軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

033.ダウさんとフウくん

大きな首が、ズズンという大きな音を立てて落ちる。

少し遅れて首を失った身体がゆっくりと傾き、地響きとともに地面に伏した。

「消える前に回収しないとな」

セイジは身体の方を先に自分のSAIへと収納し、首へと手を伸ばすが――

「あ。容量限界……」

:さすがにニキの SAI(サイ) でもデカすぎたか

:ニキの場合キャンプセットがSAIに入ってるからじゃね??

首が回収できなかったので、女性二人ヘと視線を向ける。

いつの間にかキョウコに膝枕をしていたシヅルは申し訳なさそうに首を振る。

「すまない。わたしのSAIは容量はそう大きくない。中が空でもその首は無理だ」

「……ごめんなさーい、あーしもでーす」

目の上に両腕を乗せているキョウコも、声だけでそう答えた。

腕の下――には血と涙で汚れた顔が見える。

先ほどまでの快活な声ではない。

苦痛を取り 繕(つくろ) うような、こちらに心配を掛けまいとする声色なのが気になる。

「容量足りないならオレが入れて遣ってもいいぜ」

「…………」

そんな中、少年二人組の片割れがこちらへとやってきた。

だからセイジは問答無用でそのドヤ顔に左手でアイアンクローをかます。

「いだだだだだ……!?」

「このダルい事態を引き起こした自覚がないのか、お前は」

そのまま少年の足が地面から離れるように持ち上げ、もう一人へと視線を向ける。

「お前も何か言いたげだな?」

「こういう時って一緒にいた面々で報酬山分けじゃないのかなって」

次の瞬間、一歩で間合いを完全に詰めたセイジは、もう一人の少年の顔面に対して右手のアイアンクローをキメて、同じように持ち上げた。

「彼女たちとは山分けするが、お前たちに分けるモノなんぞない」

:いやぁすげーなこいつら・・・

:学生じゃなくてもいるんだよなぁこういう思考の連中

:今の戦闘完全に足手まといだったもんな

:足手まといならマシだろ こいつら戦闘の原因みたいなもんだぞ

:冷酷ボイスよきよき

:状況完了したせいでフェチネキたちが活発になってきた

:アイアンクローしている指いいよね

:指フェチネキ、仕事のはずじゃ・・・!

:たぶんフェチネキ違いです 自分ここ初めてなので

いつも通りの盛り上がり方へと変わっていくコメント欄はさておき、セイジはこの少年たちをどうしようかと思案する。

ちょうど、その時だ――

「お前らッ、危ないから二階に行くなって言ってるだろ!」

「さっきからうるせぇんだよ! オレらの勝手だろ!」

「その勝手が上でやばいモンスターとやり合ってる人の迷惑になるからやめろって言ってんの!!」

「知るかよ! だったらお前は階段昇って追ってんじゃねーよ!!」

「なんなんだよキミは! しつこいんだよ!」

:ったくどいつもこいつも

:初心者多いエリアあるある

:夏になると各地でこれが増えてくんだよなぁ…

階段の方から声が聞こえてきて、そして少年が四人出てくる。

「なんだあのでけぇ牛の顔!」

「すげー! 戦ってるとこ見たかった-!!」

「身体はどこだ?」

「っていうかもう終わったのかよー」

はしゃいだ声をあげる新たな少年たちに対して、セイジとシヅルは心底からダルいという顔を見せる。

「ゴメンおっさん! そいつらだけは二階へ行くの防げなかった!」

そして、最後にもう一人階段から上がってきた。

それはセイジにも見覚えのある少年だった。

:ん?最後に出てきた少年って

:入り口であった子か

:ちゃんとニキのお願い聞いてくれてたのか

「キミのせいじゃない。認識の甘いこいつらが悪い」

:それな

:マジで危機感ないやつに危機感抱かせるのって難しいんだよね

:むしろこいつら以外を防げてたのなら上出来だよ

「……おっさん、その二人は?」

顔面を鷲掴みして持ち上げたままにしていた二人を示しながら少年が引きつった顔で 訊(たず) ねてくる。それにセイジは素直に答えた。

「戦犯。昼寝中だったその牛を起こしたバカ二人」

「マジかよ」

信じられないものを見る目になる少年に対して、セイジは訊ねる。

「キミ、名前は?」

「え? あ、おれは 串谷(クシタニ) 楓流(フウリュウ) っていいます!」

「そうか。ならフウリュウ。キミのSAIにあの頭は入るか? そろそろモヤになりそうなんだが、オレのSAIには身体しか入らなかったんだ」

「どうだろ? 試してみます!」

「頼む」

顔の方へと駆けよって、それに触れるフウリュウ。

すると、牛の光の粒子になって、フウリュウの腕輪の中へと吸い込まれていく。

「できた!」

「なら悪いが、ギルドまで付き合ってもらっていいか? 運べなくて困ってた。もちろん、手伝ってくれた分の料金は払う」

「もちろん!」

力強いフウリュウの首肯は、探索者としての責任からくるものだと分かるものだ。

だから、セイジは安心したようにうなずくし、シヅルやキョウコからも反対の声は出ない。

「あ、あの! ボクたちにも何か手伝えるコトはありませんか!」

そして四人組の一人が、代表するように訊ねてきた。

自分たちも何か仕事がしたい。すごいことがしたい。そういう下心をハッキリと感じる。なんなら役に立った自分の未来予想図に鼻息を荒くしているように見える。

なので、セイジは前髪の下の目を鋭く 眇(すが) めて、珍しく不機嫌さを隠さずに告げる。

「 失(う) せろ」

:ありがとうございます!!

:今日はレアな冷酷ボイス不機嫌ボイスが聞けていい日ですね!

:なにこの盛り上がり?

:あー……新規勢は気にするなダウナーニキにフェチを感じるお姉様方が多いんだこのチャンネル

「え? いや、でも、なんでそいつは良くておれたちはダメなんだ……?」

「それが分からないバカに仕事の協力を 要請(ようせい) する気はないという話だ」

セイジはそう口にした上で、訊ねる。

「お前たちは、どうしてフウリュウの制止を振り切って階段を上がってきた? なんの目的があってのコトだ?」

「え?」

「イレギュラーに対する戦闘データの記録や、情報確認など探索者の仕事や責任と覚悟を持って上がってきたのでないなら、どうしてフウリュウの制止を振り切った?」

やや強い口調で訊ねると、少年たちはしどろもどろとなり、答えがでなくなってしまった。

セイジが怖いのではなく、好奇心以外に理由がないのだろう。

最初にフウリュウが親切を押し売りにしてしまうような状態になったのは、二階のイレギュラーなどを気に掛けて、あまり見ない顔に声を掛けていたからだと予想がつく。

つまりやり方はともあれ、フウリュウは彼なりの探索という仕事への危険性を理解した上で、彼なりの善性から声を掛けていた。そこに彼なりの責任もあっただろう。

だが、この四人やセイジが掴みっぱなしにしている二人に、それはない。

本当に危険性を考慮せず、危機感を抱かず、未来を想定せず、好奇心でやらかしたというだけだ。

ならば、もう相手にする必要はない。

一応、掴んでいる二人はギルド――に連れていくには遠いから、入り口の警備員あたりに引き渡したいところだ。

なんであれ、セイジは四人に対して即座に興味を失った顔をすると、シヅルとキョウコの元へと向かいながら、声を掛けた。

「二人とも、動けるか」

「無理です……」

「顔離して……」

「お前たちに訊ねてるワケじゃない黙ってろ」

セイジの両手で口を開く少年二人にそう告げてから、女性たちの返事を待つ。

「ワタシは動けるが、キョウコが……」

「だいじょーぶ。しーちゃんが支えてくれるなら、動くコトはできるから」

「そうは言ってもな……」

:キョーコちゃん大丈夫かこれ

:反動がそうとうやばそうだな

「初めてじゃないからへーきだって。ちょっとの間、失明しちゃうだけなんだから」

「あまり大丈夫な状況ではないだろう。それに失明は一日くらいで済むが、そのあとに元の視力に戻るのに一週間くらいはかかるだろ?」

:リスクがでかすぎる

:一定時間の失明はやばい

:視力もがっつり下がるのか・・・

「本業も副業もしばらく無理だけど、しゃーなし。誰も死ななくて良かったねっ、てさ。そんなワケで肩貸してよ、しーちゃん」

「……ああ」

不承不承といった様子で、シヅルはキョウコに肩を貸して立ち上がる。

「キミの脇腹は平気か?」

セイジに訊ねられて、シヅルは心配するなとうなずく。

「良いポーションを分けて貰えて助かった。借りは必ず返す。血の足りない感じはあるが、動けないほどじゃないし、キョウコを支えて動くくらいは問題ない」

「そうか」

実際、キョウコに肩を貸しながら立っている姿に危うさはない。

ならば――

「フウリュウ。仕事を一つ追加してもいいか?」

「おう。おれに出来るコトなら!」

「なら、帰り道の 露払(つゆばら) いを頼む。オレは両手にこいつらを抱えるし、そっちの二人は見ての通りだ。道中に現れたモンスターを倒してほしい。とりあえず、花畑まで付き合って欲しい」

「それはいいけど、花畑まででいいの?」

フウリュウは場所の指定を不思議に思った。セイジであれば最短を行く隠し通路などを知っていそうなのに――と。

そんなフウリュウの疑問に気づいたセイジは、両手の少年二人や、失せろと言われてるのに動かない少年四人組に視線を向けてみせる。

:ああそういうこと

:なるほどニキはバカどもにショートカットを教えたくないんだな

:こういう連中は調子にのってバカやらかしやすいからなぁ

その意図は、フウリュウに正しく伝わったようだ。

だからこそ少年は、セイジやシヅルと同じようなダルそうな顔を一瞬見せてから、うなずく。

「了解! あ、おっさんの名前聞いて平気?」

「ん? ああ……ドラレコ用とはいえ自前の配信チャンネルで配信してるからな、ハンドルネームになるがいいか?」

「もちろん」

「 ワ○ルド(わるど) だ。ワルニキとか、名前の表記をもじって ○(まる) ニキとか、雰囲気からダウナーさんとか呼ばれたりもする。好きに呼べ」

「じゃあ、おれもワルニキって呼ぶ!」

「ああ」

フウリュウにうなずき、それで良いと肯定してから、セイジは気遣うようにシヅルたちの方へと視線を向けた。

「そろそろ出発する。行けるか?」

「ああ。構わない。それと、改めて名乗ろう。 刑部(オサカベ) 紫鶴(シヅル) だ。帰り道よろしく頼む、ワルド殿、フウリュウ少年」

「ダウさん! フウくん! あーしも行けまーす! あ! あーしは 幡内(ハンナイ) 教子(キョウコ) でーっす! よろしくー!」

二人の名乗りに、セイジの横にいたフウリュウが目を 瞬(しばたた) く。

「おれの名前も呼んでくれるんだ……」

「何を言うフウリュウ少年。キミは帰り道に露払いをしてくれる協力者だろう? 挨拶しないワケがないだろう」

「そーそー。視力が戻ったら、ちゃんと顔見たいから、仕事のあともよろしくだよー」

シヅルとキョウコの言葉に、嬉しそうな調子に乗ってしまいそうな雰囲気を見せるフウリュウだったが、すぐに表情を引き締めて自分の頬を数度叩いた。

「こっちこそ、よろしく! ちゃんと花畑まで案内するし露払いもするから、おれ!」

そうして、勝手に着いてくる少年四人組を無視して、セイジたちはゆっくりと階段を降りていくのだった。

なお、四人組も後ろからついてくるようだが、セイジもシヅルもフウリュウも、ほとんど気にしていなかった。

そうして、階段を降りながらふと気になってセイジは訊ねた。

「そういえば。ガーロの顔に掛けた薬液ってなんだったんだ?」

「ん? あれか。あれはな――」

訊ねると、クールな面差しをどこか得意げなものにしてシヅルが笑う。

:ドヤ顔可愛い

:ダウナーニキと似たようなポーカー系クールだから余計に

「『 激(ゲキ) ☆ 刺激(シゲキ) 目薬(めぐすり) ・レモン汁 Ⅲ(スリー) ・ 3rd(サード) ストライク』だ!」

:ようはレモン汁じゃねーか!

:背水の逆転劇が始まりそう

:モンスターでも目にレモンはきつかったんだなあ

:れっつごー!りもーねー!

「つまりなんだ、レモン汁なのか?」

「しーちゃん、なんで素直にレモン汁って言えないの?」

セイジとキョウコのツッコミに、シヅルは不服そうに口を尖らせる。

「何を言う。いいか二人とも。あれは濃縮還元百パーセントのレモン汁に、トリニダード・スコーピオンの粉末や、ハバネロエキスに、黒、白、ピンクの三種ペッパーを絶妙に配合した、改良に改良を加えた強力な目薬だぞ」

「シヅ姉はそれを目薬と言い張るんだ……」

「あたりまえだろ、フウリュウ少年。なにせ、目を攻撃する薬だからな。目薬以外の何者でもあるまい」

「目薬以外の何者かだと思う」

「しーちゃんそれもう食べ物では?」

「むしろ調味料の類いだな」

:○ニキ的にそこが引っかかるのかw

「でも、なんとかスコーピオンってモンスターも素材にしてるなら、毒入りなのかな?」

「フウリュウ。キミが何を想像しているのか分からないが、トリニダード・スコーピオンはハバネロと同じ唐辛子の一種だ。ハバネロよりも辛い、激辛系のな」

「なら完全に調味料じゃん!」

:その通りなんだよなぁ

:もうガーロを料理してゲキメガ3rdを振りかけるしかないだろ

:辛いの平気なら焼き肉とかに使うと美味しそうだよな

:激辛系大好きだからゲキメガ3rdがどんな味か気になる

まぁ助かったから、これ以上はダルいツッコミしなくていいか――と、そう思いながら、セイジは小さく息を吐くのだった。