軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

双子と魔剣 5

* * *

「さて、ここまでが我が家に伝わる話です」

お祖父様はそう言って話を区切った。

陛下が鷹揚に頷く。

「あなた、レイブランドというのね……」

魔剣はお祖父様の手にある。

思わず呟いてから横目に見ると、魔剣は返事をするように宝石を鈍く光らせた。

「……陛下、次は私から知っているかぎりのことをお話ししてもよろしいでしょうか」

ベルティナがそう言って許しをこうた。

「ああ、話すが良い」

「はい。ただ、私は当主ではございませんので、知っていることは限局的ですが……。見聞きしたことのみお伝えいたしましょう」

ベルティナの声は、こんなにも落ち着いたものであったか……。

私とベルティナの年齢は一つしか違わない。

実家を出てから五年が経った。

あのときは、まだ十七歳と十八歳だった私たちは、もう二十歳を越えた。

五年は長い。戦いに身を投じ続けた彼女にとっては、過酷な日々であっただろう。

当時、まだ幼さと甘えが残っている印象だった彼女は、美しくも精悍な顔つきになった。

「――我が家の宝物庫には、魔剣レイブランドと対をなす聖剣が眠っております」

それは以前私が予想した内容であった。

生来魔力を持たず、戦う力がない私は武器が多く収められた宝物庫に入ることを許されなかった。

しかし、幼い頃から父と共に魔獣との最前線で戦い続けるベルティナは違う。

「……なるほど。しかし、お前たちがそれを使ったという情報はない」

「ええ、先ほど申しましたとおり、誰にも触れることができず、まさしく眠っているのです」

ベルティアの声は淡々としていたが、悔しさが滲み出しているようだった。

もしも、レイブランドと同じような魔剣がロレンシア辺境伯家に力を貸してくれたなら、何人もの仲間を救うことができただろうから当然だ。

救護所を手伝っていれば、どんなに戦いが過酷なものなのか目に見えるようだった。

魔獣との戦いで遅れを取れば、小さな怪我ではすまない。

旦那様も、お祖父様も、父も、妹もそんな戦いに身を投じてきたのだ。

この感情は、申し訳なさなのだろうか……自身への不甲斐なさなのだろうか。

「――その名を聖剣フィアレイア」

それは、ロレンシア辺境伯家の始祖の娘の名だった。

ロレンシア家の者として、戦うことができなかった分、何かに役に立ちたいと勉学には力を入れてきた。

記憶を辿れば、その名に行き当たる。家系図には記されているが、彼女の行く末は詳しく記されていない。

先ほどの、お祖父様の話と総合すれば……彼女こそが、フィアーゼ侯爵家始祖レイブランドに嫁いできた姫なのであろう。

ベルティナがその名を口にした直後、甲高い音が響き渡る。

それは、とても高くて悲しげで慟哭のように聞こえた。

思わず耳を押さえそうになったが、周囲の誰も気にしている様子がない。

私にだけ聞こえているとでもいうのか。

「レイブランド?」

返事はない。私も魔剣と会話ができたなら、もっと多くのことを知ることができるのだろうか。

だって、魔剣は千年もの長きにわたり歴史を見てきたはずなのだ。

「私が知るのは、以上でございます。陛下」

「うむ、よくわかった。その剣の存在については王家も把握はしていた」

「左様でございますか……」

「して、どう思う? フィアーゼ卿」

陛下は旦那様に話を振った。

旦那様は軽く眉根を寄せると、口を開いた。

「……既知の情報も、初めて聞き及んだこともございました。しかし、このあとのことは、妻ではなく私に命じてください」

「……旦那様」

「妻を矢面に立たせるつもりはございません。戦うのは私です」

旦那様の声は、氷の刃の如く冷たい。

もしかすると、反旗を翻してしまうかもしれない……と不安を覚えるほどだ。

「あいわかった」

陛下は笑みを浮かべてはいるが、その目は冷たいものだ。

そのとき、ベルティナが立ち上がった。

「陛下、今一度発言をお許しいただけますか」

「ああ、許す」

「姉は双子を出産してから、実家に帰ってきておりません。新婚旅行もできていないと聞いております。ぜひ、義兄に休暇をお与えください。甥と姪とともにロレンシア辺境伯領に帰ってきてほしいと思っております。父と母も孫の顔が見たいと嘆いておりますので」

陛下がニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「なるほど……。フィアーゼ卿、そなたらに命じることなどない。五年もの国への忠義、感謝しておるのだ。……特例ではあるが、遅れての結婚休暇を取ることを許す」

しかしそれは、私たちにロレンシア辺境伯領へ行って、魔剣について調査してくるようにという命令に近い。

ルティアとハルトも連れて行くようにということは、私だけでなく二人のうちどちらかが、ロレンシア辺境伯家の聖剣に触れられるか、確認したいということなのだろう。

「もちろん、働き続けたいというのであれば構わぬが」

「――いいえ、休暇を取らせていただきます。結婚式以降、お義父上とお義母上にご挨拶できてなかったことも気がかりでございますゆえ」

旦那様はそう言って、陛下の申し出を受け入れた。

波乱の幕開け……しかし、それは旦那様と子どもたちの家族として初めての旅行の始まりでもあった。