軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

建国式典の余波

ラヴィニア姫は、色々と拗らせていた。

長く不遇のときを過ごして来たのだから、割り切れない思いが胸の内にあるのは当然だ。

その不満がユグドラシル王国の建国式典で、ようやっと言葉になった。

『メルちゃんだけ、狡い!?』

驚くほど美しく成長して、キレイなドレスで身を飾り、晴れの舞台で大勢の観衆から称賛される。

大切なトモダチだから、ラヴィニア姫も立派になったメルを誉めそやしたかった。

『でも、無理……』

ラヴィニア姫は、ハンテンを強く抱きしめた。

ハンテンはラヴィニア姫の乙女心を理解しないので、ジタバタと暴れた。

ラヴィニア姫と一緒にいるのは好きだが、抱っこされると自由に動けないので嫌なのだ。

メルとラヴィニア姫の成長は、精霊樹の影響を受けてか 捗々(はかばか) しくなかった。

二人とも八歳くらいで、ピタリと身長の伸びが止まった。

タリサやティナは順調に成長しているので、取り残されたような感じだ。

それでもメルと一緒なので、ラヴィニア姫は可能な限り気にしないようにしていた。

『メルちゃん、綺麗だった』

魔法の指輪。

メルは呪いだとか言って、ギャーギャー喚いていたけれど、ラヴィニア姫にすればとんでもない話だった。

『羨ましい』

そう。

ラヴィニア姫は、 淑女(レディー) の装いに憧れていた。

メルが面倒臭がり、恥ずかしいから嫌だと遠ざけていたヒラヒラのドレスは、ラヴィニア姫にとって憧れなのだ。

『礼拝所での建国式も、素敵だった』

煌(きら) びやかなドレスだけではない。

建国式の入場シーンでは、一斉に立礼する参列者の中央を白い祭祀服で颯爽と歩いていた。

金糸の刺繍が驚くほど見事で、息を呑むような出来栄えだった。

『ドレスではないけど、女性的なデザインで……。祭祀服って、とても優雅なものなのね』

ずっとずっとラヴィニア姫は、メルの隣に寄り添っていられるものと考えていた。

でもメルは妖精女王で、祭壇に用意された玉座も一脚のみ。

ラヴィニア姫の居場所はなかった。

あの場面を思い出すと、何だか 除者(のけもの) にされたような、裏切られた気分になる。

美しく成長したメルの隣に、小さなままでは寄り添えない。

『わたしも着飾ってみたいなー』

少女の衣装は基本的に、シルエットが三角形のスモックだ。

お洒落をしても、そこは変わらない。

変わらないところが忌々しい。

「はぁー」

姿見に映る自分の衣装に、ため息が漏れる。

レースのフチ飾りがあろうと、高価なリボンで飾られていようと、曲線のない三角形なのだ。

「ラヴィニアさま。メルさんが遊びに来ましたよ」

「メアリ。わたしは居ないと言って」

今メルと会えば、どうしても恨み言を並べてしまいそうだ。

それは恩知らずのようで、絶対にイヤだった。

「ですが……。 直(す) ぐにお呼びしますと、申し上げてしまいました」

「だったら病気で会えません」

「…………」

夢の中で消えていった子供たちのことが、脳裏をよぎる。

激しい嫉妬と、メルにまで置いて行かれたような不安に 苛(さいな) まれ、ラヴィニア姫は引き籠りになった。

「えーっと。ラヴィニアさまは、体調が思わしくなく……」

「ええっ。それは大変デス。わらし、お見舞いしマス」

「それがですね。お会いになりたくないそうです」

「エゥー!!」

「申し訳ありませんが、今日のところはお引き取り下さい」

小間使いのメアリに門前払いを喰らわされ、メルは愕然とした。

「嫌われたね。メル」

ミケ王子がメルに言った。

「えっ!?わらし、ラビーさんに嫌われとるの……?」

「そんなの明らかじゃん。メルに会いたくないって、イヤだからでしょ?」

「あうあう……。くっ……。ヒィー、ハァー。ヒィヒィー、ハァー」

過呼吸を起こした。

もう、一発でパニックだ。

メルは自分の胸を押さえて、ばったり倒れた。

「はぁはぁ……。秘密潜入員ミケ一号」

「チーズかまぼこ10本で」

「あい」

「毎日、三か月間」

「承知」

メルとミケ王子の間で、素早く契約が取り結ばれた。

久しぶりのネコスケ出動である。

「わらしが嫌われている理由と、解決方法のヒントを探って……。オネシャス」

メルは目じりに涙を滲ませていた。

「お任せあれ陛下」

女王陛下の情報部員は、首に巻いた蝶ネクタイの位置をビシッと直した。

因みに、タキシードと殺しのライセンスは所持していない。

ミケ王子は、ただ黒くなるだけだ。

自然を愛するラヴィニア姫は、小動物へのガードが甘い。

なのでミケ王子の潜入は、久しぶりのネコスケ帰還として歓迎された。

◇◇◇◇

ライトニングベアに跨り、メルが帰ってきた。

ハチワレにピクルスの作り方を教えていたアビーは、顔を上げた。

何やらメルが、しょぼくれている。

ユグドラシル王国の建国式典が無事に終わり、元の姿に戻れてヒャッホーしていたのに。

「解せぬ」

アビーとメルは立場こそ違えど、建国式典に臨んで思うところは一緒だった。

『さっさと終わってくれ!』

おっぱいが生えたメルは、とかく扱いが難しかった。

見目よい乙女で、スタイルも抜群ときたら、アビーには不安しかない。

何しろ無防備でガサツなメルが若い男の視線も気にせずに、ドタバタと走り回るのだ。

早いところメルを元に戻して欲しいと望むのは、至って自然なことであろう。

確かに建国式典でのメルは、とても立派だった。

夫のフレッドまでもが、呆然として言葉を失うほど見事だった。

『なあ、アビー。あれは本当にメルなのか?』

何度も同じ質問をするフレッドに辟易とさせられたのは、今となれば良い思い出だ。

宮殿のバルコニーにドレス姿で現れたメルが、何かやらかして小さくなったときには、心の中で喝采を送ったアビーである。

メルだってドレスから解放されて、晴れ晴れとした顔をしていたはず。

それなのに、出かけたと思ったら帰って来て、どんより。

アビーは覚えていた。

メルが出かけるときに、『ラビーさんの 家(うち) で遊んできマス!』と言っていたことを。

「どうしたのメル?」

「まぁまはユグドラシル王国でピクルスが大人気になったことを喜んでくらはい。わらしのことは、お構いなく」

「お構いなくじゃなくて、何があったのかを訊いているの……」

アビーは逃げようとするメルの襟首をつかんだ。

「いいんデス。わらしのことは、ほっといて……」

「何があったのか、話しなさい」

「イヤー。話しとぉない」

メルが泣きながら、嫌々をした。

「白状しなさい、コラ。何があったのー?」

「やめてください。乙女の秘密デス」

「ラビーちゃんと遊ぶんじゃなかったかしら?どうしてこんなに帰りが早いのよ?」

「ラビーはんは、留守でしたモン」

「あーっ。すっごい嘘つきの顔になった」

「はぁ、まぁま。邪推したぁー、アカンでぇー!」

アビーに抱え上げられて、メルは手足をジタバタさせた。

「ウニャニャ。危ないニャ!」

アビーとメルの取っ組み合いが始まったので、ハチワレはピクルスの瓶を抱えると安全な場所まで避難した。

「おいメル。ライトニングベアを借りるぞ。村の集会所で、精霊祭の打ち合わせがあるんだ」

「あほかぁー、おとぉー。わらしを助けい!」

「スマンなメル。オレは忙しいのだ」

アビーの邪魔をするなんて、もっての外だ。

またアビーの肩を持って、メルから嫌われることも避けたい。

嫁と娘の争いに参加するような父親は、どちらかに 詰(なじ) られると相場が決まっていた。

そして何よりフレッドは、ずっとライトニングベアを走らせてみたかったのだ。

「フッ。オレは風になろう!」

男の浪漫である。

◇◇◇◇

メジエール村の中央広場では、マルグリットの特訓が続いていた。

言うまでもなく、カボチャ姫のダンスである。

アイス販売用の屋台は、ダヴィ坊やとディートヘルムが引き受けていた。

中央広場を通る村人たちは、必ずアイスクリームを買って行く。

老若男女問わず人気で、なかなかの売れ行きなのだ。

そこにタリサとティナが現れ、アイスを注文した。

二人はユグドラシル王国建国祭で手に入れた、オモチャの 扇(おうぎ) を手にしていた。

魔法具の精霊が屋台で売っていた、魔法の扇だ。

タリサとティナは、意味もなく口元を扇で隠して話すため、見ている方は鬱陶しい。

この扇は柄の部分に仕掛けがあって、そこを押すと灯りが燈る。

「フフフ……。タリサさまは、妖精女王の友人であることを利用して、たくさんの魔道具を入手されたとか」

「ホホホ……。ティナさまも、素晴らしい魔法の生地を格安で購入されたと聞いておりますよ」

「タリサさまは、悪知恵の回る方」

「あらあら、ティナさまこそ」

「ウフフ……」

「オホホ……」

そして扇の柄を強く握る。

二人の顔が下方からライトアップされて、如何にも悪そうな人相になる。

「うほぉー。ティナの顔。ワルですね。これはもう、ワルそのものと申せましょう」

「何を 仰(おっしゃ) いますか。タリサこそ、ワルの中のワル。極悪令嬢の顔ですわ」

「ウフフ……」

「オホホ……」

マルグリットには、二人の遊びが理解できなかった。

注文されたアイスを手渡すダヴィ坊やとディートヘルムも、やや引き気味である。

「オマエらさー。それ、楽しいの?」

「すっごく楽しいわ」

「楽しいですね」

「フーン」

ダヴィ坊やは、すっかり諦め顔だ。

二人が飽きるまで、我慢するしかない。

「ユグドラシル王国は、夢の国だよね」

「ホント、また行きたいですわ」

精霊の国でメルの名を出せば、色々と都合をつけてもらえる。

これに味を占めたタリサとティナは、ユグドラシル王国に行きたくて仕方がなかった。

ラヴィニア姫が抱える乙女らしい嫉妬など、タリサとティナの二人には縁のない感情だった。

齢三百歳のラヴィニア姫と違い、二人は良くも悪くも、まだ少女なのだ。