軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

期間限定品に弱い体質

秋になり、たわわに実った稲穂が、村人たちの手で品種別に刈り取られた。

白狐が様々な品種を用意して、区画ごとに植えさせたのだ。

うるち米だけでも、その種類は幾つもあった。

「和菓子やパンの材料にするものは、米粉にしまぁーす」

「よろしゅー頼むわ」

米のことは白狐にお任せだ。

苗を植える前から、稲作関連の精霊たちも次々と生まれ、白狐に付き従っていた。

「こういうん見ると、精霊は概念なんだなーって、再認識させられますわ」

スズメの姿で腕組みをしたメルが、感慨深げに頷いた。

メルの視線は刈り取りが終わった田んぼで、ピョンピョンと跳び撥ねる 案山子(カカシ) を追っていた。

いつの間にやら誕生した案山子の精霊は棒状の手を振り回して、スズメを追い払う。

「だとしたら精霊の子は、どのような概念の具現化でしょうか?」

「そりゃー、生命力じゃろ。ハトホルに聞いた話によれば、精霊樹オリジンはあちらの世界で、生への執着を身に着けたらしい。かなりハードな修行を積んだようじゃな」

メルと並んで農道に立つクリスタが、アーロンの疑問に答えた。

「アーロンよ。 婆(ばば) さまの言う通りじゃ。わらしは厳しい修行の末に、無病息災のスキルを会得したのじゃ。苦しゅうない、 敬(うやま) うがよい」

「くーっ。メルさんが、やっとアー ロ(・) ンって呼んでくれました。もうずっと、アー オ(・) ンかと諦めてたのに……」

「ムッ!」

メルはアーロンを睨んだ。

又もや幼児の姿に戻ってしまったメルに、滑舌の話は 禁句(タブー) である。

こうやって平気で地雷を踏むのが、アーロンと言うエルフの無神経さだった。

「この子もなぁー。生命力に満ち溢れ、元気が有り余っているから、しょっちゅう余計な悪さをするんじゃろ。まさに子供。だから精霊の 子(・) 」

「なるほどー。それでメルさんは、いつまでも幼女の姿なのか……」

「おい。なんやそれ?そんな話、わらし聞いとらんヨー!!?」

初耳だった。

そして聞き流すには、深刻すぎる内容だった。

「永遠のころもとか、やってられんわー!」

メルが顔を赤く染めて叫んだ。

「豊作ですね」

「うむっ。この分だと、収穫祭も盛大に行われるじゃろ」

メルたちが見物しているのは、稲を乾燥させる過程だった。

白狐が自然乾燥を選択したので、刈り取られた稲は束ねられ、 稲架(はさ) に掛けられていた。

「お稲荷はんや、スズメどもが米を食いよるぞ。案山子が足りんのでは……?」

「いいんです。被害量にもよりますけれど、ある程度はスズメたちの取り分。春、夏と稲が育つ間、病害虫を取り除いてくれたご褒美です」

「はーん。なにやら、優しい感じの対応やね。そんなん好きやわ」

「フフフッ……。妖精たちの加護があり、豊作が約束されていますからね。今回の収穫だけで、近隣の開拓地に配るほどの量があります」

「ほんなら開拓地でも稲作したら、ミッティア魔法王国の食糧難も解消できそうやな」

「こちらにも飢餓があるんですか?」

「ミッティアな。あっこは敗戦国じゃけー。何やかやと不足しとるんや。いまんところ、パンの耳でも奪い合いやね」

「飢餓が存在すると知れば、わたしの胸はシクシクと痛みます。食い扶持を減らすために、自分の家族を山に捨てるとか、やむを得ないと分かっていても悲しいです」

「それ……。ガッコの先生が話しとった。ホラーな作り話とちゃうねん?マジですか。怖いわ、ちびるわ。切ないわ!」

不良品だった前世の記憶が蘇り、切り捨てられる恐ろしさに身を震わせた。

更に捨てるしかない者の罪悪感を想像して、悲しくなった。

「あちらの世界では意図的に飢えを発生させ、リソース問題を掲げて人々を戦争に向かわせる邪悪な勢力もありましたし。お腹が空くと人の心はささくれます。危機意識を煽られたら、冷静な判断力も鈍るでしょう。食べ物だけではありません。独占により不足を生みだして人々を依存させて支配するのは、支配者の常套手段です。いつだって度を過ぎた欠乏は、争いのとば口です」

「フーム。支配の手段としては、よく考えられておる」

「いやいや。かなり卑劣な方法ですよ。最低じゃないですか」

「他人を道具として働かすには、よい手段じゃ。被支配者が従わねばならん理由も、好き勝手にでっち上げられる。騙される者は、不幸じゃがな。人々が生きるために必要なものを独占して、隷属しない連中には与えんと……。上手いこと噂を操作できるなら、好きな場所で戦争だって起こせそうじゃ。それどころか怖ろしい病気の予防薬と偽って、多くの民に毒を飲ませることも可能になろう」

クリスタが真剣な表情で考え込んだ。

暗黒時代には調停者を名乗り、反抗勢力の指導者を一人ずつ殺して回った滅国の魔女だ。

故に、より効率の良い支配方法を聞かされたなら、反省する点も多々ある。

善悪の問題ではなかった。

千年も続いた激務に只々疲れ果て、心が擦り切れたのだ。

「情報の捏造は、あちらの世界で普通に存在しましたね。豊作祈願をされなくなってから、わたしも商売繁盛を祈られるようになりまして……。今回限りとか、他では手に入らないとか、わたしも色々と出まかせな売り文句を学びました」

「わらし、それ知っとるで……。お店に行っても手に入らん、期間限定のトレーディングカードとかな。いい歳こいた大人が店頭で商品を奪い合い、鬼みたいな形相で罵り合いじゃ。希少価値とか言いよって、わらしは騙されへんぞ。品薄感を演出しとる、製造元が怪しいわ!」

トレーディングカードなら、レアカードがなくても日常生活に支障は来さない。

これが文化的な暮らしを支えるエネルギーや食糧、水などになると、一気に深刻度は跳ね上がる。

ライフラインの管理権を握る支配者は、人々の生殺与奪権を握っているのと同じだ。

「それにしても……。命令に従わんと殺すとか、どんだけ奴隷を増やしたいんかのー?支配欲に支配された亡者かぁー!?」

「自分以外は、全員を奴隷にしないと安心できないんでしょうね」

「はぁー。そんな話を聞くと、みっちり疲れるわ。全員なんて、そもそも管理できへんやろ」

「だから飢餓です。管理し切れない奴隷は、間引くんですよ」

妖精女王はリアルな支配ギミックを想像して、遠い目になった。

「そんな話、リーチェには聞かせられんわ。オネショするで」

ほんと。

ユグドラシル王国がおとぎの国で良かったと思う、メルだった。

「メルや。最低でも妖精女王に持っていて欲しいのは、『誰かと喜びを分かち合いたい!』と、願う心だよ」

「あい」

メルは師匠であるクリスタに、しっかりと頷いて見せた。

◇◇◇◇

収穫祭の日がやって来た。

スコーンと抜けた青空の下、 山車(だし) とお 神輿(みこし) がメジエール村の各集落を練り歩き、新しく建立された立派な社へと向かう。

社の境内には、無数の屋台がひしめき合っていた。

夕刻の訪れと共に、カボチャダンスの曲が賑やかに演奏され、はしゃいだ村の女児たちは所かまわず踊りだす。

メルとベアトリーチェ、ディートヘルムとマルグリットは、ラヴィニア姫に引率されて屋台の群に突進した。

「メルー。こっちだよ、メル」

立ち並ぶ屋台の中央付近から、メルを呼ぶ声がした。

「だれやねん?」

「メル姉さま。ボッチ人魚のジュディットですよ」

「おー。忘れとった」

「姉さん。姉さんが不在の間、ジュディットはよく魚を持って来てくれたんだ」

「ジュディーは女漁師になったんか」

ジュディットの屋台では、イカ焼きを売っていた。

「獲れたてで、焼き立てだ。おいしいよー。メルも食べて行ってよ」

「………………」

だが、メルの視線はイカ焼きの屋台ではなく、向かいにあるハチワレの屋台を見ていた。

そちらの方から、懐かしい良い匂いがしてくるのだ。

「メルー。聞いてるの?おいしいイカ焼きだよ」

「………………」

ハチワレがバタバタと音を立て、 団扇(うちわ) で匂いを送って来る。

「はぁー。これや、これ」

メルを魅了したのは、ウナギのタレが焦げる、何とも言えない香ばしい匂いだった。

「ついにウナギの調理法を体得したか、ハチワレ」

「……ニャ!」

ハチワレが櫛を打ったウナギの切り身に、トロリとしたタレを塗り、目顔で誘った。

小さくなった幼児の身体。

一度に食べられる量は限られた。

となれば、イカ焼きより鰻重である。

つきたて餅に大根おろしと醤油を絡めたヤツも、たくさん食べたい。

ジュディットのイカ焼きは、自分でも簡単に作れる。

「すまない、ジュディー。また今度な」

「えぇー。そんなひどい!!」

酷いもクソもあるもんか。

先ずは、うな重である。

食べたいものを自分で作れるのは良いけれど、他人が作ってくれるなら、もっと嬉しい。

この調子で美味しい料理が巷に溢れたなら、料理店を畳んでも構わなかった。

メルカなら、人にくれてやるほどある。

もとより通貨発行権は、妖精女王のものであった。

お小遣いが足りなくなったら、ゲラルト親方に頼めばよいのだ。

一万メルカくらい、半日で造ってくれる。

「うなぎ、うめぇー!」

「おいちいでち」

「うんうん。すごく美味しいね」

「メル姉さまの店では、出さないんですか?」

「他人が作れるもん、他人に頼むわ。ハチワレ雇いまひょ」

「うわぁー。メルちゃん。料理人じゃなくて、女王さまみたいだね」

「うむっ。二足の 草鞋(わらじ) はきついデス。早いところ、美味しい教団の信徒たちに育って欲しいわ。それまでは、意地でも料理店を閉められん」

それは本音だった。

誰かに作ってもらった料理は、本当に嬉しい。

ただし自分が食べたい料理となると、なかなかに難しかった。

この世界には調理方法だけでなく、料理の素材からして不足しているから。

まずは米の普及である。

「さあ、さあ、さあ……。寄ってらっしゃい見てらっしゃい。今年初、お米の収穫を記念するイベントだぁー」

「うぉー。何じゃ、あの店は……」

「えぇーっ。どうして村長さんが客寄せをしているの?」

射的の屋台で声を張り上げているのは、なんとファブリス村長だった。

「この異世界で使われていると言うテッポウ。テッポウが何か知らんけど、こいつは的を狙ってコルクを飛ばすよ。それで的となる景品だが、よく見て欲しい。これこそ、メジエール村に於ける稲作の成功を記念して作られたマスコット。お米ちゃんだ。可愛らしいキツネさんが、大きな米粒を抱えているだろ。このマスコットにお祈りすれば、来年も豊作間違いなしだ。さあさあ、テッポウで狙ってコルクの弾を飛ばし、見事お米ちゃんを台から落とすのはどこの勇者かな?この台から落としたお米ちゃんは、お客さんのものだよ」

「村長はん、あの大きいのは……」

「おっ、さすが幼児ーズのリーダー。よく気が付いたね。あの大きいのは、キングお米ちゃんだ。もちろん、台から撃ち落とせばメルちゃんのものさ」

「うっし、やるどー」

「魔法禁止。妖精さんに手伝ってもらうのもなしだよ」

「そんなん、分かっとぉーヨ!ズルはせん」

「はい。コルク弾は、五発で2メルカだ。よーく狙ってね。テッポウによって癖があるから、曲がったりするのを計算に入れておかないと当たらないよ」

インチキだった。

キングお米ちゃんの下にはフックが付いていて、ゴムひもで留めてある。

コルク弾が当たって揺れても、キングお米ちゃんが台から落ちることは絶対にない。

「こなくそ。的がデカイから当たるんやけど、倒れへんのぉー。村長はん、弾を追加して」

「あいよ。2メルカ。毎度あり」

「やったー。お米ちゃんを取った」

「おめでとう。坊ちゃん。ディートヘルムくんだったね。酔いどれ亭に飾ってくれ」

「うん」

「村長はん、弾の追加!」

「毎度ありー。2メルカね」

「あたしも取れました」

「おう、マルグリットちゃん。上手だな。お爺ちゃん、破産しそうだ」

「うへへ」

「アイスクリームの屋台に飾ると、お客さんがたくさん来るぞ」

「村長はん、弾の追加!」

「毎度ありー。2メルカね」

「リーチェちゃん。よぉーく狙って、パン!」

「うわぁー。あたちもとれた」

「いや、お爺ちゃん驚いちゃったよ。小さいのに上手だね。お名前はリーチェちゃんか。ほら、お米ちゃんだよ」

「わぁーい」

「くっそー。村長はん、弾の追加!」

「毎度ありー。2メルカね」

次々と仲間たちがお米ちゃんを手に入れる中、メルだけが弾を消費するばかり。

俄然、頭に血が上る。

「メルちゃん。もう少し頑張れば取れそうじゃないか」

「おうっ」

「今回限りの記念品だし、キングは一個だけだからね」

「一個だけか。メッチャ貴重やね」

「見る人が見れば分かるさ。間違いなしの値打ちもんだよ。ここで取らないと、他の子に持って行かれちゃうだろうね」

「それはアカン。絶対に、わらしが取る!」

たかだか2メルカ程度で、小振りながらも細工の凝ったマスコットをゲットされ、射的屋としては完全な赤字だった。

けれど、損失分をメルが補填してくれる。

ちゃちな仕掛けなど、どうでもよい。

このイカサマの肝となる部分は、ファブリス村長だ。

『まさか公明正大であるべき村長が、子供を騙したりしないだろう』と言う思い込みを突いた、完璧な詐欺商法だった。

「もう。メルちゃん。お餅を食べに行くよ」

「あうー。皆で行ってきんしゃい。わらし、取れるまで粘るわ」

「しょうがないなぁー」

ラヴィニア姫も呆れ顔だ。

世の中には、頭に血が上ると止まらなくなる性格の持ち主が居る。

詐欺師は、こうした人々をカモと呼ぶ。

かつてはファブリス村長も、カモられる側だった。

しかし幼児ーズの 薫陶(くんとう) を受けてからスッパリと賭け事を止め、騙しのテクニックを学ぶようになった。

そうなると他人に試してみたくなるのが、人の 性(さが) というものである。

実を言うと、ファブリス村長にすれば儲けなんかどうでもよかった。

誰かを騙して、ほくそ笑みたかっただけなのだ。

ファブリス村長は罠にはまったメルを眺めるのが楽しすぎて、バレた後のことなど、ちっとも考えていなかった。

半刻後、 漸(ようや) くメルも仕掛けに気づいた。

「ウガァーッ!おまー、わらしを騙したなぁー。インチキやん!!」

「ウヒィ!」

暴れるメル、逃げ回るファブリス村長、そして現場に駆けつけた見回りの傭兵団員。

「何をしている、おまえたち!」

「こら、止めないか。他の人たちに迷惑だぞ!!」

射的の屋台は粉々に破壊され、メルとファブリス村長は治安維持部隊の詰め所に連行された。

楽しいはずの収穫祭で起きた珍事件である。

実に、恥ずべき事態だった。

当然のことながら、後日盛大に執り行われた精霊祭の間、メルは罰としてフェアリー城の自室に監禁された。

そして『わたしは悪い子でした。反省しています』と、大きな紙に何百回も書き取りをさせられた。

「あれ?陛下がお人形だよ」

パレードで妖精女王が乗るはずだった山車には、そっくりな人形が飾られていた。

「おまえ知らないの……?女王陛下はメジエール村の収穫祭で暴れて、謹慎中だよ」

「マジか。どうして暴れたんだ?」

「屋台で欲しい景品が、取れなかったんだって……」

「そんなことで暴れちゃダメでしょ」

「ダメだよ。だから謹慎させられてるんじゃん」

「なんか可哀そう」

事情を知らされた精霊たちは、その人形を生温かい視線で見送った。

精霊たちの女王陛下は、ヤンチャなのだ。

愛すべきヤンチャな幼児なのだ。

唯一、メルに救いがあったとすれば、それはファブリス村長が謝罪と共に譲ってくれたキングお米ちゃんの置物だ。

SSS級レアで、この世に一個しかない、メルだけのマスコットである。

ゲラルト親方のサインも入っている。

嬉しいに決まっていた。

キングお米ちゃんと向き合い、二礼二拍手一礼だ。

「来年も豊作でありますように」

メルの祈りは叶うだろう。

本物のお稲荷さんが、すぐ 傍(そば) に居るのだから……。