軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

メルと大きなワンコ

ある昼下がりのコトである。

精霊樹の根元で、おやつの炒り豆を齧っていたメルのそばに、大きな黒い犬がやって来て…。

パタリと倒れた。

「ふぉーっ!」

メルは目のまえで横倒しになった犬に驚き、ぴょこっと立ち上がった。

「どぉーしたの、おまいさん…?しっかりしろォー!」

両手で揺すってみるモノの、黒い犬はヒクヒクと脚を震わせるだけで、一向に起き上がろうとしない。

「クゥーン」

「死ぬろ。死んじゃう…?あきらめたぁ、あかんヨォー!」

力のない眼差しを向けられ、救いを求めるような泣き声に心を突き動かされたメルは、黒犬が怪我でもしていないか調べ始めた。

「ケガなし。んーっ?くっ…。黒いのが、お ゆ(・) ヨ!」

畑の作物を喰い荒らす黒いモヤモヤに似た、もっと悪そうな黒いヤツが犬のお腹に張り付いていた。

「コイツぅー。モヤモヤじゃのぉーて、ヌルヌルしとぉー。きもぉーっ!」

どう見ても、そいつが黒い犬を苦しめている原因としか思えなかった。

「ちょっと待ってー、わんこ。いま、わらしが助けてあげうヨ」

『むぉーっ!』と気合を入れたメルの右手に、精霊の力がムイムイと 漲(みなぎ) る。

小さな手のひらが、チカチカ輝きだした。

ここで『俺の右手の封印がぁー!』とか叫べば、格好よいのかも知れないが、残念なことにメルは片言だ。

そして大抵の場合、厨二用語は意味もなく難しい。

確定年齢四歳の女児には、格好よさなど望むべくもなかった。

「うやぁー」

なので…。

そのままガツッ!と黒いネバネバをつかんで、ちゅぽんと引き剥がす。

「うい、やぁ、たぁーっ!」

気合もろとも右手を握りこめば、黒いヌルヌルがパンと弾けて消えた。

浄化完了である。

「見ぃたかぁー。 レベユ3(れべゆサン) の 実力(じつりき) !」

つい昨日、メルはレベルが上がり、三になっていた。

先程まで苦しんでいた大きな黒い犬は、のっそりと立ち上がってメルの頬っぺたをペロリと舐めた。

「タッシャで暮らせおぉーッ!」

メルは激しく手を振って、村の広場から立ち去る黒犬を見送った。

「……あぅ?」

興奮から醒めたメルの頭に、重要な問いが浮上してきた。

(おいおい…。あの黒いやつは野菜だけでなく、動物にも憑りつくんですか…?昨日まで見えてなかったけど、レベルが上がったせいで見えた…?動物にも憑りつくとしたら、人だって危険なのでは…?それって、チョーやばくない?やばいよね?)

ヤバイに決まっていた。

もしもフレッドやアビーに、黒いヤツが憑りついていたら大変だ。

メルの顔から血の気が引いていった。

「あうあう、あーっ!」

メルは泣きべそをかきながら、フレッドとアビーの元へ走った。

その夜…。

メルは逃げ回ったりせずに、おとなしく入浴した。

最初にアビーと、次いでフレッドと…。

「おいおい、メルよ…。そんなにジロジロと見られたら、パパが恥ずかしいじゃないか!」

「うぃー。ぱぁーぱ、わらしが洗うヨ…。どえどえ、黒いのおらんか…?」

「ぐはっ!やめないか、メル。そんなところを触るんじゃない!」

「ぱぁーぱ。じっとしてて、くらはい」

「ウヒャァー!」

メルの診察は容赦なかった。

「ふぅー」

メルはフレッドとアビーの身体に、黒いヤツが憑りついていないことを確認して、ようやく安堵の息を漏らした。