軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

タリサとティナの活躍

「英断でしたね!」

儀典長クラウディアが、タリサとティナを誉めそやした。

「デショ!」

「こうなることは、前もって分かっていました」

タリサとティナは目のまえで繰り広げられる喧騒を眺めながら、平然とした態度だ。

メジエール村の住人に、貴族のダンスパーティーなど理解できるはずがない。

普段からラヴィニア姫を 傍(そば) に見て、ユリアーネ女史から貴族社会の話を聞いていなければ、タリサとティナだって只のお祭り騒ぎだと思っていた。

「絵本で分からないところは、ラビーとユリアーネさんから教わったよ」

「そうそう……。貴族の社交界なんて、わたくしたちには縁遠いものですもの……。メジエール村の大人たちだって、直ぐに飽きてしまいますわ」

それ以前にマナーなんて分からないし、メルとアーロンのザルな計画では、ラヴィニア姫の夢が台無しになるところだった。

メルは兎も角としてアーロンが役立たずなことに、タリサとティナは憤慨していた。

『オマエ、一応は貴族だろ!』と言う話だ。

だけどアーロンのガサツな性格では、メジエール村の常識を推し量れない。

あの無神経さは、もう病気のレベルである。

「好きにパーティー会場を往来できるなら、村人たちは居心地の良い会場に納まるよ」

「ご協力ありがとうございます。大広間だけでは、グダグダになるところでした」

幼児ーズの頭脳タリサとティナは、世間一般の子供たちと頭の回転が違う。

メルに足りない部分を補佐するのは、もっぱら二人の役目だった。

「驚いた、ここは春かね!?」

「まあまあ、オマエさん。 祠(ほこら) を抜けたら雪がないのね。暖かいわ」

「お母ちゃん、冬が消えちまったぞ!」

「スゲェな、ユグドラシル!」

いまも御のぼりさんヨロシク転移ゲートから現れたメジエール村の人々が、旗を持ったケットシーの案内で会場に向かう。

途中、魔法で着ていた衣装が変わると『ふぉぉぉぉぉぉぉーっ!?』と奇声を上げて、大喜びだ。

で、両親の後をついて歩いていた鼻たれ坊主どもが、ママのスカートに鼻水を 擦(なす) り付ける。

悪気はない。

衝動的に、やってみたくなっただけだ。

「ギャァァァァーッ!何すんだね。この悪ガキがぁー!」

「やめれ。おかぁーの綺麗なべべが、鼻水だらけになっちまう」

「うへぇー」

「ギャハハハ」

叱られた兄弟が、嬉しそうに笑い転げた。

綺麗に着飾った 淑女(レディー) のスカートで、洟をかむ子供たち。

相手が嫌がると興奮し、面白がって駆けまわる。

被害者続出は間違いない。

「あれが普通の子供です」

「はぁー」

「クラウディアさんはメルを躾けようとして叱るけど、村の子は、だいたいあんな感じです」

「そうなのですか……」

「メルちゃんは、どちらかと言うと子供らしく振る舞いたいのであって……」

「そうそう。中身は隠居したお爺ちゃんみたいに、涸れてるよね」

メルと付き合いの長いタリサは、妖精から真眼のスキルを貰っていた。

それを使うと、他人の精神年齢的なものを覗くことができる。

メルとラヴィニア姫は、子供と呼べない。

子供の振りをした何かだ。

そんなことを考えていたタリサの近くで、子供が大きな壺にぶつかり転倒した。

子供と一緒に倒れた壺も、ガシャンと割れた。

『すわ弁償か!?』と、ビビりまくる両親。

ギャーギャーと泣き叫ぶ兄弟たち。

『弁償なんてさせませんよ』と 宥(なだ) める、案内役のケットシー。

「アレが本物の子供だとしたら、会場を分けても安心できません」

「そんなに心配しなくても、大丈夫です」

不安そうにするクラウディアをティナが慰めた。

「子供ホイホイを設置してあるから、あの小さな山賊たちはモンスターハウスの住人になるでしょう」

第二会場はメジエール村の住人たちが 寛(くつろ) げるように。

第三、第四会場は、子供たちのために用意された遊戯場で、仮にモンスターハウスと名付けられた。

大広間に置かれた遊具は、すべてモンスターハウスへ移動させた。

これで大広間は、美しいドレスのお花畑となる。

子供は、お花畑に関心がない。

「メルちゃんが庭に用意した遊具だと、あの子たちは足止めできないよ」

「お洒落な遊具では、子供の関心が持続されません」

「やっぱ、ゴーレムファイトだよね!」

「そうそう……」

ゴーレムファイトなるゲーム筐体は、タリサとティナが花丸ポイントを使って購入した最新の遊具だ。

ヴラシア平原での戦いに参加してから、ユグドラシル王国は幼児ーズのメンバーに花丸ショップの使用許可を出した。

そこで今回、タリサとティナはチマチマと溜めこんだ花丸ポイントを豪快に使い、メルとアーロンが計画したグズグズな舞踏会にテコ入れを行った。

こうした立ち回りで、タリサとティナはダヴィ坊やより少しばかり大人である。

ダヴィ坊やは、基本的に花丸ポイントを貯めない。

幼児ーズの会合で使ってしまうからだ。

「あれさえあれば大丈夫」

「そうそう……」

自信ありげに頷いて見せる、タリサとティナ。

タリサとティナは儀典長クラウディアに相談された時点から、メジエール村の親善大使を自認していた。

ラヴィニア姫のデビュタントを成功させるには、それが欠かせないと気づいたからだ。

メルからせしめたドレスは、大切な役目を引き受ける対価だった。

そもそもドレスなら、黙っていてもユリアーネ女史が用意してくれる。

今もなお、幼児ーズのお姫様ゴッコは続いていたのだ。

「ただで仕事をすると、メルがへこむから……」

「貸し借りなしは、大切なんです」

それがドレスを 強請(ねだ) った理由である。

ときどき我儘を通すのは、二人なりのメルに対する気遣いだった。

「ウォォォォォォォォォォォォーッ!これ、おもしれぇ-ぞ!?」

「とうちゃん、オレここで遊んでる」

「ママァー。オコヅカイちょうだい!!」

舞踏会が始まる前から、第三、第四会場は盛況だ。

イカ焼きを手にして、的に向かいボールを投げつける男の子。

景品のヌイグルミが欲しくて、クレーンゲームから離れられない女の子。

そして会場の中央には、大きなリングが設置されていた。

そのリングには、四歳児ほどの背丈があるゴーレム。

ミニゲームでポイントを貯めると、ゴーレムを操縦させて貰える。

「やりたい!」

「おれも、おれも……」

屋台の料理で口や手をベトベトにした子供たちが、射的や輪投げに熱狂している。

一メルカでチップ百枚。

一回に使用するチップは五枚。

ここまで安ければ、親の財布も自然と緩む。

「よしよし。たくさんチップを買ってやるから、思いっきり遊べ」

「わーい」

たまには子供たちに、気前のよい親と思われたい。

そんな父親や母親にとっても、このモンスターハウスは使い勝手のよいものだった。

何より、手間のかかる子供たちから解放される。

「お子さまは、ここで責任を持って与るニャ。お父さんお母さんは、隣の会場に行くにゃ!」

「おう、そうかい」

「お隣が舞踏会の会場かしら……」

「舞踏会の会場は、もういっこ隣ニャ。始まるときに、ちゃんと案内するニャ」

案内役のケット・シーも卒がない。

「あのちびっ子たちが、大広間を走り回っていたかと思うと……」

儀典長クラウディアは目もとを手で覆い、首を横に振った。

そもそもの話、本来なら舞踏会に子供は招かれない。

妖精女王陛下が自信満々なのでうっかり流されてしまったけれど、タリサとティナに助言を仰がなければ大変なことになっていた。

何とも怖ろしい話である。

◇◇◇◇

舞踏会開催に向けて、自分が用意したサプライズで頭がパンパンのメルは、パーティー会場に加えられた変更点に驚いた。

「なんね、これぇー。わらしが指示したのと違うヨォ!」

メルの眼鏡が、鼻先までズリ落ちた。

「あのなぁ、メル姉……。タリサとティナが、メルには任せておけないと息巻いていたぞ。二人で調整し直したんだろ」

「オゥ……」

「ああいう時のタリサとティナは、出来るオンナ。信用してよい」

ダヴィ坊やは、メルの肩をポンポンと叩いた。

そんなダヴィ坊やの衣装は、バリっと決まった白いスーツである。

「ソウデスネ……」

メルは仕方なく、ダヴィ坊やに同意した。

メルと手を繋いだマルグリットも、無言でウンウンと頷く。

メルとマルグリットは、おそろいのドレスを着ていた。

三つ編みの姉と縦ロールの妹だ。

「第三会場と第四会場は、子ろもで満杯やん」

「すごい景色だよな」

それはもう児童館なんてレベルではなかった。

まさに、モンスターで溢れかえるモンスターハウスだ。

「これはー。あって良かったってヤツやね」

「オレとしては、ガキどもを隔離しようとしなかったメル姉に、吃驚だ」

「なんかスミマセン」

「大人たちだって、ここの連中と大差ないぞ。メジエール村には、気取った貴族文化なんてないからな。お祭りとなれば、酔っぱらいどもの無礼講だ」

「ふぎゃぁー。第二会場は大人用か……。タリサとティナに助けられるとは、何たる不覚」

第三会場と第四会場を覗いたメルは、タリサとティナの工夫に感服しきりだった。

「当たった。当たったぞ!」

「次はオレの番ね」

「狡いぞ。あと一個だったのに……。もう一回やる!」

「毎度ぉー。チップ五枚ニャ。コツを掴めば、上手くなるニャ」

メジエール村の子供たちは、射幸心を煽るゲームに熱中していた。

舞踏会が終わるまで、ここから離れることはあるまい。

「それにしても、カオスだぁー」

「想像してたより、はるかに人数が多いな」

「うむっ。大広間に解き放ってはならんほどの頭数じゃ!」

ラヴィニア姫のエスコート役をアーロンに譲ったり、ダンス相手にサプライズを用意したりで、メルの頭は嫉妬にモヤモヤしていた。

そのせいか、もっとも配慮すべき点をスルーしてしまったのだ。

「アイツらを大広間で好きにさせたら、絶対に事故が起きるな」

「デブの言う通りじゃ。そんでもって衝突事故なんぞ起こしようものなら、舞踏会が残念会になってしまいマス!」

ダンスを楽しむ精霊や大人たちに、前方不注意な子供が勢いよく衝突。

実にありそうな話だった。

別室に、それとなく子供たちを隔離しておくのは正しい判断だった。

「それにしても……。よくもまあ、これだけ子ろもが喜びそうなものを詰め込みました」

「タリサとティナだからな。アイツら、くどいほど徹底するタイプだから」

「見ているだけで、楽しそうじゃ」

特にゴーレムファイト。

あれはメルも遊んでみたかった。

ゴーレムファイトは、メルが注文した覚えのない遊具だった。

おそらくは、タリサとティナが用意したのだろう。

そうメルは考えた。

(あーっ。あの二人がドレスをくれって、これを見越してのことか……。しくじった)

タリサとティナのドレス選びに付き合ったメルの態度は、お世辞にも褒められたものではなかった。

本当は感謝を伝えるべきなのに、大失態である。

メルが礼を言うべき二人の行為は、巧妙に隠されていたのだ。

こうした不意打ちを使って、『メルは気が利かない子ね』とお姉さんぶる。

(僕の急所を突いたサプライズだよ。花丸ショップで、こんなの売っていたんだ。あの二人は、よく見つけたなぁー。ちっとも気づかなかったよ)

ほぼ間違いなく、嵌め技を考えたのはティナだ。

ティナのずる賢さは思春期を目前にして、ますます 捻(ひね) くれていた。

「グヌヌヌヌッ……。またもや、幼児ーズのトップが遠のいたわ」

「幼児ーズのトップは、どうでも良くないか……?メル姉は、妖精女王陛下なんだぞ」

「どうでも良い訳なかろぉー!わらしは、仕切られとぉーないんデス!!」

当分の間は、タリサがトップに居座る。

それはもう確定だった。

「オホホホホ……。これは妖精女王陛下、ごきげんよう。本日はお招きいただき、感謝に堪えませんわ」

「ごきげんよう、陛下。素敵な舞踏会になりそうですね」

カーテシーを決めたタリサとティナが、メルの横をしゃなりしゃなりと通り過ぎていく。

ぴかぴか光る扇で口元を隠し、露骨なほどの上から目線でメルをチラ見した。

儀典長クラウディアを引き連れる二人は、 淑女(レディー) としての格が違った。

「くっ……」

ありがとうと言いたいのに、言わせない。

メルに負い目を持たせ、放置する。

「悔しいわぁー」

「メル姉の負けだな」

社交界の駆け引きなんて知りもしないのに、二人はご令嬢だった。

マルグリットはメルの横に立ち、立ち去るタリサとティナに手を振った。

そして第三会場で手に入れたりんご飴をシャクリと齧る。

真っ赤なりんご飴に、可愛らしい歯形が残った。

「うん……」

甘くて、酸っぱくて、美味しかった。

ドーンドーンと、夕暮れ間近の空に花火の音が鳴り響いた。

舞踏会が開始される合図だ。