軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

042.一方その頃の学生組

その日、セイジはガーロを預けていた探索者協会に顔を出した。すると想定外に早くガーロの解体はほとんど終わっていた。

見た目とサイズはともかく、基本的な構造は本物の牛と大差がなかったので、かなりハイペースで作業が進んでいったそうだ。

ただ、可食部全部を持って帰るにはいささか量が多い。

そこで、大雑把に自分が食べたり振る舞ったりする量を計算し、それにプラスアルファ程度の分量になるように、色んな部位をチョイスすることにした。

それでも肉としてはかなり余ったが。

「あとはどうします?」

スタッフに問われて、セイジは僅かに 逡巡(しゅんじゅん) する。

そういえば――と、牛タン配信の時のアーカイブで、料理人たちが嘆いているコメントがあったのを思い出す。

「扱いは任せます。ギルドのスタッフに興味がある人がいたら、五十グラムずつくらいなら味見用に持ってってもいいですよ」

「マジですか? 太っ腹ですね」

「ダンジョン食材を適切な処理せず口にしてマズいという人が多いと嘆いている料理人がいたんで。

ガーロは特殊な調理法は必要なく、普通の牛肉として扱えますから、扱いやすいでしょうし」

「なるほど。理解者を増やすためですか」

「そんなところです」

「あとは、最初の契約通りいつもの買い取りやオークションな感じになりますけど、それで問題ないですか?」

「ええ。シヅルたちのチームもそれに納得しているならそれでいいです。向こうが欲しがる部位がありましたら、渡してくれても構わないので」

「了解です」

それから、皮や毛などの各種素材がハッキリと判明したので、買い取りやオークションに関する手続きを受付で行う。

これらの書類はダルいと思うものの、今回のようなネームドや、大型モンスターを討伐した時などは、個人で金に換えるのはかなり大変なのを思えば、ありがたいことでもある。

ついでに、シヅルへガーロの解体が終わったという連絡をいれておく。

残ってる部位で欲しいのがあれば、好きなところを持っていってくれ――と付け加えて。

そうして諸々の手続きを終えたセイジは、探索者協会の建物を出る。

時刻は夕方ながら、日はまだまだ高く感じる。

(どっかで夕飯食べながら、週末の配信の段取りと必要な準備について考えるか……)

そろそろ居酒屋などがディナータイムにあわせて店を開ける時分だ。

そういう店の多い通りにでもいければ、良い感じのところに入れるだろう。

セイジは入りたいお店に脳内で当たりを付けながら、駅前へと足を向けるのだった。

同時間帯。別の探索者協会。

市役所併設のこの支部は、大きくて綺麗で、カフェスペースもチェーン店並の綺麗さと使いやすさと美味しさを備えていて、なかなかに最強な支部かもしれない。

そんなことを思いながら、 串谷(クシタニ) 楓流(フウリュウ) は、初めて訪れたこの協会支部にて、備え付けのパソコンで、常設の依頼を確認していた。

緊急性の高い依頼や、協会としては早めに解決して欲しい依頼、協会に出入りする腕利きにやって欲しい依頼などは、エントランスの掲示板などに張り出されているし、窓口で受領ができる。

けれど、そうでもない有象無象の依頼などは、常設されたパソコンで確認するのが基本だ。本当に緊急事態などは、セイジがそうであったようにギルド側から声を掛けてくることもあるのだが。

さておき、フウリュウは常に納品待ち状態の依頼を眺めている。

(鉱石ガエルの背負い石を五個以上納品……は、ムリだな。鉱石ガエルの巣に 単騎(たんき) は、今のおれにはムリ。そもそもこのカエル、単体でも 手強(てごわ) いしな……)

ここからバスと徒歩で三十分くらいのところにある公園にあるダンジョンには巣があるらしい。

元々レアモンスターの鉱石ガエルだ。巣なんてあれば人が殺到しそうだが、公園ダンジョンの住所が気軽にアクセスできる位置になく、その上で内部のロケーションがかなり難易度が高いとかで不人気なのだそうだ。

(報酬美味しくても、 泥濘(ぬかるみ) と 苔(こけ) むして滑る岩を足場に、無限湧きを疑うほどの量が現れる巣での戦闘ともなればなぁ……)

同じシチュエーションであれば、ヘタしたら格下モンスター相手でも命を落としかねない危険度だ。

仮にカエルを倒せるだけの実力があっても、倒したカエルの背中に生えた鉱石を回収する余裕があるかも分からない。

ナワバリから外に出れば追いかけてこないと言われても、かなり難易度が高いのは間違いないだろう。

この依頼が不人気なのも納得である。

そして、こういう自分の実力でどうにもできない依頼は、手を出さないに限る。

ましてや未成年は、法律で報酬額が減らされるのだ。しかも基本報酬額が良いほど税金として持って行かれる金額が増えるので、高難易度高報酬の仕事は、未成年が手を出すメリットは薄い。

小さく息を吐いて気を改めると別の依頼を確認する。

常設依頼はギルドが、あるいはギルドの上層部や国、あるいは国やギルドと提携している研究機関などからの依頼がメインだ。

ダンジョン素材を用いた医薬品や、日用品などを一定数確保する為、あるいは研究の為に常設されている。

先のカエルであれば、背中の鉱石は単純に探索用の武具加工や丈夫な金属加工が必要な時の補強材にされる。またレアパターンとして背負い石に上質な宝石を含んでいたりもする。さらにSSレアクラスの背負い石の中にはレアアースが交じってたりもするのだ。しかもダンジョン産のレアアースは通常のモノとは質が違うらしい。

それを思うと国として一番欲しいのはこのレアアースだろう。

とはいえ、全てのダンジョンに鉱石カエルが出現するワケではないので、常設依頼は地域ごとないし、ギルドごとに内容が違う。

しかし、このギルドの常設依頼は、あまりフウリュウが 触(さわ) れそうな仕事はなさそうだ。

なので、今現在の個人依頼リストを見る。

これは一般の人が、ギルドにお願いをしたものだ。

基本的には個人のダンジョンの研究者だったり、ダンジョン食材を使ってみたい料理人、個人的な興味で 蒐集(しゅうしゅう) をしている人などからの依頼が多い。

(これは……ダンジョン学をやってる大学教授からの依頼か。ダンジョンにのみ生える植物、ルオナ草の納品)

百合に似た形の白い花を付ける、でも明らかに百合とは違う植物だ。

フウリュウにも見覚えがある。確かにダンジョンでよく見かける花だと思う。

(納品物への指定あり。いろは坂ダンジョン中腹のモノに限る……か。最低納品数は2本から、ね)

場所としては、ここから三十分くらいのところだ。

(ダンジョンまでの距離は往復で一時間。エントランスから中腹まで往復一時間。花の捜索時間に一時間を見るとして……)

画面の右下に表示されている時計を見る。

今は17時前だ。ささっと仕事をしてくれば20時くらいに、遅くとも21時までには納品できるはずだ。

ギルドそのものは、ダンジョンから外へと出てくるはぐれモンスターであったり、何も無かったところに突然発生する突発ダンジョンだったりの対応も兼ねて24時間営業である。

もっとも、全てのギルドが24時間というワケではない。ここのような大きめで周辺ギルドの親分みたいなところが、主にやっているようだが。

なんにしても、ここのギルドが24時間営業なのは間違いない。

(母さんにもダンジョン潜ってくるって言ってあるから、多少遅くなっても平気なはず。最悪、22時過ぎなければ、ギルドからは怒られないし……)

しかし24時間営業しているギルドとはいえ、22時を過ぎてから未成年が利用するとあまり良い顔をされないのだ。

フウリュウ自身よく分かっていないのだが――未成年探索者の労働基準法関連があやふやなままなので、ギルドも対応に困っているらしい。

そんな現実はさておき。

依頼を読み直し、フウリュウは「よし」と、小さく気合いを入れると、画面をクリック。

常設依頼は常に必要なものを掲示し続けているので受領操作の必要ないが、個人依頼なら別だ。

ブッキングが発生しないように、受領をする必要がある。

画面に表示された指示に従って、パソコンに繋がっているカードリーダーに探索者資格証をタッチさせた。

『受領完了しました。お気を付けて行ってらっしゃい』

画面に受領完了が表示されたのを確認する。

「それじゃあ、行くか」

パソコンを操作して、依頼確認画面をホーム画面に戻してからフウリュウは立ち上がる。

「あ」

「あ」

「お?」

そして、振り返ると見覚えのある二人組がいた。

「フウリュウ……だったっけ?」

「おう。調布のガーロの時ぶりだっけ?」

どことなくバツの悪そうな二人組は、ガーロの時にセイジからアイアンクローで 運搬(うんぱん) されていた人たちだ。

「ちょうどいいや、ちょっとお前と話がしたいんだけど……」

「それ長い?」

「え?」

「ちょっとしたタイムアタック的に依頼攻略するんだよ。これから――っていうよりも、すでに始まってるというべきかもだけど」

「え? え?」

恐らくは想定していなかった返事なのだろう。

二人は完全に戸惑っている。

「今から依頼の花をダンジョンに採取しにいって、ここへは20時までには戻ってきたいんだ」

フウリュウの言葉に、二人組の片方がスマホを確認して首を傾げる。

「まだ三時間近くあるじゃん」

「ここからダンジョンまでの距離と、ダンジョン内の探索指定箇所までの距離と、探索時間の考慮をして口にしてる?」

「いや、えーっと」

「なんで時間に余裕があると思った? おれがどこのダンジョンに何を探しに行くのかも分かってないのにさ」

そう指摘すれば、二人は完全にバツの悪そうな顔をした。

「そういう勝手な理屈でモノ言うところを、この間セツ兄やシヅル姉に叱られたんだろ? あのあと、あそこのギルドのギルマスから直接絞られたとも聞いたぞ」

「う……」

「そうなんだけど……」

雰囲気からして反省してないワケではないのだろう。

だが、反省して態度を改めることができたところで、思考回路というものは早々組み直されないということかもしれない。

あるいは、反省したからこそ、どう喋って良いのか分からなくて二人揃ってしどろもどろになっている可能性もある。

何であれ面倒くせぇな――と思いながらも、フウリュウは頭を 掻(か) きつつ訊ねた。

「おれに話があるのは分かった。なら、明日の放課後は空いているか?」

「え?」

「それは、空いてるけど……」

「お前ら学校から一番近いギルドはどこだ?」

「……えーっと、ココか多摩センター支部なぁ……」

「でも多摩センター支部は常連のおっさんばっかりで居心地悪いよな……可愛い子は時々出入りしているの見るけど」

「ならココでいいな。16時30分だ。明日の16時30分にこのギルドのカフェスペースで待ち合わせだ。反対意見や別の場所がいいという話があれば手短にしてくれ」

「いや、ない」

「わかった。明日の午後四時半にココだね?」

「決まりだな。じゃあ、おれは急ぐから」

そうして二人に手を振って、フウリュウは足早にそこから去って行く。

「……フウリュウってオレらと同じくらいだよな……」

「そのはずなんだけど、何か大人みたいな話の決め方していったね……」

残された二人はやや呆然とした様子で、去って行くフウリュウの背中を見送るのだった。