軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔剣と聖剣の物語 2

「これは……見事だな」

ロレンシア辺境伯家の宝物庫は、魔獣の素材やそれを使った武器、魔導具であふれていた。

銀色の光を帯びて艶やかに光るなめし革。

私の背の三倍近くある巨大な虎の魔獣の剥製。

どんな働きをするのかまったく予想つかないアームがついた魔導具は、時々思い出したようにガチャリと音を立てている。

宝物庫……とういうより素材置き場、あるいは実験器具置き場のようだ。

「実物を初めて見たが……本当に遠くからの操作で魔獣と戦えるのか?」

「事実です。しかし今は、扱えるものがおりません。操作するには、遙か遠くまで見通せる特別な目が必要ですから」

「そうか――だが、過去には扱えるものがいたんだな」

「ええ、百年ほど前です」

旦那様がベルティナと問答しているのは、先ほどのアームがついた魔導具についてだ。

魔導具が旦那様の言葉に呼応するようにガチャガチャ音を立てた。

まるで新たな主を待っているようだ。

私はルティアとハルトの手をしっかり掴んだ。

「旦那様……」

「エミラ?」

「――ルティアをお願いしても良いでしょうか?」

「もちろん、だがどうして?」

「二人は別々の物に興味を示してしまったようです」

ボードゲームのように共通の物に興味を示してくれればいいが、別々の物にそれぞれが強い興味を示してしまったときは悲惨だ。

そして、旦那様にルティアを頼んだのは理由がある。

普段、活発なのはハルトよりルティアなのだが、こういった場面では……。

「お母さま……二本お揃いの剣がある」

「ハルト、勝手に触ってはだめなのよ」

「うん……ねえ、これって三百年前に一世を風靡した双剣だよ。片方の歯がギザギザしているでしょう? ここに魔力を流すと、硬い鱗や骨を切ることができるんだ」

父様が興味深げに近寄ってきた。

「ハルトは、この双剣に詳しいのだな」

「うん! 本で読んだの!」

「この剣のほかには三組程度しか現存していないはずだが。子ども向けの本に載っているのか?」

父様が不思議そうにしている。

だが、ハルトが見たのは子ども向けの本ではない。

古今東西の武器型の魔導具……ハルトが読んだのは専門書だ。

こうなってしまうと、話は長い。

ハルトは普段は人の後ろに隠れて内気だが、武器型の魔導具に関しては積極的なのだ。

「この剣の歯はギザギザだが、魔獣の骨にも負けない硬い金属を使っているため、今はもう加工できる職人は遠い東の国にしかいないのだ」

「東の国エデンタールだね!!」

――父様があんなに武器型魔導具に詳しいなんて知らなかった。

もしかしたら、ハルトの武器型魔導具への執着心は、父様の遺伝だったのかもしれない。

「父様って、ああなると長いのよ」

「……そうだったの」

「魔獣討伐に成功して宴を開くと、いつも武器型魔導具の話になるわ」

父様と一緒に遠征に出かけているベルティナにとってはよく見る光景のようだ。

知らなかった……父様と言えば、家では寡黙で母様とも目で会話しているような人だから。

「エミラ、ハルトのことはあの人に任せておけばいいわ。奥に行きましょう」

「母様……」

いつも父様の後ろにいて、あまり口を開くことがない母様が私に話しかけてきた。

「父様が子どもの相手をする?」

イメージが湧かなすぎて困惑してしまった。

「大丈夫……アンドレイの子守担当はあの人だったから」

「兄様の子守担当? 父様が?」

「ええ、そうよ。アンドレイは普段はとっても大人しかったけれど……ハルトはアンドレイによく似ているわね」

母様の声は悲しそうだった。

十二歳年上だったアンドレイ兄様はこの世にはいない。魔獣との戦いで命を失ったのだ……。

そう、あれは壁を越えて中心街まで魔獣が侵入してきた二十年前のことだ。

「……兄様」

私よりも一つ年下のベルティナは、兄様との記憶はほとんどないという。

だが、四歳になっていた私は遊んでもらった記憶がある。

兄様は明るくて、優しくて、穏やかで……そして強かった。

――二十年前に起きた惨事の記憶は曖昧だ。

思い出そうとするといつも頭痛がして、兄様が私の頭を撫でて「大丈夫だ」と笑った記憶の前後が霞がかかったように曖昧になる。

「ねえ、お母さま! すごくきれいな剣が奥にあるのよ!」

「――ルティア」

「大丈夫か……? 顔色が悪い」

「旦那様」

「お母さま、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ」

旦那様が私の額に手を当てた。

冷え切ってしまっていたようだ。温かい手が心地よい。

パチリと留め具を外す音がして、マントに包まれる。

「ここは寒いな……子どもたちは元気なようだが」

「ありがとうございます。旦那様……」

だが、私は思い出しつつあった。

兄様の笑顔を最後に見た直前、私は確かにこの場所にいたのだ。