翻訳機のレプリカの解体をしている。原本を解体するのはあまりにもリスクが高かったから、僕がそっくりに描いて出した奴が原本と同じように働くのを確認して、それを解体してもらっている。

「魔法が苦手な分、魔道具の方に興味が向いたらしくてね。最近、印刷機、とやらを作り出した時には『ああ、時計を分解していたちびっこがよくぞここまでそのまま育ったものだ』と思ったが……」

ローゼスさんは僕に気を遣ってお茶を用意してくれて、僕はそれを頂きつつフェイを見守りつつ、時々飛んでくる『トウゴー!アレ出してくれ!』の要望に応えている。

あと、フェイを描いてる。楽しそうなフェイは描き甲斐がある。描いていてとても楽しい。きらきらした緋色の目も、細かく動く指先も、時々悔しそうに歪められたり、『やった!』っていう具合に笑みの形になったりする表情の、その一つ一つの変化も。生きている人間だなあ、っていうかんじがする、というか、好きなことをやっている人間だなあ、って感じる、というか。

「……まあ、その分、私も父も、楽しませてもらっているが」

「僕もです」

フェイが何か悩みながら翻訳機を弄るのを見て、なんとなく楽しくなってくる。

一体、何が生まれるんだろう、とか、もっと便利になったらいいな、とか、色々と頭の中に考えが浮かんできて、すごく楽しい。

あの翻訳機がうまく動くようになったら、妖精でも読めなかったあの本が僕らにも読めるようになるだろうか。そうしたら、何か、新たに分かるかな。

……そういうわくわくがあるから、こういうのって、いいよね。特に、フェイは……その、魔力が少ない?魔法が苦手?ええと、そういうの、気にしているみたいだから……魔力も魔法も関係なく、こういう風に新しいものが生まれるのって、その、嬉しいんじゃないかな、と、勝手にそう思ってしまって……それで僕は、勝手に嬉しくなっている。

「トウゴー!すまねえ!魔石の板、作ってくれ!この大きさで、厚みは半分で!」

また飛んできたフェイからの要望に、僕とローゼスさんは顔を見合わせて笑いつつ、早速、僕はフェイの要望の品を描いて出すことにした。

「……それにしても、よくぞあんなものが我が家の敷地内に埋まっていたものだ」

また作業を再開したフェイを眺めつつ、ローゼスさんは優雅にお茶を飲んで……ちょっと首を傾げる。さらり、と流れた髪が優雅なかんじだ。

「初代レッドガルドは一体、何をやっていた人物なのやら……」

……うん。まあ、それは気になる。

初代レッドガルドさんについては、何か功績を上げて、当時の王様からレッドガルド領を貰って、ずっと僕……ええと、森を守ってくれていた、っていうくらいのことしか、知らない。あとは、天性の魔物使いで、レッドドラゴンを従えて戦っていた、みたいな、そういう話くらいか。

……けれど、初代レッドガルドさんはなんとなく、フェイに似た人だったんじゃないかな、という気がする。なんとなく。

あの髪飾りみたいな翻訳機は、きっと一点もので、誰かの手作りだったと思う。だとしたらきっと、初代レッドガルドさんが作ったか作らせたかしたもの、だったんじゃないかな、という気がする。

なんだろうな。初代レッドガルドさん、研究者とか発明家とかだったのかな。だとしたらあのガラクタの山って、発明品とかの数々?うーん、でも、今回の翻訳機みたいなやつは他に見つかっていない。なら、あの道具って、『道具作りが好きだから作った』っていうよりは、『必要だったから作った』っていうことになるだろうか。

……うーん、なんだろうなあ。

結局、その日の内にはフェイの修理は終わらなかった。

「あーくそ、所々、見たことある機構はあるんだけどよー、核になる部分にわけわかんねえモンが使われすぎてて、全然分かんねえ……。相変わらず、あの箱の文字は『残尿感』のままだぜ!くそー!」

食事の席でそうぼやきつつ、フェイは魚のムニエルを綺麗な所作で切り分けて口に運ぶ。うーん、言葉のかんじと視界に入ってくる情報が合致しないような、変なかんじがする。フェイはざっくばらんな話し方をするし、すごく気さくだし、妙に思い切りがいいところがあるけれど……特に、こういうきちんとした食事風景を見ると、やっぱり貴族なんだなあ、と思う。

その点、お兄さんのローゼスさんの方は、見た目と所作と言葉のかんじが完全に一致するので、こちらはやっぱり貴族だなあ、って思う。

お父さんについては、貴族だなあ、以外の感想が『ちょっとお茶目だなあ』と『すごい人だなあ』しか無い。

「くそー、なあ、トウゴ。お前んとこの鳥、もっと発掘しねえかな?古代の道具の仕組みとかの解説書、埋まってたりしねえ?」

「あの鳥、ふて寝から起きたらすぐ森に帰っちゃったから、もう発掘するもの、ないんじゃないかな……」

鳥のことだから、多分、気分が乗らない以上に必要がないから発掘を終了したんだろうなあ、と思うし……いや、本当に気分だけでやってるかもしれないけれどさ。

「資料が全然ねえっつうのが、こう、やっぱりキツいんだよなあ……。壊れた実物だって立派な資料だけどさ、それだけで何とかなるモンでもねえし……」

うん。それは分かるよ。

完成品を作りたいなら、一番お手本になるのは完成品だ。壊れたものだけがあっても、それを全くの無知の状態から直すのって難しい。絵の全体像を知らずに絵を修復するようなものだ。

「まあ、今日は早く寝なさい。くれぐれも徹夜しないように。そうだ。トウゴ君も泊まっていくかい?」

「いや、僕は帰ります。馬達がまた、機嫌を損ねて僕を転がし始めてしまうので……」

ローゼスさんが僕に提案してくれたところ悪いのだけれど、でも、今はできるだけ森に居たい。そうじゃないと、馬達が……馬達が、また、僕を転がし始めてしまう……。

「あ、そーだ。なあ、トウゴ。森に戻ったら、アンジェのところの妖精達に進捗、聞いといてくれるか?ついでに、こういう道具について記述が無いかどうか、とか……」

「あ、うん。分かった」

……昨日の妖精達の様子から考えると、ちょっと、何かを期待するのって酷な気もするのだけれど……まあ、聞くだけ聞いてみよう。

それから僕はレッドガルド家をお暇して、森に帰った。

森の家の前では鳥が泉でザブザブバシャバシャ、水浴びしていた。穴掘りしたせいで土まみれになっていたから、水浴びしたかったんだと思う。

なんだか気の抜けた光景を眺めつつ、久しぶりに鳥の水浴び風景を描きつつ、フェイが今直している翻訳機、なんとか直し方、分からないかなあ、とぼんやり考えつつ……。

……しゃらしゃらわさわさ、と、妖精達の声が聞こえてきた。

「トウゴおにいちゃーん!」

更に、アンジェの声まで聞こえてきた。

おや、と思って待っていると……妖精達はアンジェよりも先に僕の元へ飛んできて、そして……僕の前で、本の1ページを広げた。

……その本は、手書きの本だった。いや、当然か。この世界に印刷機が生まれたのってついこの間のことだし。

ただ、それ以上に、『手書き』っていうかんじがする。それは多分、書き損じを二重線で消してあったり、図がレイアウトを考えずに描き込んであったりする他に、何より、日付らしいものが書いてあったからだ。

……日記帳、なんだと思う。

そして、その日記帳らしいものの中に……なんだか見覚えのある道具の絵が描いてある。

あの翻訳機の、設計図、だと思う。

設計図はほとんどが図だけで記してあった。けれど、その中に、一文……たどたどしい文字で、書いてある。

『いつか、世界がつながる日のために。竜王様と、すべての人間へ捧ぐ』。

……これは、いけるんじゃないかな。