軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話:嵐を呼ぶコンクール*6

そうして、裁判が始まった。

……最初はライラの自供からだった。そこでライラは、裁判所に貴族達の行いを明かしてしまった。そして、本当だったらそこで揉み消されてしまっていたかもしれない告発は、たまたま、王様が『龍の意向に沿う』ことをしていたから、揉み消すわけにもいかなくなって……一気に広がっていった。

絵画に関わっている貴族達は皆慌てたらしいけれど、龍が悪戯したせいで、なんとなく『神様のお使いが、絵の作者を偽るなと仰せなのだ』みたいな考えが広がっていて……だから、ライラの自供によって浮かび上がってしまった貴族達も、あんまり色々できないらしかった。

「本当によかったわ。もし龍のことがなかったら、王家もひっくるめて貴族全員でライラを消していたかもしれないもの」

クロアさんがそういう、ちょっと怖いことを言う。うん。そういうこともあり得たんだよな……。

「丁度良かったよな。王家は龍の機嫌を損ねたくねえだろうから、ライラに厳しい判決なんて出させないようにするだろうし」

ちょっとズルい気もするけれど、まあ、いいか。うん。龍がちょっと美術館の中をにょろにょろしただけでこれなんだから、本当に、この国でのドラゴンって、すごいんだなあ……。

龍のにょろにょろとライラの告発の波に乗るようにして、僕らもライラとブロンパ家を訴え出ることにした。元々、これがライラの望みだったから、その通りにしたことになる。

だから当然だけれど、裁判の当日には僕らも裁判所へ行った。

この国の裁判所は、王城の敷地内にある。……この国は王様が絶対的な力を持っている国だからか、三権分立とかはしていないらしい。うん。全部王様の采配次第ってことなんだろうな。すごい。

裁判所は白と黒の大理石で作られた、ちょっと厳めしいかんじの建物だった。透明なガラスでできた大窓が特徴的。

「あの窓は神様の目を届かせるための窓なんだとよ」

建物を見ていた僕に、フェイが解説を入れてくれる。

「裁判中はあの窓、開いておくんだ。そこから神様が見ていてくださる、ってことらしい」

「へえ……」

なんというか、すごいなあ。……ちょっと、日本でいうところの鳥居とか、そういうものっぽさを感じる。

「まあ……裁判所の中で暴れるような馬鹿は居ねえだろうけどさ。一応、気を付けてくれよ?俺達をよく思わない貴族は多いぜ?」

そして、フェイがそんなことを小声で言った。

……ちょっと周りを見渡してみると、確かに、僕らをじろじろ見ている貴族の人達の姿が見えた。彼ら、もしかして、ライラがゴーストライターをやった人達なのかな。それで出廷を命じられてるのかもしれない。

「ってことで、ラオクレス。頼むぜ?特にトウゴを」

「僕はいいよ。いざとなったら管狐も鳳凰も出てきてくれるから。それよりクロアさんを頼むよ」

「あら。私、あなたみたいなふわふわ坊やに心配されるほど抜けてないわよ?……ということで、ラオクレスはトウゴ君をよろしくね」

そっか。ふわふわ坊や……ふわふわ坊や!?

な、なんだかとんでもない悪口を言われた気がする。ふわふわ坊や……ふわふわ坊や……。

……僕、もうちょっとしっかりしよう。うん。

ラオクレスが裁判所よりも厳めしい顔つきで傍に居たからか、僕らが攻撃されるようなことは全然無かった。いくらか、僕らに何か言いに近づいてきた貴族の人達も居たんだけれど、彼らもラオクレスが一睨みしたらすごすごと帰っていった。流石は僕らの石膏像!

僕らは無事に裁判所の中へ入って、そこで指定された席に座って待った。

それから少し経ってようやく、僕らとライラとブロンパ家の裁判が始まった。

裁判って言っても、僕が知っている裁判とは大分違う。なんというか、ラフだ。うん。

王様が前口上を述べて、それから裁判官が罪状を読み上げて、それからこちら側の主張が始まる。

僕が何かすることは無かった。僕は『トウゴ・ウエソラ』のサンプルとしてそこに居るだけで、あとはフェイが主張をしてくれたし、その主張だってフェイがフェイのお父さんから託されたものを読み上げているだけで、ある意味形式的なものだし……まあ、大事なのは、その後。

読み上げられた罪状をブロンパ家が否定して、でもライラがあっさり認めてしまった。ブロンパ家の人は焦り始めて……それから、ライラとブロンパさんの口喧嘩が始まった。

「この恩知らず!わ、私は、お前がトウゴ・ウエソラだというから雇ったのだぞ!?それが偽物だったどころか、我らに汚名まで着せようとしよって!」

「あら!私に『トウゴ・ウエソラを名乗って絵を描け。最終的にその絵は私が描いていたということにする』って言ってたのは誰だったかしらね!その後で『お前が全部悪かったことにして口裏合わせしろ』なんて言ってたけど、お生憎様!そんな話に乗る馬鹿がどこにいるってのよ!」

「そ、そんなのは出鱈目だ!なんてことを言うんだ!」

「本当に出鱈目だと思うの?今までの貴族達は自分の罪を認めたわよ?」

……こんな具合に、喧嘩していた。

ただ、なんというか……ブロンパさんの方が、劣勢だ。だって、ライラ、強いし。あと、フェイからの訴えもあるし。それに王様としては、『龍の意向』に沿おうとしているらしいし……。

……口喧嘩しながらも、ライラはちゃんと、細かく証言した。

自分が名前を偽って描いた絵は何枚で、それらがそれぞれどこへ行ったか。誰に頼まれて描いたか。彼女の絵には裏側の目立たない位置にサインがしてあるから、額縁から外して確認すれば、どれが偽物かちゃんと分かるだろう、ということも。

……本当に、準備してたんだなあ、と思う。そうじゃなきゃ、自分が描いた『偽物』に、『偽物』だって分かるようなサインなんて入れないはずだ。

「それから、これが契約書です」

ライラはブロンパ家やその他の家との契約書も出してきた。

その契約書はほとんどが、こうして他人に見せても大丈夫なように作られていたけれど、少なくとも、この契約書を交わした人は全員、ライラと何らかの繋がりがあったことは確かだということになる。それ自体には言い逃れができないし……あとは、ライラが自分の絵に入れたサインを確認すれば、分かってしまうことだ。

その後は僕が『トウゴ・ウエソラ』である証明をすることになった。

……ここで出てきてくれたのがアージェントさんだ。

うん。すごく意外だったのだけれど、アージェントさんが応援に駆けつけてくれたということになる。

どうやらフェイが、この間の霊脈のことについて持ち出して、アージェントさんに証言台に立ってもらえるようにお願いしたらしい。……うわあ、アージェントさんが、すごく複雑そうな、かつ、険しい顔をしている……。ごめんなさい、お世話になります。

僕はちょっと緊張していたのだけれど、アージェントさんは複雑そうな顔をしつつも『こいつこそがトウゴ・ウエソラだ』っていう証言をしてくれたし、ライラは『私はトウゴ・ウエソラじゃない』って証言してくれた。だから、あとはブロンパ家が罪を認めていないだけだっていうことになる。

……そして最終的には、王様が『ブロンパ家が嘘をついていると判断します』ってやってくれたおかげで、僕らが勝訴……っていうことになった。うん。

ブロンパさんはすごい形相で僕らを睨んでいたし、ライラにも何か言っていたけれど、王様が『ドラゴンの意向に逆らうつもりか!』ってやってくれたので、ブロンパさんはすごすご引き下がっていった。

なんというか……龍様様だ。あと、ちょっと、ズルをしたみたいで、気まずい。

その後、ライラが証言で名前を出した貴族達の事情聴取も行われた。それでさっき、裁判所の周りには貴族の人達がたくさん居たらしい。裁判の前にもライラは裁判所に証言していて、その証言に合わせて、貴族達を予め呼んでいたんだろう。

……事情聴取は、大体、恙なく終わっていった。要は、ライラにゴーストライターをやらせて、自分が描いたわけじゃない絵を自分の名前で美術館に飾った、っていうような、そういうかんじの証言が得られたことになる。

それに伴って、その貴族達には厳重注意、っていう処罰が与えられるらしい。まあ……実質、怒られて終わり、なんだけれど。これはしょうがない。誰かが損をしたり損害を被ったりしたかって言われると、そうでもない事件だから。

ライラと貴族達が合意の元でゴーストライターをやってたんだったら、そこに文句はつけられない。だから、厳重注意で終わり。

……それでも、ライラは幾分晴れやかな顔をしていた。

自分達がやっていたことが明るみに出たことで、ライラの気持ちは軽くなったんだろう。そのせいで……その、ライラは処罰されてしまうのかもしれないけれど。でも、彼女は満足気だったから、僕は、何も言えない。

そうして、一通り、今回のごたごたについて決着がついて、ライラが今までにやってきたことが明るみに出て……ライラとブロンパ家への処罰が決まる。

「ブロンパ家については、レッドガルド家へ金貨2500枚の支払いを命じる」

まず、王様はブロンパ家についてそう決めた。

僕の名前を騙らせて絵師を活動させたことによって、僕とレッドガルド家へ迷惑をかけたから、その損害賠償、みたいなかんじらしい。……金貨2500枚って、すごいなあ。僕が描く絵の中でも高く売れるやつだけ集めて50枚分だ……。

ブロンパさんが嫌そうな顔をして渋々頷くのを見届けてから、裁判官は、ライラにも判決を下した。

「そして、ライラ・ラズワルドについては金貨1000枚の支払いを命じる」

「け、刑が軽い!我が家には2500枚の支払いを命じて、元凶たるこの小娘には1000枚だと!?」

ブロンパさんはそう言って怒るけれど、裁判官も王様も、『そう言われても……』という顔をしている。

「……そ、それは、彼女自身の支払い能力や、今までの貴族と彼女とのやりとりの間には合意があったこと、そしてブロンパ家はライラ・ラズワルドに盗ませたトウゴ・ウエソラの名声を、更に盗もうとしていたわけであり……以上を考慮しての判決なのですが……」

……多分、龍のにょろにょろも考慮されてるんだと思う。けれど、ブロンパさんからすれば納得がいかないんだろう。

「納得がいかない!国王陛下、裁判長!どうか、もう一度お考えください!大体、金貨1000枚もの大金、こんな小娘が払えますか!」

ついに、ブロンパさんはそんな事を言い始めた。

……ライラはちょっと困ったように小さくため息を吐く。

「確かに、私には支払えない額だわ。だから働いて返します。大した働きはできないけれど……一生かかってでもレッドガルド家にお返しするわ」

「そんなことが許されるのか!?支払いに猶予が許されるというのならば、我が家にも同じように猶予が認められるべきだ!」

けれど、ブロンパさんの勢いは相変わらずだ。これは……ええと。

「あの」

僕が手を上げると、なんというか、その場の全員が驚いたような顔をした。『こいつ、喋るのか』みたいな顔をされた。……僕だってたまには喋るよ。

「ライラ・ラズワルドさんについては、じゃあ、レッドガルド領に来てもらって、住み込みで働くっていうのは、駄目でしょうか」

僕がそう提案すると、フェイは「おう。いいぜ」とあっさり答えてくれた。うん。ありがとう。

けれど、ライラはぽかんとして……それからブロンパさんは、怒りだした。

「そうか、分かったぞ!全てはお前達の仕組んだことだったんだな!?」

いや、そう言われても。

「この小娘とお前達が結託して、ブロンパ家を陥れようとしたのだ!そうに違いない!」

そう言われても……。

「何かおかしいと思ったのだ!この小娘が突然、このように我々にも他の貴族達にも汚名を着せたのだからな!レッドガルド家がこの小娘を買収して、我々を陥れようと画策したのだろう!」

……そう言われても、本当に、困るんだけれど。

けれど、ブロンパさんの言うことには一理あるんだ。うん。だから、僕はちょっと困ってしまって……。

……その時だった。

キョン。

……なんだか聞き覚えのある声がするなあ、と思って見上げたら……大窓から、巨大なコマツグミが、顔を覗かせていた。

えっ、この鳥、もしかして、森からわざわざ来たんだろうか……?

僕らも戸惑ったけれど、多分、僕らの数倍、他の人達は戸惑っていた。

「神の大窓から、巨大な鳥が……!?」

「な、なんだ、あの鳥は……神の使いか?」

口々に色々言いながら、人々はざわつく。もう、ライラの判決だのレッドガルド家の陰謀だの、そういう話をしている場合じゃない。

ざわざわする裁判所の中を覗きながら、巨大なコマツグミはそんな人間達を見下ろして、満足げにキョキョン、と鳴いている。

逆光になる陽の光がふわふわの羽毛を透かして輝かせて、コマツグミはまるで、光を纏っているみたいにも見えた。小憎たらしいことに、ちょっと神々しい見た目だ……。

「まさか……神鳥か!?神が、鳥の姿を借りて……!?」

いや、神様でもなんでもない、ただの大きなコマツグミなんだけれど。うん。

ただ、場所が場所だし、タイミングがタイミングだから、順調に勘違いされている気がする。それにしても何しに来たんだろう、こいつ。まさか、ただ目立ちに来たんだろうか……。

僕らも困っていると、例の鳥はいきなり、ばさり、と翼を広げた。神様が覗くという大窓から入り込んだ鳥は、そのまま裁判所の中へ入ってきて……そして。

「きゃっ!?」

「えっ」

コマツグミはキュンキュン満足げに鳴きながら、ライラを掴んで、飛んで行ってしまった。

悲鳴を上げながら鳥に連れ去られていくライラを見送って、僕は……。

……全部終わったら森に遊びにおいでよって約束はしてたし、フェイの許可も下りてるから、まあいいか、と、思った。

ちょっと強引なご招待になってしまったから、それは、後でライラに謝っておこう。うん。

……鳥がライラを連れていってしまったから、裁判官も王様も、皆ぽかんとしていた。

うん。そういう気分になるよね。でも、鳥のやったことだから文句は言えない。小憎たらしいなあ、あの鳥。

「ら、ライラ・ラズワルドについては……金貨1000枚の支払い、と、したかった……のですが」

裁判官の人が、『どうしましょう』みたいな顔をして、オロオロしている。そうだよね。だって本人、鳥に攫われた直後だ。

「……フェイ・ブラード・レッドガルド殿。彼女はあの通り、消えてしまいましたが……」

裁判官はそう言って、それから、深々とため息を吐いた。

「……どうしましょう?」

開かれた大窓は、相変わらず、さんさんと太陽の光を差し込ませて輝いている。開かれっぱなしのそこに神様が居るのかは分からないけれど、鳥がやたらと自慢げに出入りしていったことは確かだ。

……結局、ライラについては『見つかったらレッドガルド家に住み込みで働かせるね』みたいなかんじで終わってしまった。うん。神様が覗く窓から現れた鳥が攫っていったんだから、しょうがないらしい。

なんというか、今回は王様が龍や鳥にすごく遠慮した判決になってしまったなあ。いいんだろうか。

ライラの罪が軽くなったのだって、多分、美術館に龍が現れたからだと思う。王様は『貴族が他人に絵を描かせて自分の絵として発表するのは悪いことだ』なんて一言も言わなかったし、多分、今後も言うつもりは無いんだろうと思うんだけれど……とりあえず、龍に遠慮して、あの判決だったんだろう。更にそこに鳥まで来てしまったから、余計に。

……やっぱり、ズルをしてしまった気がする。うーん。

まあ、でも……いいか。あの鳥、すごく、満足気だったから。

……多分、龍が人前に出て、人々を騒がせたから、真似がしたくなったんだと思うよ。あの鳥の方が、龍より古株だから、何かプライドみたいなものがあったのかもしれない……。

……そうして、今一つ締まらない裁判が終わって、僕らは森に帰ることになったのだった。