軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10話:月の光を集めて*1

久しぶりの場所。久しぶりのラオクレス。久しぶりのクロアさん。

何だか安心して、力が抜けてしまう。……あ、魔力切れの感覚にちょっと近いかもしれない。よく考えたら、僕、ちび太陽を描いてしまっている……。

「おい、どうした」

「あ、ごめん、ちょっと、ちび太陽を出した影響だと思う……。ちょっと魔力切れ気味なんだ」

僕がぐったりすると、ラオクレスもクロアさんも慌て始めた。でも、大丈夫だ。まだ魔力切れにはならないぞ。まだ……。

「あの、手紙、届いた?」

まず、気になることを聞くことにした。あの手紙の配達、上手くいってたんだろうか。

……聞いてみると、ラオクレスは黙って頷いて、クロアさんもにっこり笑って頷いた。

「届いたわよ。ラオクレスが夜中に私の寝室のドアをバンバン叩いて起こしに来たの。びっくりしちゃった」

「おい、クロア」

「あなた、誰よりもそわそわしてたものね。今晩、ここで待っていることにしたのもラオクレスよ。私はその付き添いっていうことで」

そ、そっか。ええと、すごく心配をかけて、しまった……のだけれど、うわ、あの、すごく申し訳ないんだけれど、その、ちょっと、嬉しい……。うう、これ、ちょっと意地悪だろうか。心配してくれたのが嬉しい、っていうのは……。

「……まあ、無事ならよかった」

「うん。ごめんなさい、心配をかけた」

「構わん。元はと言えば、俺が……いや」

ラオクレスは安心と後悔が入り混じった顔で、ちょっと僕から目を背けた。

「……あの時、お前が何もない空間に向かって走っていったのを見て、すぐに止めるべきだった」

「ああ……やっぱりあれ、幻覚だったのか」

先生の姿が見えて、それで僕は森の町の外へ出てしまって、そこで灰色ドラゴンに捕まってしまったわけだけれど……やっぱりあれ、幻覚だった、みたいだ。うん。そうだ。先生はここには居ない、よね。うん……。

「……あの時、お前を止めていれば、と、何度も、思っていたが……」

ラオクレスは俯いて、渋い顔をしている。あ、これは……。

「ごめんね。ごめん。すごく心配させて……僕は大丈夫だったよ。無事だよ。ええと、それから、待っててくれてありがとう」

なんとなく、ラオクレスをぎゅっとしてしまった。ラオクレスはラオクレスだから泣いたりはしないと思うのだけれど、そういう気分になっていそうな気がしたから。ぎゅっと。

……すると。

「……おい、トウゴ」

色々と引っ込んで、只々困惑しているらしいラオクレスの声が、頭の上から降ってきた。

「これは……どうした?」

「え?……あ」

……そういえば、僕、自然にラオクレスを抱きしめてしまったのだけれど、これ……夜の国式、というか、レネ式のやり方だ!向こうにいた間、結構な頻度でレネにきゅうきゅうやられていたから、そこの感覚が鈍ってる!

「あ、ええと、その……夜の国に居ると、抱きつき癖が、つくみたいだ……」

ものすごく恥ずかしくなって、ラオクレスから離れる。ラオクレスは呆れた顔をしていたけれど、やがて、笑いだした。

「わ、笑わなくたって」

「ねえ、トウゴ君!ほら、私も!ね!」

くつくつ笑うラオクレスの横で、これまた満面の笑みのクロアさんが、僕に両腕を開いて待ち構えている。……もうどうにでもなれ、っていう気持ちで、きゅ、ってやった。うう、柔らかい、落ち着かない……。あ、でも、ふりゃー。

「ふりゃー……」

思わず口に出てた。クロアさんもラオクレスも『ふりゃー?』っていう顔をしている。うう、なんだか夜の国の生活が染みついてしまっていて、元に戻るまでに結構かかりそうな予感がする……。

「トウゴー!お前、お前……心配させやがってよー!」

ラオクレスとクロアさん相手に色々と説明もとい弁明をしていたら、フェイが飛んできた。そして僕はがっしり捕まって、そのまま頭をわしわしやられる。やめてやめて。

……画廊はレッドガルド家の隣だから、クロアさんがアレキサンドライト蝶で連絡してすぐ、こっちに来てくれたらしい。ご心配をおかけしました。

「親父も兄貴も、心配してたんだからな!ったく……あー、無事でよかったぜ、本当に」

「うん。心配かけてごめん。あと、心配してくれてありがとう」

フェイは最後に一発、僕を軽く小突いて、それから僕を解放してくれた。頭がぼさぼさになった。でも申し訳ないし嬉しいから、文句は無い。

「ま、お前も結界の維持でものすごく頑張った直後だったしなあ……ん。無事だったんだからもう言わねえ!」

そしてフェイはそう言って……首を傾げた。

「……ん?」

「え、何?」

「お前、なんかまた、人間離れしたか?」

……えっ。

「なんか、気配がちょっと違う、っつうか、身に纏うもんが違う、っつうか……うん。人間離れしてるなあ」

「そんなあ……」

な、なんだかショックだ!心当たりはあるけれど!

……多分、レネのキスだ。あれ、多分、レネの魔力を僕に被せて、それで僕の気配を誤魔化すためのものだったみたいだから……その影響で僕、また、人間から遠くなってしまった!しょうがないけれど、しょうがないけれど……複雑な気持ちだ。人間離れって……人間離れって……。うう。

それから僕は、今までのことを説明した。

多分、灰色ドラゴンに攫われて、多分、僕は内臓を食べられるところだった、ということ。そこを、レネっていう名前の、あの時のお客様が助けてくれたこと。

それからの生活。夜の国の様子。レネとタルクさんについて。うにょうにょと蜜と青空の木について。そして太陽が実ったことも。……あとは、灰色ドラゴンに追いかけられてきた、ということも。

大体を説明し終わると、皆はなんとなく、僕がどういう状況だったかを理解してくれた。

ついでに……夜の国について、情報をくれた。

「お前が攫われちまってから、こっちも色々調べたりしてたんだ。お前が灰色のドラゴンの手に捕まったのはラオクレスが目撃してたから、そこをとっかかりにしてさ」

フェイはそう言いつつ、よいしょ、と本を数冊、僕の目の前に置く。

「そこに色々書いてあるけどさ。要は、夜の国っつうのは、魔王の国で……だから国ごと、封印されてるんだとよ」

「……レネ達、封印されてるの?」

「ああ。そういうことらしいぜ。多分、封印が緩んで薄れて、レネがこっちに来れるか試したんだろ。それが、お前とラオクレスが画廊でレネと会った日で……その後、いよいよ、魔王が復活、ってことだよな」

うん。そういうことなら筋が通る。レネみたいなお客様が今まで見当たらなかったのは、それまでは封印がしっかりしていたからか。

「ま、あの灰色のドラゴンが魔王、ってことなんだと思うぜ。……本に残ってるよりもずっと小物っぽいけどよお。うーん……いや、実際どうなんだ?本当にあれが魔王だったのか?」

小物。ええと……それにはちょっとどういう顔をしたらいいか分からないけれど。

でも、言われてみると確かに、そう、かもしれない。あの灰色ドラゴンが魔王か、って言われると……うーん。

「魔王についてもある程度分かったわよ」

僕がちょっと考えていたら、クロアさんもフェイの本を指さして教えてくれた。

「魔王は光を奪ってしまうんですって。だから、魔王の国はずっと夜。だから、魔王が封印を破ってこちらに来たらこちらの空は灰色の雲で覆われてしまう、ということなのかもね」

「だから魔王はこっちに侵略してくるんだとよ。自分が食うための光を求めて。……さっきのトウゴの話とも合致するところ、あるよな」

うん。僕もそう思う。

そっか。夜の国は魔王の国で……光を食べちゃう、のか。ええと、だとするとやっぱり、灰色ドラゴンは魔王じゃない気がする。あの人、太陽が実っても齧らなかったし。それに……青空の木の周りには青空が広がっていたけれど、あれは……魔王がまだ食べていない、っていうこと、なんだろうか?

何か、違和感はあるんだけれど……。

……それにしても、皆、詳しいな。すごく調べてくれた、っていうことなんだろうけれど……この情報、夜の国に行く前に知っていたらなあ、とも思う。そうしたらもっと、レネ達の事情も分かった上で行動できただろうし……。

「……『皆、随分と詳しいな』と思っているだろう」

うわ。考えていたこと、そのままぴたりとラオクレスに言い当てられてしまった。

僕が驚いたのを見て、ラオクレスは楽しげに笑う。なんだか少し恥ずかしい……。

「無理もない。俺達もこれが分かったのは、つい最近のことで……何なら、昨日の昼のことだ」

……ふと、ラオクレスは複雑そうな顔をした。あれ、どうしたんだろうか。何かあったのかな。

「……まあ、庭を見ればわかるが」

庭?ええと、それは……。

「……な、何してるの……?」

画廊の外に出てみたら、庭が、すごいことになっていた。

地面が掘り返されてた。

石材の破片や土や何かのガラクタっぽいものやそんなものが積み上げられていた。

……そして、鳥が首を地面に突っ込んだまま、もぞもぞしていた。

「……ねえ、ちょっと」

鳥のお尻だけが地面の上に出てもぞもぞ動いているところを、つん、とつついてみる。……いや、つついてもつついても羽毛で、もす、と指が埋まってしまうばかりで、全然本体に指が届いてないけど。

けれど、鳥はつつかれたことは分かったらしい。もぞもぞっ、と勢いよく動いて、すぽん、と穴から出てきた。

……そして僕を見るとちょっと首を傾げて、キョキョン、と鳴く。ついでにつっついてくる。うわ、痛い痛い。くちばしで突っつかないで。うわ、噛まないで!甘噛みもちょっと!

「あ、あれ?」

更に、穴の奥からフェイのレッドドラゴンが出てくる。きゅっ、と鳴いて、口に咥えていた箱を地面に落とした。

「おー、今度は何だ?」

フェイは呆れながら箱を開けて……半笑いを浮かべた。

「……錆びまくったナイフ。まあ、当たりか?」

……ええっと……こ、これ、どういう……?