軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

色々と漏れている

ヤニックことヨーゼフ・ヘイム大尉の記憶によれば、当初、三代目ギルドマスターのギルベルト・ヴォルフは四十名の冒険者を引き連れてメジエール村に着任した筈だった。

ならず者、チンピラと世間から馬鹿にされていても、腕っぷしが自慢の屈強な男たちだ。

そうそう簡単に排除されてしまうような弱者であれば、最初から冒険者ギルドで働いたりしない。

それが着任から半年も経たずに、二十名を割り込んでしまった。

「俺たちを数に含めず、四十名の冒険者が居る筈なんだよ。元気で、うるせぇ連中がな!」

ヤニックは子飼いの部下たちと屋敷の居間で寛ぎながら、今後の身の振り方について相談をしていた。

ミッティア魔法王国軍の命令に従う訳ではないので、チームメンバー同士で意見をすり合わせておく必要があったのだ。

チームメンバーたちは、やりたくない作戦や無謀な計画に異議を唱えることができた。

リーダーはヤニックだけれど、作戦行動中でなければ皆が平等だった。

「そう言えば、威勢の良いバカから消えていきましたね…」

メルヴィルが記憶を探るようにして、目を細めた。

「肩を怒らせて歩いていた、行儀の悪い連中か…。あいつら魔法具を見せびらかして、村の柵囲いを破壊していたな」

「そそっ…。疾風剣とか叫んで、意味もなく暴れてたぜ」

「どいつもこいつも、サヨウナラだ。気が付けば、もう二十人も残っていない」

マーティムとメルヴィルは、感慨深げに頷き合った。

「新しいギルマスが到着してから、三か月くらいしか経っていませんよ。ちょっと手駒の消耗が、早くないですか?」

ジェナ・ハーヴェイがヤニックに訊ねた。

「メジエール村に雇われている暴力専門家どもが、想像以上に有能だ。それと…。何処で知ったのか、敵は冒険者たちの汚い手口をよぉーく知ってやがる」

「初代のカルロス・カスティーユに指示されていた冒険者たちは、村長宅の放火に失敗して捕まりましたね。二代目のマリーノ・ベルッチは、井戸に毒を放り込もうとしてぶちのめされてたし…。よく未然に阻止できるものだと、感心しますよ」

「おそらく自警団のリーダーは、酒場の親父だろ。ミッティア魔法王国の潜入工作員をしていた頃なら、間違いなく仲間に誘っていた」

「今は…?今は、どうなんですか、ヨーゼフ・ヘイム大尉?」

「ジェナ…。いい加減、ヤニックさまと呼べよ…。今はなぁー。今は俺の方が、フレッドに雇って欲しいね。給料は安くても構わねぇ!」

ヤニックはジェナ・ハーヴェイの額を平手でペシペシと叩き、苦り切った表情で答えた。

ヤニックがフレッドたちに感じた印象は、間違っていない。

メジエール村で傭兵稼業を始めたフレッドたちは、もとが腕の立つ冒険者である。

情報操作に暗殺、誘拐に脅迫からライフラインの破壊まで、反社会的な活動なら殆ど見知っている。

だから守勢でありながら、先手が打てるのだった。

「戦いの手段に絶対はない。状況によって、最適な方法を選ぶのが正しい。フレッドは冒険者ギルドの汚い手口に、よく対応している…。それだけに、妻子持ちなのが悔やまれる!」

ヤニックは敵サイドであるフレッドを評価しながら、バルガスが攻撃目標を弱点に定めただろうと推察した。

「確かに…。フレッドさんも、さぞかしやりづらいことだろう。地元での防衛戦なんて、こんな場面でもなきゃ考えもしなかったよ」

「正直に言って、家族を守りながらの戦闘なんて考えたくもねぇ。あのオヤジは、クソ度胸が据わってるぜ。オレには、ちと真似できない」

「肉親ってのはヨォー。どうしたって、現場で足手まといになる。とくに子供はなぁー。それでもフレッドは冒険者ギルドとの会合に顔を出したのだから、何か考えがあるんじゃないのか?」

「フレッドの手が早いのは、カワイイ嫁さんとチビたちを守るためだと思う。危険な奴から、手際よく潰している感じだ。だから冒険者ギルドとの会合に参加したのは、ギルベルトたちを始末する準備が整ったからだ!と、考えて良かろう」

「フレッドって、良いお父さんだね…」

「ああ…。このまま、無事で終わればなぁー。無事で終わらなけりゃ、フレッドは最低のオヤジになっちまう」

ヤニックの見たところ、メジエール村の用心棒は少しも旨味のない損な役回りだった。

おそらくフレッドたちは、何らかの責任感を理由に行動しているのだ。

そもそもが、頑固で融通の利かない連中なのだろう。

(知らぬふりを決め込めば、災厄を躱すコトなど容易かろうに…。どうしようもない、バカどもだ。だが、嫌いじゃない)

損得を度外視した潔さは、武人として憧れる生き様だった。

フレッドと向き合うと、ヤニックは嫌でも自分の濁りに気づかされる。

(処世術など、逃げ口上に過ぎん。俺は負け犬だよ)

会合が終わった後で、『いつまで続けるつもりだ?』とフレッドに正面から斬り込まれた。

ヤニックには、答えようも無かった。

情けない話である。

「何だか、ほとほと嫌になったわ…!」

「まあ、そうだよな…。オレたちは自由になろうとしてたのに、いつまで悪党の片棒を担ぐのか?って話だ」

「メジエール村は、住み心地の良い場所だ…。もとから予定していたことだが、エドヴィン・マルティンを裏切ろう」

「そう来なくっちゃ…!」

マーティムが揉み手をして喜んだ。

「取り敢えず、ジェナ・ハーヴェイ…。『酔いどれ亭』に顔を出して、さりげなく味方だとアピールして来い」

「えっ。あたし…?」

「オマエしか居ないだろ…。俺たちが出かけて行ったら、酒場から蹴りだされるわ。それだけでなく裏切りをギルベルトに追求されて、お終いだ…。だけど普段から食い意地を張って、『魔法料理店』に入り浸っているオマエだったら、さりげなさを装いつつ『酔いどれ亭』に顔を出すのも有りだ」

「えーっ。ちゃんと出来るかしらぁー。不安なんだけどぉー」

普段なら一人前として扱えと喧しいのに、命令すればこの有様だった。

実にエルフは扱いづらい。

ヤニックはうんざりとした顔で、肩を竦めた。

「くれぐれも伝えておくが、ギルベルトたちにバレるなよ。バレたら、その場で縁切りだからな!」

「マジですかぁー。それって、無理臭いし…。ちょっと酷くないですか?」

ジェナが不満そうな口ぶりで、文句を垂れた。

「うるせぇ。ごちゃごちゃ抜かしてねぇで、さっさと言われた通りにしろ!」

ヤニックにムチャ振りをされたジェナは、『ウーム!』と唸りながら考え込んだ。

冒険者ギルドから見える場所に、『酔いどれ亭』が建っている。

怪しまれずに行動しろと言われても、改めて考えてみると無理があった。

ジェナの行動は、冒険者ギルドに筒抜けである。

「あれっ…?もしかしてぇー。あたしたちって、もうとっくに裏切り者と思われていませんか?」

「良いところに気づいたね、ジェナ。実は、その通りなのさ。主に、キミのせいで…」

「いつ気づくのかと、ずぅーっと待ってたぜ」

「フンッ。まぁ、いいですけどね!」

ハーフエルフの娘(三十過ぎ)は、もと潜入工作員としてあり得ない台詞を口にした。

それは恥ずかしさをごまかすための、開き直りだった。

◇◇◇◇

その朝フレッドは、ディートヘルムの悲鳴を耳にして、包丁を持ったまま厨房から跳びだした。

『酔いどれ亭』には結界魔法が使用されていて、こっそりと賊が忍び込むことなど出来ない。

それでも万が一を心配して、苛立ちを隠せないフレッドだった。

「どうしたんだ…。何があった?」

「フレッド…。そんな顔を子供に見せるのは、止めてちょうだい。ディーが、怖がるでしょ!」

冒険者の襲撃を警戒しながら二階の寝室に踏み込むと、困ったような顔でアビーに詰られた。

「おとぉー。オネショは、叱ったらアカンのや」

呆れ顔のメルにまで、お説教を聞かされる始末だ。

「オネショかよ…。驚かせやがって!」

「オネショは子供にとって、重大事件なのだ。おとぉーには、ディーの気持ちを理解してやれん!」

メルは得意げに胸を逸らせた。

「メルもディーと、オネショ仲間だからなぁー。そりゃあー、お互いに理解できるだろうさ。仲良しさんだもんな」

「くっ…。悔しければ、おとぉーも漏らしてみんかい…。そしたらさぁー。仲間に入れたっても、エエでぇー」

メルが上目遣いで誘いをかけた。

「そら無理だ…。パパは、大人だからなぁー。恥ずかしくて、メルみたいな真似はできませんよ」

「わらしも、漏らしとらんどォー。わらしだってなぁー。オトナじゃぁー!」

「寝小便たれ。おねしょメル。はっはっはぁー」

「ううっ、うっ、うぇーん!」

囃し立てるフレッドの姿を見て、ディートヘルムが又もや泣き出した。

メルがディートヘルムを抱き寄せて、悪い顔でニタリと笑った。

「ほれ見い、おとぉー。ディーに嫌われたわ…。ザマァー」

「なぬ…。このぉー、 悪魔娘(あくまっこ) めが…。俺を嵌めやがったなっ!」

「もぉーっ、いい加減になさいよ。アナタたち!」

ディートヘルムの粗相を『 洗浄(ピュリファイ) 』していたアビーが、フレッドとメルを叱りつけた。

「うぃーっす」

「すまねぇ、アビー」

メルとフレッドは牽制し合いながらも、口を閉ざした。

アビーの争奪戦が終了したかと思えば、今度はディートヘルムである。

どこまでも奪い合う宿命の、父と娘だった。

メルは裏庭にオネショの布団を運んで干した。

空は青く晴れ渡り、小さな白い雲が風に流されていく。

とても良い天気である。

どこからか飛んできた花弁が、メルの視界をよぎる。

「うふぅー。どこから来たのぉー、お花さん♪」

『 洗浄(ピュリファイ) 』は布団を濡らさないけれど、お日さまに布団を干せば気持ちが良い。

自分のオネショではないので、メルの気分も上々だった。

フレッドからのお達しで、手習い所は休みだ。

『危ないから外を出歩くな!』と、注意をされている。

そんな言葉を守るメルではなかったが、手習い所に行かなくて良いのは嬉しい。

(ルイーザとファビオラに、絡まれずに済むもんね。あの二人、どうも苦手なんだよ)

年上女子からマウントされやすいのは、メルに性格上の問題があるのか。

駄目な妹あつかいを受けるのは、何となく居心地が悪いものだ。

タリサと違い手加減のないルイーザは、メルを脅えさせる。

(ウチに居れば、ルイーザたちと会わなくても済むもんね)

だがルイーザは、ちょっと面倒くさくて不愉快なだけである。

ぽかぽかとした暖かな陽気は、メルにとって本当の天敵を呼び起こす。

「うはっ。あれは…」

その黒いモノは、空の高みからメルを目指して、グングンと近づいてきた。

「あうっ。こっち来んな…。やめんかい。よそへ行けや!」

メルは全身を硬直させて、黒いやつを罵った。

走って逃げたいのに、足が動かなかった。

「みぃーけ。助けてんか…。って、おらんやん!」

いつもは、こうした場面で助けてくれるミケ王子が居ない。

ミケ王子は魔法学校で、ケット・シーの仲間たちと働いていた。

「ちょっ、おまぁー。止めてんかぁー。わらしに近寄らんでくらはい!」

だけど黒いやつは、メルの訴えを無視した上に急降下した。

そして、ポスッとメルの頭頂部にしがみついた。

「うっぎゃぁー!」

虫だった。

それも大きめのカブト虫だ。

厨房でメルの悲鳴を聞いたフレッドが、再び包丁を手にしたまま裏庭に跳びだしてきた。

「どうしたメル?何があった!」

「おとぉー。虫じゃぁー。わらしを助けてください」

「なんだよ。脅かすんじゃねぇ。チッ、虫かよ!」

肩透かしを食らったフレッドは、首を振りながら厨房に戻ろうとした。

「まて…。待たんか、ボケェー。カワイイ娘の危機じゃ、オヤジらしゅー助けんかい!」

「冒険者に襲われとるなら助けるが、虫じゃなぁー。そのくらい、自分で何とかしろよ」

「馬鹿タレ。わらしが、ボォーケン者ごときで助けを呼ぶか…。あんなん雑魚じゃ。昼寝したままでも、返り討ちにしたるわ」

「はぁー。いま、なんて言った?」

フレッドが振り返って訊ねた。

「ボォーケン者なんぞ、雑魚じゃぁー。全員一緒でも、ひねりつぶしたるわ。百人、来いや!」

中の集落に響き渡るような大声で、メルが叫んだ。

当然だが、メルの絶叫は、『酔いどれ亭』の正面に建つ冒険者ギルドにも届いていた。

暴力を生業にする冒険者たちは、舐められたらお終いのヤクザ者だ。

女児にザコ呼ばわりされて、許せるはずもなかった。

「おうっ、おメェーら。かっさらうのは、娘の方にしようや。いま何となく、オレの直感に訴えるものがあった」

冒険者ギルドの薄暗い会議室で、バルガスが手下たちを眺めまわしながら言った。

反対意見を口にする者など、一人として存在しなかった。

冒険者ギルドのならず者たちは、ふざけた髭メガネをつけて奇妙な料理店を営む女児に、以前から含む所があった。

どうにもこうにも生意気で、何度ぶちのめしてやろうと思ったことか。

バルガスの手下たちは、誰もが胸の内で、こう考えていた。

『このガキには、いつか分からせてやりたい!』

その時が、ようやく訪れたのだ。

バルガスを囲む冒険者たちの瞳に、昏い焔が灯った。

「ここはひとつ…。こまっしゃくれたガキに、大人の恐ろしさを教えてやるとしようじゃねぇか…。いや…。ちっこ過ぎて教えるまえに、死んじまいそうだが…。そこは仕方ないだろ?」

「兄貴の言う通りだ。手加減は難しい」

「まあ、ちびすぎてオモチャにも出来ねぇし…。娼館だって、買い取ってくれねぇ」

「ちょろちょろ逃げられても面倒だ。ガツンとやっちまえばいい」

会議室に集まった男たちは、猪口才な女児の顔を思いだし、憤怒の表情で捲くし立てた。

「それじゃ兄貴。小娘の方をばらして、『酔いどれ亭』に送り届けるんですね?」

「飾りつけは、おメェーらに任せる。縫ったり貼りつけたり、おどろおどろしくデザインしてやれ!」

「承知した。任せてくだせぇー」

バルガスと手下たちは、下卑た表情で『グヘヘ…』と笑った。