軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

027.ダンジョン配信、悪くない

時間になった。

待機画面が表示され、画面には『To Listeners. Getting Ready Now. Please wait.』という文章が躍りだすと同時に、BGMが流れ出す。

ダウナーでジャジーで、それでいてテンポ良く、クールで、でも気怠げで 艶(いろ) っぽい……。

そんな様々な要素を、すぐに壊れてしまう危うさで積み重ねられているような、あるいは壊れることなく完璧に組み上げられているような、そんな曲だ。

:時間か?

:きた

:お?待機画面だ

:待機画面作ったんだなニキ

:曲も待機画面のデザインもかっこいい!

:ほう?

:センスよすぎでしょニキ

:Vさんたちの待機画面を思わせる雰囲気

:ええね!

BGMが一分半ほどで一ループしたところで、少しずつ音が絞られていく。

待機画面のループアニメーションも終了すると、真っ黒なワ○ルドを思わせる影のアニメーションが、画面の左側からフレームインしてきた。

両ポケットに手を入れ気怠げに歩いていた影絵のワ○ルドは画面の右側で動きを止めると、左側に向き直ったあと、左手をポケットから抜き放つ。

次の瞬間、バン! と画面に手を叩きつける。同時に、画面には"Downer Jazzy Cooking"というタイトルロゴが貼り付けられた。

手をポケットに戻すと、シルエットのワ○ルドは画面の右側へと消えていく。

:曲もアニメもカッコ良すぎる・・・

:音楽は友達のプロが作ってくれたんだっけ?

:アニメは誰が作ったんだろ?

:カイズとも知り合いだったしなぁニキ

:意外な知り合い多そう

そしてアニメが完全に止まると、画面は上にスライドしていき、そこにどこかのダンジョンのエントランスが移し出される。

「一週間ぶりだ」

:はじまた

:今日はどこだろう?

:きた

:一週間ぶりの喉仏だ

:こんちゃー

:はじめまして

「前回、後半トラブルだらけで申し訳なかった」

:いえいえ

:気にしないで

:やっぱこの声を聞かないと一週間はじまらない

:もう週末だぞ・・・

:あの手のトラブルはダンジョン配信にはつきものだし

:そのトラブルの切り抜きから

「前回の教訓から、ここがどこのダンジョンかは最後に言うコトにしたい」

:りょ

:OK

:それも一つの手

「では、中へと行こうと思う」

:今日の目的は?

:ターゲットとか説明なしで始まっちゃった

:向こう側のコメント表示もすぐ消したっぽいなw

:メカクレ堪能すればよし

:切り抜きから

:カイズと知り合いらしいから見に来た

三回目ながら、もはや定番のような空気だ。

コメント欄もいつものメンバーがいつものように騒いでいる。

加えて、新規も少なからずいるようだ。

けれど、セイジはコメント欄のことは気にしないでダンジョンを進む。

気にしないというよりも、コメントを開いてないので、その騒ぎに気づいていないともいう。

まぁこの辺り三回目ともなれば、いつものことだとリスナーたちも分かってくる。

:なんか不気味なダンジョンだな

:枯れ木に枯れ草、墓っぽい岩・・・

:なんで喋らないんだ?

:アンデッド系のモンスターも多めな感じか?

:ニキはここに何しにきてるんだ?

:なんなのこの配信……

:ご新規さんへ→基本的に「静かな空気のダンジョン配信ASMRメシテロもあるよ」みたいな内容になる

:ただし静かなのはニキだけでコメント欄はやかましいから気をつけろ

どこかすすり泣く声にも聞こえる風。

それに揺れる葉の少ない 柳(やなぎ) 。

揺れる柳の枝。

それらの雰囲気と合わさるせいで、セイジの歩く音や、居合いの音なども、どこかもの悲しく、あるいは不気味な音のようにも聞こえてくる。

:お化け屋敷ASMRかな?

:ゾンビやスケルトンに混ざってとぼけた顔のモグラが地面から顔出す瞬間すき

:わかるw 地面から這い出す勢のアイドルだろあれw

:まぁ完全に外へと飛び出す前にアンデッドもろとも切り飛ばされてるけど

:なんか寒気がしてきた

そうしてしばらく無言の探索が続き――二階の中盤辺りにさしかかった頃に、それが終わった。

「いた。あれがターゲット。鳥」

カメラがセイジの指差す先に向く。

:お?なんだ?

:ドローンが動くとき喉仏うつった!

:鳥、、、鳥か、、、

:急なイケボに背筋が伸びる

:と・・・り・・・?

:風に揺れる前髪から時々覗く目良いよね

:伸びた人差し指よきすぎる・・・

:常連フェチネキたちブレねぇなぁ

:今日は鳥か

:鳥……鳥か。鳥だな。鳥だけど・・・鳥か?

:鳥、まぁ鳥か。

:分類はまぁ鳥だと思う、鳥だよな?

そこにいたのは、大きな鳥だ。正しくは 鶏(にわとり) の骨格――というべきだろうか。

頭頂部から足まで全長は、セイジの肩から足までと同じくらいの大きな鳥だ。

目の辺りに赤い光が宿り、全身が毒々しい紫色でなければ、骨格標本の類いにしか見えないモンスターである。

良く見れば、胸の辺りにも青白い光の珠のようなものがあった。

:鶏型のスケルトン?

:人型や竜のスケルトンとかもいるわけだしな

:いても不思議じゃないのにいて驚いてる自分がいる

「スカルコッコ。あれもダンジョン食材として非公式サイトのリストに載ってた」

:食材!?採取とかでなく!?

:可食部ゼロでは!?

:スカルコッコは食うっていうか飲むっていうか

:骨じゃん!

:食えるんだあれ……

:飲むの!?骨を!?!?!?

:そういや食ってた配信者いたな

:あれは喰うというか飲むだったと思うけど

:通称「 骨鶏(こっけい) コッコ」

:もうすでに喰われたあとだろあの骨

:どこ食べるのよ、あれ、、、

:○ニキ正気!?さすがにメカクレ堪能するより驚きがきたよ!

:鶏狂いとダン材狂いが見つけ出した解の一つというか

:前例あるのが怖ぇよ!

:なんで喰ったヤツがいるんだよ!

:でも喰った前例がないと非公式ダン材辞典なんて有志サイトは生まれないしな・・・

「とりあえず倒す」

大盛り上がりのコメント欄を余所に、セイジは抜刀一閃。胸の辺りにある青白い光を切り裂いた。

それだけで、スカルコッコの目から光が消えて、バラバラと崩れていく。

「今日の目的達成」

骨を全てSAIに回収して、セイジが小さく息を吐いた。

:速すぎる・・・

:あのホネニワトリってザコ?

:え?バトルって撮れ高あるんじゃ…

:弱くはないんだが倒し方知ってると弱い

:骨鶏は撮れ高とか言ってる暇のない相手

:瞬殺じゃん

:倒し方知ってると本領発揮させる前に倒せるからな

:むしろ素材の有無関係なく見敵必殺の勢いで倒さないと面倒

:スカルコッコというかコッコ系の鶏モンスターは仲間呼びが鬱陶しいからな

:仲間呼びされると周囲の同系コッコが集まってくるんだよ

:単純な戦闘力は低いけど仲間が集まってくると集団リンチされかねない・・・

:集まってきた仲間も仲間呼びで仲間集めようとしてくるから

:ゲームならともかくリアルでの無限湧きは勘弁だもんな

:撮れ高にならないのにタゲって配信してるの??

「ちなみにこれは料理に時間かかるし、後日に料理動画を上げる予定だ」

:え?クッキングがメインじゃないの?料理しないの??

:まぁ落ち着け

:そうだぞご新規。ここはニキが好き放題やってる様子をAMSR感覚で眺める配信だ

:ASMR感覚で眺めることのできるダンジョン配信って今更ながら謎だよな

そう告げてから、セイジは口元に手を当てる。

「……しかし、目的を達してしまって、やるコトがないな」

:ってコトはこれで終わり!?

:さすがこれは速すぎない?

:えーもうちょっと喉仏堪能させてー

「いやまぁ、いくらダルがりとはいえ、少しアッサリしすぎていたか。

ダルいけど、別のモンスターも狩って料理するべき、だよな?」

:そうそう

:そうこなくっちゃ

いくら撮れ高や配信映えを気にしないセイジであっても、あまりにもなさ過ぎると、それはそれで――と首を傾げるくらいの理性はある。

「他にこの辺りで他に食べれそうなヤツは……」

:やった

:もう一匹やってくれるのか

:なんだかんだでファンサしてくれるの好き

「あ。あれならイケるか?」

ふと脳裏に過ったモンスターを探すべく、セイジは再び歩き出す。

そうしてやってきたのは、緑色をした水をたたえた湖だ。

その 畔(ほとり) に、大きなヤドカリのようなモンスターがたくさんいた。

その平均サイズは、殻だけでバスケットボールくらいのサイズだろうか。それ相応のボディサイズをしている。

「次のターゲットはあれ。 髑髏(ドクロ) ヤドカリ」

:宿じゃなくて骨背負ってるやんけ

:なんの 頭蓋骨(ずがいこつ) を背負ってんのあれ?

:人間の頭背負ってるんですがそれは・・・

「実際は人間の頭蓋骨そっくりなだけで成分的にはダンジョン産の貝殻と同じらしい」

:悪趣味すぎるモンスターだ・・・

:この湖の底には骨の形をした貝がいるんだろうか

「何匹か狩ったら、安全な場所で料理してみようと思う」

セイジはドローンに向けてそう告げると、腰元の剣に手を掛けるのだった。

自分の配信のアーカイブを見ながら、セイジは小さく漏らす。

「コメント……どの回も意外と盛り上がってるんだな」

対面に座っている『魔術師』ことツカサは、それに大きくうなずいた。

「そうだぞ。純粋にお前の見た目が好きなヤツ、余計なコトを言わないで進む配信の空気、その他諸々。この三回の配信の間にファンになった人たちだ」

「ふむ」

そう悪い気はしない。

同時に、ムルが配信に情熱を向ける理由の一端を見れた気がした。

確かに自分の行動をこうも面白おかしく捕らえて盛り上げてくれるというのは、悪くない楽しさがある。それを楽しんでくれる人がいるというのは悪くない。

料理と同じだ。

こうやって楽しんでくれた人たちのコメントを受けることに、彼女の感情は10あるいはそれ以上に動かされる。

だから、本気で悩むし、本気で怒るのだろう。

「相変わらず反応薄いなぁ」

「知っての通り、感情が薄いからな。それでも、1や2くらいは動いている」

「どっちに?」

「良い方に決まってるだろ。楽しんでくれているコトを嫌だとは思うワケがない」

自分にとっても料理と一緒だ。

マズイと言われても別に傷つかない。だが、同じ一言があるなら美味しいと言われた方が嬉しいに決まっている。

「昼が終わったら、このラーメン作る時に撮った動画を投稿するんだろう?」

「ああ。いつもは調理風景とセットだからな。スカルコッコではそれが難しかったから、ダルくはあるが、あった方が良いだろうと思ったんだ」

「そういう気遣いできるのすげーよ」

そう笑って、ツカサはセイジお手製のスカルコッコラーメンのスープを啜る。

「マジで美味いなぁ……これが、あの骨鶏から取った出汁なんだよな」

「そうだ。スカルコッコは骨しかないから可食部はない。だが骨からは良いダシが出る。面白い話だ」

「あの不気味な紫色の骨から取れるとは思えないくらいスッキリと上品でコク深い味わいになってるから驚きだなぁ」

「今回は定番の鶏ガラ醤油だったが、まだ骨は残っている。次はどろどろ鶏白湯に挑戦してみるつもりだ。天下をとれる一品的なラーメンが理想だな」

「お? コッテリ仕様?」

「理想はな。だが、今回やってみた感じだと、完成品は精々コッサリだろうな」

「それでも楽しみだ。ごちそうしてくれるよな?」

「…………ああ」

「なんで間があったんだ?」

半眼になるツカサを無視して、セイジはラーメンを啜る。

麺はスーパーなどで一袋百円くらいで買える市販の生麺だ。だが、それが高級な麺に感じるほどにスープの風味が良い。

「悪くないな。中細の縮れ麺を選んで正解だった」

あっさり味のスープとよく絡む。

ただ、こうなってくるとダルいながら麺から作りたいという感情も湧いてくる。

「そういや、ラーメン作りを含めれば配信と投稿併せて四回。だいたいスタートから一ヶ月ほどになるワケだが――やってみた手応えとしてはどうだ、セイジ?」

「……そうだな……」

ツカサに問われて、セイジは少し真面目に考える。

覚えることや機材の準備などはダルかった。

ただ、これは何かに挑戦する時はいつものことだ。ダルいはダルいが、言うほどのことではない。

配信一回目はどうだろうか。

不慣れなことが多くてダルくはあったし、いきなり大荒れというトラブルにも見舞われた。

だが、アーカイブを見てみれば、暴走したムルのファン以外からのコメントも少なからずあり、結果は悪くなかったと言える。

ダンジョン食材のカツオも美味しかった。

配信二回目はどうだろう。

鎧甲イノシシは間違いなく美味しかった。途中で窟魔ムルの乱入がまたもやあったし、コメント欄は荒れたものの、そう悪くない空気だったと思う。

本当に邪魔するべく乱入してきた二人も『戦車』がキッチリと警察に突き出して逮捕された。

そんなつもりは無いのだがムルの相談に乗った様子が切り抜かれた結果、カウンセラーニキという新しい呼び名が増えてしまったが、別に気にするほどのものではない。

その後、ムルは自分の新しい道を切り開きだしたし、コメントをくれる人たちの様子もそう悪くはない。

たまたま見に来ていたムルのファン――冒険者たちの中にはチャンネル登録などをしてくれた人たちもいるようで、結果として悪くない配信だったと言えるだろう。

配信三回目。

トラブルなく、スカルコッコと髑髏ヤドカリを狩れた。

髑髏ヤドカリの塩茹でも美味しかったし、何事もなく終わった初めての回だ。

そして、この回のコメント欄が今の自分の配信空気の平均値だろうというのも分かる。

好き勝手騒ぎながらも、補足したりこちらを心配してくれたりする空気は嫌いではない。

「珍しいな。考え事しているお前の口角が少し上がってる」

「そうか?」

「おう」

確かにそれは珍しいことかもしれない。

だとしたら、自分にとってダンジョン配信というのは性にあっているのだろう。

「ダンジョン配信、意外と悪くないと思う。それに――」

「それに?」

「思ってたよりダルいと感じていない自分がいる。料理と同様に性にあってるところがあるんだろう。これなら結果はどうあれ一年は続けられそうだよ」

「そうか。そいつは何よりだ」

嬉しそうに言いながら、ツカサはスープを飲む。

「やっぱうめぇ!」

そんなツカサの様子を見ながら、セイジもスープを口にする。

そのタイミングで自分のスマホに連絡が入っているのに気づく。

「ん?」

どうやらミマからのようだ。Linkerにメッセージが届いている。

>恋雀 美摩

ネットでちょっと話題になってましたが事務所を移籍するコトにしました

ダンジョン配信もそうでない配信も、もっとちゃんと自分らしく配信するにはVヴァンプでは無理だと思ったんです

>恋雀 美摩

移籍しようと覚悟が決まったのはダウナーさんに話を聞いてもらえたからです

ダンジョンでお肉をごちそうしてもらったあの日、気持ちが整理ついたんです

>恋雀 美摩

だからちゃんと報告したかったので連絡しました

返信は特にいりません

でもお世話になったセイジさんには報告したかったんです

>恋雀 美摩

長々としたメッセージを連投してすみません

改めて、私の道を選ぶキッカケとなってくれてありがとうございました

ミマから届いたメッセージに目を通し、どうしたものかと少し考える。

返信はいらないと書いてあるが、セイジとしては何か返信したいと思ったのだ。

>節村 制慈

まぁ悪くないんじゃないか

応援している 新しい事務所でもがんばってくれ

その程度の文章しか思い浮かばなかった。

だが、こうやって知り合ったのも何かの縁だし、応援するという意志も嘘ではない。

「……ま、悪くないだろ」

小さく独りごちてスマホの画面を消す。

それから改めて、スープを口にした。

「うん。悪くない。悪くないな――」

ラーメンに対して、ダンジョン配信に対してか、それとも別の何かか。

自分でもどれに対して言っているのか分からない。

あるいは、ダンジョン配信を初めて変化していく自分をとりまく環境を含めてのことかもしれない。

なんであれ、どれに対してもそう思うのだ。

ならば、今は性に合う環境を作れているということだろう。

付き合いの長い者以外には気づけなさそうな笑みを深めながら、セイジはスープを飲み干しラーメンを完食するのだった。

「――なべてこの世は悪くなし。ごちそうさまでした」