軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

実のところ強制参加です

「セイエーツ(整列)!」

牧草地の外れ。

ストーンサークルのような広場に、精霊の塔が建っている。

そのすぐ近くに、最近建立された精霊さまのちんまい祠があった。

異界ゲートである。

帝都ウルリッヒの地下迷宮へと通じている、転移門だ。

空はどんよりとした雲に覆われて、ときおり牧草地に冷たい風が吹く。

メルとダヴィ坊やは、しっかりと防寒具で身を固めていた。

二人のまえには、大勢の冒険者たちが立ち並ぶ。

冒険者たちの身なりはボロボロで、とても寒そうである。

心を入れ替えてメジエール村で頑張ったのだが、そうそう簡単に村人から認められるはずもなく、生活の苦しさは推して知るべしだった。

当人たちの自覚はともかく、はたから見ると限界だ。

「さっぶ…」

「こんな吹きっ曝しに呼びつけやがって、なんの用だよ」

「早く始めてくれねぇかなぁー」

その外見は、狂暴な浮浪者だ。

危険極まる犯罪者予備軍でしかない。

冒険者たちの復権は、急務であった。

「お集りの皆シャン。皆シャンは、食いちゅめ者の冒険者デス。その冒険者の中でも、ペーペー。カス。万年ビリケツ。落伍者。信用もなければ潰しもきかん、人生オワッターなろくでなしども!」

寒空の下、メルが吼える。

「ちっ。チビの舌足らずが、好き勝手に悪態つきやがって…」

「このところ、まともに喋れてたのに、まぁーた赤ちゃん返りかよ?ウケケケ…ッ」

「寒いから、かじかんでるんじゃねぇーの?」

「しっ…。聞かれるぞ…」

「まさかぁーん。おれら、小声だし…。こんだけ離れてたら、あの悪魔チビに聞こえるわけがないっしょ!」

エルフの耳は地獄耳。

「そこぉー。そこのクズども。わらし…。ゼェーンブ、聞こえとぉーよ。おまぁーら、もう一回埋まるんか…?お望みでしたら、地中ふかぁーく埋めたげマショ!」

シーンとなった。

「ろくでなしの諸くーん。わらし、おまーらの気持ち分かります…。平和な世界…。幸せそうな村…。仲良しさんな家族…。イチャイチャしよるカップル…。いつまでも村の人たちから、作物につく害虫を見るような視線を向けられて…。『こんな世界は滅んじまえ!』と、呪った覚えがありますよね?」

メルの演説を聞いて、冒険者たちが苦々しげな顔になった。

誰もが無言だったけれど、答えは明白だ。

イエスである。

「わらしも嘗て、そのような日々を過ごしていた記憶があります…。それは辛いです。心がひんやりとします。どう足掻いても、自分が好きになれましぇん…。人生をやり直したいなぁー。死んだら転生できるのかなぁー。転生したいなぁー。このように非現実的な思考に囚われ、気づけば高いところに登っていたりすゆのです」

すごく嫌な話だった。

「だけど、ちょっと待って…。どうせ死ぬのなら、その命をわらしに預けてみませんか…?」

メルがキャルンと流し目をくれた。

「何だ、それは…?馬鹿にしやがって…」

「オマエに命を預けて、どんな得があるんだよ!」

「こぉーんな村はずれに俺たちを呼びつけたのは、その話を聞かせるためなのか?ふざけんじゃねぇぞ!」

「ちょっとばかし強いからってな…。大人を舐めんなよ。オッサンの覚悟を見せてやる」

「エクスカリボーなんざ、怖くねぇーぞ!」

「おうよ。生き埋めにすんなら、やりやがれ!」

大騒ぎになった。

一旦は妖精女王陛下に心を寄せた冒険者たちも、飢えと寒さにやられて荒み切っていた。

なにより明日に希望を抱けないのが、よろしくない。

ここは冒険野郎一番星として、確たるビジョンを提示する場面だった。

他人だからと知らぬ振りをすれば、事態を悪化させるだけである。

「皆、元気でヨロシイ。だが、ちょっと待て…。コホン…」

そこでメルは一拍ほど間を置き、大きく息を吸った。

「よぉーく聞けや、おまぁーら。強ぉーなって、勇者さまと呼ばれとぉーないか…?綺麗なおネェーさんから、『キャァー、素敵ぃー!』って、叫ばれとぉーないんか?!」

小さな女児の身体から、天まで届きそうな大声が発せられた。

「アナタが助けてくれたんですね。ありがとぉー。大好きです」

ワザとらしく俯いての、モジモジポーズだ。

「そんなふうに、言われとぉーないんか?」

またもや、シーンとなった。

バルガスはメルの演説に弄ばれる部下たちを眺め、やるせない気持ちになった。

(相手はお子さまだってのに、こいつら手玉に取られてやがる)

いま現在、メジエール村に住みついた冒険者たちは、ユグドラシル王国陸軍に徴兵されようとしていた。

メルの舌先三寸で…。

「さすがは妖精女王陛下だ。煽り方が、ガキとは思えん」

ヤニックことヨーゼフ・ヘイム大尉が、呆れ顔で呟いた。

「おっかねぇーよ。あれで強烈な精霊魔法を使うんだ。オレらみたいな根無し草のクズ野郎は、みぃーんな引っ掛かっちまうぜ」

「バルガスは引っ掛かると言うけれど、真っ当な勧誘だろう。詐欺とは言えん。ミッティア魔法王国が民間から兵を募る場合は、半ば詐欺だけどな!」

「騙されている感が、半端ねぇーんだよ」

バルガスが釈然としない顔で、唾を吐いた。

「諸クンも知るように、わらしにはパァーパとママンがおるネン。パァーパのフレッドは、もと冒険者じゃ。でもって冒険者しとぉーとき、アビーをお嫁さんにしたんじゃ!」

「……っ!」

「アビーは美人さんで、とぉーても優しいお嫁さんデス」

メルは演壇から降りて、冒険者たちに近づいた。

整列した冒険者たちを眺めながら、ゆっくりと歩く。

「お嫁さん、欲しいデショ?」

満面の笑みだ。

「子どもは黙れよ」

「おまぁーらも冒険者だけど、女の子に逃げられる。どうして…?」

無垢な表情を浮かべ、上目遣いで訊ねる。

「ぐちぐちと、うるせぇーな」

「同じ冒険者なのに…。うちのパァーパと、なにが違うのぉー?」

後ろ手に小首を傾げる仕草は、何処から見ても愛らしい少女だ。

「悪魔め…。この悪魔チビめ…」

「いつまで逃げとれば、気が済むんかノォー?おまぁーら、老後の貯えは大丈夫ですかぁー?」

メルの顔が、小鬼に変わった。

「もう、やめてくれぇー」

「おまぁーらも、理由は分かとぉーよね…。おまぁーらが弱ぁーて、ヘタレじゃけんアカンのデショ!!」

ここぞとばかりに、メルが決めつけた。

「おまぁーらがな!!」

人差し指を冒険者たちに突き付ける。

「「「「「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ!」」」」」

絶望の呻きが、冒険者たちの口から漏れた。

「冒険者ども、一歩前へ…!わらしに注目せよ。かつ、救済を求めるがよい。されば、救いはもたらされん!」

「そんな甘言に、うかうかと乗せられるかよ!」

「ふむっ。信じられぬとあらば、幼児拳を見せねばなるまい…。デブ、出番じゃ!」

「オイヨ。メル姉!」

メルに呼ばれて、ダヴィ坊やが進み出た。

「アホどもに、デブの強いところ見せたって」

「承った!」

ダヴィ坊やは、地面から突きだした大きな天然石のまえに立つと、怪しげな構えを取った。

「ホォーッ。幼児拳、風刃爆裂掌…!」

ボグッ!と鈍い音をさせて、大岩が崩れた。

「なっ、なんだと…!」

「すげぇー」

「岩を粉々に砕きやがった…」

「あのガキ、強いことを隠して���がったのか?」

「やっべぇー。おいら、軟弱なガキだと思って怒鳴りつけてた」

「冗談は、やめてくれぇー。俺なんか、野郎のケツに蹴りを入れちまった」

ダヴィ坊やが冒険者たちを眺めまわし、ニシシと笑った。

これまでに冒険者たちから散々コケにされてきたダヴィ坊やとしては、とても気分が良い。

何と言っても、誰も傷つけずに意趣返しが出来て、後味サッパリだ。

今後も嫌がらせをする冒険者がいたなら、ぶん殴っても良いとメルから許しを貰っている。

「デブは、わらしの一番弟子ぞ!」

「どうだぁー。おそれいったか…?」

ダヴィ坊やは得意満面である。

一方、冒険者たちは、ぐうの音も出なかった。

「はいはい…。この祠に入れば、強くなれマス。否…。強くなれるまでは、戻れマシェン。希望者は、列に並んでくらはい!」

「つよく…。オレが、強くなる?」

「くっそぉー。正直に白状すると…。勇者って、呼ばれてみたい…」

「美人の嫁さんが…」

「俺は行くぞ。絶対に、生まれ変わってやる!」

小さな子供が大岩を砕くデモンストレーションは、強さに憧れる冒険者たちの魂に火を点けた。

冒険者たちにとってダヴィ坊やは、単なる宿屋の倅だ。

精霊の子と呼ばれる、アメージングなメルとは違う。

『普通の子供に出来ることなら、俺だって…!』と、冒険者たちは考えた。

「はぁーい。いらたいませ。歓迎します。ドウゾドウゾ…。足元に気をつけてねぇー。向こうは暗いから、落ち着いて行くんやで…。あっ…。教官のワレンさんとヨルグさんが、アータらの到着を待ってます。よぉーく指示を聞いて、頑張ろうね」

メルに背を押されて、次々と冒険者たちは祠の中へ消えていった。

「しゃぁねぇか…。俺さまも、強化キャンプに参加するよ」

渋々と言った態で、バルガスが冒険者たちの後に続いた。

「敗北の苦さを知るアータたちには、邪妖精さんたちを授けたで、仲良くしたってや。パワーは殺傷レベルやけど、悪用は許さんヨォー」

「ああっ。手下どもにも、よぉーく分からせとくわ!」

バルガスは真面目な顔で、メルに請け負った。

「ヤニックさん。団体行動を乱したぁー、アカンよぉー」

「んっ。俺たちもかよ…?」

「当然デショ」

「ちっ!」

ヨーゼフ・ヘイム大尉は、ハーフエルフのジェナとメルヴィル、マーティムを伴い、悲しそうな顔で祠の扉を潜った。

「デブ、ありがとなぁー」

「うむっ、礼は要らん。メル姉と、オレの仲じゃん」

「ウチィー帰って、なんぞ温かいモノでも食うべ」

「やりぃー!」

メルとダヴィ坊やは、トンキーの背中によじ登った。

この日より、メルの帝都進出計画がスタートした。

冒険者ギルド乗っ取り作戦である。