軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新しい家族 2

エントランスホールに着くと、旦那様と三人が向かい合い見つめ合っていた。

「ほら、お父さまだよ?」

「やー」

「背は大きいけど怖くないよ?」

「やっ!」

――ここ最近、黒い森の周辺でいつもよりも強い魔獣が発生しているという。

ハルトとルティアは、旦那様のことを父親として慕っているが、レイは慣れた頃に旦那様が遠征に行ってしまうものだから、再会のたびにこの調子だ。

「魔剣さんも聖剣さんのところに行きたいって」

「……まけんしゃん?」

ルティアが話しかけると、レイは目を瞬かせた。

「そうだよ。せっかく会えたのに寂しがっているよ」

「さびしい?」

レイはルティアとハルトが手にした魔剣と、旦那様の腰に下がる聖剣を交互に見つめた。

「「ほら、お父さまのところに行こうよ」」

「……うん!」

三人はようやく旦那様のそばに走り寄った。

私は少しほっとして、三人の後に続く。

「「おかえりなさいませ、お父さま!」」

「ルティア、ハルト、ただいま」

「ほら、レイも」

「……」

「お父さまもさびしいって」

「……っ、おとうしゃま! おかえり-!」

「ただいま、レイ」

会話をすると、安堵したのかレイが両手を差し出した。

旦那様は、レイのことを軽々と抱き上げる。

私が抱き上げたときよりも目線がはるか高いことが楽しかったのだろう。

レイはキャッキャとはしゃいでいる。

ハルトとルティアは、ちょっぴりうらやましそうな視線を向けている。

魔剣と聖剣は、チカチカと会話をしているように宝石を光らせている。

いったい何の話をしているのだろうか。

「「お父さま……」」

「……」

ハルトとルティアが、ほんの少しだけ呆れたような表情を浮かべる。

「ねえ、ハル……」

「うん、ルティー」

ルティアとハルトは、私にチラチラと視線を向けては口の端を緩めている。

「「お父さまは本当に、お母さまが好きだよね〜」」

子どもたちの言葉と、旦那様の頬が少しだけ赤いところを見れば、魔剣と聖剣の話の内容はなんとなく想像できる。

「え? 私たちにも会いたいってそればかりだった?」

「……毎晩のように家族に会いたいって言ってたの?」

ルティアとハルトは黙り込み、それから旦那様に左右から抱きついた。

「私も寂しかった!」

「僕だって……!」

「ハルト、ルティア……それにレイが元気そうでなによりだ」

旦那様はレイを降ろすと、しゃがみ込み三人まとめて抱きしめた。

そして、私に視線を向ける。

――柘榴石のような赤い瞳は、今日もとても美しい。

「おかえりなさいませ、ご無事で何よりです」

「ああ、君たちは変わりなかったか?」

「ええ、変わりありませんでしたわ」

「新しい生活には慣れたか?」

「慣れました。庭が広すぎて、ハルトとルティアを探すのが大変ですが」

実は半年前に、私たちは旦那様が陛下に賜ったお屋敷からフィアーゼ侯爵家の本邸に居を移した。

本来であれば、旦那様が侯爵家代行を務めた時点、あるいは正式に侯爵となったときに引っ越しをしたかったのだが、レイを妊娠していたことや出産直後で環境が変わるのは良くないだろうと延期していたのだ。

「なるほど……今度君に、子どもが隠れやすいところを説明しておかねば」

「ふふ、旦那様も隠れたのですか?」

「祖父上の特訓から逃げたときに隠れた場所がいくつかある」

旦那様は魔剣の言葉が聞こえることで実母からは距離を取られ、彼女が亡くなってからは家庭で孤立していたという。

けれど、完全に一人だったわけではない。

当時騎士団長だったお祖父様はお忙しかっただろうが、旦那様のことをいつも気に懸けていたことだろう。だって、庭師に扮して、私やルティア、ハルトのそばにいてくださったくらいなのだから。

そして、もちろん魔剣だって旦那様のことを気に懸けていたはずだ。

微笑みかけると、旦那様も私に微笑み返してくる。

ハルトとルティアがレイの手を引いて旦那様から離れた。

旦那様が近づいてきて、抱きしめられる。

三年前に比べれば、私と旦那様の距離は格段に近づいたことだろう。

旦那様はとてもお忙しくて、一緒にいられる時間は限られていても。

「――さて、陛下にご挨拶してくるか」

「また、陛下にご報告に上がる前に帰ってきてしまったのですか」

こんなやり取りも、もう何回目だろう。

「三ヶ月も君たちに会えなかったんだ。むしろ、会わずに陛下にご報告に上がったら、家庭を蔑ろにするなとお叱りを受けるさ」

「……今回は長かったですね」

「ああ、王城から戻ったら話そう」

「お待ちしていますわ」

「いってくる」

「おとうしゃま、どこいくの?」

「お城だよ。レイもいいこに……」

「……やっ! もっと、だっこ!」

レイがアイスブルーの瞳に、いっぱいの涙を溜めた。

先ほどは人見知りしているようだったが、一歳の頃のように旦那様のことを忘れてしまったわけではないようだ。

――そのときだった。

聖剣と魔剣がギラギラと光った。

不思議なことに旦那様の腰から聖剣が滑り落ちていく。

魔剣は宝石がついていない側はルティアが手にしたままだったが、宝石がついている側はハルトの手から滑り落ちてしまった。

「……フィアレイア? 急にどうしたんだ」

「魔剣さん? どうして触らせてくれないの?」

旦那様とハルトはそれぞれ聖剣と魔剣を拾い上げようとした。

しかし、弾かれてしまうのかどうしても触れることができない。

「……」

「……」

私たちはしばらくの間、じっと見つめ合った。

「……さすがに、ほかの騎士団長たちも待っていることだろう」

「ええ、代わりの剣をご用意いたしますね」

「ああ、済まないな。念のため魔剣の片割れとフィアーゼ家所蔵の剣を持っていくことにしよう」

旦那様はルティアから剣を受け取ると、エントランスホールに飾られていた剣のひとつを手にして去って行った。