軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士団長任命式 9

スフィーダ卿には、数々の逸話がある。

あの大剣は、重すぎてスフィーダ卿以外取り扱うどころか持ち上げることすらできないらしい。

そして、あの大剣で大型魔獣を一刀両断にするのだという。

戦場では彼の周りに魔獣の死骸が積み上がりすぎるせいで姿が見えなくなるとも。

――本当なのだろうか。

だが、他の騎士団長様たちの逸話とて負けてはいない。

第二騎士団長ラペルト・リーゼ卿は、魔道具の力で風を自在に操り、全ての矢を魔獣の急所に命中させるという。

辺境騎士団長シノア・イースト卿がいなければすでに国境線は魔獣に押されて変わっているという。

王家を守る近衛騎士団長ローレンス・ベルセンヌ卿の実戦での実力は不明だが、彼ほど王国流の剣を完璧に継承している者は他にいないというのは有名な話だ。

「スフィーダ卿。初めまして、ルティア・フィアーゼです!」

「……ハルト・フィアーゼです。お会いできて光栄です」

ルティアがハルトの手を引いて前に出た。

彼女はとても社交的だ。だが、ハルトもルティアに隠れながらではあるがきちんと挨拶できている。

「二人とも初めまして。リアムに似て、とても礼儀正しいな」

その言葉にルティアが満面の笑みを浮かべて口を開く。

「スフィーダ卿、大きな魔獣を一撃で半分にしちゃったって本当?」

「ルティア!」

ルティアが目をキラキラとさせ、スフィーダ卿に質問を投げかけた。

彼女はとても積極的だ。だが、お相手は騎士団長様なのだ。

「ふむ……事実。だが先日、君たちの父上も立て続けに三体を真っ二つにしたと聞いているが?」

「「お父さまが!?」」

ハルトまでスフィーダ卿に一歩近づいた。

先日とは、辺境伯領が高位魔獣に襲撃されたときのことだろう。

騎士団長であるスフィーダ卿には、そのときの詳細が伝えられているのだろう。

「じゃあ、騎士団長様たちの中で誰が一番強いの!?」

「ルティアったら!」

「僕も……僕もそれ気になる!!」

「ハルトまで」

子どもからの質問とはいえ、騎士団長様のうち誰が一番強いかなんてとてもデリケートな質問だ。

だが、スフィーダ卿はガハハと大口を開けて笑った。

「君らの父上が一番強かろう。魔獣相手ではな」

「「お父さまが……?」」

二人は怪訝な顔をした。私も一瞬だけ微妙な顔をしてしまった。

「え、愛弟子なんだから当然?」

「だが、俺には敵わない?」

二人が内緒話するように魔剣に話しかける。

スフィーダ卿が驚いている様子はない。

騎士団長様たちの間では、魔剣が喋ることは周知の事実なのだろうか。

「――シノアも言っていたが、きっと俺たちが知るリアム・フィアーゼと君たちに見せる父親としての顔は違うのだろうな」

「うーん、お父さまはいつも少しだけ自信がないの。でもね、この間のトーナメントで優勝したの!!」

「うん、僕たちのお父さまはとても強いの……でも、一番かなあ?」

「ロレンシア辺境伯領のトーナメントか。いつか参加してみたいものだ」

スフィーダ卿はそう言って再び笑うと、二人の頭を撫でた。

「おや、君たちの父上が戻ってきたようだ。珍しく不機嫌さが顔に出ている。ふむ、一旦去るとしよう」

「「ごめんね。お父さまはお母さまが大好きすぎるの」」

「はは……この目で見るまでは信じられなかったが、得心した」

「あなたたちったら!」

恥ずかしすぎて顔が赤くなってしまった。

振り返ると、いつもの黒い騎士服に着替えた旦那様が、ちょっと不機嫌な表情を浮かべて近づいてくる。

スフィーダ卿はぺこりと会釈すると騎士団長様たちの輪の中に戻っていった。

「旦那様、剣をお返ししますね」

「ああ、ありがとう」

聖剣と魔剣が再び旦那様の腰に下がる。

「……スフィーダ卿と話をしていたのか」

旦那様の声には少し不機嫌さが滲んでいる。以前なら理由がわからなかったかもしれないが、今は嫉妬してるのだろうと予想できる。

その証拠に聖剣と魔剣さ、旦那様の嫉妬に関する内緒話で盛り上がっているように軽く点滅している。

「ねえ、お父さま!」

「どうした、ルティア?」

「お父さまが騎士団長さまの中で一番強いって本当?」

「――うーん。それはどうだろうな」

旦那様は小首を傾げた。

彼は謙虚なのである。というより、自分にあまり自信がないようだ。

「うん? 余計なこと言うなよ」

旦那様が眉根を寄せる。魔剣相手なのだ、ルティアとハルトにも聞こえていることだろう。

「そっか〜。本当に強いんだね」

ルティアはにっこりと満足げに笑う。

だが、ハルトは俯き様子がおかしい。

「……やっぱり、こんなチャンスは二度とない」

「ハルト?」

「あの大剣の謎。それだけじゃない……騎士団長さまたちの武器は全部魔導具なんだ」

「え、ちょっと」

「普段、これほどの武器型魔導具が一箇所に集まることはない。つまりこれを逃すのは魔導具研究の大いなる損失、許されざる事態!」

――どうしてハルトは、魔道具のことになると急に難しい言葉をいっぱい話すのか。

そんなことを思っているうちに、彼は騎士団長様たちの元へ走り去ってしまった。

「ハルト!!」

「私が見てくる!」

「あっ、ルティアまで!!」

ルティアもハルトに続いて走り去ってしまった。

私は知っている。彼女は騎士団長様たちの大ファンなのだ。

「……どちらにしても、君たちをリーゼ卿とベルセンヌ卿にも紹介したい。一緒に行こうか」

旦那様は私に手を差し伸べる。

幸いというか、ここにいるのは騎士団長様だけだ。大きな騒ぎにはならないだろう。

私は旦那様にエスコートされ、騎士団長様たちの輪へと近づいていった。